海の恐怖!グラ・バルカス帝国海軍vs原子力潜水艦   作:通常弾頭

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お久しぶりです。
今回からまた再開していきます。


第十五話

中央暦1642年12月14日

原子力潜水艦〈そうりゅう〉

 

「艦長、発令所に入ります」

 

 その声が響くと同時に、発令所に詰めていた乗組員たちが一斉に姿勢を正した。

 開いた隔壁を抜け、恒星次男二等海佐が発令所へ入る。艦内服に身を包んだ彼は、左右から向けられる敬礼に答礼しながら、中央に設けられた艦長席へと進んだ。

 

「……さて、また戦うことになるとはね」

 

 艦長席の背もたれに手をかけながら、恒星は小さく息を吐いた。

 

「全くです。上層部は我々サブマリナーを酷使し過ぎですよ」

 

 隣に立つ副長の言葉には、呆れと疲労が入り混じっていた。

 前回、カルトアルパスへ派遣され、想定外の実戦を経験してから八か月。

 帰国した乗組員たちは休暇を与えられ、艦も入念な整備を受けた。一度は家族のもとへ帰り、慣れ親しんだ陸上の空気を吸い、それぞれが心身を休めている。

 だが、結局のところ、彼らは再び海の底へ送り出されることとなった。

 しかも今回は、前回のような監視任務ではない。

 当初から敵艦を沈めることを目的とした、明確な実戦任務であった。

 

 日本政府による、グラ・バルカス帝国への無制限潜水艦作戦。

 

 作戦名は――海神作戦。

 

 グラ・バルカス帝国本土と占領地、前線基地を結ぶ海上交通路を原子力潜水艦によって遮断し、その継戦能力を根底から奪う。それが、この作戦の目的である。

 前回の派遣時とは違い、〈そうりゅう〉の兵装庫は空ではない。

 艦内には三十本の89式長魚雷と、二十本の潜水艦発射型ハープーン対艦ミサイルが搭載されていた。

 標的を探し、追跡し、撃沈する。

 そのためだけの、完全な戦時搭載であった。

 

「まだ敵の有力な艦隊が残っていて、護衛隊群をレイフォル沖へ展開できない以上、唯一自由に行動できる原子力潜水艦にかかる期待は大きい。仕方ないよ」

「我々は孤独な戦いを強いられますね……」

「そうだな」

 

 恒星は発令所前方の大型表示器へ目を向けた。

 画面上には、〈そうりゅう〉の現在位置と周辺海域の海図が映し出されている。

 

「敵艦を一隻でも多く沈めなきゃならないというのは、正直なところ気が引ける。だが、これは日本にも関わる有事と言っていい。やらなきゃならん仕事だ」

 

 その言葉は、決して大げさなものではなかった。

 日本政府はグラ・バルカス帝国に対し、戦争終結に向けた条件を提示し、回答のための時間的猶予を与えていた。

 にもかかわらず、帝国政府は具体的な回答を示さなかった。

 それはすなわち、彼の国が覇権への野望を捨てておらず、今なお軍事的抵抗を継続する意思を持っているということである。

 グラ・バルカス帝国と国境を接する友邦ムーにとって、その脅威はあまりにも大きい。

 ムーが再び侵攻を受ければ、日本も無関係ではいられない。

 なにより、帝国海軍は数多くの損害を受けながらも、未だ各種合わせて千隻を超える戦闘艦艇を保有していると見積もられていた。

 この巨大な海軍力を放置することはできない。

 帝国が再び侵略戦争を起こせないようにするためには、その海軍力と海上輸送能力を徹底的に削ぎ落とす必要があった。

 

「艦長。司令部より打電です」

 

 しばらく静かな航海を続けていた〈そうりゅう〉の発令所に、通信士の声が響いた。

 恒星は顔を上げる。

 

「モニターに表示してくれ」

「はい」

 

 艦長席前方の画面が切り替わり、受信した命令文が表示される。

 

発 第1潜水隊群

宛 SSN-501 そうりゅう 艦長 恒星次男

 

 司令部より海神作戦の開始が正式に発令された。

 貴艦はこれよりパガンダ=レイフォル間の主要航路を哨戒し、敵性軍艦及び軍事輸送艦を優先して撃破せよ。

 以上。

 

 

 表示された短い命令文を、発令所にいる誰もが無言で見つめた。

 帰国まで何隻の敵艦を沈めることになるのか。

 あるいは、自分たちの存在が敵に知られ、どのような対抗手段が講じられるのか。

 それを知る者はいない。

 

「いよいよですね」

「ああ」

 

 恒星は艦長席へ腰を下ろした。

 

「狩りの始まりだ。総員、いつでも戦闘配置につけるようにしておけ」

「了解です」

 

 副長が艦内電話を取る。

 

「各部、戦闘配置移行準備。繰り返す。各部、戦闘配置移行準備」

 

 静かな艦内に号令が伝わっていく。

 

「進路を南西、方位二〇六に取れ。潜航したままパガンダ=レイフォル間の主要航路へ入る」

「了解です。変針、進路二〇六。面舵二十度」

「面舵二十度ぉ」

 

 操舵員が舵を切る。

 深い海の底で、〈そうりゅう〉の巨体がゆっくりと向きを変えた。

 原子炉から供給される尽きることのない力を受け、鋼鉄の海竜は敵の海上交通路へと進んでいく。

 その接近を知る者は、まだ誰もいなかった。

 


 

 同日。

 パガンダ=レイフォル間航路を北上するグラ・バルカス帝国海軍護衛船団は、冬の冷たい海風を受けながら航行を続けていた。

 船団の中心には五隻の大型輸送艦が並んでいる。

 その船倉には、レイフォル方面へ送られる砲弾、航空燃料、交換部品、食料、医薬品、そして数千人分の小火器弾薬が満載されていた。

 輸送艦を取り囲むように、六隻の駆逐艦が警戒陣を形成している。

 さらに船団前方には、護衛部隊旗艦である巡洋艦〈シリアス〉が位置していた。

 

「現在位置、予定航路からのずれはありません」

「レイフォル到着までの時間は?」

「現在の速度を維持すれば、明日の午後には到着する見込みです」

「よろしい」

 

 〈シリアス〉の艦橋で、船団司令は航海図を確認した。

 帝国軍が連合軍の反攻を警戒しての前線への補給は、日に日に頻度を増している。

 それでも、レイフォル州での生活を維持するには物資を送り続けなければならなかった。

 

「参謀長。潜水艦への警戒状況はどうなっている?」

「各駆逐艦が聴音を続けています。対潜装備を強化した〈サリン〉を船団前方に配置していますので、不審な推進音があれば発見できるはずです」

「日本軍の潜水艦が、この海域まで進出しているという噂がある」

「兵士たちの間で流れている、例の噂ですか」

 

 参謀長は、わずかに眉をひそめた。

 カルトアルパス周辺で、正体不明の潜水艦が帝国艦艇を翻弄した。

 海中を信じられない速度で移動し、帝国軍の探知を容易に振り切った。

 そのような報告が、帝国海軍内部で密かに囁かれていた。

 だが、正式な記録では敵潜水艦の存在そのものが曖昧にされている。

 まともに姿を確認できた者がいなかったためだ。

 

「仮に日本軍の潜水艦が存在するとしても、たった一隻で船団を襲うとは考えにくいでしょう」

「そうだとよいがな」

 

 船団司令は、鉛色の海へ視線を向けた。

 水平線上に、敵艦の姿はない。

 上空にも敵機は確認されていない。

 帝国本土と占領地を結ぶ航路には、未だ帝国海軍の哨戒網が残っている。

 少なくとも、彼らはそう信じていた。

 

「右舷警戒艦より報告。異常なし」

「左舷警戒艦も異常ありません」

「このまま進む。全艦、速力を維持せよ」

 

 船団は整然と北上を続ける。

 その遥か下方。

 太陽の光すら届かない海中から、自分たちが既に観察されているとも知らずに。

 


 

「ソナー、分析結果を報告します」

 

 〈そうりゅう〉の発令所では、先ほどから緊張した空気が漂っていた。

 

「輸送艦と思われる騒音源が五。四軸推進の軍用艦が一、二軸推進の軍用艦が六です」

 

 ソナー員が、目標から発せられる微かな音を聞き分けていく。

 機関音、推進器の回転音、歯車の擦れる音。

 乗組員たちの足音すら、海水を通じて〈そうりゅう〉の巨大なソナーへ届いていた。

 

「四軸推進艦は?」

「おそらく護衛船団の旗艦です。音響特性から見て、巡洋艦クラスと思われます」

「二軸推進艦は駆逐艦か。そして、その内側に輸送艦……典型的な船団護衛の布陣だ」

 

 恒星は画面上に表示された目標の位置を確認する。

 敵船団は、まだ〈そうりゅう〉の存在に気づいていない。

 一定の針路と速度を保ち、規則正しく北上している。

 

「積荷までは分からんが、軍艦に護衛された輸送船団だ。軍事物資を運んでいると見て間違いないだろう」

「艦長。やりますか?」

「ああ。我々の任務は敵海上戦力と軍事輸送能力の排除だ。見逃すことはできん」

 

 恒星は一度だけ目を閉じた。

 画面の向こうに表示されている点のひとつひとつに、自分たちと同じ人間が乗っている。

 命令を下せば、その多くが死ぬ。

 だが、ここで見逃した物資が届けば、今度はムーが危険にさらされるかもしれない。

 艦長として、選択の余地はなかった。

 

「戦闘配置」

 

 発令所内の空気が一変した。

 

「総員、戦闘配置!」

 

 警報が艦内に鳴り響く。

 乗組員たちが持ち場へ走り、各部署から準備完了の報告が次々と入った。

 

「発射管一番、二番にサブハープーン装填。三番から八番は魚雷戦用意」

「了解。発射管一番、二番、サブハープーン装填。三番から八番、89式長魚雷、発射用意」

 

 魚雷発射管室で、巨大な兵器が装填位置へ移動する。

 

「ハープーンは四軸推進の巡洋艦を狙え。指揮能力を最初に奪う」

「了解。目標、四軸推進艦」

「魚雷は輸送艦を狙う。まず四隻を同時に仕留めるぞ」

「目標一から四、輸送艦に指定します」

 

 火器管制員が次々と目標情報を入力する。

 針路、速度、距離、海流、水温。

 得られた情報を基に、攻撃諸元が組み立てられていく。

 

艦よし!(Ship ready)

解析値よし!(Solution ready)

武器よし!(Weapon ready)

全てよし!(All ready)

 

 すべての準備が整った。

 発令所の視線が恒星へ集中する。

 彼は一呼吸置き、静かに命じた。

 

「……一番、二番。サブハープーン発射」

「発射了解」

 

 水雷長が発射操作を行う。

 

「ファイア!」

 

 圧縮空気によって、二つの円筒形カプセルが発射管から押し出された。

 カプセルは深い海中を上昇していく。

 やがて海面を突き破ると同時に分離し、その内部に収められていた二発の対艦ミサイルがロケットブースターへ点火した。

 二筋の炎が海上に現れる。

 ブースターを切り離したミサイルは高度を下げ、波頭をかすめるように敵船団へ向かって加速した。

 


 

『左舷水上より、飛翔体を確認!』

 

 監視員の絶叫が〈シリアス〉の艦橋に響いた。

 

「なにっ!?」

 

 船団司令が左舷側へ振り向く。

 水平線近く、海面すれすれの高さを、二つの黒い物体が猛烈な速度で接近していた。

 

「な、なんだ、あれは――っ!」

「高速飛翔体、接近! 距離四千!」

「対空戦闘! 撃ち落とせ!」

「間に合いません!」

 

 見張員が叫んだ、その直後。

 一発目のハープーンが〈シリアス〉の艦橋直下へ突き刺さった。

 強烈な爆発が巡洋艦の上部構造物を吹き飛ばす。

 窓ガラスが砕け、艦橋内の人間が爆風と破片になぎ倒された。

 続く二発目は、後部煙突付近へ命中した。

 炸薬が艦内で爆発し、機関区画へ通じる配管と電線を引き裂く。燃料へ火が移り、黒煙と炎が一気に噴き上がった。

 

『飛翔体、旗艦〈シリアス〉へ命中!』

「旗艦が炎上しています!」

「今の攻撃はなんだ!?」

「分かりません! 飛翔体は海面付近から突然現れました!」

「〈シリアス〉と連絡は取れるか?」

「呼びかけていますが応答ありません!」

 

 駆逐艦〈ミヤム〉の艦橋で、艦長が炎上する旗艦を見つめていた。

 〈シリアス〉は航行を続けているものの、艦橋部分は完全に破壊されている。

 後部からも激しい炎が上がり、急速に速力を落としていた。

 

「謎の飛翔体は水上から打ち上げられたように見えました。潜水艦からの攻撃ではないかと思われます!」

「潜水艦だと!?」

「〈シリアス〉、依然として応答ありません。司令部要員が生存していたとしても、指揮を執れる状態ではないでしょう」

 

 艦長は一瞬だけ迷った。

 だが、今は船団全体が危険にさらされている。

 旗艦からの命令を待つ時間はなかった。

 

「攻撃は敵潜水艦によるものと断定する! 旗艦損傷により、本艦が一時的に船団の指揮を執る!」

「はっ!」

「駆逐艦〈オルナカ〉を〈シリアス〉の救援に回せ! 残りの駆逐艦は全て対潜戦闘を開始!」

「了解! 総員、対潜戦闘用意!」

 

 通信員が各艦へ命令を発する。

 

『全艦、臨時旗艦〈ミヤム〉の指示で行動せよ。対潜戦闘開始』

「アクティブソナーを装備した〈サリン〉を、飛翔体が出現した海域へ先行させる。輸送船団は北へ転進、最大戦速で退避せよ!」

「了解!」

 

 警報が鳴り響き、船団の陣形が崩れ始める。

 輸送艦は一斉に舵を切り、黒煙を吐きながら北へ向かって加速した。

 五隻の駆逐艦は輸送艦から離れ、敵潜水艦を捜索するために散開していく。

 そのうちの一隻、〈サリン〉はハープーンが海面へ現れた地点を目指し、全速力で突進していた。

 

「ソナー、発振開始!」

「発振します!」

 

 艦底に取り付けられた探信装置から、強烈な音波が放たれる。

 

 キィィィン――。

 

 甲高い探信音が海中へ放たれ、しばらくして海底や水温層から複雑な反響音となって返ってきた。

 

「反応は!?」

「ありません!」

「もう一度だ!」

「再発振!」

 

 キィィィン――。

 

 何度音波を放っても、それらしい反応は得られない。

 

「敵潜水艦は、まだ付近にいるはずだ!」

「しかし、何も捉えられません!」

「構わん! 推定位置へ爆雷を投下しろ!」

 

 〈サリン〉の艦尾から爆雷が次々と転がり落ちる。

 海中へ沈んだ爆雷は設定された深度へ到達し、連続して爆発した。

 巨大な水柱が幾本も海面へ立ち上がる。

 だが、その頃には既に、攻撃を行った潜水艦は遥か彼方へ移動していた。

 


 

「敵船団、陣形を変更しました」

 

 ソナー員からの報告を聞き、恒星は表示器へ視線を向けた。

 旗艦を失ったにもかかわらず、敵護衛艦は素早く動いている。

 

「旗艦を失って統率が乱れるかと思ったが、対応が早いね」

「輸送船団は北へ転進しています。駆逐艦一隻がミサイル発射地点へ向かい、探信音を発しています」

「対潜装備を持った艦を先行させたか。教科書通りの対応だ」

 

 発令所内に、遠く響く探信音が伝わってきた。

 旧式のアクティブソナーが放つ、規則的な音。

 しかし、その音波は〈そうりゅう〉を正確に捉えてはいない。

 敵が捜索しているのは、ハープーンが海面へ飛び出した地点である。

 その時点から〈そうりゅう〉は既に針路を変え、船団側面へ回り込んでいた。

 

「本艦の速力なら追尾できる。深度三五〇まで潜れ。速力三十ノット」

「了解。深度三五〇、最大戦速」

「深度三五〇! 最大戦速ぉ!」

 

 原子炉から生み出される力が、推進器へ送り込まれる。

 〈そうりゅう〉は艦首を下げ、さらに深い海へ潜っていく。

 同時に速力を増し、敵船団の進行方向へ先回りする。

 敵駆逐艦のソナーが発する音は次第に遠ざかっていった。

 

「……艦長、アクティブソナーの音が聞こえます」

「ああ。派手に鳴らしているね」

「見つかりますかね?」

 

 若い操舵員が、前を向いたまま尋ねた。

 恒星はわずかに口元を緩める。

 

「この距離、この深度、それに水温層の下だ。二次大戦水準のソナーでは、本艦を識別するのは難しい。まして、連中が探している場所は見当違いだ。このまま潜航を続ける」

「了解です」

「目標情報を更新。輸送艦の針路変更を魚雷へ反映しろ」

「了解。目標一から四、未来位置を再計算します」

 

 画面上で、北へ逃げる輸送艦の予想位置が修正されていく。

 

「三番から六番、魚雷発射用意」

「了解。三番から六番、魚雷戦用意!」

 

 水雷長が発射管の状態を確認する。

 

「三番、目標一」

「三番、目標一、諸元入力完了」

「四番、目標二」

「四番、目標二、諸元入力完了」

「五番、目標三」

「五番、目標三、諸元入力完了」

「六番、目標四」

「六番、目標四、諸元入力完了」

「全管、発射準備よし」

 

 恒星は画面を見据えた。

 敵輸送艦は、まだ自分たちが次の攻撃対象になっていることを知らない。

 

「……発射」

「発射了解」

「ファイア!」

 

 わずかな間隔を置き、四本の89式長魚雷が発射管から射出された。

 

「魚雷出た。誘導線、健全」

「三番から六番、正常航走」

「目標まで距離、一万八千」

 

 四本の魚雷は深い海中を高速で進み始めた。

 発射直後は〈そうりゅう〉から伸びる誘導線を通じて情報を受け取り、敵船団の進路変更に合わせて針路を修正していく。

 

「魚雷、目標へ接近」

「命中まで三分」

 

 発令所にいる乗組員たちは、誰も言葉を発しなかった。

 聞こえるのは機器の作動音と、ソナー員による淡々とした報告だけである。

 

「命中まで二分」

 

 逃げる輸送艦と、追いすがる魚雷。

 海面上の者たちは、まだその存在に気づいていない。

 

「終末誘導距離へ到達」

「魚雷、アクティブモードへ移行」

 

 四本の魚雷が、自らのソナーを作動させた。

 海中へ探信音を放ち、目標から返ってくる反響を捉える。

 

「三番魚雷、目標捕捉」

「四番魚雷、目標捕捉」

「五番、六番も目標を捕捉」

「誘導線切断。魚雷、自律誘導へ移行しました」

 

 恒星は時計へ目を落とす。

 

「命中まで四十秒」

 


 

「最大戦速を維持しろ!」

 

 輸送艦隊の先頭を走る第一輸送艦では、船長が機関室へ怒鳴っていた。

 

「これ以上は機関が持ちません!」

「持たせろ! ここで速度を落とせば敵潜水艦の餌食だぞ!」

 

 船体全体が激しく振動している。

 老朽化した機関は黒煙を吐き出し、悲鳴を上げながら推進器を回し続けていた。

 

「敵潜水艦は発見されたのか!?」

「護衛艦からの報告はありません!」

「見つけてもいないのか!」

 

 船長は窓の外を見た。

 遥か後方では、巡洋艦〈シリアス〉が炎と黒煙に包まれている。

 敵の攻撃は、あまりにも突然だった。

 砲撃音も、敵機の接近もなかった。

 ただ海面から飛び出した何かが、帝国海軍の巡洋艦を一瞬で戦闘不能にしたのである。

 

「右舷見張員より報告!」

「なんだ!?」

「海面に不審な航跡――こちらへ接近しています!」

 

 艦橋にいた全員の顔色が変わった。

 

「魚雷です!」

「取り舵いっぱい!」

「取り舵いっぱぁい!」

 

 巨大な輸送艦が急激に舵を切る。

 積荷が固定具を軋ませ、船体が大きく傾いた。

 白い航跡が船尾をかすめる。

 

「かわしたぞ!」

 

 誰かが叫んだ。

 だが、それは一瞬の安堵にすぎなかった。

 輸送艦を通り過ぎたはずの魚雷は、大きく弧を描くように旋回すると、再び船体へ向かってきた。

 

「魚雷、反転!」

「そんな馬鹿な!」

「再び接近します!」

「衝撃に備えろ!」

 

 次の瞬間。

 89式長魚雷が第一輸送艦の中央部へ命中した。

 巨大な爆発が船底を突き上げる。

 船体が中央から折れ曲がり、船倉に積み込まれていた砲弾が誘爆した。

 最初の爆発を遥かに上回る火球が発生し、鋼鉄の船体と積荷、そして乗組員をまとめて空中へ吹き飛ばす。

 

『第一輸送艦、被雷!』

 

 臨時旗艦〈ミヤム〉へ報告が届いた、その直後。

 第二の爆発が海上に轟いた。

 燃料を満載していた第二輸送艦の船腹に魚雷が命中し、噴き出した航空燃料へ引火する。

 炎は瞬く間に甲板全体を覆い、船は巨大な松明と化した。

 

『第二輸送艦も被雷! 火災発生!』

「敵潜水艦はどこにいる!?」

「分かりません!」

「魚雷の発射方向を調べろ!」

「各魚雷の侵入方向が異なります! 発射位置を特定できません!」

 

 〈ミヤム〉の艦長が拳を握り締める。

 

「〈サリン〉は何をしている!?」

『〈サリン〉から入電! 敵潜水艦の反応、依然としてなし!』

「反応なしだと!? では、この魚雷はどこから来たというのだ!」

 

 第三輸送艦に魚雷が命中した。

 船尾が爆発によって消し飛び、推進器と舵を失った船体が大きく傾く。

 乗組員たちは次々と海へ飛び込んでいた。

 続いて第四輸送艦の艦首付近で水柱が上がる。

 船体下部に開いた巨大な穴から大量の海水が流入し、艦首が急速に沈み始めた。

 

『第三輸送艦、航行不能!』

『第四輸送艦、沈没しつつあります!』

「四隻が同時に……」

 

 参謀が、呆然と呟いた。

 最初のミサイル攻撃から、まだ十分も経過していない。

 それにもかかわらず、旗艦は大破炎上し、五隻の輸送艦のうち四隻が撃破されている。

 敵の姿は一度も見えていない。

 

「第五輸送艦を中心に、残存艦で防御陣形を作れ!」

「しかし、敵潜水艦の位置が分かりません!」

「分からなくとも守れ! 爆雷を投下し続けろ! 奴を近づけるな!」

 

 残存する駆逐艦が、闇雲に爆雷を投下する。

 海面が次々と盛り上がり、耳をつんざく爆発音が響き渡る。

 だが、どれほど爆雷を投下しても、油膜ひとつ浮かんでこない。

 

「敵潜水艦、反応なし!」

「こちらの攻撃は効いていません!」

「馬鹿な……」

 

 〈ミヤム〉の艦長は、炎上する輸送艦を見つめた。

 味方の対潜攻撃が通用していないのではない。

 そもそも、自分たちは敵がどこにいるのかすら分かっていないのだ。

 こちらからは見えない。

 捉えられない。

 攻撃も届かない。

 それでも敵は、自分たちの位置を正確に把握し、一隻ずつ確実に破壊している。

 

「これが……日本軍の潜水艦だというのか……」

 

 その声に答える者はいなかった。

 


 

「爆発音、四」

 

 ソナー員が報告する。

 

「一番目標、大規模な二次爆発を確認。船体崩壊音が聞こえます」

「二番目標、機関停止。火災と思われる不規則な爆発音あり」

「三番、四番目標も推進音を喪失しました」

 

 発令所の大型表示器から、四つの目標記号が消えていく。

 攻撃開始から十数分。

 ハープーン二発と魚雷四本によって、敵巡洋艦一隻と輸送艦四隻が無力化された。

 

「敵駆逐艦は爆雷攻撃を続けています」

「こちらからの距離は?」

「最も近い艦で一万二千。遠ざかっています」

「完全に見当違いの場所を攻撃しているな」

 

 副長の言葉にも、勝利を喜ぶ響きはなかった。

 ソナーを通じ、船が沈む音が聞こえている。

 隔壁が水圧に耐えきれず潰れ、積荷が船倉内を転がり、無数の気泡が海面へ向かって上昇していく音。

 撃沈したという事実は、画面上の記号よりも遥かに生々しく乗組員たちへ伝わっていた。

 

「残った輸送艦はどうしますか?」

 

 副長が尋ねる。

 恒星はしばらく黙ったまま、敵船団の動きを見つめていた。

 残存する駆逐艦は最後の輸送艦を取り囲み、北へ逃がそうとしている。

 一方では炎上する艦の救助も始まっていた。

 

「追わない」

「よろしいのですか?」

「今日の目標はこの船団だけじゃない。無理に接近して魚雷を浪費する必要はないよ。それに、沈没艦の生存者を救助する艦まで攻撃するつもりはない」

 

 恒星は静かに命じる。

 

「戦闘配置を一部解除。速力を十五ノットまで落とせ。針路を南西へ戻し、次の哨戒海域へ向かう」

「了解。速力十五ノット、針路南西」

「ソナー、周辺警戒を継続」

「了解」

 

 〈そうりゅう〉は敵船団から離れていく。

 海面では、未だ爆雷の爆発が続いていた。

 だが、その音は次第に小さくなり、やがて深い海の静寂へ溶けていった。

 

「艦長」

「なんだい?」

「海神作戦、最初の戦果ですね」

「ああ」

 

 恒星は艦長席の画面に表示された海図を見る。

 パガンダとレイフォルを結ぶ長大な航路。

 そこには今も、帝国の補給船団が何十、何百と航行している。

 

「だが、まだ始まったばかりだ」

 

 誰にも見つからず。

 誰にも追いつかれず。

 海中に潜む鋼鉄の海竜は、次の獲物を求めて進んでいく。

 この日、グラ・バルカス帝国海軍はまた改めて理解することとなった。

 日本が海中へ送り込んだ敵は、従来の潜水艦とは全く異なる存在であるということを。

 そして帝国の長大な海上交通路は、もはや安全な後方ではないということを。

 

 海神作戦は、静かにその幕を開けた。

 

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コレは、Avorionで遊んでいた男が技術チート付けられて宇宙戦艦ヤマト(リメイク版)の世界へ投げ込まれる話しである。▼「とりあえず、Avorionで作ってた5km級の戦艦作りたいな」▼宇宙戦艦ヤマトの世界に、Avorionで作った宇宙船を持って行ってオレツエーがやりたくて書きました。▼初作品の為お手柔らかにお願いします。


総合評価:1680/評価:8.11/連載:32話/更新日時:2026年07月06日(月) 00:23 小説情報

科(化)学系チート持ち転生者のお話(作者:金属粘性生命体)(原作:多重クロスオーバー)

▼ 数百世紀先の技術と創作上の技術を持って転生した男の好き勝手生活。▼ ディストピアルート、闇堕ちルート、どちらから先に読んでも問題ないようになってます。作者の個人的には闇堕ちルートの方がおもろいと思う。▼(作者の架空科学なので一切整合性はとりません、雰囲気で読め)▼ オタクルートを外伝にしました。↓がリンクです▼ https://syosetu.org/n…


総合評価:3339/評価:7.48/連載:107話/更新日時:2026年05月06日(水) 10:00 小説情報

旧型サラミスで生きる1年戦争(作者:カズkaz)(原作:機動戦士ガンダム)

ありきたりな転生ものです。機動戦士ガンダムをそこそこに知っている主人公が旧型のサラミスに乗り込み、なんとか1年戦争を生き抜こうと奮闘する物語。▼思い付きで投稿していますので続かないかもしれません。▼箸休めにご覧ください


総合評価:3170/評価:8.25/短編:22話/更新日時:2026年07月04日(土) 21:20 小説情報


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