海の恐怖!グラ・バルカス帝国海軍vs原子力潜水艦   作:通常弾頭

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第五話

原子力潜水艦〈そうりゅう〉

 

「こちらソナー。目標S1を再捕捉。方位330」

「ようやく追いついた」

 

 原子力潜水艦〈そうりゅう〉の艦内にて、ソナーマンの報告に恒星は頷いた。

 現在〈そうりゅう〉は38ノットの前進一杯で水中を航行している。しかも水圧の低い浅瀬の海域を進んでおり、フォーク海峡へ突入しようとする目標の大和型戦艦に、ようやく追いついた形となる。

 艦内には俄かに緊張が走る。分かっていたことだが、副長が恒星の方を見てこう言った。

 

「艦長、本艦の魚雷はあと2本しか残っていませんが……」

 

 それを聞き、恒星は少し考えるフリをしたのちにこう言った。

 

「……副長、戦艦大和の資料はあるか?」

「は?」

「少ない本数の魚雷でも確実に撃沈を狙える箇所を探したい。あるか?」

 

 恒星は副長に問いかける。その意図を察した副長は、即座にこう返した。

 

「知ってそうな奴ならいます」

 

 そう言って副長は、魚雷発射管室に電話を繋ぎ、ある一人の男を呼んだ。

 艦長はその様子を見ながらほくそ笑む。

 …………それから、しばらく経った。

 

「水雷員の太田です」

「うむ」

 

 水雷員の一人、少し小太りで眼鏡をかけた若い男が発令所に駆けつけてきた。副長は彼に対し、期待を込めてこう問いかける。

 

「太田。確かお前、模型マニアだったよな?」

「ええ。旧軍の艦船をある程度識別できるくらいには……」

「内部構造については?」

「日米双方の様々な資料を読み漁ったので、素人よりは確実に知っています」

 

 その言葉に、恒星と副長は満足そうに顔を見合わせた。

 とりあえず彼の知っていることを洗いざらい話してもらうこととして、発令所の海図モニターの上に真っ白なコピー用紙を広げ、そこに簡単な大和図を書いてもらった。

 

「戦艦大和の弱点としてまず有名なのが、副砲の防御力です。大和の副砲は巡洋艦の主砲を流用したものなので、ここが貫通されて弾薬庫に侵入されると致命的な結果を招きます」

 

 太田が言う言葉を聞き、恒星が顎に手を添えながら首を横に振った。

 

「サブハープーンを搭載していたら、狙えたかもしれんな」

「しかし今の本艦には、潜水艦発射型対艦ミサイルは一発も搭載されていませんからね……太田、水雷防御の弱点は?」

 

 副長が魚雷でも狙えそうな箇所を太田に問いかける。

 

「水雷関係ですと、大和は船体をリベット打ちで止めているので、魚雷の直撃によって被害が拡大しやすいと言われています」

「なるほどな。しかし……」

「ええ。流石にあの戦艦まで同じリベット打ちとは断定できませんし、何より大和には直撃しても自動でバラストを調整する機能がありますからそう簡単には沈みません」

「確かに。同型艦の武蔵は戦艦の耐久性でギネス記録を持ってるからな」

 

 恒星は武蔵が魚雷20本と爆弾17発を受けてようやく沈んだ記録を思い出し、そう言う。

 弱点らしき弱点が見当たらないのを受け、いよいよどうするべきか考えていた二人に対し、太田はこう続けた。

 

「こうなれば、持ってる魚雷を全て片舷にぶつける必要があります。確実な破壊を狙うなら、狙うべきはここ──」

 

 太田が指したのは、艦前方の主砲塔の間だった。

 

「主砲一番二番の弾薬庫。ここを爆破できれば、どんな船でも爆沈します」

 

 太田はそう断言した。

 しかし、副長は現在の状況でその爆破を狙うのは困難だと思ったのか、険しい表情で補足する。

 

「艦長。先ほども言いましたが、残っている89式長魚雷はわずか2本です」

「たった2本で弾薬庫誘爆まで狙えそうか?」

「誘爆まで行かなくても、弾薬庫が浸水すれば無力化はできるかもしれません。しかし、たった2本じゃ困難を極めるでしょう」

「……よし、じゃあこうしよう」

 

 埒が開かないので、恒星は両手を叩いてこう言う。

 

「まず、一番二番主砲の間を狙って魚雷を一発当てる。これは船底ギリギリで爆破させ、巨大な破口部を作るんだ。そして──」

 

 恒星は大和の船体に丸を描く。

 そして開いた大穴を表す丸い線に対し、突っ込ませるようにもう1本の魚雷を置いた。

 

「その穴に向かって、二発目の魚雷を的確に突っ込ませる」

 

 恒星が言う作戦を聞き、副長は異議を唱えた。なぜならかなり無茶な作戦に思えたからだ。

 

「む、無理ですよ……目を瞑って針の穴に糸を通すような至難の業です」

「ワイヤーを繋いだままなら手動で誘導できますが、それでも難易度が高いでしょう。水中じゃ、一体どこに破口があるのか分かりやしない……」

 

 太田と副長は共に、この作戦が無茶だと言ってきた。確かに2本の魚雷を的確に誘導し、全く同じ箇所に命中させるのは至難の業だ。

 

「……昔話をしよう。俺はかつて水雷長だった」

 

 だが、恒星はそんな不可能にも臆することなく、徐にこうはなしを始めた。

 

「リムパックで米軍の潜水艦と演習をしたことがあってな。当時はまだディーゼルの油臭い船で、性能は今ほど高くはない」

「…………」

「案の定、相手が先に魚雷を撃ってきた。魚雷は回避したが、発射地点は割り出せても、相手の位置はまだ掴めていなかった。だが俺はその時、艦長の指示を受け、闇雲に魚雷を撃った」

「……どうなったんですか?」

「ワイヤーで繋がれた先に米原潜がいたよ。当時最新鋭のオハイオ級……俺は、勘を頼りに何も聞こえない中で撃沈判定を下した」

 

 恒星はそんな昔話を終えると、即座に水雷長に対して命令を下した。

 

「水雷長、魚雷の権限を俺に貸してくれ。俺が手動で誘導する」

「なっ……」

「えっ……!?」

 

 その言葉に、発令所の面々は全員驚いた。

 確かに、艦長は水雷長に魚雷の権限を"貸している"と言う立場であるため、それを戻すことは権限上可能だ。

 だが、いくらこれ以上指示を出す必要もないとはいえ、艦長自らが誘導するなんて聞いたことない。

 

「艦長がやるんですか……?」

「そうだ。俺の腕を信じろ」

 

 そう言って恒星は、水雷長に変わってその席についた。指をパキパキと鳴らすと、魚雷を手動操作するスティックを右手に持ち、十字ボタンに触れる。

 そしてソナーマンのヘッドホンを手に取り、耳を澄ましてその時を待った。

 


 

戦艦〈グレード・アトラスター〉

 

 それとほぼ同時刻、戦艦〈グレード・アトラスター〉は間も無くフォーク海峡に侵入しようとしていた。

 その前段階の時点で、すでにミリシアルの巡洋艦3隻を一方的に撃沈。さらに4隻目を今まさに撃沈しようとしていた。

 

『見張りより艦橋。敵巡洋艦の爆沈を確認!』

「ふむ……」

 

 艦長のラクスタルは静かに頷く。ラクスタルはそんな戦果報告よりも、時計と照らし合わせて後どれくらいで海峡に突入出来るかを気にしていた。

 

「海峡まで、あと3分です」

 

 それを察した副長のユリウスがそう言った。

 

「分かった……艦橋より見張りへ、残りの巡洋艦はどうしてる?」

『こちら見張り。ミリシアル巡洋艦は全て撃沈、および大破。一部は座礁しています』

「了解した……突入前に決めるか」

 

 ラクスタルはそう言うと、射撃指揮所に目標の切り替えを指示する。

 

「射撃指揮所、次はニホンの巡洋艦を狙え」

『了解です。目標切り替えます』

 

 その指示を受け、〈グレード・アトラスター〉は前方に搭載された二基六門の主砲を、脱出しようと迫り来る日本の巡洋艦に向けた。

 あの場にいる艦船の中で唯一、日本の巡洋艦だけは機関砲しか搭載しておらず、対艦能力がかなり低いと見積もられていた。

 代わりに対空能力がかなり高く、あの船だけに10機以上が撃墜されている。ラクスタルはコーストガード用の防空巡洋艦なのではと予測していた。

 日本は原子力潜水艦を保有していると言うカイザルからの説明を受けたが、水上艦艇がああでは潜水艦に頼り切ったドクトリンを有しているのかもしれない。

 そう思うと、ラクスタルは少しあの巡洋艦が哀れに思えたが、容赦はしなかった。

 

『目標に照準』

「よし。砲撃を再開し──」

 

 その時だった。

 艦橋に艦隊からの通信が入る。

 

『こちら駆逐艦"クヤム"、魚雷発射音を探知!』

「なにっ……」

 

 新型のソナーを装備していた駆逐艦からの報告に、艦橋が一気に凍りつく。

 

「方位は!?」

『方位190、距離3000、雷数不明……ですか、これは命中コースです!』

「総員、衝撃に備え!」

 

 ラクスタルが指示を下した直後、船が大きく揺れる衝撃と共に魚雷が爆発した。

 大きな水柱と共に、右舷が大きく捲れ上がる。それは磁気信管により船底で爆破され、膨大な水が破壊の衝撃波となり、〈グレード・アトラスター〉を大きく揺さぶる。

 あまりの衝撃の大きさに、一番高い位置にある艦橋では多くのものが倒れ、艦長のラクスタルも壁に頭をぶつけてしまった。

 

「ぐっ……損害報告!」

 

 ラクスタルは頭から血を流しながらも、なんとか意識を保って訴えた。

 即座に各所から艦内電話により報告が相次ぐ。

 

『こちら機関室、異常なし!』

『左舷ブロック、全て異常なし!』

『こちら射撃管制室!右舷側に巨大な破口を確認!二番主砲の弾薬庫付近で大規模な浸水が発生しています!』

 

 射撃管制室からの報告を受け、艦橋は再び凍りついた。そこはグレード・アトラスターの動脈、つまり弾薬庫の近くだからだ。

 

「弾薬庫はどうだ!?」

『こちら二番主砲弾薬庫、こちらは問題ありません。火災、浸水共に確認できず』

 

 急いでユリウスが弾薬庫の乗組員に状況を聞き出すが、問題ないとの返答があった。

 一撃で〈グレード・アトラスター〉の右舷を突き破るほど、かなり高威力の魚雷を食ったようだが、流石の防御力で一撃爆沈は耐え凌いだようだった。

 

「浸水により、速力は18ノットまで下げなければなりません。戦闘は継続可能ですが、海峡への突入は困難かと」

「なんて威力の魚雷だ……我が"グレード・アトラスター"の能力を一撃でここまで削ぐとは……」

 

 艦の乗組員達が口々に報告する中、頭を痛めたラクスタルはユリウスの肩を借りながら、ハンカチで出血部分を抑えつつ状況を問いかける。

 

「敵は潜水艦か……位置は、掴めたか?」

「現在、駆逐艦が全力で捜索中です」

 

 ラクスタルは頭を抑えながら頷いた。

 油断していた。敵潜水艦がまだ潜んでいる可能性を考えてはいたが、本艦なら何発か耐えられると予測していた。

 しかし、たった一発の魚雷が命中しただけで、〈グレード・アトラスター〉は戦闘能力を半分以上損失。撤退を視野に入れなければならなくなってしまった。

 

「念のためだ。敵潜水艦を排除するまで、本艦は退避しよう……」

「了解です。進路変更!方位、110──」

『ソナーより艦橋!本艦に再び魚雷接近!!』

 

 的確な指示を下したラクスタルは、その直後に今一番聞きたくない言葉を聞いてしまった。艦橋は、一気に凍りついた。

 


 

戦艦〈グレード・アトラスター〉 射撃管制室

 

 戦艦〈グレード・アトラスター〉の射撃管制室は、二番主砲の弾薬庫付近にあった。

 熟練砲術士のフラグストンは、その時弾薬庫に異常がない事の確認を終えて次の指示を待っていた。

 それはすなわち、このまま砲撃を続けるかそれとも撤退するかだ。

 席に座って測距儀を見ている砲術士達には、不安の表情が隠せない。すぐ側の区画は魚雷により破壊され、浸水していると聞く。

 

──ガゴン……!

 

 そんな不安を煽るように、何か不審な物音が聞こえたのはその時だった。

 

「ンッ……?」

「な、なんでしょうか……?」

「待て、俺が見て来る」

 

 そんな不審な物音がして、砲術士の何人かは冷や汗をかく。しかし、砲術士達の中で最も階級の高いフラグストンが場を収め、様子を見に行くことにした。

 フラグストンが様子を見ようと、射撃管制室の扉を開けて外に出た瞬間、彼は戦慄した。

 

 弾薬庫と壁一枚で隔たれた廊下に、魚雷が突き刺さっていたからだ。

 

 彼はその瞬間、青ざめてこう叫んだ。

 

「総員!退避──」

 

 その瞬間、遅発信管でセットされていた89式長魚雷が爆発。

 その爆炎は射撃管制室の面々を即死に至らしめ、その破壊力はそのまま弾薬庫に通じて、炸裂した。

 この時、二番主砲の弾薬庫は200発以上の砲弾とそれに付随する装薬を搭載していた。

 それらが一発の魚雷の侵入により、大爆発を起こして船を引き裂いた。

 その威力は戦艦〈グレード・アトラスター〉を数十回は破壊するほどの火薬量であり、弾薬庫爆発というものは、戦艦を一撃で死に至らしめる即死の一撃であった。

 大爆発を起こした戦艦〈グレード・アトラスター〉は、全体が真っ二つになり、そのままひしゃげるようにして転覆した。

 これは、爆発から僅か20分以内の出来事であった。

 

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