海の恐怖!グラ・バルカス帝国海軍vs原子力潜水艦   作:通常弾頭

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最近原子力潜水艦が話題になっているので


フォーク海峡の戦い
第一話


 

【原子力潜水艦とは】

 

 原子力潜水艦とは、通常の潜水艦と違い、動力に原子力のエネルギーを活用して推進する潜水艦のこと。

 原子力の無尽蔵のエネルギーを推進、潜航中の蓄電池の充電、そして兵装類などにも使用。最大の特徴はその大きなエネルギーを駆使した高い性能である。

 通常動力とは違い、航続距離、潜航時間共に無制限。世界中どこだって行ける。

 おまけに高出力のタービンで30ノット以上の高速性能を発揮でき、ソナーもより多くの電力を使う高性能なものに換装できる。

 船体も大きくできるため、中には弾道ミサイルを搭載して戦略兵器となっている艦級も多数存在した。

 まさしく潜水艦の枠を超え、別格の性能を有した兵器と言っても差し支えない。

 

【日本における原潜導入までの歴史】

 

 日本の海上自衛隊では、度々そんな原子力潜水艦を保有しようという動きがあった。

 1986年には原子力潜水艦の導入について具体的な検討が行われ、原子力潜水艦導入の意向をアメリカ海軍にも非公式に打診した事があった。

 そして日本は国産原子力船の導入と建造によりノウハウを蓄積しており、同船はなんら事故もなく長年運用されて来たことから、導入はいつでも可能だった。

 大きな転機が訪れたのはアメリカの意向である。

 海自は戦後ずっと米国の戦略に組み込まれ、対潜能力と掃海機能を充実してきたが、冷戦終結頃から米国内に日本の主体性を一定程度認めようという機運ができつつあった。

 これはアメリカ側が自分たちの負担を少しでも減らすためという思惑もあったが、そこで日本側は「原潜は対潜能力の一環でもある」と米国を説得。最終的に技術供与が認められたのである。

 結果、平成3年度の中期防衛力整備計画にて"原子力実証型潜水艦"という名目で、日本初の原潜の建造が承認された。

 

 その後、2005年の13中期防にて日本の保有潜水艦定数は16隻から20隻に拡大。

 これは通常動力型潜水艦の新規建造はおやしお型で終了とし、今後日本で建造・配備される潜水艦は全て原子力にするというかなり大掛かりな改革だった(通称"オール原潜ドクトリン")。

 このような経緯を経て、海自の原子力潜水艦は今日まで日本の領海で活動する仮想敵国原潜の監視任務に従事。その高い性能を如何無く発揮している。

 


 

第一文明圏 南方海域

 

 暗い海中に、その鉄の塊は存在した。

 深度300m。比較的浅い海の底に、その鉄の塊は鯨のようにゆったりと泳いでいる。この世界の住民がその姿を見れば、伝説の海魔だと思い込み、恐怖に震えるだろう。

 だがそれは海魔のような生き物ではなく、人工物である。さらに言えばその鉄の船内には人間が乗っている。これは紛れもない人の作った船そのものであった。

 日本国海上自衛隊所属の原子力潜水艦、そうりゅう型のネームシップである〈そうりゅう〉は、現在マグドラ群島より南におよそ20海里の海中をおよそ5ノットで航行していた。

 〈そうりゅう〉の艦長を務める恒星一等海佐は、ソナーマンと共に水上艦艇の音を表示しているモニターを眺めていた。

 

「どうだ?」

「まるで音紋の博覧会ですよ。機械動力船から魔法動力、帆船まで……初めて聴くような推進音ばかりです」

 

 相手の音紋が表示されている横長の画面には、いくつかのノイズに紛れて音の波が表示されている。

 これは、音紋というものだ。実は現代に至るまでの多くの艦船は、たとえ同型艦であったとしても微妙に推進音が違う。

 それを人間の指紋のように照合して識別をするのが、潜水艦の戦闘において重要な要素だ。

 なので、一流の潜水艦大国はこの音紋の収集に余念がない。日本もそんな潜水艦大国の一つであった。

 

「上層部の言う通り、音紋を取るにはいい機会ですね」

「ああ。またいつパーパルディアみたいな奴らが現れるか分からんし、音紋をとって備えておくに越した事はない」

「しかし、海自はよく政府を説得できましたね?」

「この世界じゃ潜水艦なんて兵器を持っているのは日本とグラ・バルカスって国だけらしいからな。他は概念すらないから警戒されることもない。極秘に派遣しても誰も気に留めやしないのさ」

 

 今回、原子力潜水艦〈そうりゅう〉が派遣されたのは極秘の任務を帯びてのこと。彼らがここにいるのは、今のところ機密中の機密だった。

 現在、マグドラ群島を超えた先にあるカルトアルパスにて先進11カ国会議が行われている。これは日本も参加している国際的な会議だ。

 その会議において、最近ムー大陸より西側において勢力を伸ばすグラ・バルカス帝国という国が、軍艦を派遣してくるという情報があった。

 パーパルディア皇国という話の通じない野蛮な覇権主義国家と戦い、なんとか討ち滅ぼしたばかりの日本にとって、グラ・バルカスは次の仮想敵国。ムー大陸を脅かしているとなれば、尚更その脅威度を図る必要がある。

 そこで今回、マグドラ群島の付近に原子力潜水艦を派遣し、そこを通るであろうグラ・バルカス帝国の艦艇の音紋を取り、今後の海自にとって重要な情報として活用するつもりだった。

 原子力潜水艦は無制限に水中航行できるため、このような浮上できない極秘作戦でも存分に活躍できた。

 

「ソナーに新たな感あり。大型艦、四軸推進……"シエラ1"と呼称。その他護衛艦らしき反応多数。海図に表示します」

 

 本日何度目かの船舶通過を受け、ソナーマンが反応した。デジタル制御の海図に新たな反応が表示される。

 それは〈そうりゅう〉の艦首方向を真横に通過する進路を取り、後続の艦と綺麗な陣形を組んで進んでいた。

 

「どんな感じだ?」

「これは……かなりの数の重油ボイラーを積んでますね……この規模で四軸となると、噂の"大和型戦艦"かと」

 

 音紋を画面に表示させると、そこには多数のノイズに混じり、大型艦の明確な音紋が映し出されていた。

 音響の反応から見るに、全長は推定260m以上。この大きさとなると、戦艦か大型空母かのどちらかとなる。

 グラ・バルカス帝国には、第二次世界大戦における大日本帝国海軍の艦艇に似た艦影の戦闘艦が多数配備されていると聞く。

 断定はできないが、260mクラスの大型艦となると当時の船ではいくつかに絞られる。

 

「大和か、信濃か、どっちだと思います?」

「……彼らがカルトアルパスに向かっているとなるとすれば、権威を見せつけられる船の方がいいだろうな。戦艦の方が厳つくて脅威がわかりやすい」

 

 海中からでは敵艦の詳しい艦級までは分からない。初めて遭遇する船なら尚更だ。

 だが恒星艦長は、相手の大型艦の正体を戦艦クラスだと予測している。というか、本人はそう確信している。それは彼の長い経験に基づく勘のようなものだった。

 

「……深度20まで浮上。潜望鏡を上げて艦影を確かめるぞ」

「了解です。深度20まで浮上」

 

 号令の下、原子力潜水艦〈そうりゅう〉のバラストタンクが排水。ゆっくりと浅い海域に浮上していく。

 船が浮力に持ち上げられるような、ゆったりとした浮遊感に包まれてから数十秒。船は潜望鏡を上げられる深度まで浮き上がった。

 垂直に立ったセイルから、潜望鏡が入ったブイを浮上させる。それは海面ギリギリの位置でカメラだけを出し、外の様子をカメラに映し出した。

 


 

 同時刻 グラ・バルカス帝国海軍 大型戦艦〈グレード・アトラスター〉

 

 まるで城のような出立ちの船が、だだっ広い海原を進んでいた。まるで海を割くようにして、白い泡のウェーキを引きながら、その戦艦は北へ進路を取っている。

 グレード・アトラスター級大型戦艦のネームシップ、〈グレード・アトラスター〉の第一艦橋では、艦長のラクスタル大佐が双眼鏡を手に青い水平線を眺めていた。

 周りには、まだ目印となるマグドラ群島などは見えていない。船には渡り鳥と思しき異世界の鳥がまとわりつき、時折艦橋に止まったりしている。

 一見すると平和に見えるこの海原だったが、艦長のラクスタルは緊張した面持ちで海を睨み、警戒心を解かなかった。正確にはその海の下を見据えて……

 

「艦長」

 

 艦長が険しい顔するものなので、艦橋にはしばらく緊張が続いていたが、その静寂を破ったのは副長のユリウスだった。

 ラクスタルは静かに彼の方を見る。ユリウスは敬礼を挟み、一歩前へ出て艦長に耳打ちする。

 

「……見張りより、右舷に潜望鏡と思しき光の反射を見たと報告がありました。この海域に帝国の潜水艦が派遣されたという情報はありません。十中八九、ニホンの艦でしょう」

「距離は?」

「水中聴音には全く反応がないので、まだ正確な位置は掴めていません。相手は恐ろしく静かです」

 

 ユリウスの報告の仕方は、艦橋の他の面々には聞こえないように配慮が取られていた。

 

「…………」

「どうしますか?これがもし、ニホンが保有するという例の原子力潜水艦だとしたら……」

 

 ユリウスはそのまま言葉を続けようとしたが、ラクスタルがハンドサインでそれを静止した。

 その先は言うな、と言う事である。

 今回の国際会議に際し、ラクスタルは〈グレード・アトラスター〉に随伴する護衛艦隊の指揮権を任されている。彼は早急な指示を下した。

 

「少し早いが、本艦は僚艦を離脱させてこのままカルトアルパスに進路を取る。僚艦は潜望鏡があると思しき海域の上を通れ。それでさりげなく追い払う」

「了解しました」

 

 ラクスタルはそれだけユリウスに耳打ちすると、前へ向き直り、艦橋要員にそろそろ僚艦を離脱させるように伝えた。

 その指示を受け、戦艦〈グレード・アトラスター〉の周りで陣形を組んでいた艦艇達は一時的に離脱。進路を潜望鏡を見掛けた地点へと取り、その上を抑えるように航行していく。

 そうして謎の潜水艦の頭を押さえつつも、ラクスタル艦長の脳裏には出港前の出来事が焼き付き、不安を呼び起こしていた。

 

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