【完結】転生した魔法使いが金髪の双子を育てる 作:大気圏突破
「(星野アイは未だに行方知れず)」
壱護から手紙を受け取った狡噛は、背もたれに体重を預け文面を読み進める。依頼を引き受けた彼は星野アイの親族や同級生にコンタクトを試みているが大半の人物は"知らない"の一点張りだった。しかし騒動後に親しい友人に対して金の無心をしていることが分かり、改めて詳細を聞きに行くと書かれていた
「(23年か…)」
彼はカレンダーに記された年数を見て深く息を吐く、あと数年で転生前の年数に追いついてしまう。狡噛が持っている競馬の知識は2025年までのものであり、それ以降は全く知らない。
「(最後に荒稼ぎをするか)」
既にアイテムボックスの中には多額の現金が収められている。雑誌の裏側に『パワーストーンの効果で大金持ち』の写真で男が札束風呂に入っているが、彼の財産ならスーパー銭湯を貸し切って全ての大浴場で同様のことが出来る
「(8月の札幌でワレハウミノコだったな)」
昨年は1番人気の馬が負けることが多く、大阪杯で単勝1.5倍のエフフォーリアが馬券外に敗れ、馬の被り物をした競馬Youtuberが複勝に540万円注ぎ込んだことが話題となった。転生前の彼はガチで負けまくった年だったので取り返す勢いで中央競馬から現金を毟り取っていた
「(ルビーたちに不自由はさせたくないし、老後のことも考えないと)」
不自由どころか十分な貯えである。仮にアクアが「医大に行きたい」ルビーが「音大に行って海外留学をしたい」と同時に言っても札束は殆ど減らないが保険は備えておきたい父であった。
「マイルCSのナミュールの馬券は保存用に残しておくか」
尊敬する騎手の最後のG1制覇!未来のことを知っているからこそ悲劇を回避することも可能だが彼は敢えてしなかった。1度やってしまうと歯止めがきかなくなり自分が都合の良い神様になってしまうことを恐れていた
「ただいま」
「おかえり」
店のキッチンで晩御飯の支度をしていると鮫島家からアクアが帰宅した。14歳になり体も逞しくなり誰もが羨むイケメンになっていた。ルビーの話では彼を狙っている生徒が多数存在し下駄箱の中にラブレターと果たし状が入っていたらしい
「最近、アビ子ちゃんの所から帰って来るのが遅いけど」
「あ~ちょっとね」
歯切れの悪い言葉に彼は深く追求することはしなかったが
「アシスタントの真似事や登場人物のコスプレをさせられたり、執筆続きで食べる暇がないから横に座ってアビ子ちゃんが口を開けたら料理を放り込むようなことなんてしてないよな?」
「父さんって超能力者?」
「当たってんのかよ」
魔法を使わず当てずっぽうで言ったことが的中していた。アクアは椅子に座って大きく肩を落とすと詳細を語ってくれた。
「指定していた背景終わりました」
「えっもう終わったんですか?適当にやってないですよね?」
「見てくれれば分かるだろ」
アビ子に原稿を手渡すと彼女はワナワナと震えながらアクアのことを見つめていた。生まれながら器用で小さい頃から吉祥寺の手伝いをすることがあり、自然とアシスタント技能を習得していた。その瞬間にアビ子の顔はニヤリと笑っているのが見えた
「アクア君ここの戦闘シーンですが、今の構図だと読者には分かりにくいと思いませんか?」
「どこかで俯瞰した部分を入れて全体図を見やすくするのはどうですか?」
「それだとコマ割りがややこしくなるんですよね。ちょっと立ってください」
最初は戦闘描写のポージングをするだけだったが、次第にアビ子は”リアルが欲しい”と言いだしアクアに登場人物の衣装を着させて戦闘中における皺の表現を追求していった
「あ~~ん」
大きな口を開けて食べ物を催促するアビ子にアクアは辟易しながら鶏の唐揚げを放り込んだ。自分はいったい何をやっているんだろうか?
「やっぱりマスターさんの料理は美味しいですね」
「父さんに伝えておきます」
「サラダはいいので、もっと唐揚げを多く入れておくように言ってください」
口の中を空にした彼女は充填されたエネルギーを糧に原稿に打ち込むのであった
「こんなことが毎回あって」
「今度吉祥寺先生と話し合ってくるよ、明らかに手伝いの範疇を超えている。アビ子ちゃんにアルバイト代を請求しても良い案件だ」
狡嚙はポケットから財布を取り出すと1万円札を5枚抜いてアクアに渡した。
「とりあえず今日までの分として受け取ってくれ、すまんな気付いてやれなくて」
「ありがとう」
彼から連絡を受けた吉祥寺はアビ子を店に呼びつけアクアにしてきたことを謝らせた。当人は何故自分が悪いのか理解出来ずにいたのが更に彼女の怒りを呼び起こしてしまい、泣きながら謝っていた。とりあえずバイト代としてアビ子から月7万円が支払われ、父もアクアが口にしていた賃上げに対して了承し2万5千円を支給することを決めた。
「野菜しかないよ~」
当然のことだが肉類は一切入れずに野菜のフルコースをプレゼントしたのは言うまでもなかった
「いらっしゃい先生」
「今日はマスターだけですか?」
「えぇ、勉強の息抜きに2人でデートに行ってます」
その言葉を聞いた吉祥寺は小さかった双子が大きく成長したことを実感し、受け取ったカップに口をつけた
「お~いこっちだ!」
2人に向かって手を振る男性は舞台衣装のまま近づいてくる。ルビーは犬のようにはしゃぎながら駆け寄りアクアは苦笑いを浮かべていた
「どうだったララライの舞台は?」
「ホント最高でした」
「チケットありがとうございます」
双子たちと親しげに話す男は今回の舞台で主演を務めた姫川大輝という役者で、小さい頃から2人と遊んでいた上原大輝である。彼は育ての親の金田一が代表を勤める劇団ララライに加入すると非凡な才能を磨き上げ、役者として大成していた。
「ドラマの収録が重なってて稽古する時間が殆どなくて」
「ぶっつけ本番だったんですか?」
「それだったらカッコイイけどな」
3人で子供の頃のように和気あいあいと話していると、別室から私服姿の女性が現れて彼に近づいてくる
「姫川さん、早く着替えないと衣装さんが帰れなくなるわよ」
「もう少しだけ話させてくれよ、不知火」
「しらぬい?まさかマルチタレントの不知火フリル?」
驚くルビーに不知火と呼ばれた彼女が双子たちの方に視線を向ける。アクアもテレビでみたことがあるが実物で見ると、その美貌に言葉を失う
「この人たちは?」
「俺の弟と妹だ!」
「あらそうでしたの?」
姫川とフリルの言葉にズッコケそうになったアクアは訂正と自己紹介を行い、彼と金田一が店の常連で子供の頃から付き合いがあることを教えた
「狡噛?喫茶店って、不老不死の店の」
「不老不死ってなんだ」
「だって2人のお父さんって全く老けないって言われているのご存知?」
彼女の言う通り、父親が老夫婦から店を引き継いで10年ほど経過しているが、見た目が老いることなく肌も綺麗でツヤツヤしている。ジョジョを見た近所の子供は父のことを『波紋使い』と本気で思っているらしい
「(波紋じゃなくて魔法使いなんだけど)」
ルビーは心の中でツッコんでいたが、噂になってる父親は店で
「実写化ですか?」
「まだ決まった訳じゃなくて、そんな話があるかもって」
吉祥寺が口にしたのは、完結した自身の作品である『今日あま』に実写ドラマの話が噂されていることだった。
「マスターはどう思いますか?」
「それは視聴者としてですか?それとも身内としてですか?」
その問い掛けに彼女は”視聴者”を選び、狡噛の答えを待った
「思い出を穢したくない」
「えっ!それって」
「実写化の全てを否定するつもりはないが特定の作品を除いて殆ど失敗してる。子供の頃に読んだ漫画がテレビドラマで放送されると知って、ブラウン管の前で座っていたら落胆したよ」
転生前のことを思い出して苦い記憶が蘇ってくる。
「どうして漫画やアニメの実写化って失敗するんでしょうか?」
「時間の制約かな?ドラマの場合1クールで締めないといけないから原作を端折ってしまい、いつの間にか物語の整合性がおかしくなる。それに」
「それに?」
「演じている役者が合わない!どうしても役者やタレントのイメージが頭の中にチラついてしまうし、演技が下手だったら更に最悪だ」
両手を広げおどけたようなポーズを見せる狡噛に彼女は顔を伏せてしまう
「アニメや漫画的表現を実写に落とし込むのって不可能でしょ?」
「そうですね。主人公とヒロインが出会って薔薇の背景なんて」
少しぬるくなったカップに口をつけた吉祥寺は気になったことを1つ質問した。
「マスターの好みで、人に勧めることが出来る実写化作品ってありますか?」
「そうだな『南くんの恋人』かな」
意外な答えに眼鏡がズリ落ちそうになる。目の前にいる人物が高校生の恋愛作品を見るなんて思っていなかったからだ!
「木曜の9時にやってた方ですか?」
「いや、そっちじゃなくてヒロインの実家がカフェの方、そっちは確か寿司屋じゃなかった?」
彼女はすぐにスマホで検索すると、放送していたのが自分が発したモノより10年前の作品であったことに驚いていた
「マスターって私とほぼ同い年ですよね」
「再放送でやってたのを見てたからな」
「そうですよね流石にリアルタイムじゃ」
「それでも本放送の1年後だったな、続編がスペシャルドラマ化されるから放送局が視聴者に復習する形で流したんだと思う」
返ってきた言葉に椅子から転げ落ち眼鏡を傷つけしまうのであった
「原作漫画とドラマはストーリーや展開も違うけど、最終回の旅行が好きでね」
「旅行ですか?」
「確かハウステンボスに行って、夜の温泉旅館でヒロインとの思い出を2人で語りながら笑っているところや、主人公が寝ている時に小さな体でビデオカメラの録音ボタンを押して父親に向けてビデオレターを撮影しててね、そのシーンが今でも好きで」
当時のことを思い出しているのか狡嚙の目は若干潤んでいた。彼女は近くにあったティッシュを差し出すと1枚とって目頭を押さえた
「因みに最悪な実写作品は?」
「香港版のシティーハンター」
その答えに吉祥寺は自身も納得し2人で深く頷いた
「帰ったら探して見てみます」
「その前に新しい連載の題材を決めないとマズイでしょ?」
返された言葉に若干のダメージを受けつつ店外へ出て行った
「(そういえばマスターが自分の過去や好きなことを口にしてくれるなんて、初めて聞いた気がする。それだけ気を許せる関係だと思ってくれるのかな?)」
家路に向かう彼女の足取りは、いつもより軽かったのは何故だろうか?
そろそろ『今日あま』編が近づいていますが、プロットは固まっています。あとは脳内にある文字を文章化させるだけです。それが1番難しい
土日のどっちかで1本更新出来るように頑張ります
感想ありがとうございます。励みになります。
誤字訂正もありがとうございます
次回作を作る時に途中まで原作と同じ流れだったら、すっとばしても良い?
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OK 原作を知ってるから問題無い
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NG やっぱり最初から全部読みたい