【完結】転生した魔法使いが金髪の双子を育てる 作:大気圏突破
「ここは?」
腹を刺されたアイは目を覚ますと暗闇の中にいることに気付いた。そして
「刺されてない?」
視線を落としてナイフが刺さった場所を確認するが何も無かった。血も出ていなければ衣服も破れていない。肌はそのままで傷すら存在していない
「夢?でもあれは?」
夢にしてはリアルだった。雪の寒さを感じた。ニノの手の感触もあった。刺された時の痛みや血が溢れてくる感覚もあった。なのに何で今の自分は無事なのか分からなかった。アイは周囲を見渡すとランプが灯っている場所を見つけ立ち上がって歩き始めたが
「何で近づかないの!」
どんなに歩き続けてもランプのある場所には辿り着かない。彼女はその場で地団駄を踏もうと足を振り落とした瞬間に地面が抜けてしまい落ちると思ったが、何故か自身が浮遊し頭部が天井にぶつかり地面に落ちた
「なんなのよいったい!」
どうして立て続けに変なことが起きるのか?説明してほしいが誰もいない。癇癪を起こしたアイは手足をバタつかせると白いウサギが2足歩行で通り過ぎるのを目撃し後を追い掛ける。そしていつの間にか開けた場所に到着し自分の纏ってる服が違うモノに変化していた
「今度はなに?」
視線の先には机があり赤いスーツを着た人が座っていたので、アイはコイツが首謀者だと思い込んで近づいてみたが
「ヒッ!」
それは額を銃弾で貫かれた星野アイだった。彼女は自分の死体を見つけてしまい腰が抜けて尻餅をついてしまった。死体はゆっくりと浮かびアイに接近してくる
「来ないで!」
立ち上がることが出来ずに地面に尻を接した状態で後退るが、いつの間にか背中は壁と密着していた。なおも近づいてくる死んでいる自分は目の前で立ち止まると風船のように膨らみ爆ぜてしまい血液や臓物がアイに降りかかると同時に白骨化した鳥たちが衣服を掴んで気球のゴンドラの中に放り込んだ
「ようこそ星野アイ!気分はいかが?」
自分をここに誘った白いウサギがタキシードとシルクハットを纏って目の前を浮かんでいた
「いったい何なのここは?」
「ここかい?星野アイを裁くアミューズメント施設だよ」
「裁くって……私は何も」
奇妙なウサギに対して反論しようとするが気球の高度がドンドン下がっていくのを感じていく
「この気球は罪深い人間が乗ると高度が落ちる仕組みなんだ」
「だから何も罪なんて」
「窃盗・売春未遂・437万円に斉藤壱護のへそくり・アクアとルビーを雪の日に捨てたこと、まだまだあるけど読み上げるかい?」
手帳をパラパラと捲りながら彼女の罪を口にする。反論する力を失ったアイだが何かを言おうとするが口が開かない、手で口元を触れてみると白いガムテープが✕(バツ)印のように装着されていた
「反論なんてさせないよ」
「ん゛~~~~~ん~~」
気球は地面に向けて高速で落下し続ける。助からないと悟ったアイはゴンドラに掴まって衝撃に備え目を閉じるが、いつまで経っても衝撃は伝わってこない
「えっ?」
目を開けると畳の上に座っていた。窓から夕焼けの光が注ぎ込みチャルメラの音や子供の遊ぶ声が聞こえてくる。そしていつの間にか口のガムテープは無くなり呼吸も楽に出来ていた。目の前にはちゃぶ台があり視線の先には
「あんたが星野アイか?」
「誰よあんたは?」
「知らなくていいことだが、アクアとルビーの父親だ」
慎二がいた。指を鳴らしてちゃぶ台の上に眼兎龍茶の缶を置いたがアイは腕を払ってしまい液体が室内に散乱してしまった
「育ちの悪さが目に見えるな」
「アクアとルビーを返して、私は2人の母親よ!」
「捨てたのに母親気取りか?」
「それは……だけど、こうやって助けに」
「なんでだ?2人は家族と一緒に暮らして幸せに生きている。アンタと暮らすのが最良とは思えないな、犯罪者」
言葉の1つ1つがアイを追い詰める。全てが真実であり彼女の心を追い詰めていく
「ニセモノの家族より、ホンモノの家族と暮らすことが幸せに繋がるの!合わせてよ2人と」
「ホンモノの家族の言葉なら信じてくれるってことか?」
その質問に強く頷いたアイは彼を睨みつけた
「そうだなゲームをしようか」
「ゲーム?」
ちゃぶ台の上に天秤のようなものを乗せて皿の中には白い羽が置かれていた
「これは真実を推し量る天秤だ!俺の質問に対して真実を答えることが出来れば天秤は傾かないが、嘘を口にすれば羽より重くなる。10回の質問でそっちの皿が羽より上にあればお前の勝ちで2人に会わせてやる」
アイはこの天秤を見ておかしいと感じていた。片方の皿に羽が乗っているのに左右の位置は同じ場所で保っている
「別にやらなくてもいいが二度とアクアたちと会うことは出来ない、この空間で朽ちて果てるまで過ごすだけだ」
「いいわよやればいいんでしょ!やれば!」
額に怒りマークを作った彼女は彼の口車に乗ってしまった
「今まで犯した罪を償う気持ちはある?」
「2人を捨てたことは謝るわ」
羽が乗っていない皿が傾いて底が近づいてしまう
「何よこれ?壊れているんじゃないの?」
アイは天秤に触れてみるが全く動かなかった
「アクアとルビーの名前の由来を覚えている?」
「そんなこと当たり前じゃない」
その言葉に天秤はさっきと同じ方向に傾き、星野アイを敗北者にする確率を更に上昇させる。その後も投げかけられた質問に答えていくが天秤は全て嘘と判定した。9問目にアイは口を閉じて答えない選択肢を選んだが、時間切れとみなされ皿はスレスレまで傾いた
「最後の質問だ!」
「イカサマよ、こんなの」
「どこがイカサマかな?全てテメェの本音だろ?子供を産んでも大人にはなれない!ガキがガキのままデカくなったに過ぎない」
「サービスだ!この質問に対して真実を答えることが出来れば勝ちにしてやる。クイズ番組でよくあることだろ?」
「いいわ、早く言いなさい!」
もうプライドなんてクソ喰らえだ!さっさと答えてトンチキな世界から抜け出してアクアとルビーに会って
「(会って何をするんだっけ?)」
「2人のことを今でも愛してる」
「もちろん愛しているわ、私は星野アイ!2人の……」
全ての言葉を述べる前に天秤の皿は底に着いてしまい星野アイの負けが確定した。狼狽える彼女に彼はニヤニヤと笑いながら見つめて立ち上がり
「なるほど全て嘘という訳か」
「嘘よこんなの、だって……自分の子供を…」
「アイドルとして世間を騙し続けた星野アイ、自身の心にも嘘をつき続けたという皮肉かな?」
「待って、もう1度だけ……アクアとルビーに」
「それは出来ないルールだから、とても残念だね」
懇願が通じないなら実力行使と思った彼女は、ちゃぶ台の飛び越えて殴りかかろうとしたが
「罰ゲーム!」
人差し指を突き付けられた瞬間に、強烈な光を浴びて目が眩んでしまった。降りそそぐ光が消えて目を開けて周囲を見渡すと彼女は陽東高校の前にいることに気付いた
「夢だったの?」
視線の先に見える高校からチャイムの音が聞こえ、授業が終わったことがアナウンスされる
「そうよ、やっぱり夢よ!あんなこと」
きっと気分が高まって興奮しているうちに疲れて少しだけ寝てしまったに違いない!今度は失敗しないように校門で2人に向かって抱きついてしまおう
「そろそろ出てくるよね?」
下駄箱から出てくる生徒の声が聞こえてくると彼女は校門前に陣取って仁王立ちをしていた!あとは2人に会うだけだと思ったが
「嘘…えっ………なんなのこれ?」
確かにアクアとルビーが出てきたが男子の制服やジャージを着た生徒の顔が全部アクアで、同じようにスカートやブルマ姿の生徒がルビーに見えていた
「何よ……まだ夢の…なかなの?」
とりあえず彼女は近くにいたアクアとルビーに声を掛けるが
「誰だよ?離れろ!」
「誰この人?」
「さぁ知らないな、こんな婆さんは」
アクアに倒されてしまい聞き捨てならない言葉が耳に入り抗議しようとするが、手の平を見ると皺だらけで骨が浮き出ていた。立ち上がろうとしても足に力が入らないうえに関節が痛い
「変なお婆ちゃん」
「110番だっけ?」
「生徒指導のハゲ先呼ぼうか?」
「不審者情報にも書き込まないと」
「どこの言語で話している?」
ここにいるのは危険だと思ったアイは高校から逃げ出した。男とホテルに入って逃げる時は楽に走ることが出来たのに200メートルもしないうちに息が切れて胸が苦しい、そしてコーヒーショップの窓ガラスに写る自分の姿に驚愕した
「なん……こ?」
言葉が出てこなかった。そこに写っていたのは間違いなく星野アイだが見た目はボロボロの老婆の姿だった。顔はシミや皺で汚れ髪の毛はカサカサになって逆立っている。よくよく見ると前歯も抜けている。声を出そうとしても腹に力が入らない
「この婆さんか?」
「間違いない!情報と合致する」
制服姿の警察官が近づいてくるが両方ともアクアの顔で同じ声で喋ってくる。アイは今の状況を説明するために最後の力を振り絞って声を上げるが
「どこの国の言語だ?」
「不法入国ですかね」
「手続きが面倒になるな、そうだ別の街に連れて行けば管轄違いになる」
話が通じなかった。結局彼女はパトカーに乗せられ遠く離れた地で捨てられるように降ろされた。頼れる人なんて存在しない他人を欺き続けた彼女にとって自分を信じてもらうことは不可能に等しかった。これから暑くなる季節は老女にとって厳しい日々になるだろう
「なかなかエゲツナイことをするんだね魔法使い」
「これでも温いぐらいだ!」
空に浮かぶ慎二と少女は四つん這いで泣き続ける老女を見下していた
「尻から出血しながら伝えにきたときは驚いたがご苦労だった」
「いいから呪いを解いて心臓を返してよ!」
指を鳴らして呪いを解いたが、疑念の目を向けていたので防犯ベルを鳴らしてあげた。腹痛は起こらずに少女はご満悦である。そして預かっていた心臓を投げ渡すと急いでハメ込んだ
「もう二度と関わらないわ」
「そうしてくれ、その方が互いに幸せだ!」
ぶりぶりざえもんに背中を見せた瞬間、彼女はアイよりも醜い顔を作り隠し持っていたナイフを持って彼に突き刺そうとした。ローションまみれの瓶に封印され、目の前で大を排泄するところを見られ、パシリ扱いさせられた。彼にはその報いを受けるべきだと思った彼女は反旗を翻したが………
「うっ!」
胸を押さえ悶え苦しみながらツクヨミだった少女は世界から消えてしまった。なお今回のことに関しては慎二は何もしていない。言ってしまえば彼女の自滅である。もし慌てずに冷静な状態で心臓を観察してハメ込んでいたら無事だったが心臓の向きが違っていた。当然そんな状態では血液は循環されることはなく生命活動を維持することは出来なかった。星野アイを見つけることに関しては役に立ったので無能ではなかった
さて種明かしをしよう。紙やすりで尻を拭いてパンツを紅く染めながら星野アイの情報を聞かされた慎二は今の幸せな家庭を壊されることを危惧し、彼女の罪を償わせる罰を与える為に動いていた。学校から出て来た2人は隠していたマネキンを動かせるようにして、認識魔法を使って周囲には本人だと誤認させていた。そもそもアクアとルビーは一緒に登校することはあるが下校するのは殆ど無い。アクアは鮫島家に向かいルビーは芸能科の方に行ってしまう
「(上手くハマってくれたな)」
マネキン人形を操作し店の前までおびき寄せると、今まで施していた『条件付き入店』を一時的に解除し大罪人を店の中へ入れることに成功した。あとは空間魔法の応用で作り出した過去の景色を演出していった。なおナイフで刺したのは本当で壱護に変身した慎二が直後に回復と修繕魔法で治したのである
「にしても愚かだったな」
最後の質問は嫌がらせだった。彼は『アクアとルビー』という人物の特定はしていない『2人』としか口にしていない、向こうが勝手に勘違いしただけである。もし冷静だったら気付いていたはずだ!この質問をする前までは彼はちゃんと子供たちの名前を口にしていたのだから
「2人って誰だろうね?」
それは魔法使いだけが知る秘密である
都内某所に存在する喫茶店には多くの芸能関係者が集まるスポットである。その中にはマスターと出会ったことで人生の転換点となった人たちが数多くいる。彼は双子や子供たちを大切にし妻のことを愛している。家族は知っている父や夫が魔法使いであることを、彼に助けられたことで今の自分がここにいる。向こうが愛するように私たちも彼が大好きである。だから今日もこの喫茶店には幸せが溢れ、やって来る人に伝播していく
「いらっしゃい」
次話で登場人物たちの後日談を含めた短編にして最終回にしようと思います。ついでに後書きで筆者の感想をダラダラと書いていきます。
アイの最期につきましては悩みましたが、自分の中ではこれが落としどころだと思ってます。
感想ありがとうございます。
誤字訂正もありがとうございます
次話に向けて頑張ります
次回作を作る時に途中まで原作と同じ流れだったら、すっとばしても良い?
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OK 原作を知ってるから問題無い
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NG やっぱり最初から全部読みたい