【完結】転生した魔法使いが金髪の双子を育てる   作:大気圏突破

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ジャパンカップの本命は


世の中はプラスとマイナスで出来ている

「オヤジもう1杯だ!」

 

 

 夜の9時を過ぎた頃、寂れた屋台で1人の男が飲んだくれているた。歳は40半ばで髪の毛もボサボサで無精ひげを蓄えている。屋台に来る前から酔っていた様子で店主も注いでいいのか迷っている

 

「何してんの五反田さん」

 

 暖簾の後ろから声を掛けられるが彼は振り向くことはせずにコップを強く叩きつけると口を開き

 

「何の用だ?島」

「屋台に来る理由なんて1つしかないでしょ」

 

 

 五反田から島と呼ばれた男性は彼の隣に座り安い日本酒を頼み煮込みも注文する。この2人は同業者で肩書は映画監督であるが現在共に開店休業中の身である

 

「お互いに暇だとやることが無いですね」

「お前と比べるな、別にこっちはスキャンダルを起こした訳じゃねぇよ」

 

 

 同じ肩書きだが格は島の方が上で数々の映画賞を受賞しメディアでも取り上げられていた有名監督だった。対する五反田は低予算でそれなりのクオリティのモノを作る云わばコスパの良い監督なのだが便利屋程度の扱いで『ノミネート止まり』と揶揄されている

 

 

「いいのか?こんなところにいて」

「もういいんです。もう何も無いので」

「お前のことは擁護しない。身から出た錆だよ」

 

 

 互い暇と言われているが現状が違う。五反田は1つの作品を撮り終えたばかりだが編集と主演女優の事務所と揉めていて進行が止まっていて、ここさえクリア出来れば後はトントン拍子で進むのだが難航している。対する島は彼が口にしたようにスキャンダルを起こしてしまい妻から離婚届を突き付けられた

 

 

「ったく女優に手を出して週刊誌に持ち込まれるって、昭和かよ」

「グラサンを身に着けた怖いパンチパーマのお兄さんもいましたよ、ヤクザ映画を作るときには是非キャスティングしたい逸材でしたね」

 

 

 島の女癖の悪さは業界内でも広まっていて、彼と共に一晩を過ごした女優でお気に入りになればスターダムが約束されていると言われている。もちろん避妊具を装着していたが100%ではなかった。慌てた彼は子供を堕ろすことを強要したが母性に目覚めた女優は産むことを決意し、島に養育費を請求した。しかし彼は要求を突っぱねてしまったせいで女性側から『じゃあこれまでのやり取りを持って行くね』と通知し、全ての連絡手段をブロックした

 

 

「最後はゲームアプリで懇願するって外から見てて滑稽だったよ」

「大御所からも言われましたよ、”やってもいいが男なら最後まで責任を持て”って」

 

 乾いた笑い声が虚しさを更に演出してしまう

 

 

「どうするんだ?」

「子供部屋おじさんに心配されるほど落ちぶれていませんよ、メガホンを握るチャンスがあれば返り咲くつもりです」

「あるかな?そんなチャンスは」

 

 日本酒を一気飲みした五反田は鈍くなる思考の中から言葉を選ぶが段々と億劫になってくる。店主が冷たい水を差しだしアルコールを薄めることをすすめる

 

 

「『星野アイ』ってご存知ですか?」

「星野…アイ?セクシー女優の名前か?」

「15年ぐらい前に未成年で子供を産んだことを隠したアイドルの」

 

 

 島の口にした言葉に彼は古い記憶を呼び戻すように当時のことを思い出していた。アイドルのセンターが極秘出産したことを週刊誌が報道したことで大炎上し、所属していた事務所とグループが消滅した

 

 

「その星野アイがどうしたんだ?」

「実はSNSのダイレクトにこんなのが」

 

 その文面を見せられた五反田は明らかに怪訝な顔をして、島のことを睨むのであった

 

 

 

 

 

 

 黒川あかねがMEMちょの介護を始めて翌週の土曜日、喫茶店のマスターである狡嚙は待ち合わせ場所のベンチで座りスマホを弄っていたが、画面ではなく『視野共有』にてMEMちょの視ているものを観察していた。彼女の隣には黒川あかねが座りテーブルに広げたノートには『MEMちょ復帰計画』と書かれていた

 

・アルコールや薬に逃げない

・残っているファンを大切にして少しずつ増やす

・毎日お風呂に入る

・スキンケアを怠らない…etc

 

 

「(これで復帰出来たら、どんだけ楽か)」

 

 あかねの父親が店を出てからも定期的に『視野共有』で視ていたが平日の朝から1日中や昼過ぎに彼女がMEMちょの部屋に訪れ世話をしているが、日を追うごとに彼女の顔が疲弊しているのが分かる。しかも夜遅くまで電話で話しているので睡眠不足も否めない

 

 

「マスターさん」

 

 声を掛けられた狡嚙は顔を上げると普段とは違う衣服を着用した吉祥寺が立っていた

 

「すいません遅れてしまって」

「女性を待つのが男の甲斐性ですよ」

 

 

 お分かりの通りデートである。彼女が彼を誘うシーンは割愛させてもらったが双子たちが間を取り持ってくれたおかげで今日に至ることが出来た。吉祥寺はデートが決まってから美容室で髪を整え、タンスの肥やしになっていたデートの服を洗濯機で洗い汚れが無いことを確認した

 

 

「しかし編集さんも意外なモノをプレゼントするんですね」

「えぇ、そうですね」

 

 チケットの出所を聞かれアビ子からのプレゼントではなく、自身の担当編集がくれたことにした彼女は冷や汗をかきながら彼の質問に答える

 

 

「今まで行ったことはなかったんですか?」

「子供たちが小さい頃に2回ほど、アクアがマンボウと睨めっこしてましたね」

「想像出来ますね」

 

 

 目的地までの道のりを話しながら歩く2人は、何も知らない部外者から見れば結婚後もデートを楽しむ夫婦のように見えるが、共に独身で吉祥寺に至っては人生初のことなので心拍数は常に高い数値で推移している。彼女には目標があった1日が終わるまで彼と手を繋ぐか腕を組んで歩くことである。他者からすれば小さなことではあるが吉祥寺にとっては月面着陸並みに大きな1歩だ

 

 

「もう少し先ですね」

 

 目的地まで300メートルまでと書かれた看板を見つけた彼の言葉に頷いた彼女は隣を歩き、狡嚙の手を握ろうとするが周囲がざわついていることに気付いた。目を凝らしてみると水族館の出入口のゲートには人だかりが出来ていて溢れている状態だった

 

 

「何かあったんですか?」

 

 彼が近くの男性に声を掛けて状況を確認していた

 

「設備トラブルで飼育していた魚が全滅したんだって、ったくせっかく仙台から来たのに」

「マジですか」

「こんなところで嘘を言ってどうするよ、ゲートで係員が説明しているから聞いてきたらどうだ」

 

 

 最悪の展開だ!今日のデートのメインである水族館が開いていないことに吉祥寺は雷に打たれたような感覚に陥ってしまい思考回路がショート寸前になってしまう

 

 

「先生っ、先生ッ!大丈夫ですか?」

「っえ、ハイッ!えっと」

 

 狡嚙の声に意識を戻した彼女は狼狽えていた。せっかくのデートが台無しになってしまった。やっぱり私はフィクションで恋愛モノを描いているのがお似合いだと思っていると

 

 

 

「お時間があるなら、訪ねたい場所があるんですが一緒に行きますか?」

「えっと、その…喜んで」

 

 それは渡りに船であった!終戦・お通夜モードの吉祥寺にとってここで解散するのは悪手であった。肯定した彼女の反応を見てタクシーを呼び止めた彼は運転手に行き先を告げて、2人は近い距離で座った

 

 

「どこに行くんですか?」

「古い知り合いが運営しているところでして、中々会う機会が無くて挨拶の1つでもしようかと」

 

 その言葉から何かの施設だと推察する。そもそも彼が喫茶店のマスターになる前の経歴については多くを語らず、双子たちを引き受ける前は旅をしていたぐらいしか知らない。2人は目的地までの道のりを世間話をしながら時間を潰した

 

 

 

 

「パパたち大丈夫かな?」

 

 アクアがアビ子宅でアシスタント業務をしているのでルビーは以前料理を習いに来ていた2人と遊びに出ていた。騒動の前は仕事三昧だった不知火フリルは、休みの日に同級生と遊ぶことが乏しかったのでウキウキとしている

 

 

「しかしお父さんと吉祥寺先生をデートに行かせるとは、ルビーさんナイスです」

「お兄ちゃんから聞いたんだけどアビ子先生も2人の関係にヤキモキしていたみたいで」

「ええな〜水族館デートやなんて、どこの場所なん?」

 

 

 みなみの質問にルビーが答えるとスマホ画面を見ていたフリルが険しい顔をしていた

 

「ねぇルビーさん、2人が向かった水族館ってここよね?」

「うん、そこだねチケットにも…」

「今日臨時休業になってるわよ」

 

 

 彼女の発した言葉にルビーは驚く表情を見せるが、すぐに元の顔に戻った

 

「大丈夫、パパたちなら上手くやると思うよ」

「何でそう思うん?」

「何年パパの娘をやってると思う?大丈夫2人ならトラブルも楽しんでいるよ」

 

 

 根拠の無い自信だがルビーには何故か今回のデートが上手くいくと確信していた

 

 

 

 

「アクア君!」

「なんですか先生?」

「雇用主としてはアシスタントの福利厚生に努めるべきだと思いませんか?」

「いつから雇用関係になったんですか?」

 

 鮫島家にて原稿を終わらせた2人はテーブルを挟んで向かいあいながら言葉を交わしていた。彼が訪れる前に殆どのことが終わっていたので、アクアがやったのは簡単な修正ぐらいだ

 

 

「とりあえず甘いモノでも食べに行きましょう」

「話を聞かないなこの雇い主は」

「ここに行きませんか、カップル限定のジャンボパフェが期間限定なんです」

「こんなに食べれませんよ」

 

 広告に写るパフェのサイズを見て辟易するアクアだがアビ子をニッコリと笑い

 

「大丈夫です。私1人でもいけるサイズなので」

「さいですか」

「その前にこれを売りに行きましょう!」

 

 アビ子は戸棚から複数枚のカードローダーの束を出してきた

 

「ポケモンカード?先生って…」

「やりませんよ!ルールなんて知りませんし」

「じゃあこれって」

「投資半分遊び半分で買ったんですが買取価格が落ちるって噂があるので捌きます。勿体ないって言わないでくださいね。売ったお金を有意義に使った方が良いじゃないですか」

 

 

 仕事着から外出用に着替えた彼女は彼の手を取って街に繰り出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「これで全部?」

「………うん」

 

 

 テーブルの上にはアルコール類が入った缶や瓶に薬や刃物類が並んでいて、あかねはMEMちょから自身を傷つけるモノを遠ざける為に部屋にある危険物を提出させた

 

 

「ねぇ、少しだけなら」

「ダメよ近くにあったら逃げちゃうでしょ?私もMEMちょのことを思ってやっているんだから」

「うん、でも通帳やカードは」

 

 更に追加で購入させない為に彼女の財産を預かることにした。従ってMEMちょの手元には財布に入っている最低限の金額しかない。しかも中身のチェックとレシートの提出が義務付けられているので隠れてアルコールや薬を買うことも出来ない

 

 

「大丈夫、これも全部MEMちょの為だから」

「そうだね、私の為にあかねが頑張ってくれるもんね」

 

 

 年上の女性は震える手を抑えながら、頬のコケた彼女のことを見つめていた

 

 

 

 

 

 

「ふれあいパーク?」

 

 

 タクシーを降りた先に見えたのは草木が生い茂る牧場のような施設だった。看板の絵にはオーバーオールを着たおじさんと馬が『ようこそ』という札を持っている

 

 

「乗馬も出来るアニマルセラピーの施設ですよ」

「知り合いって?」

 

 

 吉祥寺が彼に問い掛けようとするが事務所から1人の男性が駆け寄って来る。自分の父より若そうに見えるが顔の皺や日焼け具合をみると、それなりの年齢なのが見てとれる

 

 

「シンちゃん、どうしたんだ急に?」

「時間があったから挨拶に来たんだよ」

「そうかそうか、そこの女性は…おっまさか遂に独身卒業したのか?」

 

 

 パワフルな物言いに彼女はたじろぐが、狡嚙が正しく説明したことで誤解されることはなかったが少しだけ寂しい気持ちになってしまう。そして彼の案内で3人で施設を回ることになった

 

 

「引退馬支援?」

「登録を抹消された競争馬がどうなるかご存知ですか?」

 

 その質問に吉祥寺は顎に手を当てて考えるが答えが浮かばない

 

「1番最高なのは種牡馬入りすることですが1部の選ばれた精鋭にしかなれません。あとは高校・大学の馬術部に送られたり警察の騎馬隊に入るのも稀にいます。ですが年間8000頭近く産まれるサラブレッドの大半が行先不明になります」

「じゃあここは?」

「云わば最後の砦ですね。ここもシンちゃんが若い頃に支援をしてくれたことで今の状態を維持出来るようになりました」

「マスターさんがそんなことを…」

「あそこに1頭いますよね?」

 

 男性の人差し指の先には、鹿毛の馬が生えている草を食べていて時より顔を上げて周囲をキョロキョロしたあとに再び草を食べるために頭を下げる

 

 

「あれの父はトウカイテイオーなんです」

「それってアニメにもなった…じゃあ活躍」

 

 首を横に振って否定のアピールをした彼の目は力なく寂しそうに見えた

 

「ぜんぜん活躍どころか地方でも惨敗続きで廃用寸前だったのを私が引き取りました。ルドルフから続くテイオーの血を持つ馬は極僅かにしか残っていません」

 

 時代が悪かった。テイオーの父シンボリルドルフは7冠馬で鞍上もヤバい本を出版するレベルで名を残した馬だったが、海外からやってきたサンデーサイレンス・ブライアンズタイムやトニービンの産駒が猛威を振るった。テイオーは父よりも2頭多くG1馬を輩出したがスピード競馬全盛期の時代であり世間からの評価は厳しかった。

 

 

 

「ヨっちゃん?ヨっちゃんだよね?」

 

 ふと後ろから懐かしい声が聞こえ振り向いた

 

「おばさん?それにおじさんも」

「やっぱり!ヨっちゃん、どうしたのこんな場所で?」

 

 そこにはかつて喫茶店を営んでいた夫婦が手を振って立っていた。彼女たちは駆け足で吉祥寺たちの所へ向かい久々の再会に喜んだ

 

 

「そう水族館デートが」

「でもこうやって2人会えたので」

 

 吉祥寺と老女は併設されているカフェブースで腰を下ろして談笑し、男たちは外に出て周囲を散策しながら馬談議に花を咲かせている

 

 

「ガミちゃんのこと好きなんでしょ?」

「っう、ゴハッ!んが」

 

 突然のことに飲んでいたコーヒーが気管支に入ってしまい咽て咳き込んでしまうが液体を口の中から放出するのは踏みとどまった

 

 

「大丈夫?」

「おばさん何をいきなり」

「あら?違うの、デートに誘うぐらいだから深い関係になっていると思って」

 

 朗らかな笑顔を浮かべる老女に吉祥寺は落ち着きを取り戻す

 

「好きか嫌いかで言えば、好きなんですが」

「LOVEではなくLIKEなのね」

「でも、マスターさん達と一緒に過ごすことが出来れば良いなって思うようなって」

「良いんじゃないのそれで」

「えっ?」

「好きな人と同じ屋根の下で暮らしたいな、毎日顔を合わせたいなって思ったら動かないと、ガミちゃんって意外に女の子に対して初心な面を持ってるから、口に出して言わないと進まないわよ」

 

 

 年上からの恋愛アドバイスにタジタジになる吉祥寺だが老女は更に続け

 

「婚姻届の証人欄に名前を書かせてね!」

「善処します」

「それだと何も出来ない政治家と一緒よ」

 

 2人の会話が終わる頃に男性陣が帰還した。狡嚙は吉祥寺に乗馬を勧めたが首を振ってしまったので、老夫婦を残して彼らはパークの外に出て帰宅の路についた

 

 

「ありがとうございます」

「別にお礼を言われるようなことは何も…」

 

 タクシーの中で話す2人だが行きよりも距離を詰めて肩が接触している。彼と彼女は手の甲が触れ合っていたが、吉祥寺の方から軽く握った

 

「マスターさんが誘ってくれなければ、おばさんたちに会うことも無くて」

「なら最初に誘ってくれた先生のおかげで向こうに行く口実が出来たので、手柄はそっちですよ」

 

 恩の押し付けあいにタクシーの運転手は溜息を吐いてしまう。イチャイチャするなら他所でやってくれである

 

 

「今度はこっちから誘いますので、今日のリベンジをしましょう」

「楽しみにしてます」

 

 2人を乗せたタクシーはそれぞれの自宅に向かい1日を終わらせるのであった。




前回の反響が結構すごくて、中には心臓にダメージを負うものがありましたが気にせずに執筆していきます

感想ありがとうございます。
誤字訂正もありがとうございます
これから頑張ります

次回作を作る時に途中まで原作と同じ流れだったら、すっとばしても良い?

  • OK 原作を知ってるから問題無い
  • NG やっぱり最初から全部読みたい
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