NEVER ENDING!!   作:振槍

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第2話 物間寧人:サイドストーリー

#盗作の存在意義

 

 

 

 

 

 

 

 

"その個性じゃスーパーヒーローになれない"

 

 

 

 

 昔からずっと言われ続けてきた言葉。個性が「コピー」なんて、僕自身もヒーローらしくないなとは思っていた。スーパーヒーローが自分の必殺技を持っていなくて、敵の必殺技を奪って反撃に及ぶなんてのは、それこそ盗人みたいだ。

 

 

 

 誰かがいないと何も出来ない。それは僕の代名詞でもあった。物間寧人。誰かの物を真似て、模倣する。

 

 

 

「お前、ほんと一人じゃ何も出来ないのな」

 

 

 

 

 幼稚園から小学校に上がるタイミングで、ぞんざいだった僕の扱いは余計にエスカレートしていった。

 

 

 個性が個性なので、僕は周りには無個性のように思われていたというのがあったのかもしれない。誰しも、自分の作りあげたものを他人に盗られたらいい気はしないだろう。だから僕も、これまではこの個性をひた隠しにして生きてきた。人前では、とてもとは言えないが使う事ができなかった。

 

 

 

 クラスで人気者の子たちは皆、とてもかっこいい個性を持っている。炎を扱う子に水を作り出す子、空を飛べる子に怪我を直せる子。どれもヒーロー向きと褒めそやされるような、輝かしい個性。

 

 

 誰も、僕なんか見ていないと思ってた。

 

 

 

 

 その日は授業でたまたま体育があって、二人三脚をやらなければならなかった。クラス一人気者で足の早かった子と僕がペアになって、僕がいつものように誰かの足を引っ張る。

 

 僕以外の子と組んでいれば優勝出来たかもしれないのに、個性を使うことなく完走した時には、4と書かれた紫の旗を持たされていた。

 

 

 

 彼に恥をかかせてしまったことと、自分の不甲斐なさに放課後、改めて謝罪をしようと彼に声をかければ、重心のとれていない僕の痩躯は両肩を押されてあえなく壁に突っ込んでしまう。そして、僕の体めがけて彼の足は振り下ろされた。

 

 僕は彼の気が済むまで、この時間が終わるまで、床にうずくまって怒りがおさまるのをひたすらに待った。心は諦観してるわりに体は正反対で、その身を小さく丸めて、情けなく頭を守る姿勢をとる。

 

 

 

 

 そうして事が全て終わった頃には、彼女は僕の前に佇立していた。

 

「ねえ、大丈夫?」

 

 

 

 

 白髪に切れ長な瞳は見た事のない顔で、最近転校してきたと噂になっている女の子だと分かった。

 

 

 

 

 

 ___斎蹴、遼。

 

 

 

 無愛想で冷徹な人相らしく聞くところによると、無個性じゃないかなんて憶測も飛び交っている、今話題の中心にある子。

 

 そんな子が、何を思って僕のところに来たというのか。

 

 

 

 もしかしたら、彼女こそは僕を___。そう思いかけて、脳内でその文言ごと黒く塗りつぶした。

 

 転校生の彼女はまだ何も知らないだけだ。どうせ僕を嗤いにきたに違いない、そうでなくとも、何れそうなるだろうというのは自明の理である。

 

 

 だから、僕は敢えて彼女に冷たい態度をとった。僕がいつもされている、突き放すような言葉を吐いて、意地悪な態度をとっていれば、彼女が僕に失望した時、後が辛くならないから。

 

 

 

 でも実の所、彼女は話に聞いていた人物像とは全く違っていた。

 

 

 

 これは後から聞いてわかる事だが、無個性だと言われていた彼女は、上手く個性を使えないのが嫌で、皆の前では見せることすらしなかったのだと言う。本心では、個性をやたらに見せびらかすのは苦手なのだそうだ。

 

 実際、僕が勝手に彼女の個性をコピーした時だって僕は「スカ」を起こしたし、蹴られた反動で内出血をしていた僕の体を治してくれた時も、彼女はそれを自身の個性だとは言わなかった。僕だって人に知られたくない、というものをそれ以上詮索する気は無かった。

 

 

 

 その上、また会うような口ぶりで「いつか教えてあげる」と宣うものだから僕もカッとなってつい反論してしまった。自分で言っておいて、逆に自分の胸がズキズキと痛んだ。

 

 

「いつかも何もあるか、どうせ君も僕を見捨てるさ。だって、僕も、僕の個性も。君の人生の"脇役"なんだから」

 

 

 

 彼女には、さんざ僕が今まで感じてきたことを吐いてやった。もうこの際、嫌われてもいい。中途半端に同情されて見て見ぬふりをするくらいなら、寧ろ見ないでくれた方がいい。

 

 

 

 なのに。

 

 

 彼女は救いを求める人々に福音をもたらした救世主のような佇まいで口元を綻ばせ、僕を見つめた。

 

 

主役を引き立てる(寧人くんの)為の脇役になれるなら、それでも私、嬉しい」

 

 

 

 

「っ!」

 

 

 

 

 

 嘘だ、と言いたかった。

 

 

 惑わされるな、これは単なる罠だ。

 

 

 

 

 

 

 ___どうせ最後は裏切るに決まっている。

 

 

 

 

 きっと彼女もアイツらと変わらない。今に本性を見せるはずだ。

 

 

 

 その日は、半ば逃げ出すように荷物を引っ掴んで教室を飛び出した。

 

 

 

 

 今日の二人三脚の時とは比べ物にならないくらいの速度で、通る建物がグワングワンと目まぐるしく移り変わっていく。

 

 ほとんどがむしゃらに走り抜けて、一通りの多い交差点から一転。赤やけの住宅街の中を一人で独走する。ぐんぐんと僕の影が伸びていく。何度も想像した皆の声援が、息せききった僕の頭の中で鳴り響いた。

 

 

 

 最後の直線の坂道を抜けてすぐ。

 

 そのままゴールっ!!! と見えないゴールテープを切った時には、もう自分の家に着いていた。小学校に上がってから、僕が生傷ひとつなく家に帰ってきたのは初めてだった。

 

 

「……クソ」

 

 

 

 

 

 彼女を信じていいのか、そうすべきでないのかは今にわかる事だ。ひとまずはそう結論づけて、家の鍵をガチャリと閉めた。

 

 

 

 

 

 それから僕は彼女を疑う日々が続いた。

 

 

 次の日の休み時間。ふと隣の教室を覗き込んで、学校で良くも悪くも目立っている斎蹴遼の姿を探すと、教室の角。僕と同じ窓際の一番後ろに今もずっと机に齧り付いて本を読みふけっているのを目にした。僕は何かを勘違いしていた。孤立しているのは彼女も同じだった。

 

 

「寧人くん、帰ろう」

「っは!?」

 

 

 その次の日も、彼女は僕の元にやってきた。放課後、掃除当番を押し付けられた僕が誰もいない教室の椅子を一つずつ上に上げている時に。その柔らかい笑みは他でもない、僕に向けられている。

 

 

「あ、あのね……僕は今掃除を……」

「それ、昨日もやってたでしょう。そっちは当番制じゃないの?」

「そ、そうだけど……」

 

 

 

 言葉につまる僕を見て、彼女は何か詰める訳でもなく、黙って椅子を上げるのを手伝い始めた。僕は何をしてるのか、と聞き返したくなったが、早く終わらせて帰ろうね、という彼女の圧に押されて、黙々と掃除を終わらせた。

 

 

 いつもは早く終われと思ってもなかなか進まない掃除が、今日は永遠に続けばいいのに、なんて思ったせいで逆に一瞬で終わってしまった。

 

 

 

 

 しかし、そんな一瞬の出来事の頻度は、それから二週間、三ヶ月間、四年間と日を延ばして毎日続いた。

 

 初めはいつ裏切られるのか、と肝を冷やした。

 

 もしかしたらこれも彼女の想定内で、僕が気を許した所を狙っているのかもしれない。

 

 

 

 しかし、いつまで経っても彼女が何かしてくる、なんてことは無かった。かといって、何もしてこない訳ではなかった。

 

 

 僕ができなかったことを彼女と沢山やった。

 

 

 初めて公園で友達と遊んだ、初めて友達と勉強会をした。初めて友達と、好きなヒーローの話をして盛り上がった。

 

 

 どれもこれもが全部初めてで。

 

 

 

 

 僕の欲しかった"主役"の人生がそこにはあった。

 

 

 

 

 学年を上がるごとにクラスでの風当たりが強くなっていくのは避けようがなかったが、何故か低学年のある時期を境に暴力がピタリと止んだおかげでそれは前ほどのものに比べたら大したことはなかった。

 

 そうでなくとも、大丈夫だと思える。

 

 

 

 だって僕には斎蹴遼(親友)がいるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 六年生になって、卒業を前にしたある日。

 

 僕はついに遼に、僕の「個性」を打ち明ける事にした。

 

 

 

「寧人くん、話があるって?」

「うん……」

 

 

 

 今まで個性の話は、互いに触れはすれどその全貌については話したことがなかった。二人で揃って帰る時も、遊ぶ時も、互いにどこか触れてはいけないものとして扱っていたのかもしれない。

 

 

 そこからの記憶は、正直朧気だ。

 

 ぽつり、ぽつりと話の順序もぐちゃぐちゃで、碌に伝えたい内容もまとまらないまま、低学年の頃に遊んだ公園でブランコを漕いでいる遼の顔も見れずに、勢いに任せてただ言葉だけを紡いだ。

 

 遼の聞いているのか曖昧な相槌は、普段ならいつも通りだと気にする事はないが、今に至っては寧ろありがたいくらいだった。お陰で場の雰囲気が重くならずに済んでいるから、僕はそのまま彼女を疑っていたこと、それに対する謝罪も含めて話した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで寧人くんが謝ってるの」

 

 

 

 

 

 

「え……?」

「そもそも、疑われてるのなんか知ってたよ」

「ええ〜……?」

 

 

 

「個性のことだって、知ってたし」

 

 

 はっきり言って拍子抜けだ。遼は僕が思っている以上に僕を知っていたようで、あそこまで言うのを躊躇っていた自分が馬鹿馬鹿しく思えた。なのに、僕は遼のことを全然知らないんだ。

 

 

 この個性にコンプレックスを抱いていたことも、それをバカにされていた事も遼は全部見てきて、それで僕と関わっていた。

 

 一体、何の為に? 

 

 

 それが顔に出ていたのがいけなかったのだろう。遼はちら、と僕の顔を一瞥したかと思うと、途端にふ、と息を漏らして笑いを堪えていた。

 

 

 

 

「だって、主役は君なんだろ?」

 

 

「ぇ、あ、……!」

 

 

 

 

 あの時の答え合わせが五年越しにやってきた。

 僕の"個性"なんか、端から彼女の眼中にはなかった。

 

 

 ___彼女こそは、僕自身を見ていた。

 

 

 

 最初からずうっと。

 

 

 

 

 

 

 それに気づいたとき、何故だか目の奥が燃え上がるように熱くなった。あれだけ苦しんできた過去の僕に言ってやりたいと思った。

 

 

 

「というか、昔からかっこいいと思ってたんだよね、その個性。私は話したかったけど……寧人くん、悩んでたみたいだし」

 

 

 

「何も持ちえないからこそ何にでもなれる訳じゃない? なんて言うのかなあ、盗人とは違うよね。

 

 _____どっちかと言うと、怪盗とか?」

 

 

 

 その瞬間、何かが頭の中でパチンと弾ける音がした。澄み渡った冷たい空気が僕の肺にすんなりと入って、全身に血を巡らせる。

 

 ……ああ、そうだったんだ。

 

 

 

「って、冗談だよ。最近寧人くんのお家で読んだあの大きな絵本で見たのを言ってみただけ。何だっけ、パンで死ね?」

「……バンド・デシネ」

「それ」

 

 

 

 

 

 僕は、あの日を忘れることはない。僕に、大切なことを気づかせてくれたあの日を。

 

 

 

 

 

 

 小学校を卒業してからも、そのままエスカレーター式で中学生になっても。

 

 

 

 

 

 

 ずっと、僕の隣には遼がいるものだと思ってた。

 

 

 

 

 

「寧人くん、入学おめでとう」

「何言ってんの。それ遼もだよね」

 

 

 

 これからも。

 

 ずっと、一緒に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「寧人くん、帰ろうよ」

「ごめん。今日は委員会の用事があるんだ、先帰っていいよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 君が脇役なんて嫌だ。

 

 僕だけじゃだめなのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「寧人くん、今日は」

「あー……実は今日来年の受験に向けての説明会があってさ。僕雄英受けるって言ったでしょ。だから、ごめん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女は僕を信じていたのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「寧人くん……は」

 

 

 

「あ、物間? 今日はもう先帰ったよ、なんか雄英? 受けるためには今からスタートしないと間に合わないらしくって。勉強熱心だよね〜」

 

 

「そっか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その彼女を最後に裏切ったのは、僕の方じゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「寧人くん、ごめんね」

 

 

 

 

 

 

 あれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんで僕は泣いてる? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぇ、っ……う、ううう……う、あああ゛……!!」

 

「寧人くん」

 

 

 

 遼のしなやかながらもしっかりとした手のひらが、見覚えのあるハンカチを取り出して、僕の涙をそっと拭った。優しく、繊細な手つきの一つ一つが、僕を苦しめる。

 

 遼の笑顔が見たいのに、君にそんな顔させるつもりは無いのに。

 

 

 

 止まることを知らない涙の粒は僕の視界を遮って、体は言うことを聞かず地面に崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 僕は気づいていた。

 

 

 

 そう、気がついていたのに見て見ぬふりをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私と仲良くしてくれて、ありがとうね」

 

 

 

 

 遼が差し伸べた手を引いて、僕と殆ど変わらない高さの背中に手を回す。

 

 低体温の遼の体は、くっついても温まる気配がない。

 

 

 

 

 

 

 

 子供みたくしゃくり声を上げる僕を、僕の気が済むまで甲斐甲斐しく見てくれた彼女は、僕の掌にぎゅうとハンカチを押し付けて、それを固く握らせてから言った。

 

 

 

 

 

「ねえ、もう私がいなくても大丈夫だよね?」

 

 

 

 

 

 

 君が初めて僕に声をかけた時と同じ様子でそれを聞いてきた時、僕は改めて思い出したよ。

 

 

 

 

 君のキスも、君の心も、僕はそのすべてを盗みたくて仕方がないってことに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 __そして。

 

 

 

 学年が進級するタイミングに合わせて遼が別の中学校へと転校が決まったと知ったのは、僕たちが中学二年生になった冬のことであった。

 

 

 

 

 

 

 

 






物間寧人の好きな物に含まれるバンド・デシネ(フランスのデッカイ漫画)の存在がイマイチ掴めなかったのですが、つまりはこうすれば良かった…ってコト?!

元ネタはアルセーヌ・ルパン(モーリス・ルブラン著)

I long to steal your kisses, your thoughts, the whole of your heart.(ルパンの冒険より)

訳したらキスとかの表現になっちゃっただけで、別に付き合ってる訳じゃないです。純情な物間のBIGLOVE(親友)みたいなモンです。


フランス語だと心を奪われる=心を盗まれるになるそうです。とてもオサレチックな世界観すぎて。


あと彼、遼のハンカチ盗んでますね。彼女がそうさせたとしか思えない。恐ろしく早い盗み……俺でなきゃ見逃しちゃうね。
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