NEVER ENDING!!   作:振槍

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第11話 未知との遭遇

 

 

 

 

 

 

 

 雄英高校といえば、政府も公認のそのセキュリティの強固さが売りな学校である。雄英バリアと呼ばれるゲートが作動することで生徒の身の安全を第一とする、いわば堅牢堅固の要塞、であるはずだった。

 

 

 しかし、今回こうしてマスコミの侵入を許してしまった事で状況は一変する。国内最高峰の警備を誇るタルタロスに次ぐレベルのこの雄英高校に限って、この事実が何を意味するのか。それが分からない斎蹴ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『まァ、そう慌てなくても良い。今朝のマスコミを見たよね? 元凶は彼らさ。どっかの誰かさんがうっかり雄英の正門ゲートを崩壊させたからセキュリティが作動したってだけで』

 

 

 リブートはそこまで言って、ヘルメットに描かれたスマイルの端に小指を当ててぐい、と引き上げて笑う真似をした。

 

 

 

 

『そう、問題はそこじゃないんだ』

 

 

 カツン、と軽快な音を立てて食堂のフローリングを叩く黒光りした編み上げブーツが視界の端に映る。私の返事を待っているような、暫しの沈黙。

 

 

 それに答える気がないと知っての行為なのか、自身の返事を待たずして続ける。

 

 

 

『君はここでは否応にも立派なヒーローの原石だ。つまりはこの緊急時での対応、そこも外聞の評価に関わるよねえ』

 

 

 

 

 そんな悪夢のような話があるものか。

 

 きっと今の私は酷い顔をしているに違いないのに、リブートはいつも通り、何一つ変わることない喜色の含まれた声色で本題を切り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ねえ、遼。私にヒーローの君を見せてよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………分かった」

 

 

 

 

 

 そこに拒否権なんてもの、ある訳ないのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 飯田天哉はその時、ある生徒の存在を目にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆さん! 大丈ー夫!! ただのマスコミです!」

 

 

 それは食堂での出来事であった。滅多に鳴ることの無い警報に煽られ、出口へ殺到する生徒の波。

 

 ここ雄英に来て、こんな混乱は滅多になかった。

 

 

 

 

 

 __まずい、このままでは転倒事故が起こる。

 

 判断は一瞬だった。この状況下で己に何が出来るかを考え、最適解を導き出した。憧れの兄の背中を追い続けて磨いてきたこの"速さ"を、こういう時こそ使わねばならない、と。

 

 自身が注目の的となって周囲からの目線を浴びることで、生徒たちの混乱を解き、被害を最小限に抑える。

 

 色々と脳内で算段を立ててから、飯田は思い切って大きく息を吸い込む。そして、

 

 

 

 

 

 

「ここは雄英!! 最高峰の人間に相応しい行動をとりましょう!!」

 

 

 

 声を張ると、周囲の人間がようやく彼に気づき、空気が揺らぐ。皆一様に目先の事に囚われて、我先にと避難口に向かっている。

 

 

 その出口とは、正反対に位置する食堂の方面にて。

 

 

 

 

 その中でたった一人だけ、この光景には馴染まないほどに愁いを背負う人の姿があった。

 

 成績優秀で容姿端麗、しかし内面は冷酷非情。

 

 彼女は入学当初から数々の肩書きを携えていた。そんな第一印象から孤高の天才を体現したような人間だと思っていた__彼のクラスメイトでもある少女に現在まとわりついている雰囲気は、最早冷静を通り越して虚無である。

 

 彼女の据えた瞳が此方を見上げたのも束の間、それはすぐさま床の方へと落とされた。

 

 

 

 人の背丈より高い位置にいるせいもあって、無意識のうちにも飯田は彼女のことを目線で追いかけた。出口からはずっと離れているようにも感じる食堂のカウンター席にぽつねんと立ち尽くしているのでさえ、余計に不安を煽るばかりだ。

 

 

 

 

 

 何故避難をしない? 飯田が片眉をつり上げて訝しげな表情を浮かべたその瞬間、斎蹴の体はふっと沈み込んだ。

 

 正しくは途端に床へとしゃがみこんだ、という方が適切である。五指で床に両手をついて、俯きざまに彼女の口が何かを呟いた。かと思えば、その周囲の空気が突如震え出す。次第にそれは、こちらの人混みの方にまで波動する。

 

 

 斎蹴君。

 

 いつの間にか飯田の口はそう少女の名前を呟いていた。それも形だけで、それどころではない生徒たちの響めきによって掻き消されてしまうものの。

 

 

 

 

「!」

 

「な、なんだ……!?」

「床に押されて……っ、!!」

 

 

 一塊となっておしくらまんじゅうのように圧迫されていた生徒同士の密集が、段々と押し広げられるように均されていく。

 

 

 

 飯田はすぐさまそれの原因が彼女の個性にあると気がついた。

 

 あまり多くを話したがらない気質なのか、戦闘訓練の際に【念力】とだけしか伝えられていないことを思い返して、何か考えがあっての行為な筈だと理解した少年はその後も周囲に落ち着くようにと声を上げ続けた。

 

 

(……そうか。被害を抑えるために距離を作っているのか)

 

 追い詰められた状況で即座に最適解を選び、なおかつ倒れた生徒に触れないよう、力の加減まで丁寧に……。

 そこまでを理解してしまった時、どこまでも考え尽くされたその行動の緻密さに飯田は息を呑んだ。

 

「皆さん、落ち着いて! 押さないでください!」

 

 

 飯田が声を重ねるうちに、生徒の群れはすっと広がり、空間に新鮮な呼吸が戻っていった。

 

 

 それもこれも皆が自主的にそうしたのではない、彼女がそうさせたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 被害が大きくなるという予測から、念力を用いての距離感の確保。倒れた人々の身の安全を第一にして迅速かつ丁寧に、警察が到着するまでの数分間、水面下で事は進められた。

 

 

 

 その甲斐あって、怪我人を一人も出さずに事態は収束へと向かった。

 

 

 

 

 

 飯田は思った。

 

 

 ──彼女の個性は、人を(たす)けることに向いていると。

 

 

 だからこそ、戦闘訓練の時の彼女の行動が不思議に思って仕方がない。

 

 ならば、なぜ彼女自身あそこまで己の個性を疎んでいるのだろうか。

 

 

 今朝のHRでも相澤先生に苦言を呈されていた、個性の使用を意図して避けるかのような戦闘方法。上手くカバーされていて殆どの生徒は見落としていたが、微細なその違和感は飯田でも感じられた。形容するのであれば、それは自身の個性の扱いに対する不安というよりは、まるで存在そのものに対する拒絶に似た何か……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ___もっと知りたい。

 

 

 

 それは、純粋な彼自身の本音であった。

 

 

 仮にも自分だけではない、きっと彼女と同じクラスの生徒なら誰もがそう思っているに違いない。

 

 飯田にそう思わせるほどに秘密主義で、本来の人間なら避けたがる他者との間に存在する隔たりをものともせず、寧ろ心の拠り所にしている。それが、自然と人の心を惹きつけるのだった。

 

 

「っ、斎蹴く……」

 

 

 そうして、全てが片付いた後。飯田が再び斎蹴の方に視線を向けた時には、もう彼女の姿などどこにもなかった。

 

 まるでそこの一部だけを切り取られたかのように、斎蹴が元いたカウンター席の椅子がポツンと取り残されているだけだった。言葉の続きを発しかけた飯田の口はそれ以上を語ることの無いまま、ゆっくりと閉口した。

 

 

 

 

 今日の件で飯田は学園の生徒たちから場を収めたヒーローとして生徒たちから親しみを込めて"非常口"などと呼ばれる羽目になった反面、今回の影の功労者であった彼女の存在など、終ぞ誰かに知られることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「委員長はやっぱり、飯田くんが良いと……思います!」

 

「……」

 

 

 昼休みのマスコミ襲撃事件の後、午後からの授業にて。学級委員長の座についた緑谷くんではあったが、やはり彼の希望たって委員長は飯田くんに譲ることになったようだ。

 

 

 そこには誰からの異論もなく、今日の彼の行動力を鑑みればそれも当然と言えば当然の結果でもあった。

 

 

 

 

「委員長の指名ならば仕方あるまい!」

 

 

「任せたぜ非常口!」

「非常口飯田!! しっかりやれよー!」

 

 

 飯田くんは口角を持ち上げてビシリと手を挙げた。それにどっと沸いたクラスメイト達がさらに彼を持ち上げる。それがなんとも単純で、純粋にも思えて、私も自然と表情が柔らかくなっていた。

 

 

 

 そのまま放課後になって、私はいつものようにひと足早く教室から抜け出した。

 

 しかし、その後ろを追いかけてくる規則的な足音に分かりやすく顔を顰めることとなる。そのまま気にせず通り過ぎていれば良かったものの、斎蹴君、と声を大にして叫ばれては無視するのもバツが悪い。不幸中の幸いかリブートが居なかったことを確認してからゆっくりと振り返った。

 

 

 

 

 

 

「……何?」

 

「君だろう、僕に票を入れてくれたのは!」

 

 

 

 ……なぜ気づいているのだろう。

 

 

 これではわざわざ匿名投票にしている意味も無いのではと思う気持ちはあれど、それはそもそも皆が自分に票を入れているのだからある程度絞れてしまうものか、とひとまずは適当な推論を並べて自己完結をさせておくことで自身を納得させた。

 

 飯田くんは物言いたげな表情で私を見つめていたかと思いきや、途端に慌てて口元を抑えた。そして一人称を()()と再度改めて訂正を入れる。

 

 

「君は、他人から距離をとっておきながらもその本質はやはりヒーロー向きだ。俺はあの時に斎蹴君が個性を使うのを見ていた、君の個性は人の役に立てられる!」

 

「そうかな」

 

 

 

 下手な芝居は打てない。ここは曖昧な相槌で濁すのが賢明である。そうと知っていたから、私は飯田くんの熱弁に平坦な声色で「へえ」と他人事のような返事を返した。

 

 

 

 

 

「だから疑問に思えて仕方ないんだ。君は戦闘訓練の時も、あまり個性を使わなかっただろう」

 

「その理由はもうあの時に言ったよね。制圧が目的なら、個性だって無闇に使わなきゃいけないとは限らないでしょう。それに闇雲に手の内を明かすものじゃ____」

 

 

 

 

「怖いのか?」

 

「…………はっ?」

 

 

 

 

「俺には君が君自身を恐れているように見える」

 

 

 

 

 

 

 彼は何を言っている? 

 

 

 

 

 誰が誰を。私が、私を? そんな馬鹿げた話がある訳ない。ふらふらと彷徨わせていた視線がふと飯田くんを見上げる。思えば、こうして人と目線を合わせて会話をしたのはいつぶりか。

 

 

 かち合った飯田くんの瞳にはえも言われぬ不信感が滲んでいる。それさえ彼に何かを責め立てられているような気がして、慌てて目を逸らす。それから、飯田くんに背を向けて深く息をついた。

 

 

 

「はー……思い込みもいい所だね、流石は委員長。生徒一人一人をよく見てるから私みたいなあぶれ者にもお優しくしてくれるんだろ」

 

「ちが、俺はそんなつもりでは」

「違うなら何? それもこれも善意だって言うの? 何でもいいけど、私は君の評価稼ぎのダシにされるつもりはないよ」

 

 

「俺はただ! 斎蹴君のことがもっと知りたいから!!」

 

 

 ほんの一瞬だけその大声に驚いて目を見開くが、すぐさまいつもの無表情へと切り替えた。

 

 

 口をついて出た傲慢不遜な言葉たちに、自分で言っておきながらも吐き気を覚えた。そのせいで、飯田くんの真っ直ぐな台詞が余計に私を惨めにさせる。

 

「はは」

 

 そんな葛藤すら知りもしないであろう彼に対して喉から零れたのは、嘲笑にも似たような乾いた笑い声だった。

 

 

 

「どうせ最後には失望するだけなのにさ」

 

 

 

 目を伏せると瞼の裏に浮かぶのは、今まで私と出会ってきた人たちの姿。目に馴染む白髪の彼も、金髪のあの子も、最後は一方的に私の方が去っていくばかりだった。それもこれも、私が裏切ったも同然なのだから。

 

 

「? 斎蹴君、それはどういう」

「この話は終わり。飯田くんがそれでも知りたいと思うなら、勝手にやるといい。勿論、私のいない所でね」

 

 

 彼の話を遮ってそう冷たく言い放つ。そこには思いやりの欠片なんてものも何もない。そのまま私は踵を返して歩き出した。飯田くんの足音がまだ後ろにあるのが鬱陶しい。

 

 

 

 靴箱を開けて学園を抜けた時。

 

 

 ふと彼のことが気になってちらりと背後に視線を走らせると、案の定、飯田くんが遠巻きに立ち尽くしていた。眉根を寄せ、直立不動で、口を半開きにして。どうすればいいのか分からず困惑している、そんな顔だ。

 

 

 

 

 

 "斎蹴君のことがもっと知りたいから!! "

 

 

 先程の彼の言葉が脳内で繰り返されるのに合わせて、胃の腑から何やらどろりと熱いものが溶けだす。これを変に「期待」なんて生ぬるい言葉で括ってはいけない。もっと貪欲で、今にも無くなってしまいそうな希薄を抱えている、それ。

 

 そのまま学園の外から大通りへ抜ける。そうして外の夕焼けが目に入った瞬間、少しだけ呼吸が楽になった気がした。

 

 この後は真っ直ぐ帰路について、モトコさんと他愛もない会話をして。「学校はどうだった?」に「普通だった」と、いつもの決まり文句で終える。後ろからはもう誰の気配もない。それでいい。これでまた、いつも通りの日常が始まる。

 

 

「……なのに」

 

 

 

 __何故、こんなにも苦しいのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 この問い掛けに、いっその事誰も答えないでくれたら……と何度願ったことか。

 しかし世界は無情にも、私の問いに答える人物を用意していた。このヒーロー飽和社会をやけに傍観している、静かなる調停者を。

 

 今までどこに行っていたの、という私の視線がリブートのニコちゃんマークと交わった。相変わらずどこを見ているのか分からないその貼り付けられた笑顔に、私はため息を漏らす。

 

 

 

『……出会い頭に人の顔見てため息つかれるとはね。シツレーだと思いますけどオ〜?』

 

 リブートがわざとらしく間延びした喋り方で私の後ろからそのように投げかけた。私の反応がかえってこないことをつまらなく思ったらしい。真っ直ぐ家までへの道を辿る私の背後を猫のようにそろそろとついてはまわる。

 

『はは、冗談さ。ンな事より見させてもらったよ、君の活躍。非常口イダテンには気づかれてしまったようだけど』

 

 

 まア然程問題はないだろう、とリブートはけたけたと笑っていた。

 

 それは、今日起きたことの全貌に対する笑いなのか。はたまた、私のことを嘲っているものなのか。相変わらずその真意が読めなくて、最後には私が口を閉ざすしかないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、言う訳で今日のヒーロー基礎学だが……俺とオールマイト。そしてもう一人の三人体制で見ることになった」

 

「ハーイ! 何するんですか!?」

 

 

 

「災害水難なんでもござれ、人命救助(レスキュー)訓練だ!!」

 

 

 

 つい先程のやり取りを思い返しながら、私は揺れる車内にも構わず目を伏せた。所謂瞑想というやつである。

 

 生気を感じさせない目をした相澤先生の言葉通り、今日の実習では人命救助の方法を学ぶ。今はその為に学校支給のバスに乗せられ、目的地へと向かう道中である。

 

 

 不意に肩をつんとつつかれる感触があった。片目をパチ、と開いてから横を向くと、ビー玉のようにキラキラと光る琥珀と目が合った。真っ直ぐで、一切の濁りを許さないそれ。私の苦手なものだった。

 

 

「あっ、寝てたのに起こしちゃってごめんね!」

 

「……別に寝ていた訳じゃないよ」

 

 

 

 誰も話しかけるな、という圧を放っていたのに隣に座った彼女──麗日さんは意に介さないと言わんばかりに私に話しかけてきた。

 

 

「思ったんやけど、デクくんと同じで遼ちゃんも体操服なんやなあって。コスチュームは?」

「誰があんなの……」

 

 

 

 着るわけないだろう、と鼻で嗤いかけて、ふと言葉に詰まった。周囲から見れば私のヒーローコスチュームは私が自分の意思で受注したものでしかない。それを理由もなしに着ないなんてのは、文言として逆に怪しまれやしないだろうか。

 

 喉の奥に小骨が突っかかるような感覚になりながらも、発音だけは流暢に言ってのける。自分のことを虚飾するのだって、かつてのような抵抗はない。

 

 

「今日の実習は、体操服の方が動きやすいのかなと思っただけ」

「そっかあ」

 

 

 

 麗日さんはその返答ににこりと微笑んだ。相槌とも愛想笑いとも判別しがたいが、それは本来私に向けられるべきものではない。

 

 

 そして、沈黙。

 

 

「……」

「……」

 

 

 

 私は再び瞼を閉じる。気まずさに耐えかねて、というよりはほぼ反射的なものだった。

 

 

「遼ちゃん、眠いん?」

「だから寝てないよ」

 

 

 目を瞑っていても、麗日さんは話題が尽きないようにと私に話しかけてくれた。それが無性に嬉しくて、ついつい反応してしまうのは、私が愚かだからなのかもしれない。

 

 

 

 

 

「アッ、麗日のやつ、斎蹴と話せてるぞ!」

「ウッソだろ……てマジか!!」

 

 

「喧しい」

 

 

 ジロジロと視線が集まったと思えばこの有様。切島くんと上鳴くんの声量の大きさもややあって、私は吐き捨てるようにそう呟いてから窓の外を眺めた。

 

 

 

 

 

「水難事故、土砂災害、火事……etc.あらゆる事故や災害を想定し、僕が作った演習場です。その名も(U)ソの(S)害や事故(J)ルーム!!」

 

 

 

『わあ、めっちゃアウト』

 

「スペースヒーロー"13号"だ! 災害救助で目覚しい活躍をしている紳士的なヒーロー!」

 

 

 緑谷くんの説明を右から左に受け流しつつ、リブートに似たヘルメットを目にして私は視線を下げた。そんな私にも構わず、当の本人は相澤先生と話し込んでいる13号先生の方へふらふらと向かっていった。

 

 

「えー、始める前に、お小言を一つ二つ……三つ……

 ……四つ」

 

 

 減るどころか寧ろ増える一方のそれに、周りの空気が一気にどんよりと沈み込んだ。

 

 

 

「皆さんご存知だとは思いますが、僕の個性はブラックホール。どんなものでも吸い込んで塵にしてしまいます」

「その個性でどんな災害からも人を救い上げるんですよね」

 

 緑谷くんの発言に13号先生は軽く頷いた。

 

 

「ええしかし、簡単に人を殺せる力です。みんなの中にも、そういう"個性"がいるでしょう」

 

 

 話を聞いて、13号先生もやはりプロヒーローなのだなあと思った。人を殺せる個性なんてのは、この世界だとヒーローもヴィランも同様に持ち合わせている。けれど、両者を明確に分ける要素はそれを人を守る為に使うか、傷つける為に使うかくらいしかない。それほど曖昧で、簡単にひっくり返せてしまえそうなほど不安定な定義を前にした時、私は正しい判断が下せるのだろうか。

 

「超人社会は"個性"の使用を資格制にし、厳しく規制することで一見成り立っているようには見えます。しかし、一歩間違えれば容易に人を殺せる"行き過ぎた個性"を個々が持っていることを忘れないでください」

 

 

 

 13号先生の言葉はどこまでも芯を食っていた。ヒーロー飽和時代に飲まれ、平和ボケした市民が上辺だけは幸せであるというように美辞麗句を吐くのとは正反対。

 

 耳が痛くなるようなことを、しかと刻み込むように語る。

 

 

「相澤さんの体力テストで自身の力が秘めている可能性を知り、オールマイトの対人戦闘でそれを人に向ける危うさを体験したかと思います。

 

 この授業では心機一転! 人命のために、個性をどう活用するかを学んでいきましょう」

 

 

 

 

 

 

「君たちの力は、人を傷つけるためにあるのではない、救けるためにあるのだと、心得て帰ってくださいな

 ……以上! ご清聴ありがとうございました」

 

「ステキー!」

「ブラボー! ブラーボー!!」

 

 

 

 そうして全ての話が終わった時、はち切れんばかりの拍手がその場に大きく鳴り響いた。中々に好評な生徒たちの歓声を受け、13号先生は頭を下げる。私も周りに気が付かれないようにひっそりと拍手をした。

 

 そういう風に思えたらいいと思う。この個性も、身に余るほどの力も、人を救ける方面で活かせたら。

 

 世界を変えるだなんて大それた大義の為に頑張らなくても、そういった些細なことでも輝けるのなら。

 

 

 

『……つまらないな』

 

 変に期待をしてしまう私の浅慮さを、リブートの冷たい声色が現実に引き戻した。それが、何に対してのつまらないなのかは分からない。ただ、どうしようもなく嫌な予感が背筋を伝うのを感じていた。

 

 

 

 きょろきょろ、と演習場を見回すリブートのバイザーが照明に反射する。何かを待っているような挙動だった。

 

 目線の先を追ったところに、空間が裂けるような音があった。初めて聞くような空気を割った重低音に、担任である相澤先生も異変を感じて振り返った。

 

 

 

「一かたまりになって動くな!!」

 

「え?」

 

 それが個性なのか、ワープのような何かを通じて、無から現れた集団。呆気にとられて動けないでいた私たちに声を張り上げた相澤先生は、もはやただの教師ではない。一人のプロヒーローがそこに立っていた。

 

「13号!! 生徒を守れ!」

 

「何だアリャ!? また入試ン時みたいなもう始まってんぞパターン?」

 

 

「動くな! あれは___"(ヴィラン)"だ!」

 

 

 

 

『さて……面倒なことになったね』

 

 

 

 奴らの目的はオールマイト、たった一人の殲滅だ。ともするとマスコミがゲートを突破して学園内に侵入した一件にも一枚噛んでるのだろう。

 

 リブートがゆっくりと背筋を伸ばしたのに合わせて、目線の先にいた薄い髪色の青年と目が合った気がした。顔や腕、至る所に手を引っつけている奇抜な見た目とは相反して、猫背気味にぶつぶつと独り言を漏らす。

 

 

「どこだよ……せっかくこんなに、大衆引きつれてきたのにさ……オールマイト……平和の象徴……いないなんて……。

 

 子どもを殺せば来るのかな?」

 

 

 

『いや、君も大概子供だろうに!』

 

 敵のゾッとするような悪意を前に皆が震え上がる中でも、リブートは一人身体をひくつかせながら笑い声を上げた。されど、その笑い声に感情は乗らない。

 

 

 相澤先生がゴーグルを下げて捕縛布を片手に敵の中へ突っ込んでいくのと、ほぼ同時の出来事である。

 

 

 

 









小説を書くにあたって原作を読み返していたのですが、初登場の死柄木弔があまりにもシャイニング過ぎて笑ってしまいました。リブートにジャックの名セリフ『Here's Johnny!(お客様だよ!)』を言わせそうになったのも突飛すぎ&メタすぎってことで没に。どこかでまた言わせたいくらい好きなセリフですね。


それはそれとして初期柄木クソガキムーブしすぎではないだろうか。

P.S. ヒロアカアニメ完結おめでとう^_^
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