海の恐怖!グラ・バルカス帝国海軍vs原子力潜水艦 作:通常弾頭
機動部隊 旗艦〈コルネフォロス〉
当時、機動部隊司令を任されていたのは監査軍の若手司令官のアケイルだった。
海軍および監査軍の拡大編成により、最近になって格上げで司令官に任命されたため、若干経験不足な面が否めない。
将兵の中にはこの人事に不安を抱くものも少なくなかった。ただ、今回の戦いにおいては安全な場所から空母部隊を指揮してるだけでいいと思われていたので、不安が直接士気に影響することはなかった。
だが──
旗艦のオリオン級戦艦〈コルネフォロス〉、その第一艦橋にて海を眺めていたアケイルは、突然視界の端に映っていた航空母艦〈フノール〉から水柱が上がったのを見た。
「ンッ、なんだ!?」
その光景を見た他の要員達も、彼と同じように動揺が走る。突然の出来事を受け、航空母艦〈フノール〉は速力が落ちているのがわかった。
『〈フノール〉が被弾!被弾!』
『攻撃です!被弾したのは魚雷かと思われます!〈フノール〉の艦尾で死傷者多数!』
その報告を聞いたアケイルは、即座に傍の艦隊通信のマイクを通信からひったくり、通信を被害を受けた艦に繋いだ。
「こちらアケイル、そちらの被害は!?」
『こちら〈フノール〉!スクリュー軸を全て破損しました!本艦は航行不能です!」
「くそっ、やられた!」
アケイルはその報告を聞いて、右拳を金属の壁に叩きつけた。あとからじんっとした鈍い痛みが響き渡る。
「司令!他の空母もやられました!我が機動部隊は全ての空母が雷撃を受け航行不能!」
「なん、だと……」
直後、通信参謀からそのような報告がなされてアケイルは戦慄した。この艦隊には空母が4隻配備されていたはずだが、その全てが航行不能となると、我が艦隊は航空機運用能力を全て損失したことになる。
「魚雷となると……まさか、潜水艦か!?」
「我が国以外に潜水艦を実用化している輩がいるのか……?」
「狼狽えるんじゃない!通信、攻撃中の艦載機部隊に連絡!全員呼び戻せ!今すぐ!」
「は、はいっ!」
艦橋の人員達が、突如として起こった雷撃に混乱する中。
アケイルは船が完全にダメになる前に航空隊を収容すべきだと判断し、通信参謀に対して新たな指示を下した。
結果としてカルトアルパスやフォーク海峡にいる艦艇に対して空襲中だった攻撃隊は、途中で引き返さなければならなくなった。
「(この攻撃……まさか、噂で広まっていたニホンの原子力潜水艦によるものか……?だとしたら──)」
まだこの海域に敵の潜水艦が隠れている可能性を感じ、どうするべきか考えていたアケイルは苦肉の策を下す。
「各駆逐戦隊に連絡。付近に爆雷を単発で投下し、水中音響を乱せ!」
「え?」
アケイルの不自然な命令を受け、艦橋の面々は惚けた顔で聞き返す。アケイルは即座にこの命令の意味を語る。
「聞こえなかったのか?爆雷投下だ。相手が何処にいるのか解らぬのでは勝負にならん。だが敵も潜水艦である限り、音響探知によって我が方を把握しているはず……」
「爆雷による音響をもって付近の海を攪乱し、敵の耳を潰して離脱を?」
「そうだ。残念ながら我々に潜水艦を捜索してる暇はない」
アケイルの言葉に納得した艦橋要員や参謀達は、即座に艦隊の各戦隊に指示を下す。アケイルは駆逐艦が戦列を離れ、動き出したのを皮切りに新たな指示を下す。
「全艦!駆逐艦の爆雷投下開始と並行し、全速で離脱せよ!」
その指示を受け、駆逐艦は海域に適当な爆雷を投下して音をかき乱し始めた。
敵潜水艦に当てるのではなく、とにかく音でバリアを張るように爆雷を投下。潜水艦からの潮音を阻害した。
巡視船〈しきしま〉
一方の巡視船および臨時の連合艦隊の方では、爆弾や魚雷を抱えたままの機体が突如として引き返したことを受け、拍子抜けでいた。
「敵航空機、全て離脱しました……」
「何が起きた?」
「さぁ……考えられるとしたら我々の潜水艦でしょうか?」
副長は日本の原子力潜水艦が空母を先に攻撃した可能性を指し、そう言った。
確かに母艦が攻撃されたなら、航空隊が引き返す理由も頷ける。しかし、そうなるとある不安が過ぎり始める。
「(空母艦隊が何処にいたのかわからないが、通常なら200海里は離れていたはずだ……だとすると、潜水艦はこの海峡に来てると言う水上艦隊の迎撃には間に合わないかもしれん……どうする?)」
瀬戸は期待していた潜水艦の攻撃が間に合わない可能性を感じ始め、冷や汗をかき始めた。
臨時の連合艦隊は航空攻撃だけでもかなりの損害を負っており、ムー・ミリシアルの巡洋艦が数隻大破、魔導船や帆船はほぼ壊滅。そして間も無く海峡の出口に差し掛かろうとしていた。
フォーク海峡 入り口付近
グラ・バルカス帝国の巨大戦艦〈グレード・アトラスター〉は、配下の駆逐艦4隻を伴って海峡に突入しようとしていた。
海峡の入り口まで残り数海里といったところで、通信参謀が現場指揮官に任命されたラクスタル艦長に報告を伝える。
「機動部隊が……?」
「はい。潜水艦の攻撃かと思われます」
その言葉を聞いて、ラクスタルは戦慄した。背後の機動部隊が悪い予感がしていた例の潜水艦に奇襲されたと聞けば、動揺が広がるのは当然のことである。
ラクスタルは副長のユリウスを見て目配せすると、即座に艦橋のテーブルに広げられた海図を見た。
「機動部隊は我々から220海里南に位置していたはずだ。フォーク海峡から見て真南だな」
「情報によると、潜水艦はこちらの航空母艦を全て的確に無力化したようです」
「だとすると
「何故です?」
「それほど大量の潜水艦を配置したのなら、こちらに来るのは遅れるはずだ」
ラクスタルの推測には楽観視が含まれているように感じた。その言葉の真意を捉え、ユリウスは歴戦の上官相手でも臆することなくこう言った。
「艦長、それは無謀です。敵の潜水艦がまだどれだけいるか分かりません。ここは一旦引いて、後続の東征艦隊と合流すべきです」
珍しくユリウスが明確な反論を行うが、ラクスタルはそれを不愉快には思わない。むしろ当然のことだと信頼していた。
「本艦が離脱すれば、ミリシアルの艦隊含めた有力な戦隊が海峡を脱出してしまう。それでは当初の海峡に封じ込めると言う作戦が破綻する」
「しかし、海峡で逆に待ち構えられている可能性がある以上、その作戦も破綻しかけています」
「ならば本艦を盾とし、東征艦隊の到着まで粘る」
「そ、それでは!本艦が囮になったかのようではありませんか!」
「本艦だからだ!」
ラクスタルは珍しく怒気を含ませてそう言った。見たこともない上官の強い言葉に、ユリウスはたじろぐ。
「最大の艦砲を有し、それ故に最大の防御力を持つに至った本艦以外、この困難を乗り切れる船は存在しない」
「…………」
「全速で海峡に入ってしまえばいい。そうすれば、潜水艦といえど簡単には攻撃出来まい」
ラクスタルとしても無謀な賭けをするつもりはなかった。あくまで勝算のある戦いをしようと尽くしただけであった。
しかも、こちらには最新鋭のソナーを備えた駆逐艦を4隻も随伴させている。そう簡単には潜水艦にやられるようなことはないと考えていた。
「……艦長がそうおっしゃるのでしたら、私もお供します」
「ああ、すまないね」
そこまで言われ、ようやくユリウスも納得したのか、彼は艦長に付き従う決断をした。
「シエリア殿、申し訳ないが海峡に入るまで
「わ、分かりました……」
艦長からの推奨を受け、艦橋で一連の様子を見守っているだけだった外交官のシエリアは、静かに頷いて艦橋を去って行った。
恐怖で震えそうな足でもたついて歩く彼女を、若い担当士官が支えながら案内していく。
そんな最中にも、〈グレード・アトラスター〉は速力をさらに上げて海峡へ突入しようとしていた。
「間も無くフォーク海峡に突入します!」
「わかった。レーダーの敵影は?」
「依然として進路変わりません。巡洋艦と思しき艦艇6隻は速力を上げています」
「わかった」
ラクスタルはそれだけ聞くと、艦長の帽子を深く被り直して、自分に気合を入れた。そして、戦闘の開始を告げる合図を送る。
「総員、対水上戦闘用意」
「了解です。総員、対水上戦闘用意!!」
彼の号令を受け、戦艦〈グレード・アトラスター〉にとっては最大の名誉となる対水上戦闘が開始された。
艦長はさらに細かく指示をする。
「本艦は射程に入り次第、海峡入り口で艦を横に向ける。駆逐艦は本艦右舷に展開、敵潜水艦の接近を警戒せよ」
その間にも、船の巨大なシステムが敵に向けて動き出す。
艦橋の上部に左右に突き出たレーダーと測距儀が、ゆっくりと敵に向けて回転。その電磁波と観測データを艦橋を経由して各砲門に伝える。
『目標補足。射撃レーダー照射開始』
『全砲門、照準合わせ』
『目標ロックした!自動追尾開始!』
測距儀と射撃レーダーを組み合わせた、グレード・アトラスター級が備える帝国最新鋭の射撃管制システム。
その真価が今、久方ぶりに発揮されようとしていた。
ラクスタルは深く被った帽子を直し、砲戦の開始を宣言した。
「撃ち方始め!」
「オープン・ファイエル!!」
その途端、短い非常ベルの音と共に爆裂が轟いた。その大爆発は海を裂くかの如く咲き乱れ、破壊の46cm砲弾を目標へ向けて飛翔させた。
ここに、フォーク海峡海戦の第二幕が幕を開けた。