海の恐怖!グラ・バルカス帝国海軍vs原子力潜水艦 作:通常弾頭
翌日 港湾都市カルトアルパス
カルトアルパスで国際会議が行われている最中、巡視船〈しきしま〉では乗員を街に上陸させて休息を取っていた。
船長の瀬戸守も船長室で寛いでおり、コーヒーでも飲みながら時間を潰していた。時間が来れば、彼もカルトアルパスの観光に出るつもりだった。
そこに、船長室のドアが慌ただしくノックされた。瀬戸船長は入室を許可したところ、交代で船橋を見守っていた副長が入ってある事を報告した。
「……グラ・バルカスの戦艦が出港?」
「はい。乗員が一人も降りなかったので怪しいとは思いましたが、どうやらそのようです」
副長からの報告に、瀬戸は自らの耳を疑った。
まだカルトアルパスでの国際会議は続いており、予定ではどの国も、あと6日間はここに留まるはずであった。
それなのにいきなり出港とは、何か彼方の方でトラブルでもあったのだろうか。瀬戸は考え込んだ。
「何かあったのか?」
「分かりません……何かあったとすれば会議の方では?」
「うちの大使が戻ってくるまで分からんか……」
瀬戸は何か対策を練るにも情報が必要だと思い、とりあえず船の船橋に向かうことにした。
船橋に上がると、すでに電話で陸とやりとりしている乗員が居た。彼は瀬戸が上がって来た事を目線で確認すると、電話の受け答えをしながら瀬戸に電話を渡そうとする。
「はい……はい……では船長が来ましたので、代わります。船長、大使からです」
「どれ?」
受話器を受け取った瀬戸は、電話の向こうにいる日本からの大使に挨拶する。
「しきしま船長の瀬戸です」
『近藤です。実は先ほど、先進11ヵ国会議にてグラ・バルカス帝国が宣戦布告を行った後、会議を退出していきました』
「なんですって!?」
瀬戸はまたも自分の耳を疑った。
あのグラ・バルカス帝国が、国際会議の場で宣戦布告とは、イカれてるにも程がある。首脳部は頭のネジが存在しないのではないかと疑った。
『このことはすでに本国に伝えてあります。これから閣僚会議が開かれるようですが、今後どうなるかは不明です』
「分かりました……しかし、国際会議の場で宣戦布告をするとは……彼らは一体何が目的なのでしょうかね?」
『分かりません。しかし、あの様子を見ると全世界の植民地化は含まれていそうです』
瀬戸は海上保安庁の船員のため、国際政治に詳しい立場でないが、その言葉を聞くと嫌な予感がして来た。
「つまり、ここが襲撃される可能性も?」
『ええ。ちょうどここには世界各国の有力な軍艦が揃っています。政治的パフォーマンスのため、奇襲攻撃を行ってくる可能性は高いです』
「…………」
『船長、今後何が起こってもいいように出港準備だけは整えておいてください。戦闘も……覚悟してください』
「……分かりました。ありがとうございます」
近藤大使の報告を受け取り、瀬戸は重苦しく受話器を元の位置に置いた。途端にため息が出てくる。
「どうしますか?」
「無理だ。我々の武装じゃ戦艦とか巡洋艦には勝てっこないぞ……」
「それだけじゃありません。もし撃沈され、本船の原子炉に異常が発生すれば国際問題にもなります」
副長は〈しきしま〉が搭載している原子炉を指して、重い口調でそう言った。
〈しきしま〉は、元々プルトニウム等運搬船を警護する名目で作られた船であるため、航続距離を重視し、海上保安庁の巡視船としては初めて原子炉を搭載している。
これは海上自衛隊が原子力潜水艦を導入した事で、幾らか導入のハードルが下がっていた事もこの搭載を後押ししていた。今回はそれが仇になりそうであるが。
「何も起きないで欲しいが……一応、下船している乗員を全員呼び戻してくれ。いつでも出港できるようにしておく」
「了解しました」
瀬戸は副長にそれだけ指示を下す。彼が通信回線を開いて、全員一人一人に対して集合命令を出している傍ら、瀬戸は船首に備え付けられた機関砲達を見つめた。
「頼む……何も起きないでくれよ……」
いつもなら海賊船相手に無類の強さを発揮するであろうその機関砲も、今回ばかりは相手が相手のため、なんだか頼りなく見えて来た。
同時刻 日本国首都東京 首相官邸地下
先進11カ国会議に出席している大使からの連絡を受け、首相官邸では緊急閣僚会議が行われていた。
各省庁の大臣や防衛省幹部など、関係各所の人々が一堂に会して対策を練る。
まず防衛省幹部の一人が前に立つと、会議室のモニターの電源を入れ、手元のパソコンを操作した。
「こちらが、監視衛星が捉えた艦影です」
表示されたのは、今年に入ってようやく稼働し始めた偵察衛星が、宇宙空間から捉えた偵察画像だった。
見えているのは戦闘艦らしき艦の白い航跡。それがいくつも、輪陣を描くように折り重なって艦隊を構成している。
「グラ・バルカス帝国海軍の戦艦を中心とした水上打撃部隊と、その南方に空母機動部隊が布陣。先ほどの観測で、この地点にあるマグドラ群島において演習中だったミリシアル艦艇と戦闘が発生。そして──」
幹部は画像を切り替える。次に表示されたのは、沈没しつつあるミリシアル艦艇を写した偵察写真だった。
「結果、グラ・バルカスの航空攻撃でミリシアル艦隊は壊滅……カルトアルパスまで行く手を阻む戦力はないに等しい状態です」
その報告を聞いた会議室に、重い沈黙が訪れる。その途端、誰かが弾き飛ばされるように言った。
「今すぐ巡視船を引き上げさせるべきです!」
「しかし、会議に出席している艦隊は徒党を組んでグラ・バルカスと戦おうとしています。今逃げれば規律を乱したと思われるのでは?」
「巡視船で戦艦と戦える訳ないだろ!」
「派遣した巡視船は原子炉を搭載しています。もし撃沈されでもしたら……」
各々の大臣達が口論を繰り広げる中、総理が冷静に、防衛大臣に対して問いかける。
「……防衛大臣、忍ばせておいた我々の原潜は?」
「はっ。原子力潜水艦〈そうりゅう〉に関しては、すでにグラ・バルカス帝国の艦隊を追跡するように命じました」
「攻撃はできるか?」
その言葉を聞き、防衛大臣は確認するように聞き返した。
「……総理。それは、潜水艦でグラ・バルカスの艦隊を先制攻撃せよ……とのことでしょうか?」
「そうだ。万が一を防ぐにはそれしかない」
総理大臣はこの事態を防ぐために必要な措置だとして、敵艦の撃沈を命令しようとした。防衛大臣はその言葉を受けて少し考え込む。
「ええ、確かに、派遣した原子力潜水艦の能力なら敵艦隊を奇襲・無力化する事は十分に可能です。しかし、一つ問題があります」
「なんだ?」
「派遣した原子力潜水艦〈そうりゅう〉は、音紋を取ることを任務として派遣したため、実弾の魚雷は6本しか搭載されていません。残りは数本の
防衛大臣の言葉を受け、会議室に再び沈黙が流れた。その途端、環境大臣と外務大臣が、防衛大臣を問い詰めた。
「そ、それでは、魚雷が足りないのではありませんか!?」
「何故実弾をもっと沢山積んでおかなかったんだ!?」
「戦闘を想定して派遣した訳じゃないんです!あくまで自衛用……それもかなりの長期航海をしなければならないので、空いたスペースに食料を積む必要もありましたから……」
「…………」
そう言われれば、魚雷があまり搭載されていなかったことを責めることはできない。どのみち責めても魚雷は増えないので、どうしようもなかった。
そんな最中、総理大臣は防衛大臣の隣に座る海上幕僚長に、あることを問いかける。
「海幕長、派遣した潜水艦の艦長はこれを達成できる男か?」
「はっ……原子力潜水艦〈そうりゅう〉の艦長、恒星一等海佐は海自でも一二を争う優秀なサブマリナーです。かつてのリムパックでは、演習で米空母を三度撃沈しています」
その言葉を聞き、大臣の何人かが「おお」と期待の声を上げた。それだけの実力がある艦長ならば、この困難な状況でも阻止してくれるかもしれない。彼への期待は高まった。
「……今回は個人の技量に頼るしかないな。今は彼の技量に期待しよう。海幕長、〈そうりゅう〉に指示を」
「了解しました。直ちに指示を出します」
原子力潜水艦〈そうりゅう〉
「艦長。本国からの指示です」
「……来たか」
| 発 第1潜水隊群 宛 SSN-501 そうりゅう 艦長:恒星次男
総理からグラ・バルカス帝国艦隊への攻撃が許可された。貴艦は艦隊がカルトアルパスに到達する前にそれを阻止せよ。
|
|---|
「阻止せよ、か」
「本艦には魚雷が6本しか搭載されていません。阻止なんてできますかね?」
「出来なくてもやるしかないさ。総員起こし、戦闘配置に付け」
「了解。総員、第一種戦闘配置!」
恒星艦長の命令により、副長が戦闘配置のベルを鳴らした。甲高いベルの音が艦内に響き渡り、乗員達が配置に付く。
それを待たずして、恒星は発令所にいるソナーマンに水上の反応を問いかける。
「ソナー、敵さんはどうだ?」
「追尾中の艦隊は速力を上げてます。中型艦多数……おそらく、エアカバーの空母でしょう」
「戦艦大和は?」
「先ほどロストしてからコンタクトなし」
すると隣に副長が来た。ソナーマンの報告を元に、個人的な推察を交えてこう言う。
「……まさかとは思いますが、私が彼の国の政治部ならこのまま艦隊を海峡に突入させてパフォーマンスをやります」
「戦場伝説か……」
となると、こちらの探知範囲外ですでにカルトアルパスに向かっている可能性が高い。手遅れになる前に追いつきたいが、目の前の艦隊も放っておけないだろう。
「戦艦もそうだが、空母がまず厄介だな」
「どうしますか?」
「まずは空母を叩く。もう速力を上げているとなれば艦載機は発艦した後かもしれないが、叩いておけば艦載機は引き返すだろう」
「戦艦については?」
「空母に魚雷を放った後に全速で追いかける」
自艦と敵の二個艦隊の位置から推察して、今空母艦隊に魚雷を放っておけば海峡に先回りできる可能性が僅かにあった。
これは高圧高出力の原子炉を搭載し、水中でも高速で航行出来る原子力潜水艦ならではの選択肢だった。
「進路変更、面舵25度」
「了解。面舵、25度ぉ!」
「発射管3、4、5、6番、魚雷戦用意。目標敵空母!音紋入力!」
「発射管室、魚雷戦用意!」
恒星の指示を受け、艦内は魚雷戦に備えはじめた。艦を少し右へ回頭し、魚雷が詰まったりしない位置から撃ち込む。
原子力潜水艦〈そうりゅう〉に備え付けられた六門の魚雷発射管には、すでに実弾の魚雷が装填されている。
そのうちの四門の発射準備を整えせ、デジタル計器の中で魚雷のアイコンが次々と黄色く光る。
「
「
「
「
恒星は発令所に備え付けられたデジタル画面を見る。
恒星の指示で、魚雷には空母と思しき音紋を記憶させており、例えワイヤーを排除しても、それ以外の艦艇には向かわないように設定された。
そうなれば、もはや必中といえよう。
逃れる運命はない。
恒星はこれから奪うであろう、敵空母の乗員のことを思い、少し目を瞑った。
そして、カッと見開く。
「……魚雷発射」
「発射了解。Fire!」
号令一下、魚雷の発射ボタンが押された。
魚雷が水の中に飛び出す泡の音が、発令所からも聞こえた。