「こんな治安が終わっている学園で! 女子を殴る俺にラブコメの主人公を!?」   作:明るく楽しく暴力系ヒロインを!

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6時間目:江口 伊佐美 その3

その日は朝から教室の雰囲気が違っていた。

昨日、江口に詰めていた3人が彼女のバッグをひっくり返していた。懲りない奴らだ。また、ぶん殴って躾けてやろうかと思っていた。

 

「おい、やめろって!」

 

 ただ、江口が声を荒げたのでびっくりした。机の上に落ちたのは便箋だ。

 昨日、購買部で買った物で、彼女が母親に出そうと思っていた物だろう。3人は教室に入って来たばかりの俺を見て、ニヤニヤしている。封を開けた。

 

「『お母さんへ。来たばかりの頃は最悪だったけど、最近は仲の良い友達ができて楽しくなって来た。この手紙も一緒に奉仕活動をして……』って。なんだよ、ママ宛の手紙かよ。つまんね」

 

 彼女達の期待に即した物ではなかった為か、粗雑に捨てられた。

 ゆっくりと江口が立ち上がった。表情が消えていた。バッグを放り出して、彼女の所まで駆けた。既に椅子を持ち上げている。

 

「よっしゃぁあああああ!」

 

 まずは飛び蹴りで、3人の内の1人を蹴り飛ばす。呆然としている隙に残りの2人を殴り倒す。ここまではいつものだが、問題はここからだ。

 

「大西。……どけ」

 

もはや溜飲が下がる、なんて段階は通り過ぎている。

バイオレンス学園において暴力は日常茶飯事だが、それはあくまで動物が縄張り争いをする程度の物であり、一定の線引きがある。

 

「やなこった!」

 

 だが、今江口が見せているのは人間としての暴力(バイオレンス)だ。相手を徹底的に打ちのめすつもりだ。同時に、彼女がここに来た理由を理解した。

 

「どけっつってんだろ!!」

「どかねぇぞ!!」

 

 まるで躊躇うことなく椅子を振り下ろして来たので受け止めたが、腕がビリビリと痺れる位の一撃だった。こんな物を伸びている奴に叩きこもうなら、どうなるか。なんて、考えたくもない。

 これが、もしも他人なら。俺も同じ様に机やら椅子やらを引っ張り出してぶん殴ってやるんだけど、どうにもそう思わない。

 不思議と思い出すのは図書室で奉仕活動をしていた時のこと、内線で話をしていたこと、便箋を買った時のことだった。

 

「(あ、そうか)」

 

 今まで、俺が躊躇なく相手を殴れたのは、相手がどうでもいい奴だったからだ。それはきっと、バイオレンス学園内だけの話じゃない。

 たった、3日。それだけの付き合いなのに、俺は江口のことが気になっているんだ。だから、必死に止めようとしているのかと思ったら腑に落ちた。

 

「邪魔すんな!!」

 

 恐らく、先の件は逆鱗に触れた。と形容するべき所業だったのだろう。江口の怒りはまるで収まらない。

 だが、俺の方が動きは早い。ここら辺、普段は品行方正で行っていた彼女と無法者として振舞っていた俺との違いだ。彼女の腕を掴んだ。信じられない力で振り解かれようとしたが、頭を振り被って。

 

「落ち着けっつってんだろ!!」

 

 ゴン! ゴン! と何度も打ち付けた。十数回打ち付けた時点で、先に彼女の方が音を上げて伸びていた。

暫く、クラスは騒然としていたが、俺を除く当事者達が倒れたのを見ると、机や椅子を元通りにしていた。さて、俺がやるべきことは。

 

「とりあえず、江口のことを保健室に連れて行くわ」

 

 さっさと行け。と言わんばかりに、クラスメイト達から手で追い払う仕草をされた。彼女を背負ってみたが、先程椅子を振り回して暴れ狂おうとしていた人物とは思えない程に軽かった。

 

――

 

バイオレンス学園に来る前の江口は、クラスで人気者だった。

彼女が敬愛する母親と同じく優しく素敵な女性であった為、男女問わずに慕われていた。しかし、カースト上位の女子達にとっては面白くなかった。

実際、同じ様なカースト層の相手に喧嘩を仕掛けることは、自らの立場も脅かす愚行という他無いのだが、自分と比肩しうる相手がいる緊張に堪えられなかったのだろう。あるいは、もっと個人的な事情があったかもしれないが。

 

「ママのことをバカにすんな!!」

 

今となっては、もうわからないことだ。

結末だけを言うと、江口が持って来た弁当をぶちまけたのだ。激高した彼女の報復により、いじめに加担した女子達は病院送りになった。

事件の後に調査をすれば、日常的に陰湿な嫌がらせがあったことなども発覚したが、それでも事態の大きさから処罰は免れなかった。

 

「ごめんね。伊佐美ちゃん」

「なんで、ママが謝るんだよ。悪いのはアイツらだよ」

 

 彼女がバイオレンス学園へと転校を余儀なくされたのは処罰だけの意味ではなかった。世間からの好奇の視線を避けるという意味もあったのだろう。

 自分が転校を余儀なくされることや、ましてや相手を病院送りにしたことを気に病むことも無かったが、彼女が心を痛めたことがあるなら。母親が るでも、怒るでもなく、自分に謝って来たことだった。

 

――

 

「起きたか?」

「大西?」

 

 江口が周囲を確認していた。保険医が席を外していたので俺が付き添っていた。時刻は正午を指している。

 

「そうだ。アタシ……」

「大丈夫だ。誰もケガさせてねーよ」

 

 強いて言うなら、コイツの一撃を受け止めた俺の腕がビリビリする位だが、診て貰った所、特に打撲とかもできていないらしい。頑丈に生んでくれた両親に感謝するばかりだ。

 暫く、お互いに無言だった。俺も問い詰めるような真似はしない。やがて、ポツポツと彼女が話し始めた。

 

「アタシのことを悪く言われても、何も思わないんだけど。でも、ママのことを悪く言われると、頭の中が真っ白になって」

「本当に大事に思ってンだな」

 

 俺は親父やお袋のことを悪く言われても何も思わない。そういう評価だと思うだけだ。

 

「だから。こっちでは上手くやれているって思おうとしたんだけど、駄目だった。やっぱり、アタシは何も変わっていなかった。クズのまんまだった」

 

 膝を抱えて顔を埋めていた。この学園には、俺を含めて気軽に暴力を振るうカスが大量にいるってのに。

 

「そんなことは無ェぞ。考え方次第だよ。俺なんて自分のこと以外は大体どうでも良いからよ。人のことの為に怒れるなンて、上等だ」

「でも! それで、アタシ。また同じことをして、大西にも迷惑かけて……」

「迷惑だなんて思ってねーよ。本当に思っているなら、態々付き添ったりもしてないし、そこら辺に転がしてんよ」

 

実際、江口に絡んで来たバカ3人は教室に転がしている。

俺が何かやらなくても、あんな事態を引き起こす真似をしたんだから同級生達からキッチリ占められていることだろう。そこら辺はクラスメイト達に感謝する。

 

「なんで、そこまで?」

「俺もよく分かんねぇ。でも、あそこで江口を止めなきゃ委員長みたいにどっか連れていかれるかと思ったからよ」

 

 委員長は別にいなくなっても困らないんだけど、江口や宮本がそうなるのは嫌だった。それに。

 

「卒業して、ママのオムライスとミネストローネ食うんだろ? そういう話、もっと聞きてェんだ」

 

 江口は俺の知らないことを知っている。一緒にいたら、楽しいことを教えてくれそうな気がする。

 

「え、いや、その。でも、アタシ。また、同じ様なことをするかも……」

「そん時は俺が止めてやるよ。このバイオレンス学園の優等生サマだぜ?」

 

 気の利いた言葉も心遣いも無いけれど、暴力だけはしっかりとある。

 ここに来ることになってしまった原因に呑まれそうになっても、俺なら殴って止められるという自信があった。

 

「……もしかして。宮本にも似たようなこと言っている?」

「いや?」

「そ、そっか」

 

 宮本は暴れたりもしないので、居て当たり前位に思っているので、態々言ったりはしていない。

 

「今日は授業も奉仕活動も休んで、また明日から仕切り直しだ」

 

 弁当を二つ取り出した。いつも通り、食堂で受け取って来た奴だけど2人だけで取る昼食は、いつもより会話が弾んだ。

 

――

 

「ど“う”し“て”ボ“ク”一“人”な“の”!」

 

 2人が保健室でイチャイチャしている頃。放置された宮本は、教室内で塩気が利いた弁当を突く羽目になっていた。

 

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