「こんな治安が終わっている学園で! 女子を殴る俺にラブコメの主人公を!?」 作:明るく楽しく暴力系ヒロインを!
翌朝、ここがバイオレンス学園だということを思い出すことになる。
登校してみれば、教室内では江口の席には数人の女子生徒。朝から金切り声を上げていた。
「おめぇえええ! 私達を裏切るって言うのか! あのクソチ●コ側に付きやがってェええええ!!」
「この糞ビィイイイイッチ!!」
「デブ! ブス!」
この学園に来る前に見たペンギンの画像を思い出した。
3羽のペンギンが1羽のペンギンを取り囲んで、威嚇しているみたいな画像だ。ちょうど、江口が威嚇されている側なのか、彼女は下唇を噛み締めてぶるぶると震えていた。
これは良くない。きっと、コレが青春ドラマとかなら颯爽と近付いて『ヤァヤァ。俺の彼女に何をするか!』みたいな感じだろうが、ここはバイオレンス学園。ならば、方法は1つ。
「朝からうるせぇええええええ!!」
金切り声を上げていた3人を順番に殴って黙らせた。やはり、暴力。暴力は全てを解決する。詰められていた江口はポカンとしていた。
「お、大西?」
「悪は滅びた!!」
ドン引きされるつもりでやったが、周りの女子達は意外と無反応だった。
やっぱり、あの3人は普通にうるさいと思われていたんだろう。うむ、クラスに貢献できるとは喜ばしい!
「お前、滅茶苦茶過ぎんだろ……」
「滅茶苦茶な奴には滅茶苦茶なことをして良いんだ。ここはバイオレンス学園だからな~」
この学園では治外法権が適用されていると言っても過言ではない。そんな俺の自信満々ぶりを見てか、緊張していた彼女の表情が笑いに変わっていた。
「やば、おもろ」
「にしても、俺と仲良くしているだけでいじめて来るとは心の狭い奴らだ」
伸びている女子生徒脇腹をつま先で突いてみたが、起きる気配は無さそうだ。このまま二度寝しておいてもらうとして。
「いや、詰められていた時の話を聞いたけれど。大西が楽しそうにしているのが許せないみたいなことを言っていたよ」
「最低限文化的生活も認められないクソ野郎どもがよ~~!」
と言っても、伸びている奴に追い打ちを掛けるのはどうかと思うので、教室の隅に寄せておいて、江口の方を見た。調子を取り戻した。様に見えて、まだ具合が悪そうに見える。
「大丈夫か? 連中が報復して来たら、俺に言えよ。もっとすごい仕返しをしてやっからな」
「ありがとう。……でも、大丈夫」
フゥと深呼吸をして、落ち着きを取り戻していたた。やはり、誰だって詰められたら具合が悪くなるモノだ。
「大西君、江口さん。おはよー!」
と、思考していると宮本が元気よく登校して来た。そして、俺達を見るやコーギーみたいにトテテテテと近付いて来た。
「2人共。距離近くない? 近くない?」
「江口が詰められていたからな。俺が颯爽と助けたんだ。この拳は傷付けるだけじゃなくて、誰かを助けることもできンだ」
決まった! この瞬間、俺は最もバイオレンス学園で正しい暴力を振るえたと言えるだろう。
ただ、クラスメイト達の視線が伸びている女子達に向けられていた。言外に『いや、コイツらが助かってないぞ』と言われている気がした。
「そんな! 大西君が誰かの為に暴力を!? ずるい! ボクもヒロインしたい!」
「字面だけ見たら、最悪すぎるだろ……」
宮本が羨ましがっていたが、江口はドン引きしていた。女子は自分だけに優しい殺人鬼に惹かれるとか聞くが、アレは嘘っぱちだった。
「でも、大西君と江口さんが一緒に働いているだけでこんな目に遭うだなんて。次は、きっと。ボクが詰められちゃうんだ」
チラチラとコチラを見ている。もしかして、ヒロインになりたいんだろうか? 残念ながら、多分そうはいかないと思う。
「単純に俺が嫌われているだけなら、宮本はもっと早くに被害に遭ってんだろ。それがねェってことは」
「いやいや。今まではね。きっと、委員長が推し留めてくれていたから平和だったけど、居なくなった今や、皆の憎悪と怒りは大西君に注がれていると思うんだ。これからは危険な日々が続くことになると思う!!」
この自称友人は何故、俺の危害を願っているんだろうか?
本格的に江口に乗り換えようかなと考えているとガラリと扉が開いて、仁王像みたいな教師が入って来た。
「出席を取るぞ。それと、後ろで伸びている3人は大西が起こしとけよ。授業が始まるまでには席に着かしとけよ」
「なんで、俺が指名されンだ?」
「このクラスでそこまでやるバカはお前位だからな」
不愛想な癖によく生徒を見てやがる。俺は3人の肩を揺すって起こしてやったのだが、目を覚ました彼女達は舌打ちをして席に戻って行った。
特に重要そうな連絡も無かったので、そのまま1時間目の授業まで大人しくしていた。
――
「なぁ、江口。もしも、外に出たら何が食いてぇ?」
「アタシはママのオムライスとミネストローネが食いたいな。この学園の料理は不味くないんだけどね」
「だよな。味付けも悪くないけれど、どうしてもな」
昼飯時。俺達は購買部で買った弁当を突きながら、そんな会話をしていた。
宮本と一緒に話していた時は外に出る。と言うネタで話すことが無かったので、新鮮で楽しい。
「近くない? やっぱり、大西君と江口さんの距離近くない? ちなみに、ボクは炙りサーモン寿司が食べたいと思っているよ。特に好きな寿司屋はね」
「江口は、お袋と仲が良いんだな」
「まだ話の途中なんだけど!」
宮本の抗議は無視することにして。江口の家庭については少し興味がある。と言うのも、俺は両親とあまり仲良くないので、家族仲が良い。と言うのが、どんな物かを聞いてみたい。
「そうなんだよ。ママはとっても優しくて素敵な人でね。女手一つでアタシを育ててくれたんだよ。あ、先に言っとくと離婚したとかじゃないよ。パパは幼い頃に病気で亡くなったらしいんだ」
しんみりした空気になった。両親が健在だというのに、不仲な自分が咎められている様な気さえした。
「仕事も掛け持ちしていたのに、忙しい中授業参観にも来てくれたし。毎日、家事もキチンとしていたし、本当にすごいんだよ」
そう語る江口は本当に楽しそうで、嬉しそうで。あまりに眩しくて直視することができなかった。……気になることはあった。
「そっか。じゃあ、早めに帰れるようにイチャイチャっすか~」
だけど、彼女の思い出に水を差す気にはなれなかった。宮本も察してくれたのか、ニッコリと微笑むだけだった。
もしも、俺が純粋な疑問だけを問うつもりだったら、こう言っていただろう。『そんな素晴らしい母親がいるというのに、どうしてこんな所に来るような不祥事を起こしたんだ?』と。
「おぅ。できたら、普通のラブコメで頼むよ」
と、彼女は笑った。本当にコイツは何をやらかしたんだろうか? 話せば話す程、分からなくなるモンだから不思議だった。
――
「ねぇ。ちょっと付いて来てくれない?」
放課後。昨日と同じ様に奉仕活動に精を出して、ラリを貰った後。江口に誘われて、購買部へと足を運んだ。
日用品から雑誌、江口も言っていた様に化粧品やら何やらもあるが、彼女が手に取ったのは便箋だった。
「お袋さんへ?」
「そそ。電話ができたら良いんだけどさ」
今の時代、電話もできないなんて珍しい。と思ったが、そんなことをしたら皆が電話を使いまくるから難しいんだろうか。あるいは検閲する必要があるから手紙しか認めていないのだろうか?
「でも、便箋代に郵送代に安くはないだろ」
「だから、これだけ奉仕活動やっているんだよ。それに、ママにこっちでも頑張っているって言えるしね」
「一石二鳥だな。まぁ、俺は自分の為にラリを使うけどな」
食堂で飯を食う時に、ケーキを追加するとしよう。江口が便箋の会計を済ました後、俺達は昨日と同じ様に食堂へと向かった。
「いや、最初に会った時はいきなり変態して来るからびっくりしたけどよ。実は母親思いの子とか。ギャップ狙いか~?」
「それはもう忘れろって!」
ここが史上最悪の学園だってことを忘れそうになる位に穏やかな時間だ。
こんなことで良いなら、思いの外早くに卒業できるかもしれない。サブスクとコーラは早い内に取り戻せるかもしれないと夢想していた。
だけど、俺はやはり失念していた。ここがバイオレンス学園であり、江口もまた、この学園に所属する生徒だということを。