海の恐怖!グラ・バルカス帝国海軍vs原子力潜水艦 作:通常弾頭
第八話
グラ・バルカス帝国 帝都ラグナ 帝王府
低気圧が帝都を覆い尽くし、雨が降り注ぐ帝都ラグナ。帝王グラ・ルークスの住まう帝王府の地下会議室にて、緊急の帝前会議が開催されていた。
会議上では皆暗く、特に軍上層部の面々は苦渋の表情を浮かべていた。
参加しているのは、帝王グラ・ルークスを中心に帝王府長官カーツ、帝王府副長官オルダイカ、政府の大臣や財政関係者もいる。
そして軍からは各方面の海軍司令官、監査軍の面々。その中には、帝国三将の三人も含まれていた。
「……ではこれより、御前会議を開始いたします」
重苦しく、軍本部長のサンド・パスタルが口を開いた。
「まず最初にカルトアルパスへの襲撃についての報告です。マグドラ群島に展開していた神聖ミリシアル帝国の第零式魔導艦隊に対する攻撃は成功しました。しかし、カルトアルパスに対する攻撃に関しては失敗。戦艦"グレード・アトラスター"は爆沈、その他参加艦艇は敗走しています」
「なんだと?」
その言葉を受け、会議室が騒然とした。帝王グラ・ルーカス自身も信じられずにそう言った。
特に、帝国が誇る最も大きな戦艦が撃沈されていることが信じられなかった。あの船は簡単に沈む船ではないと彼も知っていた。
騒然とする会議室を、帝王グラ・ルークスが収めた。そして徐に口を開く。
「何故失敗した?」
重々しい声色で言うので、会議室の面々のほとんどがその言葉で冷や汗をかいた。だがサンドはなんとか声を絞り出して報告する。
「現場指揮官である東征艦隊によりますと、ニホンの潜水艦による妨害を受けたとのことです」
その報告を聞いて、静かだった会議室は一気に騒がしくなった。なぜなら、そのような結果はあり得ないからだ。
「馬鹿な!我が国以外に潜水艦を実用化している国があるはずがないだろう!!」
「ニホンとは東の小国じゃなかったのか!?」
「だかが潜水艦にしてやられるとは!これは監査軍の失態だぞ!!」
「静粛にしろ!皇帝陛下の前だぞ!!」
騒然が喧騒に変わった会議室を、帝王府長官のカーツが怒鳴って収めた。
「皇帝陛下。この案件に関して、海軍の方から発表があります」
会議室が静まり返ったのを見計らい、今度は海軍の席からカイザルが話し出す。
「実は私は情報部経由で、ニホンが有する潜水艦について、ある懸念事項の情報を掴んでいました」
「それはなんだ?」
カイザルが報告を開始したのを受け、グラ・ルークスが注目した。
「……これは存在する可能性が不透明であり、知人と議論していた段階の兵器でしたが、ここまで来ると信ぴょう性は疑いようもありません」
「どうしたカイザル。勿体ぶらずに話せ」
西部方面艦隊の司令官がカイザルにそう催促すると、カイザルは意を決し、右手の指をパチンと弾いた。
すると控えていた情報部のバミダルらが現れ、出席した人々にある資料を配った。それは、あの軍事雑誌の写しであった。
「資料にある潜水艦のスペックをご覧ください。それは、ニホンの海軍にて実戦配備されている原子炉を動力とした潜水艦……原子力潜水艦の概要です」
「な、なんだこれは……!?」
彼らが見たのは、かつてカイザルがミレケネス達に見せた原子力潜水艦と同じスペックだった。
だが、彼らは初見である。当然その存在を信じられるものは少なかった。
「信じられん!原子力で動く潜水艦など!」
「このような潜水艦に、"グレード・アトラスター"と東征艦隊はやられたと!?」
「失態の隠蔽ではないのですか!?」
「静粛にしろ!!」
またも会議室が騒然とするので、カーツが場を収めた。
それを見計らい、信ぴょう性を訴えるべく、今度はバミダルが口を出す。
「彼の国ではすでに民間でも原子力発電が実用化されており、潜水艦に対しても搭載していておかしくはありません。また、これらの性能に関しても原子炉の搭載が可能であれば達成できる数値です」
「な、なんと……」
「実際にこのような潜水艦が存在するのか……?」
「はい。それと、潜水可能深度については詳細が明らかになっていませんでしたが、今回派遣された東征艦隊からの報告で600以上は潜れる事が明らかになっています」
「…………」
「今回"グレード・アトラスター"が沈められたのも、この原子力潜水艦による妨害だったと我々は確信しています」
バミダルの言葉に、皆愕然とした。
それが本当ならば、グラ・バルカスは潜水艦の技術で日本のような小国に大きく劣っていることになる。
そしてその潜水艦は、グラ・バルカス自慢の戦艦を沈めるほどの性能を秘めている。今回は局所的な戦闘であったが、もしも、そんな潜水艦が本気で攻めてきたら……
ここまで高性能な潜水艦となると、シーレーンはズタズタにされ、本土から植民地間までの輸送艦はまともに航行できないかもしれない。
そうなれば、本土の食糧やその他資源ですら賄えなくなる可能性があった。
皆が最悪の事態を想定して、天を仰いだり諦観の表情を浮かべる中、帝王グラ・ルークスがカイザルの方を見てこう言った。
「カイザル」
「はっ」
「想定外の強敵が我らの前に現れたようだが、どうする?勝てるのか?」
カイザルはその問いかけをされたが、即答は控えた。そして少し言い淀み、こう言う。
「それについては、まだ敵の真の実力が分からない項目が多いのでなんとも言えません。しかし、ニホンの潜水艦部隊はミリシアルの水上艦隊より、確実に強いと言うのは断言できます。場合によっては我が国が負ける可能性もあります」
カイザルは包み隠さず自分の見解を述べ、そう言った。
帝国三将の一人であるカイザルの言葉は、かなり重い。場が完全に静まり返る中、グラ・ルークスは最後にこう言った。
「……抗う術はあるか?」
「我々も無策というわけではありません。すでに船団護衛と対潜哨戒を中心にリソースを注ぐよう、軍産業界には通達済みです。また、これに合わせて新型対潜兵器の導入を急いでいます」
「そうか……」
グラ・ルークスはそれを聞いたが、完全な安心はできず、目を瞑って祖国の無事を静かに祈った。
その後も会議は続き、予想外の事態への対処と、今後の防衛計画の具体的な立案まで行ったが、その間もグラ・ルークスは一抹の不安が拭えなかった。
神聖ミリシアル帝国 帝都ルーンポリス
「潜水艦、だと?」
「はい……こちらの写真の通りです。なんでも、海中に潜水して息を潜めることが出来る艦艇なのだとか」
ミリシアル帝国の帝都、ルーンポリスにて。
世界最強かつ最も発言力の高いこの国を統べる皇帝、ミリシアル8世は、配下の国防大臣シュミールパオからの報告に首を傾げた。
「会議にニホンという国がこれを極秘に派遣しており、それが今回のカルトアルパス襲撃を目論んだ敵艦隊を撃退した、というのが事実のようです」
「それは話に聞いている。だが、海中からどうやって攻撃を?」
「魚雷という、海中を自走する爆弾のようなものを使うようです」
「なるほどな……」
シュミールパオからの説明を受け、ミリシアル8世はようやくどうやって潜水艦が戦艦を撃破したのかを理解した。
水中からの攻撃など、この世界の常識では考えられなかった新しい手段だ。喫水線下からの攻撃は防御しづらく、当たれば一気に浸水が発生する。沈没させるには相当効率がいいのはわかった。
「陛下。これに関して一番脅威なのが、我々にはこの種の艦艇を探知する方法が全くないと言うことです」
その反応を見計らって、今度は国防省長官のアグラが割り込んできた。
「水中で探知されずに接近すれば、港に停泊中の艦船はもちろん、陸上の工場まで狙えるかもしれません。このような特性を活かし、ニホンがいた世界では潜水艦を戦略兵器としても使っていたとか」
「そうだな。それと同種の兵器をグラ・バルカスが持っているとも聞いた。不意な奇襲を受けないためにも、我々も潜水艦対策をしなければなるまいな」
ミリシアル8世はそう言って、遠回しに二人に対して潜水艦対策をするように伝えた。二人は顔を見合わせ、これからまた予算の獲得が難しくなるなと少し頭を抱えた。
彼がそんな報告を受けていると、執務室の扉が開いて皇帝直属の秘書の一人が入ってきた。
「陛下。そろそろ御前会議のお時間です」
「ああ。わかった」
彼女の言葉を受け、ミリシアル8世は杖を持って椅子を立った。彼の後を追うようにシュミールパオとアグラが付いて行く。
そうして、その日行われた御前会議にてミリシアル8世はカルトアルパスへ攻撃を仕掛けてきたグラ・バルカス帝国への懲罰を訴え、各国と共同して脅威に立ち向かうべしと決まった。