【完結】転生した魔法使いが金髪の双子を育てる   作:大気圏突破

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この時期になるとナミュール代打騎乗の藤岡康太騎手のことを思い出す


漫画家の為に一肌脱ぎます

「盗まれた?」

「えぇ、車を買うために貯めていたものです」

 

 

 アクリル板の向こうにいる坊主頭の良介は彼女との出来事を淡々と語ってくれた。

 

 

「アイには感謝していたんです。最初は裏切ったことに対する憎悪だけでしたが、でも男に股を開いて未成年で子供を作って世間を騙しているのを知って、”アイドルに現を抜かすのは止めよう”真面目に働こうって考えるようになって休んでいた大学に復帰して」

「じゃあ会ったのは?」

「5年前です。街中で似ている人がいるなって見ていたら向こうから近づいてきて、俺の名前を呼んでくれたんです。握手会ぐらいでしか顔を合わせたぐらいなのに」

 

 

 彼はしきりに貧乏ゆすりをして所員に注意されるが揺らすのを止めなかった。

 

 

「聞いてもないのに現状を語り始めて、俺は帰りたかったのに腕を引っ張ってファミレスに連れていかれて渋々」

「なんて言っていたんだ?」

「「バイトを掛け持ちして大変だけど子供達やママ友が手を貸してくれる」って」

 

 その言葉に壱護は違和感を抱く、アクアとルビーは彼女が捨てた直後に喫茶店のマスターに拾われている。それにママ友も変な話だ!アイが身内以外に心を開くことは稀である。つまり良介に話したことは嘘でしかない

 

 

「向こうが言ってきたんです」

「なにをだ?」

「「子供達と喧嘩して距離を開けたいから一晩だけ泊めてほしい」って、最初は拒否をしたんですが、大声で騒ぎだして周囲の目が気になったので」

「泊めたのか?」

 

 爪で頭をガリガリと掻いて両手で抱える良介は涙目になり嗚咽をもらし始める

 

「あの時に強く断っていれば…こんなことに、今思えば変でしたよコンビニで度数の高いアルコールを買い込んで、避妊具もちらつかせるようにカゴの中に入れて」

「まさかアイと…」

「やってませんよ、これだけは断言できます。それで住んでいる部屋で缶を開けたんですが2本目で意識が朦朧として気付いたらアイが居なくて勝手に帰ったのかなって」

 

 

 彼はその後の顛末を丁寧にゆっくり思い出しながら伝えていった。その2日後に購入する車の代金が仕舞ってある戸棚を開けようと鍵を回したら施錠されてしまった。当人は閉め忘れていたのかと思って鍵を開けると現金が入っていた封筒から厚みが無く、全身の毛穴が開き中身を取り出すと1枚の紙が出て来て『ごめん by貴方の推しより』と書かれていた

 

「いくらだ?」

「437万円です。初任給の頃からコツコツと貯めてボーナスが出てようやくって時に」

「じゃあ車は」

「いえ、パーツ購入費用で残しておいた残金を頭金にして分割にしました。でもようやく手に入れたのに心にポッカリと大きな穴が開いて、紛らわす為に酒に溺れて…」

 

 

 菅野良介は飲酒運転及び信号無視による死亡ひき逃げ事件を引き起こし、この市原刑務所で服役中の身である

 

 

「何でアイのことを警察に」

「言いましたよ!でも向こうは取り合ってもくれなくて、被害届も受理されなくて」

「だからってお前が罪を犯すなんて、それで亡くなった天童寺夫婦は…」

「ぶつかる瞬間のことを今でも覚えていますよ。子供を盾にして自分を守ろうとするなんて罰が当たったんですよ」

 

 被害者の4人は家族だった。しかし母親と父親は打ち所が悪く病院に運ばれる前に亡くなり、重症を負った子供たちも親戚の家に迎え入れられ離れて暮らしている

 

 

「アイに関わった奴等(・・)は全員不幸な運命を辿るんですよ、気をつけてください社長さん次はあなたの番ですよ」

 

 ケタケタと笑う良介は所員に取り押さえられ部屋から出されてしまい、壱護も退出を余儀なくされたが1つ疑問が残った。

 

奴等(・・)って、なんで複数形なんだ?」

 

 彼の疑問に答える者は塀の中にいる良介だけである。今回のことを手紙に残した壱護は5年前までの行方を追うことが出来たが、またゼロから探さなければならない

 

 

 

 

 

 

「スランプです」

「長いスランプですね」

 

 

 吉祥寺は顔を紅潮させ酒焼けした声と若干の涙目で狡噛のことを見つめながら、日本酒の入ったコップを空にした

 

「もう私に漫画を描く才能なんて」

「らしくないですね先生」

 

 最近の彼女は早くて昼過ぎ、遅くても夕方に来店し彼相手に絡み酒をしながら閉店まで居座すことが多く、最後は酔いつぶれて寝てしまうのがデフォルトになっている。別に仕事が無い訳ではない、単発や『今日あま』の番外編を執筆しているので世間から忘れ去られることはないが完全新作の原稿は白紙のままである

 

 

「何を描いても二番煎じなんですよ」

「飲み過ぎですって、身体壊しますよ」

「良いんですよ壊れても、どうせ私が描けなくても才能溢れる若い子がドンドンデビューして」

 

 とうとう絡み酒から自棄酒に変貌してしまった。実のところ新作のネームを描いて編集に見せたのだがボツをくらっていた。読者に擦り寄る作品になると誰かの真似になってしまい独自性を出すことが出来ない、かと言って個性が強すぎるとキワモノになってしまう

 

 

「いつの間にか自分が嫌になるんです」

「どういう意味ですか?」

「デビューする前は、純粋な気持ちで原稿に向かうことが出来たのに、いつからか読者の影がチラつくようになって」

 

 おかわりを要求するするが狡噛はコップ中にミネラルウォーターを注いで彼女のアルコールを薄めようとする

 

「それがずっと気になって、どうすればウケるのだろうか?と考えてしまうと」

「そう…にゃんでしゅよぉ、こっちが必死なって…命を吹き込んでいるのに読者アンケートに好き勝手にぃ……ぃ」

 

 

 いつものように酔いが支配し同じやりとりを繰り返すようになっているが、今日はいつもより悪酔いだ

 

 

「もうかくの…辞めようかな……マスター私を……」

「やれやれ」

「またカウンターで寝ちゃった?」

 

 奥からルビーが出てきて様子を伺ってくる。その手には薄い毛布と座布団があり、いつものように準備をしている

 

 

「今日はいつもより酷かったな」

「焦っちゃうよね、先の見えない霧の中を歩く気持ちって」

「先が見えないか…案内人か光が必要だな」

 

 狡噛は指を鳴らし空間魔法を発動させる

 

「店の片付けは、私とお兄ちゃんでやるから任せて」

「ありがとう」

「どんなことをするの?」

「タイムマシンかな」

 

 

 彼女をお姫様抱っこのように持ち上げると狡噛は変身魔法で姿を変えて2人で中に入っていった。そして残ったルビーは手に取ったモップで掃除をしながら

 

「パパもそろそろ応えないとダメだよ」

 

 

 

 

 

 

「…って、…きて!ヨっちゃん」

 

 

 誰かが自分の体を揺らしている。止めてほしい酔った状態でそんなことをされると口からリバースしてしまう。とりあえず文句でも言おうと目を開けると

 

「えっ?おばさん」

「ようやく起きた!もうこんなところで寝てたら風邪引くよ」

 

 

 そこには狡嚙が引き継ぐ前に喫茶店を切り盛りしていた老齢の女性が立っていた。正月に届いた年賀状では髪の毛が真っ白なお婆ちゃんになっていたのに目の前にいる彼女は引退する前の姿だ!周囲を見渡すと店の内装が少し違うことに気づいた

 

 

「もう、華の女子高生が涎を垂らしてねるだなんて恥ずかしいわよ」

「女子高生?おばさん何をへんな…」

 

 

 二の句を継ごうとした吉祥寺は窓ガラスに写る自分の姿を見て驚いてしまった。さっきまで34歳の飲んだくれだったはずなのに、目と鼻の先で口を開けて惚けている自分が高校生になっている。しかも制服姿のままで

 

 

「どうしたの鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして」

「おっ、おばさん今って何年?」

「変なことを聞くね、ほら2010年よ」

 

 彼女が見せてくれたガラケーの画面には、赤色に黒の縦縞模様の勝負服を着た男性が馬に跨ってゴールしている瞬間を写した画像が待ち受けになっていた

 

 

「えっいったいどういうこと?」

 

 無数のクエスチョンマークが頭上に生成された吉祥寺は頭からモクモクと煙を噴かしている。

 

 

「あら!もうこんな時間、ねぇご飯食べていかない?あの人ったら門別に行ってくるとかで1人じゃ寂しいの」

「えっとじゃあ、お言葉に甘えて」

「少し待ってね」

 

 老女が懐から1本の木の棒を出して楽団の指揮者のように振るうとテーブルの上にホカホカの湯気を出しながら白いご飯と複数のおかずが登場した。吉祥寺は驚きつつも”夢を見ている”と納得させる。ほんの少し前も酒風呂に入る夢を見たばかりなので戸惑いは無かった

 

 

「美味しい」

「嬉しいことを言ってくれてありがとう」

 

 久々に口にする味に彼女は懐かしさを感じていた。狡嚙の作る料理も美味しいが自分はこっちの方が好みである。全てを平らげ食後のお茶をすすると

 

 

「ここはね現実に疲れた人が集まる特異点なの」

「とくい…てん?」

「ヨッちゃんも、悩みがあるからここに来たんでしょ?」

 

 

 吉祥寺はどうせ夢だからという投げやりな思いで、自身の内情を目の前にいる頼れる人に吐露する。自分の描きたい漫画が分からず迷走してしまいお酒に逃げる日々が続き、狡嚙に迷惑をかけてしまっていること、このままペンを折るべきなのだろうかというマイナスなことも含め、全部口にすると

 

 

「初めて絵を描いた時のことって覚えてる?」

「初めてですか?」

「ノートでも画用紙でもチラシの裏で、鉛筆やクレヨンやクーピーを持っていた時って何も考えずに好きなモノを好きな色で描いていたでしょ」

「そうですね。構図なんて無視して何でも好き勝手に」

「それでいいの」

「えっ?」

 

 老女は目の前にいる彼女の手を握る

 

「自分の描きたいものをやりなさい!」

「でも、そんなことをしたら」

「中途半端じゃ駄目、とことん貪欲にそれこそ原稿用紙に魂を注ぎ込むように、云わば真剣勝負なの、読者じゃない自分自身との命の奪い合いなの」

「自分自身と」

「そう、1ページ前の自分が考えもしなかった展開を作り出して、あっと言わせるの!」

 

 オーバーなアクションをしながらニコニコする顔に吉祥寺は笑ってしまう。そういえば落ち込んでいるときも彼女は鼓舞してくれて元気を分けてくれた。まさか夢の中にまで現れて自分を励ましてくれるなんて

 

 

「あとお酒は控えなさい、逃げてもいいけど自棄になるのは駄目!女の子の体は繊細なの」

「でも、それは…」

 

 彼女にとってアルコールは血液の1部であり、日常から切り離すのは不可能である

 

「別に飲むなとは言ってないでしょ!毎日浴びるように飲んでいたら有難みが薄れるの」

「善処します」

「そろそろタイムリミットかしら」

 

 老女の体が光輝き、段々と姿が消えていくように見える。店内も同様に次第に真っ白な光に包まれていく

 

 

「おばさん、ありがとう」

「離れているけど、ヨっちゃんことをずっと見ているからね」

「うん」

 

 

 

 

 吉祥寺は女子高生から大人の姿に戻り、店内は真っ黒な空間となってしまうが、少し先に光るドアが存在を主張している。彼女はそれに手を掛けると視界が光に包まれ

 

 

「先生、起きてください!」

「マスターさん?」

 

 老女ではなく狡噛が自身の体を揺らし起こしていた

 

「どうします?このまま泊まりますか?」

「いいえ帰ります。そして原稿に向き合います!」

「そうですか、じゃあタクシー呼びますから」

 

 

 吉祥寺はこの日から自宅でカンヅメとなり、1つの作品を生み出した。それは自身が心の奥底に溜め込んでいた欲望を偽りなく曝け出したもので担当は渋い顔をしていたが、熱意に負けてGOサインを出した!その作品がスポットライトを浴びるのは少し先の未来だが、彼女は迷わずに描き続けるのであった。

 

 




空間魔法を使い過去の喫茶店を作り出し、以前ルビーに使った成長魔法の逆を行い吉祥寺を女子高生の頃に戻して、相談する形にしました。なお作中の料理はアイテムボックスに入れていたもので出来立ての状態で保管されていたものです。

最初はルビーと同じように夜のドライブを考えていましたが、hydrangea_さんの感想を見て切り替えました。誠にありがとうございます。


感想ありがとうございます。
誤字訂正ありがとうございます
評価もありがとうございます

これからも頑張ります

次回作を作る時に途中まで原作と同じ流れだったら、すっとばしても良い?

  • OK 原作を知ってるから問題無い
  • NG やっぱり最初から全部読みたい
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