海の恐怖!グラ・バルカス帝国海軍vs原子力潜水艦 作:通常弾頭
数ヶ月前 グラ・バルカス帝国暫定帝都ラグナ 海軍鎮守府
赤煉瓦で固められた鎮守府の建物。その廊下にて、コツコツと歩みを進める四人の軍人の姿があった。
先頭を歩くのは、案内役の若い士官。後ろの三人を誘導している。
三人のうち、士官に挟まれ真ん中を歩いているのは、帝国軍でも数少ない女性大将のミレケネス。帝国三大大将と名高い有名人だ。
その後ろを歩くのは、アルカイド中将とラクスタル。彼らは同じ帝国監査軍という、いわば植民地警備と制圧を担当している軍種の軍人だった。
「……思えば、カイザルが作戦前に呼び出して話をしようなんて、珍しいわね」
真ん中を歩くミレケネスが、ふとそんな事を言った。アルカイドはその言葉に反応し、今日この三人を呼び出した人物との関係が気になりさりげなく聞き返した。
「そうなのですか?」
「ええ。こうして海軍と監査軍で別れて以降、あまり話さなかったもの。疎遠ってわけじゃないんだけど、若い頃より話すことも事務的になってたわね」
「……今回呼び出されたのも、やはり作戦絡みでしょうか?」
「だと思うけど、現場の貴方達まで呼んで欲しいなんて変よ。何かあったのかしら……?」
ラクスタルも、自分よりさらに階級が上の上司と一緒に呼び出されたことを不審に思っていた。
ミレケネス、現場の責任者となるアルカイド中将だけでなく、〈グレード・アトラスター〉の艦長までもが、大将クラスに呼び出されると言うのはなかなかあり得ない。
おそらくはミレケネスと作戦について対談しているのを横で聞いてほしいだけなのかも知れないが、それならミレケネス大将から伝えればいいことだ。
だとすると、機密性の高い案件か……?
「カイザル閣下は、こちらでお待ちです。どうぞ」
案内役の士官が会議室の前で立ち止まり、その扉を開けて中に三人を案内した。そこにはすでに帝国海軍東方艦隊司令長官、カイザル・ローランド大将が椅子に座って待っていた。
その隣には、もう一人いた。彼は軍人ではないのか、姿勢を正しつつも敬礼は挟んでおらず、制服は情報局のものを着込んでいた。
彼の存在を少し不審に思うものの、三人は入室してから扉が閉まるのを確認し、敬礼を挟んだ。カイザルもそれに応えて軽く敬礼を返す。
「すまない、よく来てくれた。早速だが、向かい側に座ってくれ」
「ちょっと……まだ何を話すか聞いてないんだけど?」
「焦るなミレケネス。ちょっとイレギュラーなことがあってな……御前会議では不確定要素だったから言えなかったんだが、お前達には忠告しておこうと思っている」
カイザルにそう言われ、とりあえず座るように促されているので三人はカイザルと情報局員の向かい側にそれぞれ座った。
まずカイザルが、隣にいる情報局員のことを紹介する。
「まず彼は、情報局のバミダル氏だ」
「ご紹介に預かりました、情報局技術部部長のバミダルです。今回は、近く行われる国際会議襲撃計画の仮想敵国の中に、イレギュラーが存在する可能性を掴みましたので、小さな力ではありますが御三方に情報提供をさせていただきたいです」
イレギュラーと聞き、三人は警戒心を強めた。なるほど、わざわざ呼び出されたのはこれのためかと半分くらい納得した。
だがここまで秘匿する理由がわからない。イレギュラーの可能性とのことなので、まだ確定していない情報なのかも知れない。
だとすると相手はミリシアルか?ムーか?はたまた強力な竜を従えるとかいうエモールのことか?三人がそれぞれ思考を巡らせる中、バミダルは話を始めた。
「皆さん、第三文明圏にあるニホンという国はご存知ですか?」
「ん?ええ……第三文明圏にいる転移国家との事だったわね……なんだったかしら?」
「最近、パーパルディア皇国とかいう国と戦争して解体した、あの国では?」
「ああそう、それそれ」
聞き馴染みのない国の名前が出たので、三人は少し拍子抜けして疑問符を浮かべた。
ニホンという国の名前は、同じ転移国家として第三文明圏に存在すると聞いてはいたが、帝国とあまりに距離が遠く、仮想敵になるのはまだまだ先だろうと推測されている。
報告書でもほとんど内容がなかったために三人とも忘れかけていた。
「そのニホンという国ですが、どうやら潜水艦を実用化しているという情報を入手しまして……」
「潜水艦って、私たち以外に持っていたの?」
「ああ。これは確定情報らしい」
三人はそれぞれ顔を見合わせた。特にミレケネスは、そこまで聞いて首を傾げてため息を吐いた。
「馬鹿馬鹿しい……カイザル、たかが潜水艦のためだけに私たちを呼んだの?」
ミレケネスは貴重な時間を調節してまでやって来ていたため、少しばかり不機嫌な口調でそう言うが、カイザルはこう返す。
「"たかが"じゃないんだ、これが」
カイザルはそう言うと、側のバミダルの方を見て資料を求めた。即座にそれはテーブルを滑らせるようにして渡される。
「……お前達は"原子力"というエネルギーを知っているか?」
「え?ええ……詳しい事はわからないけど、夢のエネルギーとか言ってるあれよね?」
「科学読本とかで書かれている、あれですな……」
カイザルは彼らの不審な反応をよそに、言葉を続ける。
「そうだ。実はニホンでは、その原子力を使った兵器が実用化されている。今回俺が警戒している潜水艦も、その原子力を使った兵器の一つだ」
カイザルの言葉に、三人はまたも顔を見合わせ、同時に首を傾げた。
グラ・バルカスにおける原子力エネルギーとは、まだ放射能を発見した段階からあまり進んでいない。しかし、未来の技術として原子炉という発電技術は構想されている。
ただそれは、子供が読むSF小説や科学読本の未来像などで描かれるものだ。
ニホンが原子力を実用化しているとでも言いたいのか?正直に言えば彼は果たして真面目に事を言っているのか疑問に思われていた。無言で聞いていたラクスタルに至っては、カイザルの真意を測りかねている。
「いやいや、さすがにそれは……」
「与太話ね。原子力エネルギーはまだ実用化に数十年……下手したら数百年先になるかもしれないSF技術よ?」
「それがなぁ……そうとも言えないんだ。実際、ニホンでは原子力を使った発電施設をいくつも保有していると、諜報員から報告を受けている」
「!!」
その言葉を受け、今度は三人とも大きな衝撃を受けた。
同時に、カイザルは彼らに見えるように手渡した資料をめくり、ニホンで活用されている原子力発電についての写真などを見せた。
その資料を見せながら、今度はバミダルが口を挟む。
「……カイザル閣下の言う通り、これらの情報から、我々はニホン海軍が原子力を動力とした潜水艦を配備していると結論付けています。実際、ニホンの軍事雑誌にはこのような艦級が公開されているのです」
彼が差し出した新しい資料は、鮮明なカラー写真が印刷された軍事雑誌だった。
おそらくムー辺りで購入できた書物なのだろう。付箋が貼ってあったので、そこを巡ってみると、ある潜水艦の情報が載っていた。
【そうりゅう型原子力潜水艦】
そうりゅう型原子力潜水艦とは、日本の海上自衛隊で運用されている量産型原子力潜水艦である。
実験艦としての意味合いが強かった前級からさらに発展し、船体は7000tを越えた大型潜水艦に拡大。新型のX字舵の採用で機動・戦闘能力はさらに向上した。
・諸元
排水量:7200トン
全長:110メートル
全幅:10メートル
機関:原子炉1基、蒸気タービン2基、7枚推進スクリュー1軸
出力:約4万馬力
水中速力:30ノット以上
航続距離:無制限
潜航時間:無制限
武装:
533mm魚雷発射管6門
18式長魚雷
ハープーン対艦ミサイル
ソナー:ZQQ-7N原潜用
同型艦:10隻
艦名:
・そうりゅう (SSN-501)
・うんりゅう (SSN-502)
・はくりゅう (SSN-503)
・けんりゅう (SSN-504)
・ずいりゅう (SSN-505)
・こくりゅう (SSN-506)
・じんりゅう (SSN-507)
・せきりゅう (SSN-508)
・せいりゅう (SSN-509)
・しょうりゅう (SSN-510)
「航続距離と潜航時間が……無制限ですって……!?」
「水中速力は、30ノット以上だと……!」
「バケモノだ……」
天井を突き抜けた高性能。資料に書いてあったその化け物じみた潜水艦の性能には、潜水艦には詳しくないはずの三人も唖然として言葉が出なかった。
「ちょ、ちょっと、貴方、本当にこんな潜水艦が本当に存在すると考えているの……?頭おかしいんじゃないの?」
かろうじてミレケネスがこの存在の信ぴょう性を疑う質問をしたが、バミダルが先手を打ってそれを否定する。
「我々情報部としては、この兵器の存在は確実だと見ています。民間発電にも原子力が広まっているような国です。潜水艦に利用しないわけがない」
「そうだ。それに技術屋の分析では、原子炉を搭載する最大のネックさえクリアできれば、このような化け物じみた性能も十分発揮できると確信を持って言われた。誰もおかしくなっちゃいないんだ、ミレケネス」
カイザルはあくまで真面目な口調でそう言う。
その言葉を受け、ミレケネスも彼が決して冗談を言っているわけでも、欺瞞に踊らされたわけではなく、確信を持って存在する原子力潜水艦のことを警戒しているのだと悟った。
ミレケネスはしばらくカイザルと手元の資料をチラチラと目配せして、絞り出すような声を出した。
「あんな小さな島国で、こんな超兵器が生み出されているなんて……」
「彼らも転移国家だ。辿ってきた歴史が違えばこのような兵器だって生まれる可能性はあると思う」
「確かに……」
「それに、このようなバケモノなら、ニホンのような小国でも領海を守り切ることができる。領海が広くても航続距離無制限の原子力潜水艦は、どこでも駆けつけて対応できるわけだからな」
カイザルがそこまで言うのを聞いて、ミレケネスは自分達が作戦前に呼び出された真意を知り、ようやく納得した。
「……じゃあつまり、今度の会議にも現れる可能性が高いってこと?」
「そうだ。間接護衛として配備されている可能性は高い」
カイザルはそこまで言うと、傍のコップの水を手に取り一口含む。そして、続ける。
「実はな、俺はすでに本件に関して北方艦隊の潜水艦隊指揮官と個人的な協議を交わしている。最初は信じてもらえるとは思わなかったんだが、多くの者がこの存在を重く見ているようでな……少なくともニホンに潜水艦がいるという想定で、南方艦隊にも話が回っている」
「私たちの知らないところで、そんなに話が進んでいたの?」
「確かに、最近海軍の方で装備の換装が激しいとは聞いておりましたが……」
「そうだ。そこで幾つか有効そうな対策装備が開発されている。今回のカルトアルパス襲撃に際し、お前達の参加艦艇にもそれを装備させるつもりだ」
「なるほどね……水上だけでなく水中も警戒せよと」
そこまで話が進みひと段落したところで、今度はアルカイド中将が口を挟んだ。
「カイザル閣下、失礼ですが新兵器を装備する船の艦長達にはどう伝えれば良いのでしょう?この世界の潜水艦事情は彼らも知っているはず。対潜装備の増強となれば怪しまれます」
「俺の方から、海魔対策とでも言っておくさ。当事者以外はまだまだ原子力潜水艦の存在を信じる輩は少ない。下手に噂を広めて士気を下げるのもよろしくないしな」
「海魔対策、ですか……」
カイザルが言っている「海魔」という表現は、あながち間違いじゃない気がして、三人は少し寒気がしてきた。
その後、カイザル達は新装備の簡単な説明とレクチャーを受け、出港までの期間に参加艦艇の訓練を行う事で合意。その日の会合を終えた。
先進11カ国会議当日 国際港湾都市カルトアルパス
国際会議の最中、大型戦艦〈グレード・アトラスター〉は国際港湾都市カルトアルパスの一番大きい桟橋に停泊していた。
湾内の凪のような小さい波が船に打ちつけ、時折鴎が留まりに来ても、乗員は誰も下船していない。
艦長のラクスタルは、艦長室に居た。静かに外を見て、深く考え事をしている。
その時、背後の扉が開かれた。
「──艦長?」
「ん、ああ……ユリウスか」
副長のユリウスが入って来た。
ノックをされたか覚えてないが、おそらく考え事をしてたので聞き逃したのだろう。真面目な彼が艦長室に入るときにノックをしないわけがない。
彼は報告書を手に、ラクスタルにそれを手渡した。停泊中の簡単な定時報告であり、その項目全てに目を通す。
その最中、ユリウスが語りかけて来た。
「結局、ニホンの潜水艦は見つかりませんでしたね。果たして本当に居たんでしょうか?」
「わからん。真実は海のみぞ知る……とでも言っておこうか」
ラクスタルが詩的な事を言うので、その道に詳しくないユリウスは少し黙って俯いてから、また口を開いた。
「……一応、本艦に搭載された大出力のアクティブソナーなら探知する可能性は上がるかも知れません」
「砲撃戦の最中に音を聞くのは無理だろう」
「ええ。どうしたものでしょうか……」
不安そうに俯くユリウスは、やはり潜水艦が気がかりなのかソワソワしている。ラクスタルは報告書に目を通しながら、こう言った。
「いっその事、考えないほうがいいかもしれんな」
「は?」
ラクスタルはあくまで緊張を解くよう、ユリウスに促すようにそう言う。
「いるかも分からない潜水艦を気にしてちゃしょうがないだろ」
「それはそうですが……」
「戦艦には戦艦の仕事がある。我々は砲撃戦に備えよう。幸い、突入時の護衛の駆逐艦の数を増やしてもらったから、近づかれないようにバリアでも作ろうか」
「それでなんとかなりますかね……」
「俺たちは戦艦乗りだ。鯨なんぞ恐れてたら勝てる水上戦も勝てんよ」
ラクスタルの言う通り、〈グレード・アトラスター〉には戦艦としての仕事がある。
本来潜水艦退治は駆逐艦の仕事。幸いにも今回は、潜水艦対策の装備を持ち合わせた駆逐艦を多数融通してもらった。
ラクスタルは微かな不安を打ち消すように、自分達の仕事ではないそれを思考の外に追いやっていく。