『始祖の見る朝日』~ロリ鬼はなぜ、無惨様を太陽の下に連れ出したのか?~   作:この俗物怪物くん

15 / 23
本章は、那田蜘蛛山を舞台に繰り広げられる、
鬼と人との「もう一つの夜会」を描く。
朱鷺は、母であり、鬼であり、かつての暗殺者。
祈りと血鬼術が交錯するその夜、彼女は初めて“恐怖”という感情を知る。




月下の祈り、血を喰らう剣

別荘から少し離れた、月明かりが差し込む河原。 炭治郎たちは、急いで刀を取りに戻り、朱鷺たち鬼の前に立った。

 

朱鷺は、腕組みをして、余裕たっぷりに微笑んでいる。隣には、朱鷺の指示を待ち、静かに佇む猗窩座と累がいる。

 

善逸は、極度の恐怖により、既に身体が限界を迎えていた。

 

「ひ、ひいいい…! うそだ…うそだろ…! か、かみさま…! お、お母さま…!」

 

彼の顔は蒼白を超えて黄緑色になり、足はガクガクと震え、今にも意識を手放しそうだ。

 

おっと、善逸くん、ガクブルです! ですが、これは彼にとってチャンス! 鬼滅の刃RPGにおける、最凶のバフ、『気絶』状態へと移行します!

 

ビキッ。 善逸の身体から、緊張の糸がプツンと切れる音がした。彼はその場に崩れ落ち、頭が地面に叩きつけられる。 そして、泥を飲んだように静かになったかと思うと、先ほどまでの弱虫とは別人のような、研ぎ澄まされた気迫が、彼の周囲に満ちた。

 

「…あらあら。さっそく一人、寝てしまいましたわね。まあ、良いでしょう」

 

朱鷺は、その様をちらりと見やると、隣の猗窩座に声をかけた。

 

「狛犬くんは下がっていて。ここは私がやるわ」

「…(低い声で)だが、朱鷺。御方の命令だ。あの少年は、俺が仕留めるのが…」

「ダメ」

 

彼女は、微笑んだまま、無言で猗窩座の言葉を遮った。

 

「心配しないで。そろそろ、この『かくあれかし』(人間時代から愛用しているナイフ)、も血に飢えている〜のですよ。それに…」

 

彼女は、細身のナイフの鞘から、黒曜石のような美しい切っ先を少しだけ覗かせた。

 

「可愛らしい『息子』と、大切な『夫』の前で、『母親』が活躍するのは、当然の務めではありませんこと?」

 

 

朱鷺は、炭治郎、伊之助、そして気絶したまま刀を握りしめている善逸に遊びに誘うように問いかけた。

 

「さて、お話も終わり。そろそろゲームの時間ですわ」

「貴方たち、誰から来ますか? …安心なさい? わたくし、一人で戦いますわ。狛犬くんと累くんは、手出し無用」

「…はい、母上」

「…(不満そうに、しかし朱鷺の指示に従い、一歩下がる)」

 

朱鷺は、最高の笑顔で、彼らの生き残る道を示す。

 

「わたくしの首を斬れたら、貴方たちは勝ち。次は狛犬くんを斬って、最後に累くんを斬る。それができたら、貴方たちは助かるよ〜。良かったね!」

「…四人一度に来ても、私は構わないわよ? どうぞ、遠慮なく?」

 

その挑発に、炭治郎の怒りが頂点に達した。隣で牙を剥く伊之助、そして気絶していてもなお殺気だけを放つ善逸。

 

「ぐっ…! 許せない…! 許せないぞ、鬼舞辻の眷属め!」

 

全集中の呼吸・水の呼吸! 獣の呼吸! 雷の呼吸・壱ノ型!

 

三人は、まるで申し合わせたかのように、一斉に、朱鷺目掛けて猛攻撃を仕掛けた!

 

 

朱鷺は、迫りくる三つの刃の嵐を前に、まるで風に揺れる柳のように、涼しい顔で、最小限の動きで避けていく。

 

「おやおや、三人一緒ですか。遠慮がないわね〜」

「…ふふ。わたくしって、元暗殺者だから、真正面からの戦闘は苦手なんですよね」

 

彼女は、炭治郎の刀の切っ先を、手のひら一つ分でかわしながら、囁くように言った。

 

「だから、君たちにも機会は十分にあると思いますよ。…ほら」

 

彼女のナイフ『かくあれかし』が、一瞬、夜の闇に銀色の軌跡を描く。

 

シュッ!

 

「がっ…!」

 

その切っ先は、炭治郎の左腕を、皮膚一枚分だけ、正確に切り裂いた。 痛みは少ないが、彼の動きは、一瞬だけ止まる。朱鷺は、その一瞬の隙を見逃さなかった。

 

その時、箱から飛び出した禰豆子が、鋭い爪を剥き出しにして、朱鷺の背後から飛びかかった!

 

「グアアアアア!!!」

 

朱鷺は、その攻撃を振り返りもせず、背中越しに、素手で禰豆子の腕を掴んだ。

 

「あらあら〜、禰豆子ちゃんも、お兄ちゃんのために頑張るのね。偉いわ〜」

「でも…」

 

朱鷺は、優しく、しかし有無を言わせぬ力で、禰豆子の身体を掴むと、そのまま地面へ叩きつけた! ドゴォン! 激しい衝撃と共に、禰豆子は地中深くへ埋まり、動きを止める。 朱鷺は、その上からさらに体重をかけて、地面を踏みしめた。

 

「これで、邪魔者は居なくなりましたわね。さあ、続けましょうか、炭治郎くん?」

 

禰豆子ちゃん、瞬殺です! これで、竈門兄妹の連携は途絶! 一対三から、炭治郎・伊之助 vs 朱鷺の構図になりました! 善逸くんは寝たまま! …でも、ここからが、雷の呼吸・壱ノ型の真骨頂! 朱鷺ちゃん、油断できませんよ!

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

地面に禰豆子を埋め込み、朱鷺は、改めて三人の少年たちに向き直った。 その表情からは、先ほどの遊びのような雰囲気は消え、冷たい暗殺者の顔が覗いている。

 

おっと、朱鷺ちゃん、何やらブツブツと呟き始めました。これは…彼女のバックグラウンドである、あの隠れキリシタン暗殺教団の『祈り』のようですね

 

「(小さな声で)…汝が御名によって、我は稲妻となり天から墜落するサタンを見る…」

 

彼女は、まるで儀式のように、黒いナイフ『かくあれかし』を構え直す。

 

「…汝こそが我らに、そして汝の足下、ありとあらゆる敵を叩き潰す力を与え給えらんかし…」

 

「(な…なんだ…? 空気が、変わった…!)」

「(ゾクッ…! こいつ、やべえ…!)」

 

「…いかなるものも、我を傷つけること能わず…」

 

祈りが終わると同時に、彼女の気配が、再び完全に消えた。

 

『暗殺術(SSS)』、本領発揮です! 気配遮断に加え、おそらく何らかの自己暗示によるバフがかかっています! これは厄介…!

 

その、絶対的な静寂を破ったのは、黄金の閃光だった。 気絶したままの善逸が、動いたのだ!

 

「雷の呼吸・壱ノ型・霹靂一閃――六連!!」

 

常人では捉えることすら不可能な速度の連撃が、朱鷺を襲う! 朱鷺は、その神速の刃を、最小限の動きで、紙一重でかわしていく。 まるで、未来が見えているかのように。

 

キィン! カン! キィィィン! ナイフと刀が、火花を散らす。

 

「(…速いです〜。でも、見えます〜)」

 

しかし、六連撃目。 僅かに、朱鷺の反応が遅れた。 ザシュッ! 善逸の刃が、朱鷺の美しい銀髪の毛先を、数センチだけ切り裂いた。

 

「…!」

 

後方で戦いを見守っていた猗窩座が、思わず声を上げた。

 

「朱鷺! 油断するな!」

 

しかし、朱鷺は、振り返りもせず、片手を挙げて彼を制した。

 

「(ふぅ…)…あらあら〜。最近、少し怠けていましたから〜。勘が鈍ったみたいです〜」

 

彼女は、切られた髪の毛先を指でつまむと、自嘲するように呟いた。

 

「この程度の速さで、捕らえられるなんて…。反省ですわ〜」

 

嘘でしょ!? 善逸くんの霹靂一閃六連を受けて、『勘が鈍った』!? この子、本当に底が知れません…!

 

朱鷺は、もう遊ぶのは終わりだ、とばかりに、すぅ…と息を吸い込んだ。 その身体から、禍々しいオーラが立ち上る。

 

「…では、皆様。お遊びは、ここまでですわ」

「血鬼術――告解ノ雨」

 

彼女が、天に祈りを捧げる。 空が、白く濁り始めるはずだった。 乳白色の、死をもたらす静寂の雨が、全てを溶かし尽くすはずだった。

 

…しかし。

 

「…あれ?」

 

雨が、降らない。 空は、白く濁るどころか、不気味なほどに赤く染まり、まるで燃えているかのように、明滅している。

 

「(…どういうことですの…? 血鬼術が…発動しない…?)」

 

な…なんだ!? こんな現象、見たことないぞ! バグか!? いや、それにしては、この空の色…どこかで…!

 

その時、朱鷺が先ほど禰豆子を埋めた地面が、ゴゴゴゴゴ…と、不気味に隆起し始めた。 そして、地面の亀裂から、真っ赤な、燃えるような光が漏れ出している。

 

ま…まさか! これは…! 禰豆子ちゃんの…『爆血』!?

 

地面の下で、朱鷺の血鬼術の発動を、禰豆子の血が、燃えるような力で妨害している…!? 予想外の展開。 朱鷺の顔から、初めて、余裕の笑みが消えた。

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

朱鷺(とき)の血鬼術『告解ノ雨』は、埋められた禰豆子の『爆血』によって、発動を阻害された。夜空は、不気味な赤い光を放ち、まるで世界が沸騰しているかのようだ。

 

「(冷や汗)…くっ…! なんという…忌々しい…」

 

彼女は、初めて見る「爆血」の現象に、焦燥の色を隠せない。

 

その時、朱鬼の背後から、二つの影が動いた。 上弦の参・猗窩座と、下弦の伍・累だ。

 

「朱鷺! 下がれ!」

「母上! この異常な熱は危険です!」

 

二人は、朱鷺と炭治郎たちの間に割って入った。 彼らは、目の前の鬼殺隊士が、あの日の無惨様が恐れた「日輪の耳飾り」の少年であること、そしてその妹が持つ、「爆血」の力を目の当たりにし、これ以上のリスクは負えないと判断した。

 

「…流石に柱以外に、貴様一人で、この状況は…」

 

彼は、武人としての直感で、この場は最早、朱鷺が遊んでいられるレベルではないことを悟っていた。

 

「(唇を噛みしめ、気合を入れなおす)…分かっていますわ、狛犬くん。しかし、邪魔をしないで。これは、わたくしの『仕事』ですもの」

 

彼女は、自身のプライドと、無惨様からの命令を、決して曲げようとしない。

 

【血鬼術・告死の剣】

朱鷺は、天に掲げた両手をゆっくりと下ろし、意識を、手のひらに握られた黒い暗殺ナイフ『かくあれかし』に集中させた。

 

「…雨がダメなら、別の形にするだけですわ」

 

バチリ! 朱鷺の全身を流れる血が、体内から沸騰し始めたかのように、凄まじい熱と圧を伴い、一気にナイフへと注ぎ込まれていく。 そして、ナイフの切っ先から、朱鷺の血鬼術が液体の刃となって流れ出した。

 

その液体は、乳白色の酸。 ナイフを包み込み、そのまま、二メートルにも達する、長大な白銀の長刀へと変貌した。 それは、全てを溶かし尽くす酸を、液体の刃として固定化した、朱鷺の新たな必殺技だった。

 

[血鬼術:告死の剣(こくしのけん)が発動しました]

[効果:全てを溶かし斬る酸性刃の生成]

[特性:水球制御(酸性液体を任意の形で操る)]

 

「(冷たい笑み)…ふふ。これなら、貴方たちの『爆血』の熱など、怖くはありませんわ」

 

さらに。 彼女の身体の周囲に、直径30センチほどの乳白色の水球(酸の液体)が、五つ、ゆらゆらと浮かび上がる。 まるで、彼女が水中にいるかのように。 これで、雨として降らせるだけでなく、液体を操り、遠距離攻撃も可能になったのだ。

 

「さあ、狛犬くん、累くん。貴方たちの気持ちは嬉しいですが、わたくしの『新しいおもちゃ』の試し切りを、邪魔しないでくださいます?」

 

おっと、猗窩座さまと累くん、完全に朱鷺ちゃんの新しい力の前に、押し戻されました! しかし、彼らは朱鷺の命を心配している!

 

「くそっ! ならば、俺は遠方からの援護に回る! 累、貴様は、あの妹鬼の動きを封鎖しろ!」

 

「承知いたしました、父上!」

 

鬼の組織の序列も、無惨の命令も無視し、この三人の間には、「朱鷺を守る」という、歪んだ、しかし強固な家族の絆が成立していた。

 

朱鷺の「告死の剣」が、月明かりの下で妖しく輝く。 対する鬼殺隊は、炭治郎、伊之助、そして善逸。 彼らの運命を左右する、那田蜘蛛山での、誰も知らなかった死闘が、今、始まる。




ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
那田蜘蛛山異聞、ついに戦闘が始まりました。


また、禰豆子の「爆血」が朱鷺の祈りを遮ったのが象徴的です。
炎と酸、救いと裁き、母と妹。
この対比をどう受け取ったか、ぜひ感想で教えてください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。