『始祖の見る朝日』~ロリ鬼はなぜ、無惨様を太陽の下に連れ出したのか?~ 作:この俗物怪物くん
これまでの“理性と計算で動く鬼”・朱鷺が、百数十年の時を経て、
初めて「感情」というバグを起こします。
そして、花火の夜。
“狛治ルート”の終着点が、“朱鷺ルート”の分岐点となる――。
恋雪の告白、狛治の決断、朱鷺の慟哭。
全てが、美しく、痛々しい。
さあ、どうぞ最後までご覧ください。
元々、父を世話していた彼にとって、看病は苦ではなかった。むしろ、稽古と合わせ、漸く訪れた穏やかな日常は、狛治の荒んだ心を、ゆっくりと癒していった。
一方の恋雪にとっても、彼の存在は救いとなっていた。 そして、朱鷺も、まるで自分の家のように、日参するようになった。
朱鷺ちゃん、サブヒロインムーブをかましています。目玉が飛び出るくらい高価な(老中の孫パワー)薬や滋養強壮剤を、毎日差し入れていますね。完全に投資です
狛治と恋雪が、縁側で二人きりで話している時間が増えた。 それを、物陰からじっと見つめる朱鷺。
「(むぅ…なんだか、面白くありませんわ…)」
おっと? これは、純粋な好感度の上昇です。朱鷺ちゃん本人も、自分の独占欲なのか、投資対象を取られる悔しさなのか、わかっていないようです。『これが、恋…かも?』とか勘違いし始めました。これは、ますます狛犬くんに入れ込んでいきますね
そんなある日、花火の音が遠くから聞こえてきた。
「…いつもごめんね、狛治さん…。私なんかのために…」
「…気にしないでください」
「今夜は花火も上がるそうだから…狛治さんと、朱鷺さんは、行ってきて…」
狛治は、空を見上げながら、ぶっきらぼうに言った。
「そうですね、目暈が治まっていたら、背負って橋の手前まで行きましょうか」
「今日行けなくても、来年も再来年も花火は上がるから。その時行けばいいですよ」
狛治が唯一困っていたのは、父や恋雪のような、労られるべき病人が、周囲に対していつも済まなそうに詫びたり、泣いたりすることだった。 物陰で、そのやり取りを見ていた朱鷺が、ひょこっと顔を出す。
「そうですわよ、恋雪さん。貴方たちは、労わられるのが当然、ではありません。でも、周りの人が、そうしたいから、しているだけ。だから、謝ることなんて、ないのです〜」 「…!」
「(にこにこ)お二人とも、本当に良い人たちですよね〜。だから、わたくしも、こうしてお世話したくなっちゃうんです〜」
狛治は、朱鷺の笑顔を、まともに見返した。彼は、初めて、彼女を「変な女」ではなく、一人の「理解者」として意識したような気がした。
平穏は、突然破られた。 隣の剣術道場の跡取り息子が、恋雪に乱暴に言い寄ったのだ。彼は恋雪のことが好きだったが、非常に横柄な性格だった。 具合が悪いにもかかわらず、彼は恋雪を無理矢り外に連れ出し、喘息の発作を起こした彼女を見ると、怖くなって置き去りにして逃げてしまった。
「(…あらあら。狛犬くんの『大事なもの』に手を出すなんて、命知らずです〜)」
朱鷺が『暗殺術(SSS)』の索敵スキルで、即座に恋雪を発見し、事なきを得ました。もし見付けられなければ、彼女は亡くなっているところでした。これは、慶蔵さん、ブチギレ案件ですよ
これには流石に温和な慶蔵も激怒し、剣術道場との、道場同士の試合が行われることになった。 16歳に成長していた狛治は、たった一人で相手の門下生を9人抜きにし、道場主の前に立った。
「約束しろ! 二度と、恋雪と、素流道場に関わらないと!」
これに逆上し、我を忘れた跡取り息子が、木刀ではなく、真剣を抜き放ち、狛治の背後から斬りかかった!
「しまっ…!」
「いやっ!」
キィィィィン!!!!
甲高い金属音。 誰もが、狛治が斬られたと思った。 だが、そこには、狛治の前に割って入った、朱鷺の姿があった。 彼女は、懐から取り出した、あの黒い暗殺ナイフ『かくあれかし』で、振り下ろされた真剣を、側面から受け止め、そのまま、刃を断ち切っていた。
「(にこにこ〜)…狛犬くん。油断は、ダメです〜」
「朱鷺…! お前…!」
「(刃が折れた刀を手に、腰を抜かす)ひ…!」
その、あまりにも人間離れした、美しすぎる一連の動作。 剣術道場の主(跡取りの父)は、その技に、武人として感動していた。 彼は、息子の無礼を深々と詫び、二度と手出ししないと誓った。
はい、完璧な介入でした! 狛治くんと恋雪さん、両方の好感度(信頼度)がMAXです! これで、狛治くんは、完全に朱鷺ちゃんの『手駒』…いえ、『大切な友人』になりましたね!
◇◇
道場での乱闘イベントから、さらに時が流れました。狛治(はくじ)くんは18歳。朱鷺ちゃんも、擬態を『16歳』まで引き上げて、彼らと歳を合わせています
狛治が道場に来てから二年。 恋雪(こゆき)の体調は、朱鷺が持ち込む最高級の薬と、狛治の献身的な看病により、劇的に安定していた。 もはや、寝たきりではなく、やや病弱ながらも、普通の生活が送れるまでに回復している。
そして、朱鷺は、相変わらず日参していた。 彼女の心境にも変化があった。
「(むぅ…狛犬くん、今日も恋雪さんと楽しそうです〜。わたくしが薬を持って行った時より、嬉しそうです〜)」
おっと? 朱鷺ちゃん、狛治くんへの好感度が『投資対象』から、いつの間にか『恋慕』に変わりつつありますね。彼女自身、この感情が『隠れ蓑』のための演技なのか、本物なのか、区別がついていないようです。ともかく、彼女はもう、彼への好意を隠していません
そんな折、慶蔵が、稽古を終えた狛治を呼び止めた。
「おう、狛治。ちと、大事な話がある」
「(お茶を淹れながら)なんですの〜、慶蔵さま。改まって〜」
「おう。狛治、この道場、継いでくれないか?」
「…は?」
「お前ほどの才能があれば、素流(そりゅう)は安泰だ。それによ…恋雪も、お前のことを好きだと言っているし」
「は?」
慶蔵の爆弾発言に、狛治は目を丸くして、完全にフリーズした。 奥の部屋から、顔を真っ赤にしてこちらを覗いている恋雪の姿が見え、彼は、ようやく事態を理解した。
その晩。 狛治は、道場の縁側で、一人、頭を抱えていた。 そこに、朱鷺が、静かに隣に座る。
「…狛犬くん。悩んでるお顔も、素敵です〜」
「朱鷺…。お前、聞いてたのか」
「もちろんですわ。…それで、わたくしからも、お話がありますの」
朱鷺は、彼の入れ墨が入った手を、そっと握った。
「わたくし、貴方を、誰よりも愛しいと、初めて思いました」
「!?」
「わたくしの家(九条家)のことは、気にしなくてよろしくてよ。身分なんて関係ありません。わたくし、ずっと、貴方と生きていきたい」
朱鷺ちゃんからも求婚! なんという修羅場! 狛治くんのハーレム、ここに極まれり、ですね!
狛治は、何も言えなかった。 罪人の証である入れ墨が、夜目にも黒く浮かび上がる。 乱暴者で、盗人で、父を絶望させて死なせた自分。 そんな自分を、好いてくれる未来なんて、想像したことさえなかった。
「父の遺言通り、やり直せるかもしれない」
希望が、絶望の底にあった彼の胸を、一杯に満たしていく。 彼は、この三人――慶蔵、恋雪、そして朱鷺を、「命に代えても守りたい」と、強く、強く思った。
そして、運命の夜が来た。 三年前、初めて会った頃の約束通り、狛治は、恋雪と朱鷺を連れて、花火の見える橋のたもとへ来ていた。
夜空に、大輪の花が咲き、散っていく。
「…本当に、俺でいいんですか?」
「え…?」
「狛治さんとのささいなお話で、私、嬉しいことが、沢山ありました。狛治さんには、私の未来が見えていた。『当たり前のことのように、来年再来年の話をしてくれたんです』。本当に、嬉しかった…」
彼女は、狛治の手を、震える手で握った。
「私は、狛治さんがいいんです。私と、夫婦(めおと)になってくれますか?」
うわあ…恋雪さんの、逆プロポーズイベントです。これは…強力だ…
狛治が、その言葉に応えようとした時、 朱鷺が、彼のもう片方の手を、ぎゅっと握った。
「(潤んだ瞳で)…わたくしも、同じ気持ちですわ、狛犬くん」
「選んで。…わたくしですか〜? それとも、恋雪さんですか〜?」
究極の選択肢! ここでどちらを選ぶかで、狛治の、そして朱鷺の運命も大きく変わります! さあ、どうする、狛治くん!
狛治は、朱鷺の顔を、そして恋雪の顔を、ゆっくりと見比べた。 彼は、朱鷺に向かって、申し訳なさそうに、しかし、はっきりと首を振った。 そして、恋雪の手を、強く、強く握り返した。
「(涙を浮かべながら)…はい。俺は、誰よりも強くなって、一生、あなた(恋雪)を守ります」
「(涙を流し)…狛治さん…!」
二人は、花火の光の中で、固く抱き合った。
あー…。ルート分岐、確定です。『恋雪ルート』に入りました。…つまり、朱鷺ちゃんは、フラれた、と…。これは…投資、失敗か…?
だが、朱鷺は、怒りも、悲しみも見せなかった。 彼女の赤い瞳から、ただ、一筋の涙がこぼれ落ちた。 そして、彼女は、見たこともないほど、優しい笑顔で、二人を祝福した。
「(にこにこ〜)…おめでとうございます〜。二人とも、お幸せに〜」
狛治は、恋雪を抱きしめたまま、朱鷺に向き直った。
「朱鷺。…本当に、ありがとう。お前がいなかったら、俺も、恋雪も、今、ここにはいない」
その、初めて向けられた、混じり気のない、「感謝」の言葉。 それは、朱鷺の心の、最後のタガを、外してしまった。
「(え…?)」
「う…うわ…うわあああああああああああああああああああああああ!!!!」
彼女は、子供のように、その場にしゃがみ込み、号泣した。
ええええええええ!?
「(嗚咽)よ、よかった…! よかったですねええええ、狛犬ぐん、恋雪ざんんんん! うわあああああん!」
「え、ちょ、朱鷺!?」
「朱鷺さん!?」
嘘だろ!? 朱鷺ちゃんのステータス、『冷静』『計算』が全部外れて、『感情爆発』になってる! まさか…この鬼の少女、百数十年生きてきて、初めて、本気で、人の幸せを祝福して、泣いてる…!?
「無惨様への手駒にする」という、冷たい計算から始まった関係。 それは、いつしか、彼女自身も気づかぬうちに、かけがえのない「友情」と、淡い「恋心」に、変わっていたのだ。
…参ったな。これは、チャートにないぞ…。 でも…まあ、いいか。無惨様の友好度も大事ですが、こんな顔、見せられたら…。 おめでとう、狛治。おめでとう、恋雪
朱鷺の、初めての、心からの慟哭が、花火の音に混じって、江戸の夜空に消えていった。
朱鷺は、最初は「無惨様への投資」として、狛治に近づきました。
けれど、彼と恋雪の“まっすぐな生”に触れるうちに、
彼女自身が、人間の心を取り戻していく。
それは、彼女が最も恐れていた“欠陥”――つまり、人間性。
鬼であるがゆえに、永遠に忘れられなかった“温もり”です。
そして彼女は、選ばれなかった。
でも、その夜、朱鷺は確かに救われたのです。
涙を流すことを許された鬼――
それは、彼女にとっての「朝日」のような奇跡でした。
あなたは、朱鷺のこの涙をどう感じましたか?
「報われないけど、美しい」
「狛治が選ぶのは当然」
「朱鷺の恋もまた人間の証」
ぜひ、感想欄で教えてください。