海の恐怖!グラ・バルカス帝国海軍vs原子力潜水艦   作:通常弾頭

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第十二話

第三文明圏 西部海域

 

 間も無く夜明けが迫る暗い海。

 グラ・バルカス帝国海軍、第2潜水艦隊所属のシータス級潜水艦〈バテン・カイトス

〉は、獲物を狩るためにこの海域を哨戒していた。

 彼らは二日ほどこの海域に留まると、この日聞いたことのないプロペラノイズを聞きつけ、配下の潜水戦隊と共に罠を張っていた。

 

「見つけたぞ」

 

 暗い中で潜望鏡から見つけたのは、輸送艦5隻と護衛艦3隻の輸送船団。二軸推進の護衛艦は輸送艦の前方と左右を固めており、護られている輸送艦からは聞いたことのないエンジン音が聞こえる。

 おそらく何かしらの新型機関を搭載した高速輸送船なのだろう。甲高い音が鳴るその仕組みが気になるが、今はどうでも良かった。

 

「アストル少尉からの報告通りです。爆装させずに偵察に専念させましたが、効果がありましたね」

「本人は爆撃すらできなくて悔しがってるがな」

 

 同艦の艦長は、〈バテン・カイトス〉が搭載しているアクルックス特殊水上攻撃機の飛行士を指してそう言った。

 シータス級潜水艦のうち、潜水戦隊旗艦となるモデルには水上機格納庫が増設されている。群狼戦術を構成する通常型には搭載されていない装備だった。

 配属される飛行士は偵察に向いた目と方位感覚の良い者が集められるが、アストルという飛行士はこの配属に不服なようで、あまり馴染めていない。

 

「とにかく攻撃だ。目標は敵輸送艦、全艦の飽和攻撃で決めるぞ」

「了解です」

 

 艦長が指示を下すと、通信員が暗号装置の射出ボタンを押した。

 するとブイのような物が海面にまで登って行き、それが水上に飛び出すと、暗号を駆使し、同じく潜望鏡で目標を見張っていた潜水戦隊に攻撃準備の指示を下す。

 ちなみに彼らは不運が重なり、この最近この第三文明圏の海域でグラ・バルカス帝国の潜水艦が次々と行方不明になっていることを知らされていなかった。

 


 

同海域 護衛艦〈あさひ〉

 

 作戦名は"鱶鰭"と名付けられた。

 この作戦は第三文明圏に蔓延るグラ・バルカス帝国の潜水艦を狩り尽くすための囮作戦である。

 今年就役したばかりの新鋭対潜護衛艦〈あさひ〉は、この作戦の要として初任務を遂行していた。

 彼女が旗艦となって護衛するフリをしているのは、自衛隊の新型の高速輸送艦しんせかい型五隻。

 この輸送艦は自衛隊がチャーターした実績のあるウォータージェット搭載の高速フェリーを参考に作られた、より本格的な高速輸送艦だ。

 また、指揮下にはあさぎり型護衛艦も二隻配備している。小規模な編成だが、極めて高度な対潜特化編成となっており、輸送艦の護衛は万全だった。

 そして、彼女はすでに敵潜水艦を見つけていた。

 

「報告。ソナーより敵潜水艦隊に陣形変更の動きあり」

「来たか。敵の陣形は?」

「扇上に展開中。鶴翼の陣と類似しています」

 

 護衛艦〈あさひ〉艦長の御坂は、CICの中で敵潜水艦隊の動きをモニター上で確認していた。

 すでに〈あさひ〉のソナーは敵潜水艦を全て捉えており、そのノイズを解析し、識別まで完了させていた。

 

「予測通りだな。単独行動している船はいるか?」

「はい。方位330に一隻」

「よし。アスロックを準備しろ。発射管の注水を確認次第、正当防衛を口実に攻撃開始だ」

 

 護衛艦〈あさひ〉が搭載している07式対潜誘導弾なら、この時点で一隻ずつ撃破していくことは可能だった。

 だが自衛隊上層部や政府側の思惑により、御坂は正当防衛の口実が欲しかった。

 その機会はすぐに訪れる。

 

「敵潜水艦、発射管注水音確認!」

「右対水中戦闘。全艦回避運動。07式、発射用意」

 

 御坂は冷静ながらに簡潔な命令を出す。

 途端、狩りの始まりを告げる非常ベルが鳴り響く。CICでは乗組員達が計器類を訓練通りに操作して、目標指示を下す。

 

「CIC指示の目標……射撃用意よし!」

「攻撃始め」

「了解。発射はじめ!」

 

 乗組員が発射ボタンを押した。

 その瞬間、艦前方に装備されたVLSから、白煙とともに07式対潜誘導弾が放たれた。

 海に向かって弓を撃つかのような、美しい軌道を描きつつ、目標地点手前で誘導弾は魚雷を分離。

 減速用パラシュートで安全に着水した魚雷弾頭は、潜水戦隊旗艦の〈バテン・カイトス〉に向けてゆっくりと潜っていった。

 


 

潜水艦〈バテン・カイトス〉

 

 日が昇る直前。

 魚雷発射管を注水し始めた潜水戦隊達は、不審なものを見かけた。

 突如として目標の護衛艦の艦前方から噴煙が上がり、何かが垂直に飛び出していったからだ。

 

「(なんだ、あの煙は?)」

 

 その様子は夜の海からでも見ることができた。

 艦長は気づかれたのではと不審に思ったが、もう攻撃を止める必要はないと考え、即座に命令を下した。

 

「魚雷、一番から四番、順次発射」

「発射了解!ファイエル!」

 

 乗組員が発射ボタンを押すと、艦首魚雷発射管から四発のG7魚雷が発射された。

 グラ・バルカス帝国で標準的な533mm口径に収まる無誘導魚雷は、そのまま直進していき、輸送艦や護衛艦達に当たるかに思われた。

 しかし──

 

「艦長!輸送艦が加速しています!」

「なにっ」

 

 艦長がその信じられない報告を聞き、慌てて潜望鏡を回して輸送艦の方を見る。

 すると輸送艦達は確かに加速していた。しかも進路を変更しており、かなり遠くに遠ざかっていく。わずか数秒しか経っていないにも関わらず。

 

「速すぎるぞ!輸送艦の癖して速力は駆逐艦並みか!?」

 

 艦長が驚くのも無理はない。なぜなら、自衛隊のしんせかい型輸送艦はウォータージェットを搭載している高速輸送艦。水上速力は36ノットである。

 彼は思わず悪態をつくが、すでに魚雷は発射した後だった。おそらくこれでは当たらない。後の祭りとはこのことである。

 

「くそっ、仕切り直すぞ!急速潜航!面舵30!」

「急速潜航!面舵30度!!」

 

 こちらから魚雷を発射して避けられたということは、相手に気づかれている可能性もある。

 艦長は即座に潜航し、敵船団から離れて仕切り直しを指示した。配下の潜水戦隊にも同様の指示を出そうとしたが、その前にソナーマンが吠えた。

 

「艦長!何かの着水音を聴知!」

「なに、爆雷か?」

「いえ、これは……」

 

 真上に敵艦はいなかった筈だが、投射機か、迫撃砲でも使ったのだろうか。

 艦長がソナーマンに問いかけると、彼はしばらく沈黙して耳を澄ませた。

 

「電動機の音?推進音もします、これは……魚雷です!!」

「なんだと!?」

 

 彼らがそれの正体に気づいた頃には遅かった。

 至近距離にまで接近した誘導魚雷は、潜航中の鈍足な〈バテン・カイトス〉を捉え、逃さなかった。

 その炸薬は〈バテン・カイトス〉の外郭を完全に爆破。真っ二つにへし折るようにして破壊した。

 激しい爆発の後、海の骸となった〈バテン・カイトス〉は、そのまま沈みつつ圧壊していく。

 船の悲鳴のようなそれは、彼女の無念を表していた。

 


 

同海域 護衛艦〈あさひ〉

 

「敵潜水旗艦を撃沈」

 

 報告は単調に終わった。

 それは敵を仕留めるというよりは、冷徹な作業のようだ。

 それもそのはず、乗組員達は気を抜くことはなくともさほど緊張していない。なぜなら、こちらが圧倒的だからだ。

 

「残りは扇状に展開した8隻です」

「外側から仕留めよう。各艦、07式、順次発射」

 

 御坂の命令により、更なる攻撃が潜水艦隊に降り注ぐ。

 各艦から連続で発射された07式対潜誘導弾は、鶴翼の陣の両外側から順番に着水し、一隻つづ沈めていく。

 旗艦を先に沈めて連絡を断ち、一隻つづ各個撃破していく。それはまるで、かつての戦国時代における川中島の戦い、上杉謙信が行った車掛戦術のようであった。

 

「敵潜水艦、七隻目を撃沈!」

「艦長、残り一隻が撤退していきます」

 

 CICでは、新たなノイズが遠ざかろうとしていた。

 07式対潜誘導弾の雨を切り抜けた一隻の潜水艦が、この不利な戦況を鑑みて撤退を決断しているようだった。

 

「ソナー。下にいる"うんりゅう"は?」

 

 それを見た御坂は、指を下に向かって差しながらソナーに問いかけた。彼は即座に答える。

 

「敵潜水艦を追尾中です」

「よし。作戦通りだな」

 

 彼はひとまず、脅威が過ぎ去ったことに安堵して椅子に腰掛け、深く息を吐いた。

 その間にも船団から離れたこちらの原子力潜水艦は、敵潜水艦を追尾している。

 今回でようやく一隻逃がせた事は上出来だ。これで敵の基地の位置が掴める。後のことは水中の連中に任せ、御坂は帰投と指示を出した。

 


 

原子力潜水艦〈うんりゅう〉

 

 深い深い海の底。

 逃亡したシータス級潜水艦が探知できないその深海を、一隻の原子力潜水艦が追尾していた。

 

「よし、潜望鏡上げ」

「潜望鏡上げ!」

 

 かのフォーク海峡の戦いでグレード・アトラスター級戦艦を撃破する多大な戦果を挙げた原子力潜水艦〈そうりゅう〉の同型艦〈うんりゅう〉は、ある島の前でゆっくりと浮上して潜望鏡を上げた。

 その視界に映っていたのは、全長2kmはありそうなかなり大きな島。しかし人の気配などは見られず、無人島に思えた。

 

「これか、グラ・バルカスの秘密基地というのは」

「どうやらそのようです。見たところ、かなり巧妙に偽装されてますが間違いありませんね」

 

 〈うんりゅう〉艦長の岩崎の問いかけに、女性副長の早瀬は肯定意見を述べた。

 何故なら彼らは、その島に向かって追尾していたシータス級潜水艦が入港したのを音源で捉えていたからだ。

 

「よし。誰か"隊長"を呼んで来てくれ」

「私が行きます」

 

 その言葉を受け、副長が真っ先に誰かを呼びに行った。

 彼女は魚雷発射管室の魚雷を取り除いて設けられた特別な部屋の前に来ると、簡易的な壁で区切られた部屋の扉をノックした。

 

「隊長。そろそろですよ」

「了解した」

 

 中から出てきたのは、覆面を被った黒ずくめの装備の一団。まるで歴戦の猛者のような体格を持ちながらも、繊細なプロ軍人のような出立ちをしている。

 そのうち二人が素顔を出さずに出てくると、発令所に向かった。辿り着くと、艦長が声をかける。

 

「例の島を見つけました。島は内部が湾のように入り組んでいるようで、正面から上陸させるのは不可能かと」

「上陸可能な地点は?」

「このように回り込んで、こちらの海岸線かと」

 

 覆面の彼らのリーダーが、周辺の偵察で得られた島の大まかな概要を確認すると、上陸地点から内部へ続く水路への侵入経路を確認した。

 そして彼はくぐもった声でこう言う。

 

「了解した。こちらは上陸の準備に取り掛かります」

「お願いします」

 

 不気味ながらに頼もしい雰囲気の彼は、艦長に一瞥すると、そのまま自分たちの部屋に戻っていった。

 そして彼が戻ると、部屋の者達は既に防弾ベスト、マガジンポーチ、そして自らの武器を戦闘準備体制に整えていた。

 彼らは日本国自衛隊、特殊作戦団所属の特殊作戦群の隊員二十四名。味方にすら顔を晒す事を拒否する彼らは、まさにプロの特殊部隊だ。

 その後、原子力潜水艦〈うんりゅう〉は水面に浮上。ゴムボートを展開し、手際よく上陸に成功すると、索敵陣形で島の内部に潜入していった。

 

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