【完結】転生した魔法使いが金髪の双子を育てる 作:大気圏突破
「オイッ!大丈夫か?」
体を揺さぶられ朦朧としていた意識が次第にクリアになっていく、目の前には父親と同じぐらいの歳の男性が立っているが肩には猟銃を担いでいた
「ここは?」
痛む体を起こそうとするが、男性に制されてしまい落ち葉の上で横になってしまう
「アンタよく生きていたな」
「確か崖から…そうだ!ミキさんに…うっっ」
全身に痛みが駆け巡り苦悶する表情を浮かべた彼女は、猟師にこれまでの経緯を説明し、自分を崖から突き落とした男を探してほしいと頼み込んだが
「それは無理なことだ」
「なぜですか?だって…」
口を尖らせた彼女は理由を詰め寄ろうするが
『展望台付近で対象を発見!至急応援を頼む!』
猟師が持っていたトランシーバーから慌てるような声が轟き、彼の顔が険しくなる
「こちら二瓶、山道の外れにて登山客を発見!怪我をしている模様、女性を連れて山を下りる」
『了解!吉報を待っていろ』
通信を終えた二瓶が彼女を立ち上がらせると肩を貸してゆっくりと登山道まで戻り山を下っていく
「あの〜対象って?」
「熊だ!」
彼の説明によると本来この山には熊はいなかったが、開発によって他地区で過ごしていた熊が移り住んできた。何故か山の作物ではなく人を好んで襲う傾向があり人間の味を覚えた害獣となってしまった。そして彼女は転落から丸1日経過していることを伝えられた
「(ってことはミキさんは逃げて、でも何で私のことを?まさか熊に気付いて落とした?)」
彼女の疑問に答える者はこの世に存在しない、無事に下山すると山中から銃声が鳴り響き二瓶のトランシーバーに討伐を終えた連絡が入った。3メートルを超える体長を猟師総出で山から下ろすと解剖に回され、胃の中から特徴的な金髪が発見されカミキヒカルのものであると判明した。
「そんなミキさん、やっぱり私を助ける為に」
今回の事件を聞きつけたマスコミはカミキのことを、自分を犠牲にして女性を救った勇敢な若者として祭り上げ、彼の過去を知る面々は記者に対して思い出を語っていた。
さて時計の針をカミキが彼女を突き落としたところまで巻き戻す。顔の皮膚を剝がされた彼は突然のことに理解が出来なかった。剥がされた痛みではなく風が顔に当たる感覚が激痛を引き起こし手で痛む場所を押さえようとするが皮膚のバリアが無くなった顔を素手で触ってしまい、自分で更に激痛を生み出していた
「ウ゛ぁぁぐぅぅんえぐぐぅああええ!」
言葉にならないうめき声を上げながら視線を前に向けると巨大な熊が立っていた。動物園で見るものより大きく立ち竦むような咆哮をあげて、その大きな右腕でカミキの胴体を切り裂いた。
「こんな……ことで、おわ」
熊はカミキに近づくと鋭い爪を腹部に突き刺しトドメの一撃を与えた。口から血が流れ落ちるのを確認すると自分の終わりが近いことを認識してしまう
「そうか…いま…が、僕の美しい最高の時なんだ‼天が……与えてく…れ……たんだ、狡嚙さん!あなたは正しかったんだ、いや僕も正しかったんだ!最高と最悪は表裏一体なんだ、朽ちてこそ最高にうつくし…」
生きたまま感覚を残したままカミキは徐々に自分の体が食べられることに絶頂した。彼は恐怖などしていなかった。今が自分の最高潮なんだと実感し終わりを迎えることが出来る。この想いを誰かに伝えたいと願ったが、カミキの喉は既に食い破られていた。
「カミキ…これがお前の終わり方なんだな」
新聞を読みながら狡嚙は彼との思い出に浸り、両手を合わせ冥福を祈った。
「ねぇ最近、吉祥寺のお姉ちゃんって来ないね」
「そういえば1週間ぐらい見てないな、執筆が忙しいのかな?」
サトノダイヤモンドが、有馬を制し翌年の凱旋門賞に挑戦することが発表された冬の頃だった。ストーブの前で暖をとるルビーが口にした言葉に狡噛も思うことがあった。今まで来ない日は度々あったが1週間続けて店に来ないことは記憶の中では無かった
「確か一人暮らしだっけ?」
小説を読んでいたアクアが顔を上げて尋ねてきた
「あぁ親元から離れてマンションに住んでいるって」
「お姉ちゃんが忘れた傘を届けに行くついでに確認しようよ」
「届けるって住んでいる…」
「はいっ!」
ルビーが彼の前に1枚の年賀状を持って来て渡した。差出人の名前には『吉祥寺頼子』と書かれ住所も記載され丁寧なことに部屋の番号まで書かれている
「引っ越してきた時に部屋に落ちていたんだ」
どうやら以前住んでいた老夫婦が忘れたものだと理解した狡噛は、2人に出かける準備をするように伝え、吉祥寺が忘れた傘を持って外に出た
「もうすぐ正月か」
街並みはクリスマスから早変わり年明けの準備が着実に進んでいた。双子たちの小さな手は寒さで冷たくなっていたので彼のポケットの中に手を入れさせ、アイテムボックスからカイロを握らせる
「たしかこの辺りだよな?」
年賀状を持つアクアはスマホの地図アプリと睨めっこをしながら周囲を見渡し、ルビーは父親の頭に乗って肩車されながら遠くの方をキョロキョロ確認していた。子供たちと一緒に探していると頭のルビーが建物を発見し向かっていった。
「吉祥寺先生~います?」
「お姉ちゃ~ん!店に忘れた傘を持ってきたよ」
呼び鈴やドアを叩いても返事がなく3人は顔を見合わせる。アクアが”居ないのならドアに傘を立て掛けておこう”と言うが狡噛は試しに探索魔法を発動する
「(室内に誰かいる?しかも這いながら近づいて…止まった)」
気になった彼はドアノブを回すと施錠されていなかった。意を決してドアを開けると
「お姉ちゃん!」
「先生ェ大丈夫ですか?」
玄関までの廊下でぐったり倒れている吉祥寺頼子がそこにいた。顔色は真っ青であり息も絶えだえである。狡嚙は額に手を触れると高熱を感じ取り、彼女を抱きかかえるとベッドの上まで運ぶ、ルビーは終始オロオロしていたが、アクアは冷蔵庫から冷えピタや氷枕を取り出した
「マスターさん?」
「喋らなくていい」
目を覚ました彼女は狡嚙の顔を見て口を開こうとしたが制されてしまった。アクアに薬を渡されたルビーがコップを持って近づいてきたので、彼は吉祥寺の背中を支えながら補助をする
「すいません。体調を崩してしまって」
「親に連絡は?」
「いえ、元々漫画家になるのを反対されてまして顔を合わせるのも気まずくて」
最悪の状態から脱した彼女を窘めつつ狡噛は考えこんでしまう
「(俺達が帰って、また体調が悪化したら二の舞になるよな?店は暇だから時間はあるが毎日通うのは面倒だし転移魔法もここに直で来るのはマズイ)」
「ねぇお姉ちゃん、風邪が治るまで一緒に暮らさない?」
「えっ?」
ルビーの一言に彼女の目が点になってしまう。この子はいきなり何てことを言いだすのか?
「パパの作るご飯って美味しいの、食べたらお姉ちゃんも元気になるよ」
「おいルビー、いきなりそんなこと」
「だってパパが毎日お見舞いに行くのは大変じゃん!病気の時は、誰かが近くにいてくれるのが大切なの」
妹を注意しようとした兄だが逆に言いくるめられてしまい、押し黙ってしまった
「えっとその…」
「吉祥寺先生どうします?アナタに判断を委ねますよ」
「正直なところ病気をしていて誰も居ないって、とても心細くて夜が怖くて」
「なら決まりですね」
「不束者ですがお願いします」
「それは嫁ぐ時に言う台詞です」
スーツケースに必要なモノを詰め込んだ彼女は3人と一緒にタクシーへ乗り込んだ。漫画の編集者には『年末年始を実家で過ごします』と書いた文面を送り『締め切りは守ってください』という返事を受け取った
「この部屋を使ってください」
喫茶店に到着し2階の空いている部屋に彼女を案内し布団を敷いて寝かせてあげた。
「ありがとうございます」
「困った時はお互い様って言いますし」
「マスターが困ることってあるんですか?」
どうやら睡眠よりも話し相手がご所望ようだ。彼は座布団に腰を下ろし吉祥寺の質問に答えていく、とは言っても自分が転生者であることを口にしても信じてもらえないので、適度に嘘を混ぜながら面白おかしく物語風にして話していく
「眠ってくれたかな?」
静かに寝息を立てる彼女に胸まで布団を掛けて部屋の電気を消して、狡噛は自分の部屋に戻っていくが廊下では双子たちが覗いていたのか重なりあうように寝ていたので、抱っこして部屋まで運んであげた
「少し重くなったな」
成長していく双子の重さを感じながら、彼はこの子たちを捨てた星野アイに憎悪の炎を燃やす。世間を舐め自分勝手な生き方で周囲に迷惑を掛け逃げてしまった。仮に生きていてルビーたちの前に現れたら全力で追い返すつもりだ!
「(まっ!生きてるとは限らないしな)」
常連客で話の合う馴染みの客がこの世を去り新しい年を迎える。父親として恥ずかしくない背中を見せるつもりだ!しばらく世話をする人物が1人増えるが賑やかな方が好みである。
「魔法使いは大変だな!」
カミキはやっぱり不憫に退場させるのが1番ですね。なお登山に同行していた女性は『片寄ゆら』ではございません(だって年齢が)
感想ありがとうございます。執筆の励みになります。
次回作を作る時に途中まで原作と同じ流れだったら、すっとばしても良い?
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OK 原作を知ってるから問題無い
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NG やっぱり最初から全部読みたい