【完結】転生した魔法使いが金髪の双子を育てる 作:大気圏突破
「やれやれだ」
暴風雨の夜道を歩きながら狡噛は周囲を見回していた。陽東高校の生徒が昨年やらかしてしまったせいで台風で荒れ狂う街をパトロールしている
「ここも問題無いと」
早く見回りを終わらせて冷えた体を暖めたい。魔法で疲労回復や体温を維持することも可能だが無粋なことはしない、お風呂に入ってゆっくり足を伸ばして癒されたいと思う時もある。火照った状態で食べるアイスは格別なのだ
「これでコンビニ入っていいかな?」
見た目は完全に不審者なので店員からカラーボールを投げつけられるのは勘弁である。自分の担当する区域のパトロールを終わらせ子供たちがいる我が家へ帰ろうとした時、少し離れた歩道橋の欄干に人影が立っているのが視えた。自身の目に望遠魔法を施し目を凝らしてみると女の子が足を踏み出し道路側に向かって飛び降りていた
「透明・強化・加速・飛行」
舌打ちした狡噛は反射的に複数の魔法を同時に発動した。姿を消した瞬間に脚力を極限までに強化しアスファルトを陥没させてスタートを切る。更に加速魔法で落下地点まで最短距離を進み、地面と衝突する寸前に彼女の体をキャッチしたと同時に上空まで飛んでいった
「てめぇ、命をなんだと思ってる!」
彼の怒号が夜の街に響き渡る。命を粗末に扱う奴を嫌う狡噛にとって自殺は最も忌み嫌うもので、最期まで諦めずに生存することに心血を注ぐことを信条にしている。助けることに成功したが彼はミスを犯していた
「おい!黙って…あっ‼」
垂直に落下する女の子を、最大加速でタックルしながら空まで翔け上がれば強烈な『G』が体にダメージを与えてしまう。狡噛は強化の魔法を発動していたので無事だったが彼女は保護されていない生身の状態だったので気を失っている。適当なビルの屋上に着地すると鑑定魔法で体や血管、臓器に損傷が無いかを調べた結果、問題は無かった
「この子って、まさか?金田一さんの?」
雨で濡れた手でスマホを取り出して検索すると『黒川あかね』であることが分かった。この場合110番や119番通報をするのが常識だが、大炎上中の彼女が警察の御厄介になったら更にマズイことが起きるのでは?と勘ぐってしまった彼は自宅近くに転移し、黒川あかねを脇に抱えて店のドアを開けた。
「ルビー風呂を沸かしてくれ、アクアはタオルと毛布をありたっけ持ってきて!」
双子たちは父がパトロールから帰ってきたのを出迎えてビックリしていた。彼が女の子を連れて帰宅したのもあるが、その子が世間で話題になっている黒川あかねだったからだ。2人は理由を聞く前に指示されたことを行い、狡嚙は店の長椅子に彼女を寝かした
「父さんもこれで拭いて」
アクアからバスタオルを渡され濡れた体を拭いて、横になっている黒川あかねに毛布を包ませた。追い焚きをしてきたルビーも戻ってきたので2人にこれまでの経緯を説明する
「黒川さんが…自殺未遂……そんな」
「『今ガチ』のせいだな、悪者扱いされて叩かれて」
2人がそれぞれの想いを口にしていると彼女が目を覚まし、周囲をきょろきょろ見回している
「ここは?なんで…私は?」
「とりあえずこれで髪を拭け」
狡嚙は頭にバスタオルを乗せた。状況を理解出来ない彼女は言われるがままに髪の毛に残っている水分を拭きとることに専念する
「ルビー、この子を風呂に入れてきて!さっきまで気を失っていたから介助も頼む」
「うん、黒川さん立てます?」
「ルビー?ここって前に姫川さんと来た…」
ようやく自分のいる場所を理解した黒川はルビーに手を引かれる形で、家の中に上がり浴室へ向かって行く、アクアは彼女が座っていたところや濡れた床をタオルとモップを使って拭き取り、父親は乱暴な手つきでスマホの画面に記載された金田一の名前をタップする
『どうしたこんな時間に?こんな日に今から飲むな―――』
「アンタの劇団にいる黒川あかねが自殺未遂して、いま俺の店にいるんだよ!」
『はぁっ?オイちょっと、どういうことだ!黒川が自殺未遂って何の冗談を』
いつもならフランクな口調で金田一と話す狡噛だが、語気は強く明らかに苛立っているのが見てとれる。アクアは落ち着いてもらう為にキッチンで緑茶を入れて湯吞みを近くに置いた
『黒川はそこにいるのか?』
「雨で冷えていたからルビーが付き添って入浴させてる。とりあえず店に来てくれ、あと彼女の両親に連絡出来るか?」
『分かった!すぐに行く』
電話を切ると息子が用意してくれたお茶を口に含み、ようやく暖をとることが出来てホッとしている
「金田一さんは?」
「この雨だから時間は掛かりそうだな彼女の両親も来るはずだし、明日はアビ子ちゃんのところでバイトだろ?ルビーと一緒に寝ててもいいぞ」
「そうする。俺とルビーは部外者だから父さんもこれから長いでしょ?休みにしたら?」
気を遣ってくれるアクアの優しさに彼は胸に熱いモノがこみ上げてくるのを抑え込んで、頭を撫でると恥ずかしいのか顔を赤らめてしまう
風呂からあがった2人は店内に戻り、ルビーに寝るように伝えたが娘は拒否の態度を示した。彼女曰く”同性の同年代は近くにいるべき”と豪語し、黒川の手を握って安心させるように努めている。こうなったらテコでも動かないことを熟知しているので同席を許可した
「狡噛!黒川は」
車から傘を持たずに走ってきたのか髪と服を濡らして金田一が入ってきた。中年太りのオッサンは短距離を走るだけでも大変で息があがっている。狡嚙はタオルを投げつけるように渡し、2人が座っているところを指を向ける
「金田一…さ…ん」
「お前どうして…なんでこんなこと」
「わたし、もう……こんな世界なんて、生きていても楽しいことなんて何も」
「未成年の女の子に対して顔を見せない自称正義マンからの人格否定レベルの罵詈雑言、これでまともなメンタルでいられる方がイカれてる。大輝君も言ってたが番組に出すべきじゃなかった」
彼の言葉に金田一は彼女が出演オファーを受けた時に、断ることを強く口にすればと後悔した。目の前に女の子は世間からのバッシングをその身1つで受けてしまい、中身がボロボロになっている。ルビーは震える手を強く握り締め背中をゆっくり摩り落ち着かせようとしている
「狡嚙、お前のおかげで…」
金田一は振り返り彼に礼の言葉を口にしようとしたが、店のドアが開かれ2人の男女が入ってきた。
「あかね!」
女性が彼女に抱き着いて涙を流している。そして男性の方は店内を見渡して狡嚙と金田一の方に向かい頭を下げた。
「娘の命を救っていただきありがとうございます!」
「救ったのは店主の方だ、俺は救うどころか黒川を止めることが出来なった大馬鹿者だ」
「狡嚙さんでしたっけ?以前どこかでお会いしたような?」
「店に来るのが初めてなら知らないな、ここは繫盛店じゃないから客の顔はだいたい覚えてる」
父親は自己紹介をし職業が警察官であることを告白し、男たちは今後のことについて話し始め、ルビーは全員分の飲み物を用意する為に席を外した
「番組を訴えます!娘を悪役に仕立て上げ偽りの情報を撒き散らした輩を許すことは出来ません」
「だがどうする?個人で番組を訴えても」
「懇意にしている報道の記者が数名います。彼等に今回の情報を流します」
警察署には記者クラブという報道の記者たちが待機しているが、それとは別に個人で繋がりを持っている人もいる。捜査情報の流出はご法度だが、バレないようにカムフラージュしている。
「そんなことをしたら黒川の」
「女優としてのキャリアに傷つくのは理解してます。狡嚙さんの配慮に泥を塗る形になりますが、だけどあかねは女優である前に私たちの大事な娘なんです。娘を食い物にされて平然としている親なんていません!」
「あなた」
「お父さん」
離れた場所で見ていた母娘は父親の発した覚悟を受け取った
「わかった。そこまで腹が決まっているなら何も言わない!その手のトラブルに強い弁護士を紹介する」
「裁判になったら、出廷しなきゃいけないのか?」
狡嚙の質問に黒川の父はクビを横に振る。今回は裁判を起こすことが目的ではなくテレビ局側の悪意を世間に知らしめて関わった人物を吊るし上げて責任を取らせる。向こう側の非を認めさせるのが論点になる
「同時に誹謗中傷をした面々に対して情報開示請求も行います」
「黒川さん、こっちに出来ることはあるか?」
問いかけてきた彼に父親は少し考え、狡噛の目を見て
「自宅にマスコミが押しかけてくる可能性があります。不躾なことかもしれませんが娘を一時的にここで保護してくれませんか?」
「俺からも頼む、高校や劇団の方にも記者がやってくるはずだ!ララライの中にアイツを売る奴は居ないが万全を期す必要がある。ここなら盲点でバレない」
おっさん2人からの懇願に首を縦に振った彼は了承し、彼女の泊まり込み用の荷物を持ってくるように伝えた。話し合いが纏まり黒川家の両親が帰り支度の準備をしていると、娘のあかねが狡噛のところまで進むと頭を深く下げた
「ありがとうございます」
「別にいい、俺が勝手に助けただけだ!」
「でも…」
「なら命を粗末にするな!抱え込まずに親でも誰でもいい、まずは誰かに話してから考えろ、自分勝手に決めつけて人生に幕を引くな」
それは彼なりの激励だった。ピンチが続いて苦しくてもギリギリまで頑張って生きることにしがみつく、1人が辛いなら声を出して助けを求めればいいんだから
黒川家の3人は深く頭を下げて店から出て行った。金田一はぬるくなったコーヒーを飲み干すと
「今日ぐらいは神がいるって信じてもいい」
「ニコチンとアルコールの神に身を捧げているのに?」
「お前なぁ、だが黒川が助かった事実は確かだ」
「これから大変になりますね」
「子供を守ってやるのが大人の務めだ!火中の栗だろうがなんだって拾ってやる」
金田一を見送った親娘は時計を見ると、日付けが既に変わっていることに気付いて息をついたが
「どうしたのパパ?」
「何か忘れている気がするんだが思い出せない」
「思い出せないってことは重要じゃないってことでしょ」
「そうだな、ルビーありがとう」
いきなりの感謝の言葉に彼女は目が点になる
「お前があの子の横に付き添っていてくれたから」
「手を握ってあげるだけでも不安って和らぐと思うんだ。パパが私の手を握ってくれたように」
ニッコリと笑い頭を近づけてきたので優しくゆっくり撫でてあげた。店の電気を消して朝の開店まで数時間の仮眠となった。なお狡嚙の忘れていることだが黒川あかねを助ける時に強化した脚力で地面を陥没させていたことで修復をせずに店に戻ったので、台風の過ぎ去った翌朝そこを通りかかった人は驚いて尻餅をついてしまった
若干アクア君が空気になってるような気がする。原作と違って対岸の火事だから安易にクビを突っ込むべきではないと思っていそう。
とりあえず鏑木勝也Pには責任を取ってもらいますよ
感想を書いていただきありがとうございます。
誤字訂正もありがとうございます
次回作を作る時に途中まで原作と同じ流れだったら、すっとばしても良い?
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OK 原作を知ってるから問題無い
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NG やっぱり最初から全部読みたい