NEVER ENDING!!   作:振槍

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第10話 天は二物を与える

 

 

 

 

 

 

 

 

「昨日の戦闘訓練お疲れ。Vと成績見させてもらった」

 

 

 

 戦闘訓練の翌日のこと。

 

 ホームルームは早速それの反省会から話の口火が切られた。先生が指摘したのは勝己くんの自尊心の高さから成る個性の使い方と協調性のなさがもたらした態度。また、緑谷くんの自制のなさについてであった。

 

 彼の個性は前回の個性把握テストに引き続いて、第三者である私から見ても常に不安定な状態を保ち続けているように思えた。緑谷くん本来が持つ器の許容量に収まりきらないほどの力が注がれて溢れてしまっているようなイメージに近い。

 

 

「 "個性の制御"……いつまでも『出来ないから仕方ない』じゃ通させねえぞ。俺は同じこと言うのが嫌いだ、()()さえクリアすればやれることは多い。焦れよ緑谷」

「っはい!」

 

 

 

「それから____」

 

 

『ア──ーこれ次絶対こっちに来る、完ッ全飛び火だぜ』

 

 

 

 リブートがウアウアと呻きながら頭を抱えているのを傍目に、私は相澤先生からの視線を真っ向に受ける。無論、目線を合わせるつもりは無い。

 

 

 

「斎蹴。お前は敵を傷つけたくないがあまり献身的になりすぎだ。過度なそれはただのエゴに過ぎない。自重しろ」

 

「はい」

 

 

 

 

 …………知った口を。

 

 

 

 

 色々と訂正したい気持ちをグッと堪えて、代わりに先生の言葉に対して脳内でそう反論をする。

 

 例え口に出して言ったところで、先生にはこの苦悩が理解できないに決まっている。信憑性も根拠も何も無いことは彼に言わせれば寝言と同義で、それを態々話すなんてのは尤もな事だ。

 

 

 

 

「あと、極端に個性の使用を避けるのはかえって命取りになるぞ。いくら状況把握に長けているからといっても個性(それ)がお前の長所なんだから、率先して伸ばす方がいい」

 

「……分かってます」

 

 

 

 

『流石生徒のことをよく()()()アイザワ先生。私これでも数える程度しか手貸してないのにさ。

 

 あと若干遼にだけ小言多くねえ?』

 

 

 

 

 相澤先生の言葉はどれも的を得ていた。私の実力不足もその通りで。"誰も傷つけたくない"、それが合理主義者の彼からしてみれば単なるエゴでしかないことも。そう思った瞬間、自然と拳に力が入った。それには、強い覚悟の表れが宿っている。

 

 

 

 

 たとえ、そうであったとしてもだ。

 

 

 私はその正論を取っ払ってでも己の自我(エゴ)を貫かなければならない。

 

 

 

 

 

 

 だってその対価こそが皆の幸せ(正解)だというのだから。

 

 

 

 

 

 

「ならいい。さて、HRの本題に移ろう……急で悪いが」

 

 

 

 背筋をピン、と正して座り直す私を見た相澤先生は話を一旦切り上げた。ここまで再三言っておきながらも、漸く本題に入る腹積もりらしい。それまではどんよりとお通夜ムードだった教室中の空気が、相澤先生が息を吸うのに合わせてザワザワとどよめき始める。

 

 

 

「今日は君らに……学級委員長を決めてもらう」

「学校っぽいの来たー!!!」

 

 

 周りのクラスメイト達が一気に沸き上がる。と同時に皆一様に手を挙げ出す始末。こういうのは、小中と来て雑務の押し付け合いのようなものとしか思っていなかった。それもこれもリブート曰く、『ヒーローの素地を培う上で重要なことと言われているもの』なのだとか。

 

 しかしそれはヒーローを目指す人間に限った話でしかなく、私とはまるで無縁だ。彼らのいきり立つような熱気に気圧されながらも、周囲に悟られないように短くため息を吐いた。

 

 

『私もこんなのをやったところでヒーローの素地を伸ばせるとは思えないけどな』

 

 

「静粛にしたまえ!!」

『うわうるさっ』

 

 リブートが大袈裟に耳を塞ぐ真似をした。そもそもヘルメットをしているせいで何の意味もないのだが、喧しいリブートは実際私にしか見えていないため、構わず飯田くんは手を挙げて言葉を続ける。

 

 

「"多"を牽引する責任重大な仕事だぞ……! 『やりたい者』がやれるモノではないだろう! 周囲からの信頼あってこそ務まる聖務……! 民主主義に則り真のリーダーを皆で決めるというのなら……これは投票で決めるべき議案!!!」

 

 

 

「日も浅いのに信頼もクソもないわ、飯田ちゃん」

「そんなん皆自分に入れらァ!」

 

 

 蛙吹さんの言葉に切島くんも頷く。飯田くんの言い分は正当性こそあったが、それにバカ真面目に従うほど周囲は考えなしな訳では無い。飯田くんによってクラス全員に配布された紙を前に、ペンを持つ手が止まる。

 

 

『マァ、直線的な彼ならどうせ誰かに投票しちゃうなんてのがオチだろうけどね。で? 遼は誰に票入れるの』

 

 

 

 

 

 リブートが興味のなさそうに問いかけはすれど、私はそれに答えることは無い。公平性の観点から相澤先生が放った「そろそろ回収するぞ」の一声で、私はさっと走り書きになりながらも名前を記入する。そのまま紙を折りたたんで、再び姿勢を正したのだった。

 

 

 

 

 

 結果、委員長と副委員長はそれぞれ三票を獲得した緑谷くんと二票を獲得した八百万さんに決定した。

 

 その他の生徒は皆自分に票を入れているのが見て取れる。飯田くんだけは自身に一票が入っているのを感慨深く思っているのか、感動に打ち震えているものの、すぐさま委員長になれなかったという現実に項垂れていた。その一方で、せっかく委員長になった緑谷くんの表情もまた驚愕に満ちていた。

 

 

「……」

『やーっぱりイダテンに入れたんだねえ。悪くない選択だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼休みになって、私はまたいつもの場所で昼食をとる。この時間だけは、学校生活において唯一私が気を抜ける場所だからだ。

 

 

 誰も私を見ることがなければ、誰かの視線を受けることもない。

 

 唯一の難点は、ヒーロー科の他にサポート科や経営科、普通科の生徒が入り交じる食堂と比べて、人気の少ないここではかえってヒーロー科が浮くということ。

 

 

 けれどもこの一時こそが、"私が私であれる"時なのだ。

 今日も、そうであると思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんたさ、ヒーロー科だよね」

 

「はい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 丁度弁当の包みを開けようとした刹那、私の頭上に影がかかる。"ヒーロー"科なんて、不名誉な括りに眉を顰めて顔を向けると、髪を二つ縛りにした女子生徒がこちらを見下ろしていた。

 

 嫌な予感に目線をずらすと、更に女生徒は声を張り上げて、嫌味ったらしく言った。

 

「普通科の人間なら皆あんたのことは知ってる。あんたらみたいな派手な個性持ちとは違う、私たちみたいなヒーロー科に入れなかった奴らが、何とかして学力だけはって頑張ってんのにさ」

 

「あの、なんの話……?」

 

 

 

 話の本筋が見えない。

 戸惑いを隠せないでいる私に、ますます彼女の眉間に皺が刻み込まれていく。

 

 

 

 

「っあんたでしょ! ヒーロー科に入った上に、入学試験でも満点とったって噂の首席入学者は!!」

 

 

 首を傾げた私の襟元に掴みかかって耳が裂けるような金切り声で叫ぶ。手に持っていた弁当箱が滑り落ちて、地面へ向かって真っ逆さまにこぼれ落ちた。

 

 そこでようやく、私は彼女の言わんとしていることを理解した。

 

 

「おい、棘池。よせ」

「そうだぞ、落ち着けって」

 

 

「うるさい、あんた達も本当は思ってんでしょ!?」

 

 

 

 

 

 彼女の視線の先には二人の男子生徒が立っており、彼らもまた普通科の生徒だろうというのが容易にわかる。

 

 こちらに向けるその目は、言葉とは反対に激しい憎悪の念が渦巻いているようにも見えた。すかさず、紫の髪の少年の方が先に声を上げる。

 

 

 

「俺が言ってるのは場が悪いってことだ。棘池、ここにいるのは普通科だけか?」

「何言ってんの、ヒーロー科の首席入学者サマが目の前にいるじゃない」

 

 

「そう……そうだよな。分かってんなら、少しくらい冷静になれ」

 

 

 

 紫髪の彼がそう言った次の瞬間、私の襟を掴んでいた彼女の体がダラリと弛緩する。慌てて私が頽れた彼女の身体を支えたので、頭を打つようなことは起こらなかった。

 

 私が棘池と呼ばれた少女を地面にそっと下ろすと、リーゼント頭の大柄な男子生徒がものすごい剣幕で咄嗟に駆け寄ってきて倒れた彼女の体を揺すった。

 

 

「棘池!! おい、棘池ッ!」

「心配するな、気絶してるだけだ」

 

「ッ心操、お前が操ったのか……!!」

「…………」

 

 

 

 操った、とは何とも大層な言われ方である。

 

 心操と言われた紫髪の彼の個性によるものなのだろうと分析した私は、彼がこちらから目を逸らして立ち去ろうとしたのと同時にその腕を掴んで引き止めた。

 

 

 

「ッなんだよ! お前も俺を軽蔑したいか? ああ、やっぱり個性なんか使うんじゃなかった」

 

「違うよ」

 

 

 取り乱している彼の言葉を遮ってまで私は真っ向から否定した。不安定に揺らぐ瞳はサイケデリック螺旋のように渦巻いていて、けれども決して互いの視線が交わることは無い。しかし私は構わず更に距離を詰めた。

 

 

 

「助けてくれて、ありがとうね」

 

 

「は」

 

 

 暫しの沈黙と共に今度こそ彼は完全に固まった。代わりに、気絶していた女子生徒の方が目を覚ます。

 

 

「ッ棘池! 無事か!?」

「う、うん……私は平気、だけど」

 

 

 

 彼女はゆっくり立ち上がって申し訳なさそうに頭を下げた。さすが想定外だったのか、その行動には個性を使った少年自身が目を見張るほどだ。

 

 

「心操、あんたの言う通りね。ちょっとは冷静になるべきだったわ。私が馬鹿だった」

 

 

「ぁ、……俺の方こそ、無理に止めてすまなかった」

 

 

 

 

 おろおろと少年の目線は地面と私の足元をを行ったり来たりしていた。それに気づいた私は、慌てて掴んでいた彼の手をパッと離した。

 

 

「あんたも、ごめんね。これでも普通科には、ヒーロー科に入りたいと思ってた奴らがいっぱいいんのよ。だからあんたみたいな何もかもを()()()()()()()()人間が、肩身の狭い思いでここに追いやられた奴らのことも考えないまま、すました態度でここを陣取ってるがカッときちゃって。

 

 惨めな思いをするのは私の方なのにね」

 

 

 

 

 彼女の言葉を聞いて、私はひとつ、自身が酷い勘違いをしていたのに気付かされたことがある。

 

 

 

 

 

 ここは、もとよりヒーロー科の生徒がそうそう訪れることはないと、私は初めにそう高を括っていた。

 

 他のヒーロー科の生徒と鉢合わせることもないから、私が私であることを許される場所だと思っていた。しかし、それは逆だったのだ。

 

 

 ヒーロー科がいないここだからこそ、ヒーロー科以外の彼らが彼らであれる場所。それがこの場所なのである。

 

 

 

 

 私が、そんな彼らの場所を奪っていただけの話。

 

 

 

 

 誰も私を気にせずにいてくれたのではない、

 ヒーロー科()を気にしたくないだけ。

 

 

 

 

 幾ら私がヒーローではないと声を上げても、私に貼られたレッテルは『ヒーロー志望の有精卵』そのもの。

 

 

 ……なぜ、今まで気づいていなかった? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もはやこの学校に限らず、この世界のどこにも私の居場所は存在していなかった。

 

 それはある種の呪いであり、またある種の栄誉である。少なくとも、今の私には前者でしかない。

 

 

「…………やめてよ」

「え?」

 

 

 自分でもびっくりするほど低い声が出た、と他人事のように思った。やけにスッキリと冴えわたる脳内が続く言葉を考えようと幾つもの道を作り、それが浮かんでは消えを繰り返す。

 

 だめだ、何を言ってもそれが正解であるという確証がない。軽率な発言はかえって自分の首を締めるだけだ。

 

 リブートがこの場に居てくれれば良かったのに。

 

 

 

 

 

 

「私は、あなたが思っているような人間じゃない。

 

 だから、変な期待はしないで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのまま周囲の人間には目もくれずに地面に落ちたモトコさんお手製のお弁当をかき集めて弁当箱の蓋を閉じる。彼女たちは絶えず何かを私に投げかけていたようだったが、その呼びかけに対し私は二度として振り返ることはしなかった。

 

 さっきまで温かかったであろう弁当を抱え直すもそれは土や水分を十分に吸っていて、食べ物かどうかも怪しい。

 

 それも同様に、拾い上げるまでが()()()()のだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『オ、珍しいね。食堂なんかいつも来ないのに』

「別に、弁当がダメになっちゃっただけ」

『へえ。そんな事よりさあ、これから面白いものが見れそうだよ』

 

 

 リブートの簡素な驚嘆に二言三言と言葉を返し、そのまま個別のカウンター席に腰掛ける。

 

 リブートは案の定食堂にいた。私が本来であれば絶対に訪れることのなかった場所に、まるで全てを分かっているみたいな顔をさせてそこを交差していく人の顔を見つめているのだ。

 

 

「面白いって、何」

 

 

 

 ここは食堂で、その分人も多い。多少の会話であればちょっとした独り言として解釈されるだろうと思って、リブートにポツリと言葉を漏らした。

 

 純粋な疑問。

 

 

 最近の私には面白いも楽しいもない。ただ、言われたことをこなして、思い通りに動いているだけの機械も同然だった。それに違和感を覚えなくなったのは、いつからだったっけ。

 

 

 

 リブートはその問いかけに人差し指を立てて、洗礼者が如く声を潜めて囁いた。

 

『君には理解し難い感情のことさ。それは逆に、君が最も理解しうる感情でもある』

 

 

 私がその言葉の意味を咀嚼しようとした、その瞬間のこと。

 突如けたたまししい警報が学園内に鳴り響いた。私の全身を、嫌な予感という名の悪寒が駆け巡る。

 

 

 もしリブートの言っていた面白いものがこのことだったとしたら。

 

 

 

 

【セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外へ避難してください】

 

 

「3だと!? 急げ急げ!!」

「ちょ、押すなって!」

「君たちも早く!」

 

 警告は繰り返し流れ、生徒たちは出口に向かって、一心不乱に駆け出した。集団から遅れをとり、行き場をなくした者ばかりが慌てふためいている。非日常的で異様な光景、その不気味で張り詰めた空気がそこだけに漂っていた。

 

 

『ほらね、面白いだろ?』

 

 

 

 

 私の額に薄らと汗が滲む。

 

それを見透かしたような緊張感のない一声が一瞬にしてその場の空気を霧散させてしまう。呆然とする私を無視して、リブートだけは頬杖をついて目の前で繰り広げられる光景をぼんやりと眺めていた。

 

 

 




棘池築稚かわいいよ棘池築稚。
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