若干濡れた上着を着たままハシゴを使い下へと向かう。着替える時間がもったいないし、あの『顔』の事がかなりの不安要素だからね。
見たことも無い形をしていて、人の何倍もある大きさでかなり堅そうな見た目をしていた。あんなのが暴れたりしたら・・・・・・
最悪、村が土砂で埋もれちまうだろうね。それだけはなんとしてでも防がないと。
ドオォン・・・
グラッと地面が揺れる。先程よりは小さいから、あの『顔』が何かしたのかもしれない。
私は下へと急ぐ。橋が崩れているので家の中のハシゴや通路を使い。
・・・飛び降りた方が早かったかもしれない。でも家はかなり高いとこにあるから、ちょっと危ないかも?
そんな事を考えつつも降りる速度は最高を維持する。
「オウオウオウ!!」
あの馬鹿・・・!また何かやらかしたか!
外からカミナの声が聞こえた。しかも喧嘩腰の口調で。
一旦通路を抜け、他の家にお邪魔する。そこから外が見える場所を見つけ、急いで底を覗きこんだ。
あの『顔』は既に起き上がっている。間違っても友好的な雰囲気ではなさそうだね。
カミナのヤツは・・・見つけた!『顔』の目の前で・・・啖呵きってやがる!?
『ああ?なんだオメェ?』
「喋った!?」
っ!?今の声は、シモンか!カミナの後ろに居たのかい!
まずいね、あの『顔』は人より数倍大きい。人なんて簡単に潰してしまえる筈・・・。
ここから下に行くまでに間に合うだろうか?かなり怪しいところだ。まだ若干だけど高すぎるか?
あと少し下に…!
そう考え急ぎ通路へと戻る、寸前に声が聞こえた。
「ジーハ村に、悪名轟くグレン団!」
大きな声が響く。私の足が止まる。また底を見ると、無謀にも彼は正面の脅威に向かって吠えていた。
「不撓不屈の、あ!鬼リーダーァ!」
それは彼の、カミナの誇りを表す名乗り上げ。どんな時でも己を誇示する為に彼が考えたこと。
「カミナ様たぁ、俺のことだ!」
村長の持っていた野太刀を抜き、堂々とそれを向ける。
その大きな背中を、しかし遠い背中を見つめるシモン。
私の『居場所』。
あの家族と過ごした土塊の家ではなく、私の居たい場所。あの2人を笑っていられる場所。
その2人が今、死の危険に晒されている。あの『顔』によって。
「・・・させない。」
そんなことは、私の前では絶対にさせる訳にはいかない。あの2人は私の、護る場所だ。
まだ若干高いけど、悠長にハシゴで降りてたんじゃあ間に合わない。思いっきり跳ぶか。あとは・・・まあ、そのときかな。
上体を下げ腰を落とし、跳躍の構えを取る。息を大きく吸い込み覚悟を決める。
せーの・・・・・・
パキュウン! パキュウン!
いざ行かんと力を込めた時、上から何かの音がした。何事かと思い跳ぶ体制を解き上を確認する。
女の子だ。上からロープを使い、女の子が降りてきた。上と言っても穴蔵の中じゃない。
天井の更に上、『地上』からだ。
やってきたのは赤い髪を後ろで縛った女の子だった。その子は奇妙な物(恐らく音の正体)を持っている。彼女はロープを使い下まで降りて行き、カミナ達のところに降り立った。
『顔』と敵対してるのかな。さっきの音は攻撃だったらしい。あの大きさのモノを倒せるぐらいの物なのだろうか?
さて、と。出遅れたけど、良いものが出来た。
彼女の残してったロープ。ありがたく使わして貰おうかな。
私はそのロープに飛びつき、眼下の『顔』へと狙いを定めた。
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場面は代わり、穴の底。先程降りてきたばかりの少女が2人の少年に避難を促していた。
「アナタ達!早く逃げなさい!」
「へっ!やだね!これは俺達に売られた喧嘩だ!」
しかしカミナはこれを断った。自分達の村で好き勝手されるのを、彼は良しと出来ないのだ。
「馬鹿なの?死んじゃうわよ!?」
少女は刀で巨大な敵に挑もうとしてる無謀なカミナを見た。自分一人では銃があったとしても倒せるかどうか怪しい『ガンメン』。
その言葉はカミナ達の身を案じ発していたが、カミナはこれを一笑した。
「これは俺達の村の喧嘩だ!アンタに任せっぱなしてぇのも俺は許せねえ!それにアンタは知らないだろうが・・・」
カミナは『ガンメン』が大きく棍棒を振りかぶっているのを見た。これが当たればカミナ達は肉塊へとなるだろう攻撃。
少女がその視線の先を見て気づき、すぐに少年2人を抱え避けようとした。
その動きを無視し、カミナは最後まで言い放った。
「ここにはな、俺達の仲間の『鬼』がいるんだよ。」
ゴオオォォォオン!!
『ッギャアアアア!?』
少女は聞いた。自分の背後から聞こえた、堅いモノ同士がぶつかり合う音と、中に入った獣人の悲鳴を。
岩にでもぶつかったか?と少女は『ガンメン』の姿を見た。
・・・目を疑った。これが本当に現実なのかと。自分を、自分の村の人々を苦しめる大きな『ガンメン』が。
先程まで人間に死を振りかざそうとしていたガンメンが。
眉間の辺りを、1人の少女の右足によって踏み潰されているのを見て。
「・・・・・・え?」
少女の漏らした驚愕の声を無視しし、怖がっていたシモンがその姿を見て喜色の声を上げる。
「来てくれた・・・!」
それは喜びだけでは無く、安堵も混じっていた。もう彼女が来たなら大丈夫と言わんばかりだ。
カミナは不適な笑みを浮かべ、遅れてきた幼なじみの乱入者へと嫌みを言う。
「遅かったな!寝坊かよナナメ!」
「私のウチはかなり高いとこにあるんだ!それに、アンタじゃないから寝坊なんてしないよ!」
落ちてきたナナメは『ガンメン』の上からゆらりと立ち上がり言い返した。
彼女を知らない少女は驚いた。自分と同い年くらいの少女が『ガンメン』に足でダメージを与えたことを。
「さあ、喧嘩を始めるよ!」
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これがグレン団の、彼らの、そして1人の少女の物語の始まりだった。
少女は走りだした。自分の信じた道に向かって。他の道を切り捨てて。
それが正しい道かどうかも解らずに・・・・・・