海の恐怖!グラ・バルカス帝国海軍vs原子力潜水艦   作:通常弾頭

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第十三話

第三文明圏海域 とある無人島

 

 この島にある潜水艦基地は、一見すると本当に無人島にしか見えない。

 島にある水道の先には、鉄骨の骨組みだけで作られた簡素なバンカーが存在し、設備のほとんどは草木に覆われており、航空機が上を飛んだとしても地形と見分けがつかないようになっている。

 そのため、日本の衛星から見てもこれを判別するのは困難であった。

 

「"バテン・カイトス"の戦隊が狩られただと?」

「はい。唯一生き残ったE-444からの報告です」

 

 潜水艦基地の敷地内に、簡素に作られたプレハブ小屋の司令部。

 そこでは先ほど帰還した潜水艦からの報告が、司令官に対して行われていた。司令官は群狼戦術の潜水艦が一隻を除いて全て狩り尽くされた事が信じられなかった。

 何故なら、グラ・バルカス帝国からしても水中にいる複数の潜水艦を探知して撃破していくのは容易ではないからだ。

 

「何故そんなに被害が拡大したのだ……」

「報告によると、敵からはアクティブソナーがひっきりなしに鳴っていたそうで、しかもその精度は的確、こちらの位置を完全に読んでいたとの事です」

「水中聴音に関する技術も高いのか……?いや、それにしたって流石に……」

 

 司令官は、もし技術力で潜水艦の正確な位置を掴んでいたとしても、潜水艦をそう易々と狩れる訳ではないことを知っている為、頭を抱えた。

 このように潜水艦が全滅することは、なにも今回だけではない。

 この第三文明圏で日本への妨害のため、通商破壊作戦を開始してから一ヶ月。こちらの被害は後を絶たず、潜水艦は次々と減っていた。

 

「今回の件を受け、我が潜水艦隊の士気に影響しないか心配です」

「どうにか基地内にこの件を秘匿できないか?」

「無理ですね……既に帰還したのが一隻だけでしたし、噂が広まっています。このままでは、出撃を拒否する者も現れるかもしれません」

「…………」

 

 参謀達は士気低下の懸念を抱いており、忌憚なく司令官にそれを述べる。

 実際、帰還した生き残りの潜水艦乗り達はかなり疲弊しており、再度の作戦は困難な精神的状態にある。

 このような被害が続けば、出撃を拒否する潜水艦乗りも出てくるかもしれない。そうなれば派遣された潜水艦隊は機能不全に陥る。

 

「どうすればいい……?」

 

 司令官は頭を抱えても埒が開かず、徐に立ち上がって窓の外の海を眺め始めた。

 窓の外には入り組んだ島の水道が見えていた。両腕を抱え込んだ腕になっているこの島は、水深も深く潜水艦の秘密基地にはもってこいだった。

 流石にこの位置がバレることはあり得ないと思っていたが、万が一のこともある。

 日本がどのくらいの力を持っているか、未だそのほとんどが未知数な以上、嫌な汗は止まらなかった。

 

「どうすればいいんだ……?」

「…………」

 

 司令官と参謀達が対策を練ろうと頭を抱え、結論を出せずにいたその時だった。

 突如として地面が揺れ、鈍い衝撃波が窓を揺らし、耳をつんざくような爆発音が彼らの耳を襲った。

 

「なんだ!?」

「爆発?」

 

 突然の出来事に、彼らが呆然としてしまう中、慌てて当直の兵士が伝令として司令室の扉を乱雑に開けた。

 

「何事だ?」

「魚雷を保管していた弾薬庫が爆発しました!続いて武器庫も爆発!あちこちで火の手が上がってます!」

「なんだと!?」

 

 司令官はその言葉に驚き、目を見開いた。

 

「事故でも起きたのか?」

「弾薬庫の管理は厳重で安全第一なはずです」

「となると、まさか敵の工作員が……!」

 

 参謀の一人がそう言う。

 この基地の存在がバレた最悪の可能性を想像し、司令官達は狼狽えた。

 

「馬鹿な……この基地の秘匿性は完璧なはずだろう!?」

「とにかく弾薬庫に人員を集めろ!消火作業にあたれ!煙が見られたら確実に基地の存在がバレるぞ!!」

 

 司令官が狼狽える参謀達を宥め、指示を吠える。今はとにかく現状の収集が必要だった。

 


 

同時刻 無人島秘密基地

 

「急げ!早く火を消せ!!」

「ホース持ってこい!」

「火が燃え移る前に!早く!」

 

 司令官の指示通り、爆発した弾薬庫付近に水兵たちが集まり、消火作業を開始した。

 しかし弾薬だけでなく潜水艦の燃料にも引火しているため、消火作業は困難を極めた。次第に擬装としてあちこちに重ねられていたゴム製の草木にも燃え移り、嫌な匂いが充満し始める。

 兵士たちは必死に消火作業に当たったが、その時彼らの頭上に死神の一撃が降り注いだ。

 

「ん、なんだ?」

 

 一歩手前で引いて作業を手伝っていた一人の水兵が、その音に気がついた。

 それは空から何かが降り注いでくるかのような、重たい一撃の音だった。

 その瞬間、火災地点にいた者達は一瞬にして消えた。その場に二発の大きな爆発が巻き起こり、衝撃波が発生する。

 それは、洋上の潜水艦〈うんりゅう〉から放たれたハープーン対艦ミサイルによる一撃だった。

 無論、彼らも闇雲に撃った訳ではない。消火作業中の多くの水兵が道連れになるよう、弾薬庫を爆破し火災を起こし、ハープーンを誘導していたのは日本の特殊作戦群の隊員達だった。

 

「命中。爆発を確認」

 

 無機質で、機会的な報告が戦場に流れる。

 消火作業中の人員を一網打尽にしたやり方は、人道的には目を背けたくなるようなやり方だったが、戦術としては理にかなっていた。

 おかげで彼らは敵の武器も装備も人員も、半数近くを減らす事に成功していたからだ。

 その様子を見届けた特殊作戦群の小隊長は、通信を介して味方の状況の最終確認をする。

 

「こちら"サメハダ"リーダー、これより作戦を開始する。各分隊オクレ」

『こちら第一分隊、準備完了』

『こちら第二、第三分隊、配置についた』

『こちら第四分隊、狙撃位置にいる。いつでも』

「了解。では作戦開始」

 

 確認し終えた小隊長の命令により、各分隊は即座に動き出した。

 第一分隊はハープーンの着弾位置に進撃し、目に付く敵を次々と射殺し始めた。

 小隊長が見守る中、彼らはたった数名でありながらも見事な連携で応援に駆けつけた敵を射殺していく。

 第二、第三分隊はその間に迂回して司令部のある宿舎を直接叩く。そして第四分隊は狙撃位置から彼らを支援していた。

 

「て、敵襲!」

「敵の特殊部隊だ!総員戦闘配置!!」

 

 ようやく特殊作戦群の存在に気がついた敵だったが、対応は遅く次々と射殺されていく。

 その間、第三分隊はひと足先に司令部のあるプレハブ小屋に辿り着いた。簡素な作りでまるで田舎の学校を思い起こさせる作りをしたこの小屋を、第三分隊はゆっくりと進んでいた。

 途中、拳銃を持って応戦しようとした敵の士官が何人か飛び出して来たが、特殊作戦群の高度な連携の前に次々と撃ち殺されていった。

 そして、彼らは司令官のいる部屋にたどり着く。そこには司令官と参謀達が立ち塞がっていた。

 

「手を挙げろ!両手を頭の後ろに持っていけ!!」

「……………」

 

 司令官はその言葉を聞き、腰の拳銃を取り出すことはなく、素直に命令に従った。若い参謀の何人かは反撃の機会を窺っていたが、司令官が首を横に振って自制を保たせた。

 侵入者の報を受け、対処にあたろうとしていた司令官であったが、敵のあまりに素早い進撃を前にわずか数分で拘束されてしまった。

 その後、基地はわずかな抵抗こそあれどほとんど降伏。ここに、グラ・バルカス帝国海軍の秘密基地は、二十四名の特殊作戦群の隊員によって完全に占拠されたのだった。

 


 

日本国首都東京 首相官邸

 

 この日の東京はどんよりとした雲に覆われ、今にも雨が降りそうな予感がした。

 そんな曇天の中、日本国の中枢である首相官邸の会議室では、防衛省幹部らが内閣閣僚達に鱶鰭作戦の進捗を報告していた。

 

「鱶鰭作戦は順調なようだね」

「はい。これで第三文明圏において、我が国の船舶が敵潜水艦の脅威に晒されることはないかと思われます」

 

 防衛省幹部らの説明を受け、総理大臣は納得の表情を浮かべた。閣僚達にも安堵の声が見られる。

 

「なんとかなりましたな。一時は海運を停止しなければならないかと焦りましたが……」

「まさか、こんな囮作戦で敵を一網打尽にしてしまうとはな」

 

 閣僚達も、囮作戦を実行するとは思っていなかったので安堵の声が大きい。これで逆に被害が出たら洒落にならないからだ。

 だが、彼らは被害なしで敵潜水艦を殲滅し、敵潜水艦の基地も次々と制圧している。その実績は高いものだった。

 

「はい。しかし、まだグラ・バルカス帝国との戦争状態が改善された訳ではありません。そこで今回の鱶鰭作戦の拡大発展案として、以下の作戦を立案しました」

 

 そう言って防衛省幹部は、会議室に設けられた液晶モニターの電源を入れた。

 防衛省のロゴマークが表示された後、監視衛星から得られた世界地図を元に、作戦の概要を説明する。

 作戦名は──"海の神"と書いて、海神。

 

「海神作戦?」

「はい。これは現在行われているグラ・バルカス帝国との最終交渉が決裂した場合に備えて作られた、同国海軍との全面対決案になります」

 

 防衛省幹部は、閣僚達の疑問符を浮かべるのを聞き、自慢気になって不敵に笑った。

 

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