【完結】転生した魔法使いが金髪の双子を育てる 作:大気圏突破
「あのさぁ〜ここは、駆け込み寺でも連れ込み宿でも子供電話相談室じゃないんだよね。喫茶店で飲み食いするところで負傷者を連れてくる場所じゃないの」
狡噛はカウンター席に座る黒川あかねに対してネチネチと明らかに嫌味を込めて口を開いていた。彼女が連れて来た女の子は奥の部屋で寝ていてアクアが看病をしている。なお料理を習いに来た芸能科の2人には帰ってもらっている
「ごめんなさい!でもここなら」
「ここ来ればパパに助けてもらえるかも、自分を助けてくれたんだからMEMちょのことも手を差し伸べてくれるって思った?」
テーブルの上に2人分の飲み物を置いたルビーも眉間に皺を寄せて明らかに不機嫌な様子である。そりゃそうだ店内に危険物を持ち込まれて喜ぶ人間なんて見たことがない
「それに何で救急車を呼ばなかったの?」
「それは…」
娘の圧に彼女は押し黙ってしまう。MEMちょを発見した場所から喫茶店までは距離があった。普通なら119番通報をして救急車を呼ぶのが定石である。なのに彼女はわざわざここまで連れて来たことに疑問を感じていた。
「その前にいったい何があったんだ?意識が混濁して目の焦点合わずに手首から出血って」
彼が言うように運び込まれたMEMちょは応答が出来ず、うわ言のように意味不明な言葉をたどたどしく口にして目が明後日の方向を向いていた。しかもハンカチが巻かれた左手首からはポタポタと血が滴り落ちていて服を赤く汚している有様だった。何より驚いたのはアクアの行動で救急箱を持って来て適切な処置を行い出血を止めていた。手際の良さに言葉を失ったが理由を聞くよりも目の前にいる命を救うことを最優先にした。
「(薬にアルコールの過剰摂取、何を服用したか分からないが解毒魔法で薬効を抜いたが予断を許さないかもな)」
鑑定魔法でMEMちょのことを調べた彼は回復魔法は使わなかった。最上級の魔法なら手首の怪我を含めて全て治すことが可能だが、そんなことが目の前で起きたら不自然である。なお鑑定した時に彼女の実年齢が25歳というのも判明した。
「MEMちょのことが心配で彼女の住む部屋に行きました。チャイムやドアを叩いても反応が無くてスマホも繋がらなくて、試しにドアノブを捻ったら鍵が開いていたのですが」
「んで、中に誰も居なかった?」
「そうです。部屋はゴミや脱ぎ散らかした衣服が散乱しててパソコンもディスプレイが粉々に砕けていました。人の住む環境じゃなくて」
黒川あかねが当時の状況を淡々と語っていった。自宅に居なかったMEMちょを探しに外に出た彼女は『今ガチ』で共演した鷲見ゆきに連絡をしたが向こうは撮影中で電話に出ることが出来なかったので、覚悟を決めた彼女は一心不乱で街中を走りMEMちょの行方を追った
「それで夕方になって見つけたんですが」
「あんな状況だったと」
「はい、ベンチに座っていたのですが目の焦点が合わなくて…言ってることも支離滅裂で聞き取ることが出来ないほど、両手で肩を揺らして何度も呼びかけても、私のことに……気付いてくれなくて地面を見たら血が垂れていて…」
涙を浮かべ言葉に詰まりながら話してくれたことに狡嚙は手で顔を覆った。
「それなら何でその場で救急車を―――」
「気が動転してしまって、頭に浮かんだのが狡嚙さんで」
服の裾を掴んでいる彼女にルビーが近づき
「黒川さん、もしかして天秤を想像した?」
「えっ?」
「だってMEMちょは芸能人と呼んでいいのか分からないけど、YouTubeの人気者で知名度もあるでしょ?もし救急車で運ばれてマスコミに知られたらマズイよね?それならここにくればパパが助けてくれるかもしれない。一般人だから多少の迷惑がかかっても大丈夫なはずって」
「…そっ、それは…そんなことは」
咄嗟のことで思考が止まってしまう黒川に瞳の星を黒くしたルビーは、続けて畳みかけるように彼女と同じ目線になり問いただす
「ねぇ何で目を逸らして言葉に詰まるの?心の奥底で線引きをしたんでしょ?私たちよりMEMちょのキャリアの方が大切だよね?上原さんから聞いたよ『黒川が番組共演者の信頼回復について動いている』って」
ルビーの言っていることは嘘で大輝からではなく父親から伝えられていた。彼女は父のことを守る為に大輝の名前を出して罪の矛先を切り替えるようにしている
「ルビー」
娘の頭に手を当てて撫でる父親は”これ以上言うな”と無言の圧力で娘の口を閉じさせる
「あかねちゃんハッキリ言うよ、俺がMEMちょを助ける義理は無い!」
「そんな、だって見捨てるんですか困っているんですよ‼じゃあなんで私を…」
頼りにしようとしていた人物からの拒絶に彼女は立ち上がり狡嚙を睨み付けていた。それを見てルビーも反論しようと口を開こうとするが
「あかねちゃんの場合は前から金田一さんや大輝君から相談されていたからな」
「じゃあ私の相談は受けないって言うんですか?」
「そうじゃない!」
「いいえ狡嚙さんは金田一さんや姫川さんとは長い付き合いがあるから、だから…」
ヒステリックな声をあげて彼の言葉を遮ろうとしたが、奥からアクアが出てきて静かにしてほしいと告げてきた。手を洗い看病していた彼女の状態を口にした
「とりあえず、最悪な状態からは脱していると思う」
「そうか、ならゆっく…」
狡噛は息子に労いの言葉を掛けようとするが黒川が近づく
「ねぇアクア君からも頼んでよMEMちょのことを」
「何でここに来たんだ!」
「アクア君?」
「見つけた段階で救急車を呼ぶべきだ!その辺のガキでも出来ることなのに何故しなかった!もし手遅れになっていたらどうするつもりだったんだ?責任とれんのかアンタは!」
珍しく語気を強く荒げたアクアに一同の視線が集まる。理不尽なことがあっても怒ることはそうそう無かった彼が女性に向けて感情のままに怒りをぶつけることに驚愕していた
「だから、あの…」
最後の砦として頼ろうとしたアクアからも怒られた彼女は言葉を紡ぐことが出来ずにオロオロしている
「ここは喫茶店なんだ!そりゃ膝を擦りむいた人に絆創膏を貼り付けるぐらいのこはするさ、でもこんな爆弾を持ち込まれて助けてくれだなんて、父さんは救いのヒーローじゃないんだ!」
感情を表に出さない息子の慟哭に娘のルビーは頷いた
「そんな…狡噛さんならMEMちょのことを……」
「それなら何で自分の家に連れて行かなかったんだ?」
「えっと…それは」
「自分の手に余ることだから父さんに押し付けてしまえばいいって考えていたのか?ふざけるな‼俺達のことなんてどうでもいいのか?芸能人を助けるのが一般人の役目なのか?」
アクアの口は止まることなく黒川のことを糾弾し続ける。厄介事を持ち込まれて喜ぶ性癖なんて持ち合わせていない、更にまくしたてようとするが父親が制して止める
「一晩だけは置くが面倒を見る気はない、親御さんに連絡して引き―――」
狡噛が手を叩いて場を締めようとするが
「いいです!私が全部やります‼アナタには失望しました」
大声を出した彼女はスマホでタクシー会社に連絡すると奥の部屋に乗り込んで寝ているMEMちょのことを起こそうとしている。一目散にアクアは駆け寄って蛮行を止めようとしたが突き飛ばされてしまい尻餅をついてしまう
「あ…かね?」
「MEMちょ行くよ」
意識が覚醒していない彼女に肩を貸して立ち上がると、狡嚙家の面々を1回睨み付け何も言わないまま足でドアを蹴破り乱暴に開けて出て行ってしまった
「大丈夫かアクア?」
父の問い掛けにOKサインを出して頷く息子を見て一安心する。ルビーは湿布を用意していたが再び戸棚に戻した
「感情のままに動いて良いことなんて1つも無い」
「黒川さん、せっかく助かったのに」
「後片付けはやっておくから、アクアは痛みが出てくるなら言ってくれ」
双子たちを2階に上がらせて、彼は嵐が過ぎ去った惨状に溜息を吐きながら指を鳴らして魔法を発動させた。しかし頭の中では出て行った2人に対して一抹の不安を感じ取っていたが助けないと口にしているので想いは霧散した
「本当にすいません!」
「黒川さんが謝ることじゃないですよ」
「ですが」
「まぁ、息子を突き飛ばされて堪忍袋の緒が切れない父親はいませんよ」
「申し訳ございません」
嵐が過ぎ去ってから二日後の昼に彼女の父である理が訪れ深々と頭を下げていた。彼の前にコーヒーのカップを置く
「ひと悶着ありましたか?」
「えぇ、来てみます?家の中がまだ片付いてなくて」
狡嚙家からMEMちょを連れ出した彼女は、自身の家に連れ込もうとしたが母親が拒絶し119番通報する直前に電話をひったくり壁に叩きつけた。運悪く父親の帰宅も重なり口喧嘩と腕力による大乱闘が行われた
「今もご自宅に?」
「いえ、1泊だけさせて住んでいる部屋に返したのですが、今度は娘が『私が何とかする』と言いだして、昨日も学校が終わってから彼女の部屋に行って夜遅くまで片付けをしていたみたいで」
「『何とかするって』あかねちゃんにコネや繋がりなんて無いでしょ?」
マスターからの問い掛けに力なく笑う父親はコーヒーを一気飲みして溜息を吐く、鑑定魔法で彼の健康診断を行うと疲労の蓄積と睡眠不足というのが分かる。お代わりを注ごうとすると店のドアが開く
「邪魔するよ」
「邪魔するんなら帰って~」
「ふざけてないで、いつものを頼む」
劇団ララライの代表である金田一がカウンター席に座り、近くにいた黒川に頭を下げて挨拶をした。ギリギリまで注がれた熱々のブラックを目の前に置くと香りを楽しむ前に飲み干してしまう
「黒川さんいったい何があったんですか?」
「えっ?」
「少し前にアイツから電話があって”家庭の事情でしばらく劇団を休みます”って」
「「は…いっ?」」
中年太りしたオッサンの言葉に2人の子持ちは目が点になり同じ言葉でハモってしまう。金田一はその姿を見て首を傾げていた
「あの馬鹿が!」
「最悪だな」
「申し訳ございません」
店内では三者三葉の言葉が並んでいた。当人たちから話を聞いた金田一はお代わりを要求し2杯目も一気飲みしてしまう。そして理はテーブルに肘をついて頭を抱え込んでしまった
「(『視野共有』発動)」
狡嚙はもしもの時に備えて担ぎ込まれた際にMEMちょに対して『視野共有』を施していた。助けないと言っていたが彼女が再び誰かに迷惑を掛けるのではないかと思い保険をかけた。何かをやらかしたら119番通報して病院へ引き取ってもらうつもりだった
「(リビングっぽいな、多少汚れているが人が住むには問題ない…はい?なんでここに?あかねちゃんが居るの?)」
スマホの時計を確認すると13時を過ぎたばかりで学校はまだ昼休みか5時間目の授業が始まる頃である。それなのにMEMちょの視線の先には制服姿の黒川あかねが存在している
「(『視野共有』だと声が聞こえないんだよミスったな)」
このことを目の前にいる2人言うことは出来ない、金田一は彼の方を向いて
「黒川さん今日はアイツと話した方がいい」
「そうですね」
代金を支払った理は足早に店から出て行った。それを見送った2人は互い溜息を吐いて今夜起きるであろう大騒動に彼の身を案じるのであった
あかねちゃんがヒス系女子になっている気がします
オッサン3人は彼女の行動に頭を悩ませます
感想ありがとうございます
誤字訂正もありがとうございます
これからも頑張ります
次回作を作る時に途中まで原作と同じ流れだったら、すっとばしても良い?
-
OK 原作を知ってるから問題無い
-
NG やっぱり最初から全部読みたい