『始祖の見る朝日』~ロリ鬼はなぜ、無惨様を太陽の下に連れ出したのか?~ 作:この俗物怪物くん
原作で悲劇の舞台となった那田蜘蛛山が、まさか避暑地として再生するとは誰が予想しただろう。
だが、世界がどう改変されても、「人と鬼の出会い」は形を変えて繰り返される。
――これは、システムの矛盾の中で生まれた、一瞬の“平和な夏”の物語。
下弦の伍・累くんを無事に(?)保護し、朱鷺ちゃんの『息子』として帝都の屋敷に迎え入れました。これで、原作における那田蜘蛛山の悲劇は回避…されたはずでした
しかし! この『鬼滅の刃RPG』、主要な原作イベントの発生場所と時期はある程度固定されているのです! つまり、那田蜘蛛山に累くんがいなくても、ゲームシステム上、鬼殺隊の派遣イベントは強制的に発生します!
え? じゃあ、鬼殺隊は何しに来るのかって? …さあ? システムの都合です。意味なんてありません
そんなある夏の日。 帝都の蒸し暑さに、朱鷺はうんざりしていた。
「(ぱたぱた〜)むぅ…暑いです〜。どこか、涼しいところへ行きたいです〜」
「(隣で本を読みながら)…母上。山奥にでも、避暑に行かれますか」
「(ポン!と手を叩き)それですわ! 累! 貴方が前に住んでいた、あの蜘蛛の巣だらけの山! あそこなら涼しいでしょう!」
「はぁ!? あの山にですか!?」
おっと! 朱鷺ちゃん、何を血迷ったのか、那田蜘蛛山へ避暑に行くと言い出しました! あの不気味な山を、別荘にするつもりのようです!
朱鷺は、すぐさま権力と財力を行使。 那田蜘蛛山一帯の土地を九条家の私有地とし、開発業者(※裏社会の人間含む)を大量に投入。 蜘蛛の巣は焼き払われ、鬱蒼とした木々は整備され、累の住んでいた廃屋は、「ちょっといい感じで住みたくなる、お洒落な山の家」くらいに、綺麗に改修されてしまった。 もはや、かつての陰鬱な雰囲気はどこにもない。明るくて風光明媚な、ただのおしゃれな避暑地である。
「ふふ〜ん♪ やはり、わたくしのセンスは最高ですわね〜」
「(変わり果てた故郷(?)を前に、絶句)」
「(…くだらん)」
そして、最悪なことに、この避暑の時期が、ちょうど原作で炭治郎くんたちが那田蜘蛛山へ派遣される時期と、ぴったり重なってしまったのです!
那田蜘蛛山の麓。 そこには、かつてないほど異様な光景が広がっていた。
鬼殺隊士(数十名)「「「………………」」」
九条家使用人(武装済)「「「………………」」」
山の入り口には、『私有地につき関係者以外立ち入り禁止 九条家』と書かれた、真新しい立て札。 そして、その前を塞ぐように、黒い洋装に身を包み、最新式の連発銃や日本刀で武装した九条家の使用人たちが、ずらりと並んでいる。
彼らの目の前には、刀を抜き放つこともできず、ただただ困惑している鬼殺隊士たち。
「な、なんだここは…!? 鬼の気配はするが、様子がおかしいぞ!」
「し、しかし、ここは九条様の御領地だと…!我々鬼殺隊といえど、土地に無断で立ち入るわけには…!」
「(メガホンで)警告します! こちらは九条家の私有地です! 速やかに退去されなければ、不法侵入とみなし、実力を行使させていただきます!」
これは珍しい! 鬼殺隊 vs 武装した一般人(?)の睨み合いです! 流石に、鬼殺隊も、公儀(表向き)に仕える九条家の人間相手に、斬りかかるわけにはいかないようです。完全にホールドアップ状態ですね! 一見の価値があります!
「くそっ! 山の上には、間違いなく鬼がいるんだ! どうにかして入る方法は…!」
残念! 無理ですね! 山の入り口以外、つまり別の山伝いからの侵入ルートですが… そこには、指示で設置された、高さ5メートルの巨大な鉄条網、深く掘られた堀、そして剃刀のような石垣が、延々と山を取り囲んでいた。
全集中の呼吸を極めた彼らでも、この近代要塞を突破するのは、不可能でしょう。物理的に
その頃、山の頂上付近にある、お洒落に改修された「別荘」の庭では。
「あらあら〜、累〜。お肉が焦げてしまいますわよ〜」
「は、はい、母さん!」
「…(黙々と肉を焼いている)」
朱鷺、猗窩座、累の三人は、白昼堂々、呑気にバーベキュー(※肉はもちろん、朱鷺が『仕事』で調達してきた特別なもの)を楽しんでいた。
おっと、三人がかりで日光の下にいますね。例の『太陽克服(一日限定)薬・改』を飲んでいるようです。副作用は消えましたが、『肥溜めを凝縮したような』不味さは健在! 猗窩座さまと累くん、ものすごく苦い顔で肉を頬張っています! 朱鷺ちゃんだけ、なぜか『美味しいです〜♪』とか言って楽しそうです!
「(…うっ…まずい…! しかし、母上の前で残すわけには…)」
「(…早く、日が暮れんものか…)」
麓で繰り広げられている、鬼殺隊との史上稀に見る睨み合いのことなど、彼らは知る由もない。 ただ、かりそめの家族の、奇妙で歪な、しかし、穏やかな時間が、そこには流れていた。
さて、鬼殺隊はこの鉄壁の要塞をどう攻略するのか、それとも諦めて帰るのか。そして、この呑気なバーベキューはいつまで続くのか。那田蜘蛛山編、どうなることやら…
◇◇
しかし、忘れてはいけません。これは『鬼滅の刃RPG』主要な原作イベントは、多少形を変えてでも、発生してしまうのです!
鬼殺隊の執念、恐るべし! …あるいは、システムの執念と言うべきでしょうか。彼らは、なんと山の下に、人力でトンネルを掘って、強引に山への侵入を果たしたようです!
山の中腹。木々の間から、土まみれになった鬼殺隊士たちが、次々と這い出てくる。 その中には、竈門炭治郎、我妻善逸、嘴平伊之助の姿もあった。彼らは、数日間に及ぶ過酷な土木作業により、もはや戦闘どころではないほど疲れ果てている。
「はぁ…はぁ…! やっと、中に入れた…!」
「もう無理…! 俺、一歩も動けない…! なんで鬼退治に来て、ツルハシ振るわなきゃいけないの!?」
「腹減った…! 鬼はどこだ! 飯だ飯!」
しかし、彼らが山に入って数時間探索しても、鬼の気配はおろか、蜘蛛の巣一つ見当たらない。ただ、不自然なほど整備された、美しい森が広がっているだけだ。
「…おかしい。報告にあった鬼の気配が、全くしないぞ…」
「もしかして、既に移動した後だったのか…?」
業を煮やした指揮官は、ついに撤退を命令。隊士たちは、徒労感に打ちひしがれながら、再びトンネルへと戻っていく。
だが、かまぼこ隊の三人は、その場に残った。
「(クンクン…)いや、いる! 間違いなく、この先に、強い鬼の匂いがする!」
「(耳を澄ませ)うん…! 俺にも聞こえる…! 何か、楽しそうな…水の音…?」
「(肌で風を感じ)ビンビン来るぜ…! こっちだ!」
三人は、疲労も忘れ、それぞれの感覚が示す方向――山の頂上付近へと、駆け出した。
そして、彼らが辿り着いた先で目にした光景は、信じがたいものだった。 そこには、陽光きらめく、清らかな川が流れていた。 そして、その川辺で。
白い髪の可憐な少女(朱鷺)が、 目つきの鋭い、しかし穏やかな表情の青年(猗窩座)が、 そして、小さな少年(累)が、 三人、満面の笑顔で、水遊びに興じていたのだ。
時刻は、真昼間。燦々と太陽が照りつける、炎天下。
「………………は?」
「………………え?」
「………………???」
はい、遭遇しました! 朱鷺ちゃんたち、太陽克服薬(一日限定・激マズ)を飲んで、三人で川遊びを楽しんでいたようです! ちなみに猗窩座さま、めちゃくちゃレアな笑顔を見せています! スクショ案件ですね!
「きゃっきゃっ! 狛犬くん、冷たいですわ〜!」
「…ふん。油断したな、朱鷺」
「母上! 父上! 魚が!」
その、平和で場違いな光景に、かまぼこ隊は完全に思考が停止した。 だが、炭治郎の鼻と、善逸の耳と、伊之助の肌は、明確に告げていた。 目の前の三人は、間違いなく『鬼』である、と。
やがて、川辺の三人も、茂みから現れた炭治郎たちに気づいた。 一瞬、猗窩座の目つきが鋭くなるが、朱鷺がそれを手で制した。
「(にこにこ〜)あらあら〜、どちら様です〜? こんな山の奥まで、どうなさいましたの〜?」
彼女たちは、完璧に『人間のフリ』をしている。敵意はないようだ。
「(警戒しながら)…俺たちは、鬼殺隊だ! あなたたちは…鬼だな!?」
「まあ、失礼な! わたくしたちは、九条家の者ですわ。ここは、わたくしたちの私有地ですのよ? 貴方たちこそ、不法侵入ですわ!」
「ぐっ…!」
「た、確かに…! 思いっきり、人の土地に勝手に入ってる!」
「なんだと!? この山は俺様の縄張りだ!」(←違う)
正論を言われ、三人はあたふたするしかない。 朱鷺は、そんな彼らの様子を見て、くすりと笑った。
「まあ、貴方たち、なんだか子供みたいですわね〜。そんな物騒な刀を向けていないで、少しお話をしませんこと?」
「ほら、刀を、そこに置いて」
有無を言わせぬ、しかし柔らかな響き。三人は、なぜかそれに逆らえず、おとなしく刀を地面に置いた。
「俺たちは、鬼を追ってきたんだ! この山に、鬼がいるという報告を受けて…!」
「まあ、鬼ですって? そんなもの、この辺りでは昔話でしか聞いたことがありませんわ〜(※嘘ではない。累以外は朱鷺が掃除した)」
「…俺たちは、九条家の者だ。主(朱鷺)とその子(累)と共に、避暑に来ているだけだ(※本当)」
「(こくこく)…母上と、父上と、お休みに来ました(※本当)」
「(匂いには、嘘がない…。でも、間違いなく鬼の匂いがする…! どういうことだ…!?)」
「(音もそうだ…。人間と明らかに違う音が混じってる…! なんなんだ、この人たち…!)」
最大の疑問は、彼らが真昼間の炎天下で、平然と川遊びをしていたことだ。鬼なら、絶対にありえない。
混乱する三人を前に、朱鷺は、川で冷やしていた大きなスイカを取り出した。
「まあまあ〜、暑い中大変でしたでしょう〜。スイカでも、いかがです〜?」
彼女は、手刀(!)でスイカを綺麗に切り分けると、炭治郎たちに差し出した。
三人は、戸惑いながらも、そのスイカを受け取り、口にする。
「(もぐもぐ)…う、美味い…!」
「あま〜い…!」
「おかわり!」
スイカ、美味いですよね。これで少しは場の空気も和んだでしょうか。…いや、余計にシュールさが増しただけか…
スイカを食べながら、六人は、奇妙な対話を続ける。 暑いので、全員、川に足をつけながら。
「それで…その『鬼』というのは、一体、どういうものですの〜? わたくし、書物でしか読んだことがなくて〜」
その無垢な(フリをした)質問に、炭治郎は、真摯に答え始めた。 鬼とは何か。なぜ、自分たちが戦うのか。その悲しみと、怒りを。
朱鷺は、その話を、ただ、静かに聞いていた。 その赤い瞳の奥で、何を考えているのかは、誰にも分からない。 ただ、彼女の隣でスイカを食べる猗窩座の横顔が、ほんの少しだけ、悲しげに見えたのを、炭治郎は見逃さなかった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
「那田蜘蛛山」という名を聞けば、誰もが血と涙を想像するはずです。
けれど、この異聞世界では、あの山が“笑顔とスイカの場所”に変わりました。
炭治郎の正義も、朱鷺の偽りも、累の幼さも、全部まとめて“夏の一日”にしたこの章が、皆さまの中にも、少しでも涼しい風を残せたなら幸いです。
さて、この平和はいつまで続くのか。
もしよければ、感想をお聞かせください。