「こんな治安が終わっている学園で! 女子を殴る俺にラブコメの主人公を!?」 作:明るく楽しく暴力系ヒロインを!
「全く、酷ェ目に遭った」
「大丈夫かよ。でも、あんまり怪我をしている様には見えないけどな」
炎王院にボコボコにされて、校長に泣き付いて放送して貰った後、俺は教室に戻って来た。江口は心配してくれたが、宮本は特に心配してなさそうだった。
「だって、大西君。四六時中喧嘩しているのに全然怪我していないし、物凄く頑丈なんだと思うよ」
「言われてみれば。産まれてこの方。虫歯にすらなったこと無ぇンだよな」
「素直に凄いな」
俺がボコボコにされたのを聞いて、クラス内に嘲笑が溢れるかと思いきや、周りの女子達はやや引いていた。喧嘩は日常茶飯事だと思うが。とか思っていると、恐る恐る話し掛けて来る女子が1人。
「あ、アンタ。炎王院を相手にして帰って来たの?」
そばかす、ボサボサヘアー、黒淵眼鏡。とか言う属性だけを見れば地味だとか自称しそうだが、何故か顔立ちは整っている。
化粧もせずに、この美貌を保っているなら、バイ学女子全員に宣戦布告している様なモンだ。そして、俺はコイツを知っている。
「夜本。知っているのか!?」
「アレ? 2人とも知り合い?」
「おぅ。コイツ図書室で」
無断で持ち出そうとしていたんだ。と言おうとしたら、口を防がれた。
折角、宮本に紹介してやろうと思ったのに。ちなみに、江口は訝し気な顔をしていることから、ある程度。彼女のことは知ってそうだ。
「で。炎王院さんってどういう人なの?」
「バイ学きっての実力者よ。外の世界に居た頃は名立たる武闘家や悪達をボコボコにして来たらしく、最終的にココに送られて来たらしいわ」
「リアルのラオウもそうなンだな」
やっぱり、国家の暴力が最強だな。できれば、最後まで面倒を見て欲しかったのに、こんな所に丸投げする辺りに人権とか面倒臭い物の影を感じる。
「でも、大西はボコられていたぞ。話題になる程のことでも無くない?」
「いいえ。彼女と戦った相手は心まで折られるのがデフォルトって聞いていたけれど、コイツにはそんな様子無さそうだし」
「コイツってなンだ。俺には大西って名前があるんだ。名前で呼ばんか。距離感詰めるの下手糞か~?」
コイツ呼ばわりして来たのでデコピンを食らわした。礼儀を知らない者には、オシオキが必要だ。
「アンタも大概距離感おかしいじゃない」
「コレが俺だ。で、俺が思ったより頑丈だから周りも慄いてンのか。たかが、喧嘩に負けた程度で折れるなんて、ザコばっかだな」
心まで折れなければ負けではない。って、前に読んでいた漫画で見たことがある。だけど、俺がしたいのはラブコメであってバトルじゃない。
「でも、なんで夜本さんは急にデータキャラめいたことを?」
「え? いや、ホラ。有名になる前に媚を売っておこうと思って……」
宮本に突かれて、慌てて答えていた。あるいは有益な情報をもたらしてやるから図書室での一件を見逃せ。とでも言いたいのだろうか?
だが、1ヶ月は経っているというのにバイ学のことをよく分かっていない俺には、こういうデータキャラが必要かもしれない。
「ウム。俺の軍門に下ることを許すぞ」
「アンタら。コイツの相手をしていて疲れない?」
「夜本さん、始めて? 力抜きなよ」
「関係者も含めてやや疲れる」
急に宮本がドヤ顔でなんか言いだした。江口のスタンダードな反応に深く頷いた。こんなことを思っていても一緒に居てくれるとは有り難いことだ。
と、新たな仲間の加入に喜んでいると。教室に入って来る女子が1人。へそ出しの改造制服に筋骨隆々のボディ。首から下のいかつさと反する様に辮髪を生やした、可愛らしいお顔が乗っている。正に、話題にしていた炎王院だ。
「大西はいるか?」
「「「アイツです」」」
クラスメイト達は一斉に俺を指差していた。なんて薄情な奴だと思う反面、こんな奴に凄まれたら仕方ないよな。と諦める気持ちも同時にあった。
ズシンズシンと近付いて来る。夜本は慌てて逃げたが、宮本と江口は離れなかったので、2人を庇う様にして前に出た。
「おー。リベンジか? 本格的に、俺の心を折りにでも来たか? それとも、惚れちまったか~?」
「我が恐ろしくはないのか? 逃げようとは思わないのか?」
「何、言ってんだ。好き勝手に人殴っといて、殴られたくないから逃げるなんて筋が通って無ェだろ!」
「律儀だな」
殴った分だけ、殴られるべきだ。と言うのが、俺の考えである。あまり頭の良い考えとは言えないが、自分だけがリスクを負わない。と言う虫の良さが気に食わない。
「で。どうしたんだ。やるなら、外でやろうぜ。ここじゃ皆を巻き込む」
「そうだな。屋上へと来い」
もしかして、付き落すつもりだろうか? 宮本と江口も付いて来ようとしていたが、手で制した。巻き込む危険があるからだ。
「幾ら、俺をボコしても心は落ちないぞ。絶対に暴力に屈したりはしない!」
「なんだろう。良いことを言っているハズなのに、大西君が言うと説得力が殆ど無いよ!!」
俺の決意表明に茶々を入れないで欲しい。教室を出て、屋上を目指す。
すれ違う生徒達は皆、道を譲る。正に、学園を支配していると言っても過言ではない威容だ。だが、俺の心は挫けない。こうなったら耐久レースだ。
「さて。良いか?」
バタンと屋上の扉が閉められた。さて、戦いの時かと思って構えたが、炎王院は一向に構えない。無防備だ。
「俺が相手なら無防備で良いってか。とんでもねぇハンデだな」
「喧嘩をしに来た訳ではないが。するなら、教室に入った時点でやっている」
そうだった。コイツもバイ学生だからアナーキー側の人間だった。だったら、こんな所に呼び出した用事は何だろうか。
「まさかの告白かぁ~?」
「そうだ」
「…………え?」
思考が停止した。そして、ゆっくりと彼女の言葉を咀嚼して理解しようとして、途中で断念した。
「ちょっと待ってくれ。心の準備ができてねェ!」
「聞け。我はココに来るまでの間、多数の人間と戦って来た。同性から異性、個人から集団まで。だが、いずれも我に付いて来られなかった。気づけば、薬で眠らされ連行されていたが」
「あ、そうか。外の世界でもう一度戦いたいから俺と付き合いたいてェ訳か」
それなら腑に落ちる。薬で眠らされ、戦う機会すら得られなかった。なので、外に出て行く為に俺と関係を築きたい。と言うことなら十分理解できる。
「最初はそうだった。しかし、これだけ手酷く痛めつけたのに、貴様の心はおろか身体すら折れていない。一体、どうやって身に着けた?」
「お袋が頑丈に産んでくれたンだよ」
「鍛錬の結果ですらないというのか」
トレーニングとかそんな殊勝なことはしていない。自分でも分からないが、頑丈としか言いようがない。メンタルに関しては極めて自己中なだけだと思う。
「増々、貴様が気になった。何も恋慕ばかりが関係ではあるまい」
「お~。強敵と書いて『とも』って呼ぶ関係とかは昨今は流行らねぇぞ」
「心得た。ならば、拳を使わずに。貴様の心を翻意させて見せよう」
普通、こう言うのは小さな出会いとエピソードを積み重ねてやる物じゃないのか。どうして、誰もがショートカットでぶっちぎって来るのか。
「でも、やっぱり分かんねぇ。俺の何処に惚れる要素が?」
「分からんなら、それでも良い。だが、しいて言うなら。貴様の暴力に対する向き合い方に惹かれた。と言っておこうか」
果たして、俺は無事でいられるのだろうか。でも、拳を使わずに翻意って何をさせるつもりなんだろうか? と、気にはなる。とりあえずは。
「これからどうすンだ?」
折角、こんな告白を聞いたんだ。炎王院の積極さに身を任せてみようじゃないか。案外、暴力を振るうより呆気なく流されてしまうかもしれない。……と言うのは、俺自身も気になることだった。