『始祖の見る朝日』~ロリ鬼はなぜ、無惨様を太陽の下に連れ出したのか?~ 作:この俗物怪物くん
新しい人生、新しい顔、そして――新たな「出会いイベント」が始まります。
その名は、狛治(はくじ)。
父のために罪を犯し、父の死で人生を壊された少年。
そして、いずれ鬼になる宿命を持つ者。
朱鷺は、救いの手を差し伸べる。
だが、救えない。
“固定イベント”だから。
救えない優しさ、届かない知識。
ゲームの中に宿る「人間の限界」を描いた、静かで残酷な回。
ぜひ、心してお楽しみください。
さて、あれから数十年が経過しました。江戸の世は、天下泰平を謳歌しています
プレイヤーである朱鷺(とき)ちゃんですが、さすがに老中となった夫・和馬の側で、ずっと年を取った演技をしているわけにもいきません。ですので、一度『病死』を装って姿を消し、和馬の『孫娘』という形で、再びこの世に『代替わり』しました。これで、見た目も初期のロリ系美少女(14歳)に戻り、完璧なカモフラージュが完成です
(…ちなみに、本当の『孫娘』がどうなったかって? …まあ、朱鷺ちゃんは鬼ですから…。天下泰平の江戸時代です! 気にしてはいけません!)
夫(今は『お祖父様』)となった和馬さんは、何も知らず老中として健在。そして、肝心の『お兄さま』(無惨様)との友好度は…『信頼』です! 頑張りました! あの地獄のミニゲーム(クソゲー)の数々を、何十年も完璧にこなし続けた成果です! あと一歩で『親密』に手が届くでしょう!」
朱鷺の『仕事人』稼業も、老中の孫娘という最強の隠れ蓑を得て、ますます順調。 今日も彼女は「お祖父様」の言いつけで、奉行所に「お薬」を届けに来ていた。
奉行所の庭先が、やけに騒がしい。 見れば、一人の少年が地面に押さえつけられ、腕に罪人の証である入れ墨を施されている最中だった。
「離せ! 俺は…! 親父の薬代のために…!」
「うるせえ! 盗人猛々しいぞ!」
朱鷺は、その少年の名前を聞いて、足を止めた。
「…またか、狛治(はくじ)お前も、もう三度目だぞ」
来ました! メインイベント発生です! あの少年こそ、後の上弦の参・猗窩座! まだ人間だった頃の、狛治くんです!
これは、無惨様への、とてつもない『ご機嫌取り』チャンスです。彼のような優秀な人材をスカウトし、強力な鬼に育て上げれば、無惨様の好感度が大幅にアップするはず! トロフィー獲得に大きく近づきます!
朱鷺は、その幼い見た目とは裏腹の、絶対的な権力者のオーラを放ち、役人たちの前に進み出た。
「(にこにこ〜)皆様、お集まりになって、何をしてらっしゃいますの〜?」
「(ギョッとして)こ、これは、九条様のお孫姫様…! いえ、これは罪人の処罰でして…!」
「まあ、かわいそうに。その少年、わたくしが引き取りますわ」
「し、しかし! こいつは常習犯で…!」
「(スッ、と老中の印籠を見せながら)…『お祖父様』の、お言いつけですの。…聞こえませんでしたか〜?」
はい、老中の孫娘という『わがまま』は、水戸黄門の印籠より強い。狛治の身柄、あっさりゲットです
九条家の別邸に連れてこられた狛治は、警戒心むき出しで、朱鷺を睨みつけていた。
「…なんだよ。金持ちの道楽か? 俺を見世物にする気か?」
「あら〜、ツンツンしてますね〜。わたくし、そういうの、嫌いじゃないですよ〜」
朱鷺は、その警戒を一切意に介さず、にこにこしながら、入れ墨で腫れ上がった彼の腕に、そっと薬を塗っていく。 それは、朱鷺の家系――赤松老人から朱鷺(祖母)を経て、朱鷺(孫)へと受け継がれた(という設定の)、本草学の秘薬だった。
「(痛みが引いていく…)…っ…」
よしよし、デレるはず…デレてきましたね!
「貴方、お父様のために、盗みを働いたとか。感心しませんわね〜」
「うるせえ! 親父は病気なんだ! 薬を買う金がないんだ! だから…!」
「(にこにこ〜)それなら、わたくしがお薬、差し上げますよ〜。わたくしの家は、代々、薬師の家系(ということになってます)ですから〜」
朱鷺は、狛治の父が住むという長屋へ、一緒に行くことを申し出た。 狛治は、朱鷺の真意を測りかね、不審がりながらも、その申し出を受け入れた。
長屋で寝込む父に、朱鷺は持参した最高級の薬湯を無償で飲ませる。 父は、涙を流して「ありがとうございます、お嬢様…」と感謝し、狛治も、朱鷺に向かって、深く、深く頭を下げた。
「…本当に、ありがとう…ございます…。このご恩は、一生…」
(完璧です! これで好感度フラグは立ちました! 彼が鬼になった時、この『恩』は、必ずや無惨様への忠誠に繋がるはず!)
失敗しました!
え?
数日後。 朱鷺が、追加の薬を持って再び長屋を訪れると、そこには、冷たくなった狛治の父と、その亡骸を抱きしめて、虚空を見つめる狛治の姿があった。
「な…なぜだ!? 薬は完璧だったはず…!」
状況を読み込む。…あぁ、そういうことか。 狛治の父は、息子の犯罪行為そのものに絶望し、「息子の罪によって得た薬で、生き永らえたくない」と、自ら命を絶ってしまったのだ。
遺書が、その傍らに置かれていた。
"狛治へ"
"真っ当に生きろ まだやり直せる"
"俺は人様から金品を奪ってまで生き永らえたくはない"
"迷惑をかけて申し訳なかった"
うわぁ…。これは、このゲームのシナリオ分岐の中でも、最も救いのない『固定イベント』でしたか…。こちらの介入が、逆に彼の死期を早めてしまった…
突き付けられた現実は、父のためなら犯罪も厭わなかった少年にとっては、残酷すぎるものだった。 狛治は、もう何も言わない父の墓(※朱鷺が作ってあげた)を抱きしめ、ただ、嘆く。
「貧乏人は生きることさえ許されねえのか、親父」
「こんな世の中は糞くらえだ。どいつもこいつもくたばっちまえ」
んーむ。どうにもつらいですね…
朱鷺が、そっと彼の肩に手を置く。
「…(ギロリと睨みつけ)…」
だが、彼は、その手を振り払わなかった。
「…アンタには…感謝してる。薬も、この墓も…。だが、もう、放っておいてくれ」
「(…残念です〜。せっかく、良い『部品』になりそうだったのに〜)」
狛治は、完全にやさぐれてしまいました。朱鷺が同行したことへの感謝は残っていますが、好感度は『警戒』まで逆戻りです。…これでは、無惨様への手駒にするのは、難しそうですね…
◇◇
父の死という絶望的なイベントにより、狛治くんは完全にやさぐれてしまいました。無惨様への手駒として育成する計画は、一時凍結ですね。しかし、投資したリソース(薬や時間)が惜しいので、『観察』という名目で、彼への接触は継続します
それからの狛治は、生きる目的を失ったかのように、江戸のゴロツキ相手に喧嘩を売っては、その怒りを拳で発散させる日々を送っていた。 そして、彼がボロボロになって路地裏で倒れていると、必ず、どこからともなく朱鷺(とき)が現れるのだ。
「(にこにこ〜)あらあら、狛犬(こまいぬ)くん。今日も、お怪我をなさいましたの〜?」
「…うるせえ! ほっとけ! なんでテメェはいつも…!」
「(薬草を傷口に塗り込みながら)わたくし、強いワンちゃんが、こうして傷だらけになっているのを見ると、なんだか、ワクワクいたします〜」
「(ゾクッ)…お前、やっぱ変だぞ…」
傍目(はため)には、甲斐甲斐しく手当てをする少女と、それに悪態をつく少年に見えますが…恋仲には、絶対に見えませんね。せいぜい、『変な飼い主と、懐かない野良犬』といったところでしょうか。友人には…見えますかね?
そんな奇妙な関係が続いていた、ある日のこと。 狛治は、大人七人と、大立ち回りを演じていた。 そして、その子供離れした強さで、七人全員を叩きのめしてしまう。
その光景を、一人の男が、感心したように眺めていた。
「こりゃすげえ! 小僧、見事な腕だ!」
そこに、朱鷺も、いつものように「手当てセット」を持って現れる。
「(あ、今日は七匹も相手にしたんですね、狛犬くん〜)」
狛治は、気が立っていた。父の死の悲しみと、世の中への怒りで、彼は限界だった。
「うるせえ、ジジイ! お前も、俺にやられたいのか!」
彼は、その場にいた男――慶蔵(けいぞう)へと、怒りのままに殴りかかった。
「あ、ダメです〜、狛犬くん。そのおじさん、強いですよ〜」
ゴッ! バキッ! ドゴッ! 朱鷺の予感通り、狛治の拳は一発も当たらず、逆に、慶蔵の、重く、しかし無駄のない体術によって、ボコボコに返り討ちにされてしまった。 朱鷺が止めようと前に出るが、慶蔵は、それを片手で制した。
「嬢ちゃん、すまねえが、手出しは無用だ。これは、この子が、自分でケリをつけなきゃならねえ『熱』みてえだからな」
狛治は、そのまま意識を失った。
約一時間後。 狛治が目を覚ますと、そこは、見知らぬ道場だった。 隣では、朱鷺が、なぜか当たり前のように座って、お茶を啜っている。
「おう、起きたか! 悪かったな、ちと、やりすぎちまった。俺は慶蔵。ここで、『素流』って体術の道場をやってる」
慶蔵は、カラカラと明るく笑う、実に軽いノリのおじさんだった。 彼は、朱鷺と狛治に、自らの身の上を語り始めた。
「実はよ、俺には病弱な娘が一人いんだが、その看病疲れで、女房が入水しちまってな。俺も、生活費を稼ぐために、道場を空けがちなんだ。…で、嬢ちゃん(朱鷺)はともかく、そこの小僧(狛治)に頼みがある」
彼は、狛治の目をまっすぐに見た。
「俺の代わりに、娘の看病をしてくれねえか」
案内された奥の部屋。 そこには、布団に寝たきりで、小さく咳き込む少女がいた。恋雪(こゆき)だった。
そのか細く、儚い姿を見た瞬間、狛治の脳裏に、病に苦しんでいた父の姿が、鮮明に重なった。 彼の、世の中すべてを呪っていた目が、わずかに揺らぐ。 狛治は、何も言わず、ただ、恋雪の布団の傍らに、静かに腰を下ろした。
おや? これは、狛治くんの人生における、最大の幸福イベント『恋雪ルート』に入りましたね! これは、無惨様への献上計画、大幅な見直しが必要かもしれません…
それからの狛治の毎日は、一変した。 慶蔵の門弟となり、素流の稽古に打ち込み、そして、空いた時間はすべて、恋雪の看病に充てた。 そこに、朱鷺も、まるで自分の家のように、日参するようになった。
「ごめんくださいまし〜。恋雪さん、お薬のお時間ですわよ〜」
「おお! 朱鷺ちゃん、いつも悪いな! おかげで、恋雪の咳も、だいぶ良くなってきた!」
「(にこにこ〜)わたくしは、お祖母様(※自分)から本草学を受け継いでいますから〜。これくらい、お安い御用ですわ」
朱鷺は、持てる薬学知識を総動員し、恋雪の治療薬を無償で提供し始めた。 そして、かいがいしく狛治の世話も焼く。
「狛犬くん。稽古で汗をかきましたのね。はい、手ぬぐいですわ」
「…(ぶっきらぼうに受け取りながら)…おぅ」
「(布団の中から、くすくす笑いながら)ふふ…狛治さん、朱鷺さんと、本当に仲が良いんですね」
「なっ…! ち、違いますよ! こいつが勝手に…!」
ほほう。これは、傍目(はため)には狛犬くんのハーレムですね。 病弱で儚げな正ヒロイン・恋雪と、アルビノのロリ美少女で、なぜか薬学に精通し、甲斐甲斐しく世話を焼く謎の少女・朱鷺。 慶蔵さんも、この状況を『いやー、若いっていいなぁ!』と、カラカラ笑って楽しんでいるようです
朱鷺は、この奇妙な共同生活を、心の底から楽しんでいた。 (人間って、本当に面白いです〜。こんなに、脆くて、弱くて、すぐに壊れてしまうのに。…さて、この『幸福』は、いつまで、持ちますかね〜?)
さて、あなたなら――
朱鷺ちゃんのこの“介入”をどう感じましたか?
「仕方なかった固定イベント」派
「それでも救えたかもしれない」派
「狛治の人生に“鬼”が介入したことが運命だった」派
ぜひ、コメント欄で教えてください。