海の恐怖!グラ・バルカス帝国海軍vs原子力潜水艦 作:通常弾頭
楽曲コードは探しても無かったのでこのまま投稿し、もし違反などがあれば修正します。
ミリシアル地方艦隊
「敵戦艦、爆沈!!」
大損害を負って、半端敗走していたミリシアル地方艦隊は、その大爆発を見て激しく困惑していた。
艦隊司令のパテスは、双眼鏡でその爆沈の様子を眺めながら、傍で船の指揮を取る魔導巡洋艦〈ゲイシャルク〉の艦長のニウムに声をかける。
「何が起こった……?」
「さ、さぁ?あちらの事故か何かでしょうか……皆目見当もつきません……」
「こちらの戦力はほぼ壊滅してるからな。我々ではないのは確かだ。しかし誰が……?」
カルトアルパスに存在していたミリシアルの水上、航空戦力に関してはほぼ壊滅しているのは確かだ。
水上では巡洋艦8隻が旗艦〈ゲイシャルク〉の座礁を除いてほぼ全て撃沈および大破。
航空戦では頼みの綱だったエルペシオ3が次々と撃墜されて壊滅。
他の国の船もほとんどが撃沈および大破しており、こちら側の戦力はないに等しい状態であったはずだ。
なら、あの爆発は誰が起こしたものなのだろうか。
そんな風に考えていた時、通信参謀が魔導通信の受話器を抱えてやってきた。
「司令。ニホンの巡洋艦より通信です」
「なんだ?」
「なんでも、敵艦の救助にあたりたいとの事……」
その言葉を聞いて、パテスは彼の持っている受話器をひったくった。
「こちら、ミリシアル地方艦隊司令のパテスだ」
『瀬戸です。パテス司令、そちらに残った船は?』
声の主は、日本の巡洋艦の艦長であった。彼はこちら側に残った戦力について問いかけている。
「……配下の巡洋艦はほぼ壊滅してしまったが、幸いにも我が"ゲイシャルク"は緊急で座礁させただけだ。後退させれば復帰はできる」
『分かりました。では本船は敵戦艦の沈没地点に向かいます』
「待て、セト艦長。貴方は何をするつもりか?」
パテスの問いかけに、瀬戸は少し言いづらそうにこう言った。
『あー、パテス司令、私は艦長じゃない……"船長"です。そこは、間違えないでいいただきたい』
「…………?」
『単刀直入に言いますと、戦闘終了を見計らい、敵艦の救助を行います』
瀬戸の言葉に、パテスは正気を疑った。彼の拳が国民や部下、そして仲間たちを失った悲しみに震える。
「……セト船長、貴方は敵を救助なさるつもりか?」
『私は日本国海上保安庁の一員として、それに当たるものと思っております』
「奴らは我々の仲間を散々蹴散らしたのだぞ!市街地も爆撃した!!そんな彼らを助けて何になる!?」
パテスは彼に対して怒りを込めてそう言った。
この世界の常識で言えば、敵を救助するなど言語道断。救助しても恩を返されるわけではあるまい。こちらが損をするだけ。
その上向かってきた敵を救助するというのは、なにより現場の軍人や国民たちが許さない。それが常識の世界だ。
しかし、瀬戸はこう言う。
『……パテス司令、実は私達は軍事組織ではなく、海の警察のようなものです』
「は?」
『ならば人命救助というのも警察の役目。あなた方が手伝わないというのなら、我々だけでやります』
「おい、待て」
『──それでは』
瀬戸は通信をガチャリと切った。しばらくの沈黙の後、パテスが悪態をつく。
「ああ、くそっ!」
頭を掻きむしった後、パテスは即座に命令を下した。
「艦長!後退一杯!暗礁を抜け出してあの馬鹿の援護に回るぞ!」
「はっ!!」
同時刻 東征艦隊
戦艦〈グレード・アトラスター〉の爆沈の様子は、後方にいる東征艦隊からも見ることができた。
そうであるが故に、その様子を見た者たちには確かな動揺が広がっていた。
「〈グレード・アトラスター〉が……!」
「そんな……」
「…………」
旗艦〈ベテルギウス〉の艦橋では、艦隊の参謀たちがその大爆発を見て唖然としていた。
艦隊司令官のアルカイドも、表には出さなかったが険しい顔をしている。
その時、艦橋上の見張り台で状況報告をまとめて来た士官が入ってきて、彼らにこう伝える。
「グレード・アトラスター、弾薬庫に誘爆した模様……あれでは生存者が居るかどうか絶望的です」
「何が起きた?」
「分かりません……しかし、一度被雷したという報告はありました」
その言葉に、艦橋にさらなる動揺が走る。
まずこの世界に魚雷が存在するのかと言う疑問もあったが、それ以上に〈グレード・アトラスター〉が魚雷数発で轟沈したことの方が問題だ。
「まぐれの魚雷が急所に当たったのでしょうか……?」
「あり得ない!GA級は水雷防御だって完璧なはずだ!!」
「しかし、現に船は爆沈しています……」
環境に様々な憶測が流れる中、アルカイド司令は場を制するべく手を差し出す。そして、彼らにこう伝える。
「諸君、今は原因究明をしている場合じゃなかろう。我々が取るべき選択肢は、グレード・アトラスターの代わりに突入して挽回するか、撤退するかのどちらかだ」
「っ…………」
「幸いにも、敵の有力な戦力はほとんどが巡洋艦。に対し、我々にはまだオリオン級が2隻いる。選択肢は一つだ」
アルカイドはそう言うと、通信機を手に取り艦隊の全艦に対して新たな指示を伝える。
「全艦、両舷増速!速力33ノットにて海峡に突入する!」
「了解です!機関、全速!」
その途端、旗艦〈ベテルギウス〉を含めた数多くの艦艇が速力を上げた。
巡洋艦を先頭に、戦艦二隻が単縦陣。そしてその左右に駆逐艦一列に連なる。その美しい陣形のまま、彼らは〈グレード・アトラスター〉の仇を討とうとしていた。
そんな最中、通信参謀がアルカイド司令に新たな報告を持ってきた。
「アルカイド司令!」
「なんだ?」
「"グレード・アトラスター"に随伴していた駆逐艦からです」
「なに?繋いでくれ」
その言葉を聞き、アルカイドは通信参謀から受話器を受け取った。電話の向こうにいたのは、随伴駆逐艦の艦長だった。
「こちら艦隊司令アルカイドだ。どうした?」
『こちらは駆逐艦"クヤム"の艦長です!敵の潜水艦を警戒して捜索を開始したところ、海峡入り口付近の海底からこのような音が聞こえて来ました!そちらに繋ぎます!』
その艦長が指示を下すと、駆逐艦のソナーが捉えた音源が艦橋に聞こえてきた。その途端、彼らは身震いした。
……夜風をついてこんな遅く馬を走らすのは誰か?
それは子を抱えた父親だ。
不気味な音色のピアノの音。
それらは連なる楽譜の音色になり、音楽となる。
──シューベルトD328 【魔王】
まるで夜の闇の中を駆け抜ける馬を連想するその音楽は、不気味な音色と力強いピアノの音と合わせ、不吉な予感を漂わせた。
「な、なんだこれは?」
「音楽……?」
艦橋の面々は、海底からなぜか不気味な音楽が聞こえてくると言う不思議な状況に首を傾げ、困惑した。
息子よ、なぜそんなにおびえて顔を隠すんだい
お父さん、魔王が見えないの、冠かぶり、すそを垂らした魔王が?
その時、困惑する参謀達をよそにアルカイドが激しく問いかけた。
「座標は!?」
『こちらから見て方位190、距離6600、深度は350!音楽が鳴るまで気づきませんでした……相手は恐ろしく静かです……!』
ねえ、かわいいぼうや、おいで、わしと一緒に行こうよ!とても素敵な遊びを一緒にやろう?
「音楽が鳴っていると言うことは、敵は潜水艦では!?」
「いや、その深度まで潜れる潜水艦などあり得ない!」
「そもそも水中でコンサートを開く馬鹿が何処にいるんだ!?」
「海魔か、沈没船では……?」
「しかしもし、これが本当に潜水艦だったとしたら……!」
まだ音楽は鳴り続けている。
その間、参謀たちは相手が潜水艦なのではと疑い始めた。だが、グラ・バルカスの常識では200m以上深く潜れる潜水艦など常識外れであった。
そのため、この音楽が何かの海魔ではないかと疑う声もあった。だがアルカイドだけは確信を持って冷や汗をかいた。
お父さん、お父さん、ねえ聞こえないの、魔王がぼくにこっそり約束しているのが?
アルカイドは汗を拭い、水雷参謀に排除を求めて問いかける。
「水雷参謀、こちらの攻撃手段は?」
「排除は困難を極めます……駆逐艦には爆雷も対潜迫撃砲も装備されていますが、その深度には届くはずも──」
その時だった。
音源からなにか空気が抜ける音がして、気泡の音がした。その途端、艦橋全体が凍りついた。
『ソナーより報告です!目標が魚雷を発射した模様!』
最悪の報告が艦橋にこだました。
場が凍りつく。まるで迫る魔王に身震いするように。