海の恐怖!グラ・バルカス帝国海軍vs原子力潜水艦   作:通常弾頭

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第七話

東征艦隊 旗艦〈ベテルギウス〉

 

『魚雷音聴知!雷数6!艦隊へ向け放射状に展開!』

 

 その言葉により艦橋が凍りつく。

 狼狽える声は参謀たちから上がった。

 

「馬鹿な……あれは本当に潜水艦だったのか……!?」

「司令!!」

「全艦、取舵40度!回避運動!」

「取り舵!ポート!!」

 

 アルカイド司令の言葉を受け、艦隊は魚雷に対して垂直に姿勢を保つように転舵する。

 駆逐艦たちは回避運動のため陣形を崩し、巡洋艦は戦列を離れた。

 魚雷の進路から推察すれば、このまま回避は成功するかに思われた。

 しかし──

 

『ぎょ、魚雷が一斉回頭!全弾〈ベテルギウス〉に向かっています!』

 

 魚雷が突如として一斉に回頭。

 そのまま旗艦〈ベテルギウス〉に向かって一直線に向かっていく。狼狽える参謀が司令官に必死に問いかけた。

 

「司令!」

「回避に専念しろ」

「しかし!」

 

 アルカイドは参謀や艦長に回避に専念するように伝える。

 その間も艦長のバータンの操艦により、艦が大きく揺れる。その中でも、アルカイド司令はテーブルにしっかり掴まっていた。

 しかし、旗艦〈ベテルギウス〉は急に進路を変えた魚雷から逃れられなかった。

 

『回避できません!』

「ああ、くそっ」

「総員、衝撃に備えっ!!」

 

 艦長のバータンが被弾に備えて衝撃姿勢を取るように叫んだ。

 まるで魔王による死を待つかのような、一瞬の静寂。その間もあの音楽は鳴り続けている。

 しかし、一向に衝撃は来ない。見張りの誰かが艦橋に状況を伝えた。

 

『て、敵魚雷、本艦の真下を通過しました……』

 

 その言葉を聞き、艦橋の面々はゆっくりと立ち上がった。ある一人の参謀が不審に問いかける。

 

「不発か……?」

「いえ、本艦の喫水を読み違えたのでしょう」

「今がチャンスです!魚雷発射地点に向かって爆雷を──」

「馬鹿者!深度300にどうやって攻撃を届かせるんだ!」

「それは……」

 

 参謀たちが言い争う。確かに攻撃しようにも、新型の爆雷や迫撃砲はその深度までは届かない。こちらには攻撃手段がないに等しかった。

 そんな状況を鑑みて、アルカイド司令は目を瞑ったまま、ゆっくりと口を開いた。

 

「……全艦、反転用意」

「司令……?」

「撤退だ。このまま水道に突入するのは自殺行為に等しい……敵はそれを警告するために、わざと音楽を鳴らして魚雷を外したんだ」

 

 アルカイド司令の言葉を受け、参謀たちは黙ってしまう。そんな中、血気盛んな一部の参謀たちがその決断に反論した。

 

「我が艦隊が、たかが潜水艦一隻の脅しに屈するのですか……!?」

「そうなるな。だが相手の潜水艦はこちらの予想を遥かに超える性能をしている。こちらは相手まで届く攻撃手段を持ち合わせていない。つまり、勝てない……」

 

 アルカイドは悔しそうに歯軋りをしながらそう言った。

 残念ながらそれは現実だった。こちらに攻撃手段はない、近づけば先の〈グレード・アトラスター〉の二の舞。つまり相手に近づくことは出来ない。

 だからこそ、これ以上の犠牲を払うことなく作戦を終える必要があった。

 

「全艦、反転180度!現時刻をもってして本作戦を中止。撤退する!」

「……了解しました。全艦、反転!」

 


 

原子力潜水艦〈そうりゅう〉

 

「こちらソナー。敵艦隊、反転していきます!」

 

 原子力潜水艦〈そうりゅう〉の艦内では、その言葉を聞いて喜びの声が広がった。

 艦長の恒星は帽子を取ってその髪を撫で、安堵を露わにした。

 

「どうやら効いたみたいだな」

「ええ。しかし、デコイをブラフで撃ち込んで撤退させるとは……」

 

 副長が一息つきながら、艦長と同じく安堵の感想を述べた。彼らにとって、敵が撤退してくれるかどうかは賭けに等しかったからだ。

 

「あと、艦長がシューベルトの"魔王"を大音量で流すとおっしゃった時、肝が冷えましたよ」

「こちらの存在を明かす必要があったからな。こちらは性能が高すぎて抑止力にならない……警告するには実体が必要なんだ」

 

 そう言う恒星艦長は、また帽子を深く被り直して艦首の方を向いた。

 

「これにて本艦は任務を終了する。5ノットで微速前進。潜航し、進路を南に」

「了解。進路、180!」

 

 その命令と共に、原子力潜水艦〈そうりゅう〉は深く潜っていく。その様子は、水上からもかろうじて捉えることができた。

 


 

東征艦隊 旗艦〈ベテルギウス〉

 

『敵潜水艦、微速前進。さらに潜って行きます……深度、350』

「まだ潜れるのか……?」

 

 参謀の一人が呆れるようにそう言った。

 その間にも潜水艦は深く、深く潜っていく。

 

『深度400……500……ロストしました。探知不能です』

 

 敵潜水艦が探知範囲外に出たことの報告を受け、アルカイド司令は深くため息を吐いた。見かねた参謀が声をかける。

 

「司令……」

「……帝王府にはなんと報告しようか」

「ここにいる全員が証人になります。司令含め、誰一人として"狂って幻覚を見た"なんて言わせませんよ」

「そうか……ありがとう」

 


 

日本国 首都東京 首相官邸

 

「たった今、喜ばしいニュースが入りました」

 

 そう言うのは、今回の対策会議で原子力潜水艦に指示を下した防衛大臣。その顔には安堵の色が隠し切れない。

 

「カルトアルパスへ攻撃を行っていたグラ・バルカス帝国の艦隊は、原子力潜水艦〈そうりゅう〉の働きにより主力艦艇を無力化され、残りも撤退したようです」

 

 その報告に、他の閣僚たちも安堵の声を漏らした。懸念されていた巡視船への攻撃は、なんとか防がれたようであった。

 

「魚雷6本でよくやってくれたな……」

「ええ。まさに神技と言うべきですね」

 

 総理大臣も安堵した様子で椅子に深く腰掛けた。官房長官がその言葉に共感し、原子力潜水艦の艦長を褒め称えた。

 また、防衛大臣に続いて外務大臣が発言する。

 

「えー、たった今入った情報ですが、先進11カ国会議はカルトアルパスから東にある都市のカン・ブラウンにて、再び行われることが決定しました。

なお、現地の警備はミリシアル海軍の3個艦隊からなる108隻の艦隊で哨戒任務中とのことで、そう簡単には手出しできないものかと思われます。衛星からもグラ・バルカスの艦隊は付近に確認されておりませんので、確実です」

 

 とりあえず国際会議の方も引き続き行われると言うことで、大臣達も安心した。安全性も確保されているので、これなら何も心配ないだろう。

 全員の肩の荷が降りたような気分の中、総理大臣が発言した。

 

「少しいいか?思っていたんだが、この世界のほとんどの国々は潜水艦を知らないと言っていたな。だとしたら、いきなり戦艦が撃破されて不審に思ってるんじゃないか?」

「ええ。そうなりますね」

「だとしたら、このことを会議に参加している国々にこの案件を公表するべきか……防衛大臣と外務大臣にこの是非を問いたい」

 

 総理大臣の発言を受け、まず防衛大臣が発言した。

 

「私としては公表すべきだと思います。敵がカルトアルパスを襲撃したのは、プロパガンダの目的も強いでしょう。その作戦を挫いたと公表することができれば、様々な意味で大きなアピールになります」

 

 彼に続いて、外務大臣が発言する。

 

「私も同意見です。彼の国最大の戦艦を潜水艦で撃破したとなれば、大きな揺さぶりを掛けることができる。また、会議に出席している国々には我々の印象を大きくすることができます」

 

 その言葉を受け、総理大臣は小さく頷いた。

 

「決まりだな。では現地の大使に、隙を見て日本の潜水艦に関しての情報をある程度開示するように伝えてくれ。また、実物を見せて欲しいと言われる可能性を考慮し、原子力潜水艦をカン・ブラウンへ」

「分かりました。直ちに伝えます」

 

 こうして総理大臣の命により、現地にいる近藤大使に情報が伝達。

 日本の潜水艦に関して、その存在を明かしてアピールするように伝えられ、それが実行された。

 当初は自分たちでは発想すらない新兵器の概念を受け、多くの国の大使が困惑し、エモール王国に至ってはハッタリだと突っ込まれた。

 そして、この時ミリシアルの議長から潜水艦が存在する証拠を見せてほしいと頼まれたため、近藤大使はそれを了承。

 結果、原子力潜水艦〈そうりゅう〉はその姿をカン・ブラウンの港町に表した。

 なお、これは港町の住民には公表していなかったため、これを目撃した住民が海魔だなんだと恐れてちょっとしたパニックになったのは、また別の話……

 

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