――目の前に
宙に浮かんだままの
視界に飛び込んできたのは、陽に照らされて
掲げられた装飾から見て、この場所はおそらく――マナ教の礼拝施設なのだろう。
「……まるで、誰かの夢に出てくる景色だ」
ぽつりと呟き、そのまま扉を押し開いて……教会の中へと足を踏み入れた。
「おや……どこに行っていたのかね、ディオメッド君」
入ってすぐに自分を出迎えたのは――老紳士風の男だった。
清浄な空気に包まれた教会の中で、男は
「“首刈り”に
穏やかで低い声が、祭壇の向こう側まで反響する。
「ごめんごめん。これから始まる愉しみの前に、一つやるべきことをやってきたんだ」
「ふむ……」
リームスは
紳士然とした居住まいはそのままに、突いている杖の持ち手を愛おしそうに撫でて、しばしの無言が空間を流れた。
やがて、
「……ならば、致し方あるまい。悩みの種は純粋な
初老の男は口髭を片手にさすって、実に愉快そうな声でそう言った。
「感謝するよ」
俺は礼を述べて、教会の中をぐるりと見回す。
「彼は――フォルトゥナはどこに?」
「ふむ、彼は地下だ」
「地下?」
初老の男が指差した一角を振り向く。
そこは、祭壇の隣に開かれた通路の入り口だった。
地下に続く階段を下りていくと、暗がりの先に小さな両開きの扉を見つけた。
教会内の清らかな雰囲気と打って変わって、その扉はひどく錆び付いているようだった。
ギィ、と音を立てる扉を押して、地下室に入る。
そして、
「――――」
地下室の中に見えた光景に、ほんの一瞬だけ息をすることを忘れてしまった。
美しい花畑が広がっていた。
満ちる陽光と花畑の香りが
奇妙だ。
いや、奇妙というには、あまりに現実味がない。
…………思えば最初からそうだっただろうか。ああそうだ、この教会自体が――
「ふふっ」
聞こえた声に視線を向ければ、花畑の中心で一人の女が
子犬を両手で抱えながら、
「…………」
全く知らない女だった。
知らないのに、子犬を撫でる手つきと見守る
おそらく、とても心優しい人なのだろう。
花に囲まれていても決して
――だからこそ。
「……やあ、フォルトゥナ」
俺の背後にいる、何色も持たない
「…………」
男にそう声を掛けた瞬間、世界のひび割れる音が聞こえたような気がした。
ここにあるのは、薄暗い地下の一室だった。
最低限の
「……私に用ですか、バンジャミン」
落ち着いた声音が
振り返れば、入り口の脇に置かれた長椅子にいつの間にか腰を下ろす男がいた。
雪を思わす白銀の髪と、白を基調とした聖職衣を身に纏う、真っ白な男――フォルトゥナ・パルーフェ。
大魔術師リディヴィーヌの三番弟子にして、マナ教の信徒だった男。
「貴方の兄弟子に会ったよ。挨拶してきたけど良かったかな」
「……ええ、構いませんよ。彼は元気そうでしたか」
色のない気配、静かで熱のない口調、どこまでも……虚しさを感じずにはいられない
「さあ、見た感じは元気そうだったけど」
俺は肩をすくめながら答えて、すぐに「ところで」と話を切り替えた。
「残りの〈
「……そちらに」
長い指がしなやかに伸びて、地下室の隅をゆるりと示した。
そうして、ふと、その床に落ちている丸い形状の何かを目視し――俺は思わず、
「――へえ、スゴい」
と、歯を
床には――
瞼は閉ざされたままに、あたかも眠っているだけのような、穏やかな表情で時を止めた死顔が……文字通り床に落ちていた。
「…………」
俺は
「……間違いない。
彼の魔術――“意識掌握”による幻想ではないと確信を得てから、フォルトゥナに向き直った。
懐から取り出した物を、彼の手元にひょいと投げる。
「これで二つ目、ということだね」
彼らが〈
彼らが必要としているモノであり、ある“魔術装置”を起動するために不可欠らしいモノ。
「ねえ、俺にも教えてくれないかな。君たちは一体、何をしようとしているんだ?」
俺の
「――魔女の遺志を継ぎ、新たな“錬金術の国”を作り出す。それが我々――〈祈りし者〉の目的ですよ」