【完結】転生した魔法使いが金髪の双子を育てる 作:大気圏突破
この話の根幹に至る部分は少し前まで遡る。黒川あかねの名誉が回復し、店内で彼女の父親と世間話を終えた後に知り合いから電話が掛かってきた
「狡噛、ちょっと今話せるか?」
「阪井先生!」
相手は大井競馬で調教師で彼とは長年の付き合いがある人物で、現役時代は中央にスポット参戦すると根岸ステークス2連覇と新潟大賞典を4勝した名ジョッキーだった。落馬による怪我が原因で41歳の頃に鞭を置いて調教師の道に進んだ
「何の用ですか?」
「20歳以上で無職の知り合いっているか?」
「変な条件を聞いてきますね」
詳しい話しを聞くと、中央で活躍する彼の息子に専属のバレットを雇おうという話で、土日の競馬開催中に身の回りのことを頼める人材を所望している
「今すぐに必要なんですか?」
「いや秋の京都開催を目処を考えている。それまではウチで基礎を教えるつもりだ!」
「確かに寛人君には、そろそろ必要だね」
「一応、他のところにも声を掛けるから、もし見つかったら早めに連絡を頼む」
「分かった」
この時はこれで話が終わったが、前日にMEMちょを保護してから彼の脳内ではバラバラになっていた紙が1枚の設計図に変貌しつつあった。
「あの~バレットって何ですか?」
当然の反応だ!日常生活で使う単語ではないし競馬ファンでも知らない人は多い、頭にクエスチョンマークを作る彼女に、詳細な説明をする為にYouTubeで佐賀競馬のチャンネルを開くと、元中央騎手のパドック解説が始まっていた
「ここにレースで騎乗するジョッキー達がいるだろ?彼らの着ている勝負服の用意やヘルメットに色分け帽を装着したり、あとは名前の後ろに56や54ってあるだろ?」
「これってなんなのパパ?年齢?」
娘からの質問に得意気になりながら口を開く
「これは斤量と言って平たく言えば体重だけど、ジョッキーの人達って基本が48キロぐらいだから勝負服の下に重りを入れて調整するんだ!」
「その準備や支度をするんですね」
「下働きだな」
唐揚げを頬張るアクアにルビーは再びツッコミを入れるが今度は華麗に回避されてしまう
「でも慎二さん、これがどう関係してくるのですか?ただの仕事の斡旋では?」
「まぁこれは収入の確保の1つで本線は別にある。導き出してくれたのはアクアのおかげだ!」
「俺?別に何も…」
今度は息子の方に視線が集中するので父は今朝貰った紙を机の上に置いた
「このアニマルセラピーって、動物に触れ合って精神的な治療をすることですよね?」
「そう、2人で入籍前に行ったでしょ」
「あそこって、そんなこともし…」
「していない!」
その言葉に全員がコントようにズッコケるようなアクションをしてしまい、ルビーとMEMちょは床に箸を落としてしまった
「3人が病院に行ってる間に電話で向こうと話していたんだが、あそこは人手の他に実績を求めている」
「アニマルセラピーとしての実績ってこと?」
アクアの問い掛けに父は頷き、詳細を語った
「パークの職員として仕事をしつつ、動物たちと交流を深めてアルコール依存の治療を行うってことだ!まぁこれだと7日勤務になるから、これから交渉して平日に休めるようにする」
「パパって変なところに交流があるんだね!」
「この話を受けてみるかい?」
投げかけた言葉にMEMちょは少し考え込んでしまう。昨日助けてもらって24時間もしないうちに自分の治療や仕事の段取りまでを用意してくれるなんて、しかも身内ならまだしも完全に赤の他人である自分に対して何でここまでしてくれるのか分からない
「どうして?」
「ん?」
「どうして……こんなことを?私は…」
感情の整理がごちゃごちゃになってしまい、上手く言葉を紡ぐことが出来ない。言いたいことは山ほどあるのに頭が動いてくれない
「別に!」
「えっ?」
「こっちがやろうとしているのは、古い付き合いある友人を助ける為で、主役は君ではない!」
あくまで道を作るだけで渡る渡らないは本人次第である
「まぁ断れば、バレットの話は別の知り合いに…」
「お願いします!」
テーブルに額を押し付ける彼女の答えを聞くと、彼は軽く息を吐いて湯呑みに口をつける
「分かった!必要な交渉はこっちでやっておく、あとはそっち自身の準備をすることだ」
「準備って?」
「とりあえず引っ越しは必須だ!通勤通院するのに時間は掛けたくないだろ?それに寝られないうえに今のままなら、あかねちゃんの突撃もある」
「明日から取り掛かります」
とりあえず大雑把な話はまとまった。晩御飯を食べ終えた面々は片付けを済ませると各々の部屋に戻る。なお食器洗いは居候の身であるMEMちょが率先してやってくれた
「ふぅ」
妻や子供たちの入浴が終わり最後の1人になった彼は疲れた体を解しながら湯船に浸かる、本来なら掛け湯をするのがマナーだが最後なので関係無い。道は作った!ここから先はMEMちょ次第で助かる・助からないは本人のやる気に掛かっている。華々しい芸能の世界から転身に戸惑うかもしれないが頑張ってもらうしかない。ここが分水嶺なのだから
「シャンプーとボディーソープ切れてるので替えを持ってきました」
「ありがとう。詰め替えておくから置いといてください」
愛しい人に礼の言葉を述べると彼女が洗面所から出るのを待つが、ドア越しに見えるシルエットが殆ど動かない
「どうしましたか?」
その問い掛けに返事はなく首を傾げているとドアが開き、一糸纏わぬ姿で頼子が入ってきた。プロポーズの日に互いの体を求めあってベッドを揺らしているので裸を見る・見せることに抵抗は無いが突然のことに驚いてしまう
「夫婦のスキンシップです」
「もう入ったでしょ?」
「1日1回だけって誰が決めましたか?」
有無を言わさずに彼女も湯船の中に浸かり夫の胸板に背中を預ける形になる。根負けした彼は腕を前の方に包み込むように廻して軽く抱き締めるようにする
「MEMちょさんは大丈夫でしょうか?」
「信じるしかないよ!」
「そうですね。私たちが出来るのはここまでが限界ですから」
両手を合わせている上から自身の手で覆うように重ね合わせると妻は全体重を夫側に乗せてきた
「甘えん坊」
「夫の前で甘える妻は嫌いですか?」
「好きだよ!」
「私も大好きです」
その後は2人で互いの背中を洗い、泡を流すと彼女が唇を重ねてきた。絡み合う舌で愛を確かめ合うように動かすと1つの『火』は『炎』のように燃え上がった。風呂からあがり体を拭いて髪の毛を乾かすと寝室で夫婦が1つとなり音や声が漏れ出ている。自室や客間で寝る双子たちとMEMちょは耳栓・イヤホン・ヘッドホンを装着し朝を迎えるのであった
「あのさ、夫婦仲が良いのは別に構わないけど」
「少しは配慮はしてほしいな」
「ラブラブなんですね」
結局のところ両親は夏の暑さにも負けない情熱的な夜を過ごしたことで2人して寝坊した。朝食はアクアたちが台所に立って用意してくれた。夫婦は顔を赤くして作ってくれた料理を食べながら今日の予定を伝える
「俺とルビーは、MEMちょの部屋に行って部屋の片付けと引っ越しの準備」
「こっちは大井とパークの方に行ってきて話を伝えに行ってくる」
店のドアに臨時休業の看板を表にぶら下げると各々が目的の為に動き出した。アクアの監督によりMEMちょ宅の引っ越し準備の作業はテキパキと進み、部屋には梱包された段ボールが次々と積まれていく、両親は調教師に挨拶を済ませバレットの件を伝えると二つ返事で了承してくれた。また『ふれあいパーク』の方も同様に首を縦に振ってもらい、着実に彼女の進む道をコンクリートで舗装する作業に従事した
「明日は私とMEMちょさんで部屋を探しに行きます」
「よろしくお願いします」
日曜日が終わるまで4時間を切り1日かけて仕事を終わらせた面々は疲れ果ててしまい、父親も料理を作る気力もなく帰宅するときに購入したピザやフライドチキンをテーブルに並べて晩御飯となった。MEMちょの新居が決まるまでは狡嚙家にお世話になる予定だ
「大井の方は次の開催が2週間後だから、それまでには終わらせたいな」
「本当にありがとうございます」
頭を下げる彼女だが、彼は構わずに
「ここから先は干渉しないよ、もう25歳なんだろ?」
「はい」
「ところで何で年齢を誤魔化していたの?」
チーズを伸ばしていたルビーは気になっていたことを尋ねると四捨五入して30歳のMEMちょはモジモジとしながら言いよどんでいたが
「別にサバを読んでいても構わないだろ?」
「お兄ちゃん」
「芸能の世界には嘘がつきものなんだ。公称と実年齢が違うことがあっても驚かないよ」
アクアの言葉に理由を口にするチャンスを逃した彼女は手元のピザを再び口にする
「だけど、今度からは嘘のつけない日々になるから気を付けて」
「うん」
それはアクアなりの激励の言葉だったかもしれない。運ばれてきた当初は人生に悲観した表情を浮かべていて、この世の全てを呪うような顔をしていたが、1日を経て成長した彼女の顔にそんなものは存在しなかった
土曜日にもう1本更新出来るかな?MEMちょ編が終わったら次の展開というか主軸をどうしようか考え中です
感想ありがとうございます。
誤字訂正もありがとうございます
これからもよろしくお願いします。
次回作を作る時に途中まで原作と同じ流れだったら、すっとばしても良い?
-
OK 原作を知ってるから問題無い
-
NG やっぱり最初から全部読みたい