「こんな治安が終わっている学園で! 女子を殴る俺にラブコメの主人公を!?」   作:明るく楽しく暴力系ヒロインを!

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4時間目:江口 伊佐美 その1

 放課後、江口に呼び出された俺が手伝わされたことは卒業の為の手伝いとか、そう言うのではなかった。俺は今、図書室の配架を手伝っている。

 

「いや~、助かる。奉仕活動を手伝ってくれる奴を紹介すると『ラリ』が配られるからな」

「マルチ商法みてーだな」

 

 この学園にまるで相応しくない設備の様に思えるし、貸し出しも有料であるが、意外と利用者は多い。

 

「(この学園、ネットもスマホもねぇからなぁ)」

 

 極当然のことを言うが、ここは隔離施設なので生徒達がネットを使うことはできない。連絡は各自の部屋に備え付けられている内線電話で取り合う物だし、消灯時間以降は使えない。

 テレビなどは共有スペースに1台。ずっと同じチャンネルが映し出されているだけなので、積極的に見たがる奴もいない。

 では、残る最後の娯楽はと言えば『本』になる。故に、昼間は猿みたいに叫んでいる奴らも本を読んで、借りているんだから珍しく映る。

 

「手伝っているのは『ラリ』目当てか?」

「そそ。何かと要り様になるんだよな」

 

 返却された本を手際よく元の棚に戻していく様子を見るに、江口が働き慣れているということは直ぐに分かった。結構稼いでいるのだろうか。

 『ラリ』の使用用途は本を借りる以外にも、ちょっとした菓子から化粧品やアクセサリー。学園側に申請して許可が下りれば、音楽や映像ソフトも行ける(再生機器は別売り)。

 

「男の俺には分かんねぇけど。やっぱり、化粧品とかそう言うのに使うのか?」

「そうそう。すっぴんで人前に出られないって分かっているから、嫌がらせみたいに化粧品のラインナップは充実させてあるんだよ」」

「こんな所でも気にしているのか?」

「こんな所だから気にしてんだよ。普段は変な奴らでも、そういう所は気にしているからな」

「どうして、その気遣いを普段の言動まで引き継げねぇンだ」

 

 後、ちょっと。あと、ちょっとだけ頑張ってくれたら、この学園の風紀は劇的に改善されただろうに。最後の最後で力尽きないで欲しい。

 

「アタシが言うのもなんだけど。皆、自棄になっていると思うよ。こんな所に連れて来られて、今までの生活を取り上げられているんだからさ」

「いきなり、家族から離されて、スマホもネットも無い生活に放り込まれたら頭もおかしくなるよな」

 

 俺も最初はイライラしていたが、案外すんなりと慣れることはできた。

 適応できない人間がヒステリーを起こした末が、あの惨状なら幾らか納得はできる。

 

「大西はよ。帰りたい。って思ったことは無い?」

「何度もある。家に帰って、サブスク見ながらコーラ飲んでポテチキメてーんだけどよぉ」

「……言い方を変えるわ。会いたい奴はいない?」

「いねぇな~。外の世界にダチはいねぇし、お袋と親父からは薄っすらと嫌われているしな」

 

 江口の目が変わった。今までは、蔑視を向けられることがしばしばだったが、憐憫の目を向けられた気がした。

 

「辛くない?」

「全然? 親父達だって、学園に押し付けられて清々しているだろうな。あ、同情すんなよ。全部、俺のせいなんだからな」

 

 軽々に暴力を振るったのは俺の方なんだから、同情される謂れが無い。親父とお袋は気の毒だとは思うが、申し訳ないとは思っていない。

 

「そうか。……アタシはママに会いたいよ」

 

 不思議な願望だ。この学園にぶち込まれる奴は大抵問題児と言うか犯罪者みたいなモンで。となったら、高確率で近親者とは仲が悪いか、拗れているモンだと思っていた。

 

「なんで、そんなママっ子がこの学園に来てんだ? 社会科見学か?」

「大したこと。したつもりはなかったんだけどさ。……むしろ、お前みたいに悪びれない奴が羨ましい」

「だろ?」

 

 ドヤ顔で返してやると、江口は苦笑いを浮かべていた。一通り本を直し終えた後も業務は色々とあるらしいが、俺達ができる作業はこれ位だ。

 彼女曰く、他にも生徒達の要望を整理して入荷する本を選定したり、利用者への応対など。色々とあるらしい。……結構、高額のラリが出ているとか。

 

「他には見回り位だな」

 

 図書室内で読む分には無料なので、放課後になって籠る生徒も少なからずいる。この場所で騒ぎを起こす生徒は滅多にいないらしい。出禁を食らうのは、流石に美少女モンキー達でも嫌であるらしい。では、何が問題かと言うと。

 

「おう。本の貸し出しは『有料』だぞ。勝手に持ち出しするなよ」

「!!」

 

 そう。ラリを払うのが嫌で、本を無断で持ち出そうとする生徒がいることだ。

 1回目は警告と共に名前をリストに上げるだけで許していて、2回目になれば厳重注意。3回目の判断は学園に委ねられるらしいが、おそらく委員長と同じ様な目に遭うのだろう。

 

「(単純にケチなのか。あるいは窃盗癖があるのか)」

 

 普段みたいに暴れ散らかす奴より、こっちの方が問題だと思う。

 しかも、こういうことをしようとした女子生徒に限って本当に大人しそうな奴なので、何をしでかすか分からない怖さがある。

 恨みがましい視線を向けられたが、言うことには従ってくれた。次回もやりそうな気がするのが不安だ。

 

「(『夜本 朝詠(やもと あさよみ)』か。クラスは……俺と一緒かよ。全員から嫌われているから問題無ェけど)」

 

 教室で顔を合わせたら嫌味を言っておくか。見せしめ、と言う訳ではないが夜本に声を掛けたことが幸いして、周りのソワソワとした空気が鳴りを潜めた。

 その後も、暫くは何も無く閉館時間まで働いたので、支給されたペラを受け取りに行って、図書室を出ようとした時のことである。

 

「(アレ?)」

 

 全ての生徒が出て行った。かと思っていたが、1人だけ残っている女子がいた。全体的にひんやりとした空気を纏っていて、薄い水色の髪に白い肌と言うこともあって、雪女が現れたのかと思った。

 

「おい、もう閉館時間だぞ」

「……そう」

 

 スッと立ち上がると、彼女は普通に出て行った。ただ、ぼんやりしていただけだろうか。名札は見えなかった。

 

「おーっす。今日はありがとうな。この後、一緒に食堂に行かね? 支給されたラリで、デザートも付けてよー」

「そうすっか」

 

 さっきの生徒は誰だったんだ?

 少なくとも、同クラスの生徒でないことは確かだが。明日になれば忘れているだろうと思いながら、俺は江口と一緒に食堂へと向かった。

 

――

 

「でも。なんか意外だな。お前、普通に話せんだな」

「もしかして、俺のことサルか何かと思ってたのか?」

「普段の態度を思い出せよ……」

 

 バイ学に入ってからは女子を殴ったり、喧嘩したりの毎日なので、宮本を除く大体の生徒からは嫌われていると思っていた。だから、こうしてじっくりと話すことは俺も想像していなかった。デザートに付けたプリンを突きながら言う。

 

「俺に話し掛けた。ってことは、早めに学園から卒業したい理由があんだろ? お袋に会いたいんだっけ?」

「おう。……ママはすっげぇ優しいんだ。だから、アタシが守ってやらねぇと」

 

 不思議な感覚だ。こうして話を聞いていると、スケベツッコミ女子だと思っていた江口が、途端にお袋思いの優しい子に見えて来るんだから。

 

「じゃあ、戻ってやらねぇとな。校長が何をしたら認めてくれるかは分からねぇけど、今日みたいな感じで一緒にいたら、認めてくれたりするかもな」

「そうだと良いな。少なくとも、今日はお前が話の通じる奴だって分かっただけでも大きいな。あ、今後連絡を取り合いたいから部屋の内線番号を教えてくれよ」

「おぅ、いいぞ」

 

 互いの内線番号を交換した後、部屋に戻ってから宿題をしていた時のことである。プルルと内線が掛かって来た。受話器を上げる。江口だ。

 

『お。ちゃんと通じたな』

「問題ねぇぞ。今日はご苦労さん。明日もまた似たような感じか?」

『そうだな。明日は図書館じゃなくて、校内の清掃の手伝いがあるんだ。また、手伝ってくれるか?』

「いいぞ。部屋にいても教科書読む位しかすることねーし」

『……お前、意外と真面目なんだな』

「真面目って言うか、勉強以外すること無ェんだよ」

 

 なので、成績にだけは自信がある。暇だったら、国語の教科書を読んだり問題集に目を通したりもしている。これも意外だが、教科書などの選定はちゃんと行われている跡が見える。

 

『いざとなったら、お前に勉強を教えて貰おうかな』

「いいぜ。宮本からも『もういいよ!』って言われる位には好評だからな」

『やっぱいいわ』

 

 速攻で勉強会の予定は潰れた。こうして、部屋に戻った後も誰かと話せるというのは中々に楽しい。

 

「この調子で仲良くなって、早めに卒業しちまおうぜ」

『だな。……それと、聞かなくて良いのか?』

 

 何を。とは言わない。多分、図書室での奉仕活動中に聞いた『何故、ここに来たのか?』と言う疑問についてだろう。だけど。

 

「話したくなったら話せよ。そん時に聞くわ」

『分かった。じゃあ、また明日な』

 

 ガチャン。と内線を切った後、今度は俺の方から江口に掛けた。直ぐに返事が来た。

 

『どうした?』

「いや、掛かるかなーって」

『それだけかよ!』

 

 と言う、多少の遣り取りを挟んで、今度こそ正式に通話は終えた。

 今、俺は結構ラブコメをやっている気がする。いや、ラブコメじゃなくてもいい。普通の付き合いが出ているというだけで感動ものだった。

 

「(もしかして、この学園。意外と普通な女子が多いんじゃね?)」

 

 だとしたら、俺は今までの愚行を後悔するしかないのだが、これからとり返して行けば問題ない。

 ちょっと上がったテンションで宿題をやりつつ、消灯時間に合わせてベッドに入ることにした。案外、普通の学園生活と言うのは近くにあるのかもしれない。と、淡い期待を込めて。

 

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