NEVER ENDING!!   作:振槍

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第1話 出会いと別れ

 

 

 

 約束の翌週になっても、その次の週になっても、燈矢くんは現れなかったどころか、最近は途端に姿を見せなくなった、とリブートは言った。

 

 私はというと、相も変わらず外に出られない時は本を読んで過ごし、ひたすらに知識を培うばかりの日々が続いている。それと、個性の強化訓練も欠かさない。

 

 

 リブートが前に言っていた仮説は、燈矢くんをもって証明されたことで、あの後からリブート自身は堂々と孤児院を抜け出すようになっていた。私は見つかるとマズイらしく、猫を被っておけ、と意味不明な発言をされた。

 

「猫は被れないよ」

『バカ、語彙力を身につけろ。比喩だよ比喩。大人しくしとけって事』

 

 

 

 

 

 

 そうしてある日、孤児院に担ぎ込まれてきた燈矢くんの変わり果てた姿を見て私とリブートは顔を見合わせることになる。

 

 

『……あれは、燈矢くんだ』

「うそ、もしかして怪我したんじゃ……」

『粗方個性の暴発といったところだろうね。一部が人工皮膚だから、あれでもマシになった方だろう』

 

 

 一人だけ皆とは違う個室に隔離されていることから、私は何かあったのだとリブートに詰め寄る。なおも冷静に分析を続けるリブートに底知れぬ得体の知れなさを感じたのさえ蓋をして、私は声を荒らげた。

 

 

 

「ねえ! リブートは燈矢くんのこと治せるんでしょ……! 前、火傷を治してあげてたの見たよ!」

『目敏いね。……そう、確かに私は燈矢くんを治せる力を持ってる。けど、個性は万能じゃないんだ。必要なことにはちゃんと手を貸すが、私が今それをしない理由を汲んで欲しい』

「どういうこと……?」

『何かを変えるには、それ相応の代償が伴うんだよ』

 

 

 

 眠り続けている燈矢くんをガラス越しに見つめる私に、リブートは終ぞ振り返る事もせずに言った。

 

 遠くから私と同じくらいの子達も燈矢くんが気になっているのか、多方面からの話し声が気忙しく飛び交ってはいるものの、燈矢くんの部屋の前に私がいるせいで、結果として誰も近付きはしなかった。

 

 

 

 

『それより、だ。問題なのは燈矢くんの治療にほぼ確で携わっている例のヤブ医者だ。前にアイツの院と提携を組んでいると聞いた時から気味が悪いとは思っていたが……クソ、マズイことになったな』

 

 

 

 そのヘルメットに張り付いた笑みとは正反対なほどの荒々しい言動が、突如私の耳に飛び込んできた。見てみれば、リブートは廊下で燈矢くんを見ていた私の横であっちへ行ったり、こっちへ戻ったりを繰り返している。こういう時、リブートは私には訳の分からないような単語をポンポンと羅列しては消す、という作業を何度も行うせいで口調が荒々しくなる。言わば絶対領域(ゾーン)に入った状態で、「正解」のルートを構築しているそうだ。

 

 

 

 

『___予定変更だ、遼。燈矢くんはアイツに利用されてる、お前の個性が向こうに知られてる以上、これ以上留まっても逆に利用されるのがオチだ』

 

 

「えっ?」

 

 

 

 

『今日中、若しくは今週中にはここを出るぞ』

 

 

 

 猶予は、五年。

 

 

 そう言ったのはリブートなのに。

 

 まだ二年しか経っていないじゃないか、なんて文句は、もはや出てさえ来なかった。

 

 

 

 

 

 力無く黙り込んでしまった私を見て、リブートは気に留める様子もなく脱走計画の概要を説明しだしたのだった。

 

 

 

 

 そして、予定日の週末……__計画実行の日がやってきた。

 

 

 その日は土砂降りで、悪天の時は晴明先生の体調が優れないせいで警備が手薄になるという点、多少の物音なら雨音に掻き消されて逃げやすいという点から今日を決行日とした。

 

 リブートが先生たちの姿が居ないことを確認してから壁を通り越していったのに続いて、私も皆が寝静まった通路を潜り、数日前と寸分も違わない燈矢くんの姿を最後に、孤児院を出た。

 

 

 

 ざあざあ、酷い豪雨に振りかかられて、頭も服もびっしょりと濡れた。

 

 服に至っては水を含んで重く、随分と離れたところまで来て私はふと孤児院の方に目をやった。

 

 

 肉眼で見えるのがギリギリな位置に、小さくぽつんとそびえ立つ孤児院が見えた。

 

 

 

 

『結局、誰も君に話しかけてすら来なかったな。想定内だ』

 

 

 

「とぉや、くん…………」

 

『オイオイ、たった一回ポッキリだろ。お別れの手紙だって置いてきてたじゃないの』

 

 

 

 

 せっかく出来たと思っていた居場所も、もう無くなってしまった。

 

 

 

 

「____またあえるかな」

 

 

 

 気がつけばそんなことを口走っていたのに、リブートは抑揚のない機械音声で答えた。

 

 

 

 

 

 

 

『次会うときは、荼毘に付した時だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数ヶ月後。

 

 ____神奈川県、某所にて。

 

 

 

 

 

 

「斎蹴遼です、よろしくお願いします」

 

 

 

「___と言う訳で、今日からこの学校で過ごすことになった斎蹴さんです。皆さん、仲良くしてあげてくださいね」

 

 

「「「はーい!!!」」」

 

 

 

 

 リブートは何故かは知らないが、日々個性の訓練を続けている私に対して、ある時唐突に学校に行きたいと言い出した。私よりずっと歳上な筈なのに、子供のように駄々をこねるその姿は全く威厳を感じさせない。

 

 

 新たに私を受け入れてくれた孤児院の先生は、私を捨て子か何かと勘違いして受け入れてくれるに至った。新たに戸籍登録もしてくれたようで、私は学校に行くために自身の偽名である「斎蹴遼」を本名と偽って使うことにした。個性の方は、リブートの方で色々と手を回しておくと聞かされた。

 

 元の名前も、近縁となる身内もいないのだから、誰も気づきはしないだろうと思っていた。なのに、そう話している時のリブートの後ろには、どこか影りがあった。

 

 

 

 

 転校初日、初めてクラスという概念を知った私は、集団生活の中について行くのにとても苦労した。リブートは無闇矢鱈に個性をひけらかすのは愚者の行為だ、と難しいことが書いてある本___胃の、かいぼうせん? とか言ってたかな__を携えて教室を飛び出したかと思えば、私が授業を受けてる間はひたすら中庭でそれを読んで過ごしていたそうだ。

 

 

 

 一方、私はと言うと。

 

 

「遼ちゃん、だよね? ねえねえ、遼ちゃんはどんな個性なの!?」

 

「おれはねー! 風を起こせるんだぜ!」

 

 

「遼ちゃんの個性も見せてよー!!」

 

 

 

 

 

 

「え、えっと……」

 

 

 

 詰問地獄である。

 

 

 私と同い年(周りは六歳)の子たちな筈なのに、皆はなぜだか私とは違うように思えた。孤児院の時とは違う、まるで空気のような扱いをされていたあの時とはもう違うのだ。

 

 皆が私の居やすい環境を作ってくれて、何より私という人間に興味を持ってくれている。

 

 

 

 

「こ、個性……じつは、うまく使えなくて」

 

 

 

 だから、私は正しい接し方が分からなかった。

 

 これが正解なのか、間違ってるのかなんてリブートが居ないと何も分かりやしない。

 

 

 

 

 

「……そっか、ごめんね」

 

 

「なんだあ、つまんねえの」

 

 

「そんなにあたし達に見せたくないなら、そう言ってよ」

 

 

 

 

 

 

 違う、そんなつもりじゃない。

 

 

 否定しようとしても、そう思えば思うほどに声は出なくなる。

 せめて早くこの時間が終わってほしい。

 

 

 机に座って俯くこと数分、皆はいつの間にか居なくなっていて、もうとっくに下校時間を過ぎていたんだと気づいた。

 

 

 代わりに皆が集まっていた私の机には、リブートが乗っていた。

 

 

 

『さっき、すれ違いざまに君のことを話してる同級生の奴らを見かけたよ』

「……私、個性見せなかった」

 

 

 

『それでいい。本当は公共の場での使用もアウトになるからね。ったく、今時どこもかしこも個性個性って、ヒーロー公安委員会はいつになったら個性に頼らない英雄像を見せてくれるんだか』

 

 

 

 

 良かった。私は間違えてなかった。

 

 リブートはあの時私が欲しかった「正解」をくれた。ひとまずはほっと胸を撫で下ろすことが出来た。

 

 

 

 

「……上手くやっていけるかな」

 

『まずは勉強と個性訓練が最優先だな。遼の個性は知識と技術が要だから、義務教育以上の勉強量が必要になる。

 

 何より、友達のひとつも作れないで円滑にコミュニケーションなんか築けないよ』

 

 

 

 その日は、初日なんだから気にすることは無いと言うリブートの言葉に小さく頷いて、慣れない夕暮れの道を二人で並んで帰った。

 

 

 

 

 

「ねえ、あの子って例の……」

「しッ! 話してるの聞こえるよ!」

 

 

 

「……」

 

 

 学校生活も日々を飛ぶように過ごしていれば慣れたもので、初めは転校生だからと物珍しそうに集まってきていた子達も、私が閉口して昼休みの間でさえも読書と勉強をするだけの人物だと分かればさっさと興味をなくしてどこかへ行ってしまった。

 

 

 

 その光景を目にする度にリブートが「学校は学ぶ為にくる場所だろうが」と毒を吐くので、私の虫の居所も悪くならずに済んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 そして何度目かの放課後。

 

 

 クラスの子たちは他の友達を誘って帰っていくのを横目に、私も荷物をまとめていた時のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい物間! おまえ今日の体育でしくじりやがったな!! おまえが自分じゃ何も出来ないって言うから組んでやったのに俺の足を引っ張りやがって!!」

 

 

 

「ご、ごめん……! 次はちゃんとするから、!」

 

「うるせえ!! 誰かの個性をパクらなきゃ生きられねえような寄生虫が、調子乗ってんじゃねえよ!!」

 

 

 

 

「うあ゛ッ…………!!」

 

 

 日中の喧騒とは程遠い放課後の教室。

 

 

 斜めに差し込む夕陽が、机の影を長く伸ばしている。その静寂を切り裂くように、隣の教室からは男の子の怒鳴り声が飛んできた。

 

 かと思えば、壁を挟んだ向こうから、それらを掻き消すほどに大きなドン、という鈍い音が響いた。

 

 

 

 続いて、何かが転がる音。

 

 まるで誰かに盗まれたようにほんの一瞬で、日常の一幕は終わりを迎えてしまった。

 

 私は思わず鞄にしまい込もうと思っていたプリントをいくつか落とした。___授業参観、親子学習会の予定。どれも私には関係の無いものばかり。

 

 

 壁一枚の向こうで起きていることが、現実を遠い夢のように錯覚させる。

 

 

 

 

「チッ、気色のわりー奴だぜ」

 

 

 私のクラスの前を、大柄な男の子がそう呟きながら通り過ぎていった。

 

 

 この教室には、もう私とリブートの二人しかいない。私は、リブートを見た。リブートは、私の言いたいことを得心しているのか、こちらを見向きもしないでぼーっと教室の外を眺めている。

 

 

 

「私、行ってくる」

 

 

 

 

 

『ほんと、大人も子供も……やってることは変わらないねえ』

 

 

 隣の教室に駆け出した私は、リブートのその言葉など耳にも入らなかった。

 

 

 

 

 

「っ、ぅ……!」

 

 

 

「ねえ、大丈夫?」

「ひ、!」

 

 

 

 

 私が向かった教室は作りこそ変わらないはずなのに、どこか空気だけが殺伐としていた。

 

 後ろの机と椅子が倒れ、教科書や筆箱の中身がそこかしこに散らばっている中心に、彼はいた。

 

 

 

 

 身を小さく縮こめて、誰の目にも触れないように、気づかれないように、静かに息を殺して泣いている。

 

 まるでそうするのが正解だとでも言うように。

 

 

「き、み……」

「……斎蹴遼だよ。隣のクラスの、最近こっちに引っ越してきた」

 

 

 

 鼻声で掠れた彼の言葉をきちんと聞き取って、その青眼から溢れ出る涙をそっとハンカチで拭い取りながら私は自己紹介をした。

 

 

「君、名前は?」

 

 

 

「……もの……ま、物間、寧人」

 

「そう。寧人くんね、よろしく」

 

 

 

 

 それだけ言葉を返すと、私はばらばらになった彼の教科書をまとめ、倒れた机と椅子をそっと持ち上げて整えようとした。

 

 

 途端、寧人くんは私の手を掴んでグワッと詰め寄った。

 

 

 

 

 

 

「ッな、なんで!!」

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

「なんでそこまでする……!」

 

「ほら、机曲がってるとなんか気になるって言うか、潔癖? ってほどでも無いけど……」

「そうじゃなくて……!」

 

 

 

 寧人くんは、なんて言えばいいのか、言葉を必死に探しているようだった。どうにも腑に落ちないというよりは、誰も信用出来ないといった顔をしている。

 

 

「みんな言うんだ、ぼくの個性を気持ち悪いって……、パクリ、二番煎じ……!! おまえもぼくみたいなやつを馬鹿にしに来たんだろ!?」

 

 

「あ、寧人くん怪我してる……ちょっと、動かないでよ」

「は」

 

 何がどう急に個性の話に飛躍したのかは不明だが、怪我を負ってるのは良くない。私はすぐさまリブートを連れて、治せはしないかと問い詰めた。

 

 

『多用すんなって言った』

 

「(早く!)」

『へいへい』

 

 

 チョンと後ろからコッソリ足先で寧人くんに触れたリブートの甲斐もあって、寧人くんの体についていた怪我は完全に塞がった。

 

 何が何だか分からない様子の寧人くんに、私はこれでもう大丈夫だねと微笑んだ。

 

 

「え、これ、君の個性……!? でもおかしい、僕が触れた時は"スカ"だったのに……!」

 

「よく分かんないけど、私の個性ではないよ」

「じゃあ何で」

 

「いつか、教えてあげるよ」

 

 

 嘘をつくのもなんだかバツが悪くなってそう言えば、寧人くんは一瞬面食らった顔をして、ぎゅっと眉根を寄せた。

 

 

 

 

 

「いつかも何もあるか、どうせ君も僕を見捨てるさ。だって、僕も、僕の個性も。君の人生の"脇役"なんだから」

 

 

 

 

 

 

「なら私は、寧人くんの人生の脇役だね」

 

「え」

 

 

 

 

 

 寧人くんの目が大きく見開かれる。

 

 

 

 縋るように見つめてくる双眸に、にっこりと笑って寧人くんの両手を取った。

 

 

 

 

 リブートがそうしろと言った訳ではない。

 

 私自身が、自然と寧人くんにそう言わなきゃいけないと思ったから。

 

 

 

 

主役を引き立てる(寧人くんの)為の脇役になれるなら、それでも私、嬉しい」

 

 

 








遼の個性自体が「スカ」な癖に物間の脇役になれるのかって?気にしたら負け。
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