【完結】転生した魔法使いが金髪の双子を育てる 作:大気圏突破
双子たちの父親になって約2年が経過した。金色の暴君が3冠を達成し有馬記念も制し翌年の阪神大笑点で世間を驚かせ、狡嚙は天皇賞春でビートブラッグの単勝と馬単で大儲けすると住み家を変更した。アクアたちの幼稚園の送迎が楽になるという理由だが場外売り場が近いのも魅力だった。
「知ってしまったんですね」
「あぁ君たちが話しているのを聞いてね」
風呂場でアクアの頭を洗いながら狡嚙は頷く
「星野アイ、苺プロ所属のアイドルでグループの名前がB小町だったな」
「そうです。僕とルビーはアイの子供です」
「あの騒動が起きた後に事務所は潰れ、所属していたメンバーと社長は表舞台から消えた。事務所があった場所に行ってきたけど何も無かった」
頭部に残った泡を洗い流すと彼を抱き上げるように湯船の中に入る。なおルビーは未だに狡嚙に心を開くことはなくアクアの傍でベッタリとしていることが多く、男同士の会話が出来るのは風呂場がメインである。浴室には彼女専用の小さい浴槽を注文し男たちが出た後に彼が準備をするのが日常になっている
「世間のバッシングに耐えかねてアイドルを辞めて親子で3人暮らし」
「見切り発車でした。でも」
「田舎ならまだしも、都内で行政にも頼らず戸籍無しの双子をシングルマザーが育てる。ハードモードどころかルナティックやカオスレベルだぞ」
狡嚙の言葉に頭を下げてしまうアクアだった
「奇跡が起きて助かったんだ!それに見つけた時にルビーちゃんを守ろうと頑張ったんだ立派なお兄ちゃんだよ」
「ありがとう」
褒められ風呂とは違う温かさに頬を赤くさせるアクアを膝の上に乗せると
「今も星野アイや苺プロの関係者を追っている記者は居ないと思うが、君たちの身を守る為に俺の苗字にさせた」
「ルビーは最後まで嫌がったのは?」
「母親との繋がりを切りたくなかったんだろう」
彼の言うようにアクアとルビーは星野姓から狡嚙に変更された。いつの時代もお役所の仕事は雑なので考えたストーリーが採用された形となった。
「なぁ1つ聞いていいか?」
「なんですか?」
神妙な顔をする養父にアクアは緊張するが
「B小町の『B』って何だ?」
「えっ?」
「『小町』は分かるよ、美しい人を指す古典的な表現だけど『B』ってなんだよ?『A』には劣りますってことか?」
「『beautiful』じゃないんですか?」
絞り出したアクアの答えに狡噛は首を傾げる。どうやら腑に落ちない様子だ
「それだと『美しい』が被るだろ?」
「じゃあ『Believe』は?」
「『信じる』か…皮肉だな、星野アイを信じたファンや他のメンバーは彼女に裏切られてしまったって、今思えば当たりかもしれないが」
B小町の『B』とはいったい何だろうか?多分原作者も理由なんて考えていないと思う。あんな終わり方で幕を閉めるんだから適当に名付けたかもしれない。読者にそっぽを向かれる終わり方をすると今後の執筆人生に悪影響しか残らない。事務所がB小町頼みの運営だったから自転車(Bicycle)操業の『B』なのかもしれない
2人が寝息を立てている頃、狡噛はパソコンを立ち上げて週末のレース表とにらめっこしながら馬券の検討をしていた。
「大きい配当が出るのはミナレットが出てくる数年後のヴィクトリアマイルか、しばらくはゴルシとジャスタウェイとの付き合いになりそうだな」
今後のことを検討していると遠くの方から物音が聞こえ、足を運んでみると
「あっ……」
「ありゃりゃ!」
パジャマ姿のルビーがプラスチックのコップを落としてしまい絨毯にオレンジジュースの染みが広がっていた。周囲には拭こうとしたのかティッシュが散乱している
「ごめん……な、さい喉が…」
今にも泣きそうな顔で謝る彼女はこれがきっかけで怒られて捨てられてしまうのでは?と思い感情が追いつかなくなっている
「怪我は無い?」
その問い掛けに涙目になりながら頷くルビーは服の裾を強く掴んで皺にしている。狡噛は優しく頭を撫でると
「ルビーちゃん、俺と話そうか?その前に着替えてきてね」
「えっ…?」
「ドライブに行くから玄関で待ってて、アクア君は起こさないでね、2人だけの内緒のドライブだから」
その言葉に彼女の瞳から光が消え絶望の色に染まり、ゆっくりと部屋に向かった。
「洗浄!」
彼は指を鳴らしジュースで汚れた部分を綺麗にすると、ネットショッピングから複数のモノを購入した。
「(もう終わりなんだ、私がこんな子だからあの人もママみたいに棄てるんだ!)」
玄関に立つルビーはこれまでのことを振り返っていた。前世では重い病気で入院し両親は最期まで見舞いに来ることは無かった、そして推しのアイドルの娘に生まれた時は天にも昇る気持ちで歓喜した。毎日が推し活であり憧れのアイドルと同じ屋根の下で暮らせることに対して神に感謝したが結局裏切られてしまった。産まれたときに見せてくれた涙は偽物だったの?
「(そうだよね所詮は他人の子供なんだもん、愛情なんて…あれ?そういえば)」
彼女はふと考えてしまう。”自動車持ってないよね?”自転車に乗ることはあっても彼が車を運転しているところ見たことがない、買い物も近所で済ませ移動も公共交通が主である
「お待たせ!じゃあ行くよ」
ラフな格好で現れた狡嚙は、近所のコンビニへ行くような気軽な感じでルビーに声を掛けて2人で玄関の外へ歩いていった。マンションから少し離れた街灯ランプが殆ど無い道を歩くと
「ここなら大丈夫だな」
彼は何も無い空間に手を伸ばすと小さい声で呟く、すると右手にサドルが装着された大きな竹箒が握られていた
「(えっ箒?持ってなかったよね?いや違う”取り出したんだ”でもどこから?)」
いきなりのことにルビーの脳内はパニックを引き起こし、頭から煙をモクモクと噴き出しそうになっていた。
「やっぱ雰囲気が大切だよな!ジブリやホグワーツよりこっちが好きだけど」
「えっえぇ、なに?」
再び彼が右手を横に突き出すと赤い紋章のようなモノが浮かび上がる
「プリーズ」
その言葉を発した瞬間に浮かび上がっていた紋章が狡嚙を通り過ぎるように包み込むと、普段着から赤と黒を基調としたローブを身に纏っていた。既にルビーの脳は熱暴走状態で理解することが出来なった
「そうだなルビーちゃんも着替えるか?」
「えっきがえる?」
彼が口にした言葉の意味すら出来なくなり目が点になっていると指を”パチンッ!”と鳴らし、着ていた服がジブリ映画に登場する魔女の恰好となり頭にはリボンも飾られている
「おジャ魔女やプリキュアもいいけど、こっちの方が似合ってる」
言っている言葉の意味が分からない。この人はいったい何者なの?何で私は外でこんな格好をしてるの?私は夢を見てるの?頬っぺたを抓れば目が覚めるの?
「いた…い」
試しに自分の頬を指で抓んでみたが痛かった。じゃあやっぱりこれは現実ということを理解したルビーだが目の前で起きていることに対して理解が追いつかない
「じゃあドライブだ!」
狡嚙は呆けた顔をするルビーを抱えてサドルに乗せると箒に跨りフワリと”宙に浮いた!”そして電線に接触しないようにゆっくり上昇し、星空が輝く夜空のドライブが始まった
「(何、えっ?っえっぇ~、なんで箒で空を飛んでいるの?)」
「ヒャッホー!」
混乱・パニック・アンビーバブル‼今の状況を表現出来る脳内の単語帳から語群が無くなり、ルビーは虚無の境地にいた。転生前から合わせて約14年の人生で”空を飛びたい”と思ったことは何度もあった。病室のベッドから窓の外を眺め鴉が羽ばたくのを見て想い焦がれたこともある
「どうルビーちゃん?夜空のドライブは?」
自分に問いかけているが答える余裕はない、彼のローブに必死にしがみついて落ちないように最大の力を入れて握っている。しかし狡嚙は笑いながら
「大丈夫、サドルと密着させてあるから落ちないよ」
もうこれは現実でも夢でもない自分は既に2回目の死を迎えていたんだ!目を閉じて次に開いた瞬間に段ボールの中でアクアと共に冷たくなっている”星野ルビー”がいる。最期の思い出に摩訶不思議なことが起きている。じゃあ好きにしてもいいよね?
「どこに行きたい?」
「レインボーブリッジを潜って‼」
ルビーの要望に狡嚙は意気揚々と答え箒を加速させた。上空から見下ろす橋は車たちが列をなして走行している。水面ギリギリを飛行し水飛沫をあげながらジェットコースターが回転するように宙返りをした
「認識阻害を解くから車の運転手に手を振るよ」
「うん!」
指を鳴らし阻害魔法を解除すると、赤い髪が特徴的な女の子が乗る車に近づいて2人で窓に向かって手を振り、ルビーはピースサインをした
「ママ!外に人が…」
「そんなことあるわ……えっ?箒で……飛んでる、アナタ‼魔女が…そとに」
女の子は母親に狡嚙たちのことを伝え指を向けて驚き、彼女も娘と同じように口をポカンと開けて呆けていた。運転する夫は震えると自分の頬を抓り痛いことを実感した。箒に乗った彼等は3人に向かって”バイバイ”と手を動かして再び阻害魔法を展開し上昇していった
「たのし~、ねぇもっと面白いことやって~」
上機嫌なルビーはテンションの針がブチ抜けていて今を楽しもうとしていた。狡噛も彼女が笑うところを初めて見て喜ばせようと奮起する。右手に拳を作り魔力を集中させ輝く光球を生み出すと
「龍星群!」
その日、都内ではおびただしい数の流れ星が観測された。天文学者は”こんなことありえない”と狼狽え、世界の破滅を訴える馬鹿もいた。友達と喧嘩した少女は仲直りできることを願い、深夜に働く労働者は”何か良いことがあるかもな”と煙草をふかし、1歩を踏み出すことが出来なかったカップルの男はプロポーズを決行し受け入れてもらった
「きれい~」
流れる星を見ながらベンチに座り自販機で購入したココアを飲むルビーは満足していた。もう思い起こすことは無い最愛の人に会うことは出来なかったけど、人生の最後に最高の思い出を作ることが出来た
「ルビーちゃん楽しかった?」
「うん、とっても」
「じゃあこれからも俺とアクア君と楽しい思い出を作っていこうよ」
「これから?」
ルビーの頭にクエスチョンマークが作られる。だってもう…
「まだ生きて数年しかしてないでしょ?こんなに可愛い女の子が毎日辛い顔をして過ごすのは駄目なんだよ!笑ってないと幸せはマッハで逃げていくよ」
「でも…いいの、迷惑に」
「大人に迷惑を掛けるのが小さい子供の仕事だよ、イタズラはあまりしちゃイケないけど」
狡嚙の答えに今まで心に塞いでいたものが溢れ涙が目に溜まってくる。この人のことを信じてみてもいいんだと
「ねぇ魔法使いなの?」
「そうアクア君には内緒だよ!」
アイテムボックスから取り出したクマのぬいぐるみをルビーに手渡すと彼女は抱きしめて目を閉じてしまった。寝息をたてる女の子を抱っこした彼は転移魔法でマンションへ戻る
起床したルビーは周囲を見回した。彼と一緒に箒で空を飛びベンチでココアを飲んでいたのに今は自分の部屋にいる。服もいつも着ているパジャマ姿であり魔法使いの姿ではない!
「やっぱり夢だよね!魔法使いなんて」
自分がさっきまで体験していたことを夢で片付けたルビーだが布団の中に手渡されたクマのぬいぐるみが入っていることに気付き、体温が上昇する
「ほら支度しないと幼稚園に遅れるよ!」
部屋に入ってきた狡嚙に問いただそうとするが”魔法使いですか”なんて恥ずかしくて言えない、しかし彼は指を鳴らし
「プリーズ」
夜中に見せてくれたローブ姿へ変身し、人差し指を顔の前に立たせて静かにするジェスチャーをしてくれた。
「顔を洗ってきなさい!」
「うん」
星野ルビー改め狡嚙ルビー、家族と母親に捨てられた女の子は自分を救ってくれた魔法使いを信じることを決めて、幸せを目指す為に新しい1歩を今踏み出した。
魔法使いなんですが、まだ1作目を執筆する前はアクア君に憑依させて魔法使いとして何でも解決させる話を妄想していましたが、10話もしないで終わりそうだったのでボツにしてました。
感想ありがとうございます。励みになります
しかしB小町の『B』ってなんだろう?
次回作を作る時に途中まで原作と同じ流れだったら、すっとばしても良い?
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OK 原作を知ってるから問題無い
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NG やっぱり最初から全部読みたい