「どうして、あなたが私の
片頬をぴくぴくとさせながら、乾いた笑みを浮かべる男に向かって手を挙げた。
「こっちから出向いてやったというのに、結構な言い草だな、アシュド」
「なるべく来ないでください、これは
冒険者組合が管理する建物――
「なんですか、それは」
「今月分の報酬らしい、リディヴィーヌから伝言を頼まれた。……『いつも私の愚かな弟子に目を掛けて下さってありがとうございます』、だとさ。報酬にも色を付けておいたらしいぞ」
「それは嬉しいですが……あなたは恥ずかしくないんですか、自分の師匠にこれほどのことをしてもらって」
「オレとしては、あの人のお節介に巻き込まれているだけだからな。それに恥を残して苦しむほどの未来に、果たしてオレは生きているのかどうか」
「何を言ってるんですか……はあ」
自分の席に着いたアシュドはくたびれた顔でため息を吐き、ただでさえ覇気のない表情を
普段よりも色濃く出ている疲労の様相に、仕方なく、オレは気遣う素振りを見せることにした。
「どうした、死にそうな顔して」
「……それがあなたなりの気遣いだということを、ここ最近でようやく気付きましたよ」
アシュドは額に手を置き、机の上に山積みとなった書類の中から一枚を手に持った。
「一昨日、あなたが捕縛した
「大変そうだな。まあ、暇よりいいだろ、頑張れ」
オレの一言に対して、アシュドは呆れた目でちらりとこちらを覗き見た。
「それともう一つ。あなたの師匠が持ち帰ってきた“ミラの花”について、冒険者から苦情が
てっきり、そこらの冒険者は依頼掲示板が通常通りに戻ったことを喜ぶものと思っていたが、どうやら、得をしなかった奴らもいるらしい。完全な言い掛かりなのだろうが、その程度の人間を無造作に集めた組合側にも問題がある。
「お手上げですよ。一体いつになったら、私はこの
「なら、一つ良い知らせがある。お前が引き受けていた、オレを冒険者パーティに無理やり推薦する作業は不要になった。良かったな」
「はあ……
「あの金なら魔封具を壊した弁償代としてメリザンシヤに全額奪われた。
オレはそう言って立ち上がり、部屋の入り口に
すると、さっきまで
「待って下さい、あなた
「……手紙? なんだ、前に組んだ冒険者からの果たし状か?」
「違いますよ、例の村の責任者からあなたにお礼を、と。彼らの仮の住居に、我々が管理する建物を
アシュドは書類の山の端にひっそりと置かれた小さな封筒を手に取り、オレへと差し出す。
その封筒を受け取ると、手に持って伝わる重さから、中には手紙以外のもの――小粒の何かが入っていることが
「ロイクという少年が、あなたに直接会ってお礼を言いたがってましたよ」
「そうか、まあ、気が向いたら会いに行く」
オレはそれだけを言って、今度こそ、こじんまりとした執務室を抜け出そうと入り口に向かい――
「――失礼します!!」
「うおっ」
外に出ようと入り口の前に立った瞬間、オレの鼻先すれすれを両開きの扉が勢いよく開かれた。
やや遅れて視界の中央に映り込んだその姿に……次は、オレがため息を吐く番となった。
「なんだお前」
「ここに来れば、ベルトランさんに会えるとお聞きしたので!」
明るい笑顔を浮かべて答えるフェリス。
さっきのアシュドの
しかし、少女の返答は何一つと答えになっていない。オレは改めて尋ねた。
「どうしてオレに会いに来た?」
そして、
「――えっと、メリザンシヤ様から、ベルトランさんのところでしばらく教えを
「…………」
金の山よりも貴重なオレの時間は、こうして……いとも