爆豪勝己が嫌いな人間が書く小説ってやつは偏っちまうんだ。
作者の思想八割増しかもしれん。申し訳。
でも人間くさいやつだと思います。それ含めて愛せるかどうかって試練。
ヨルシカの「爆弾魔」聴きながら考えたんで、是非皆様もして、どうぞ。
#爆弾魔に気をつけろ!
「横浜市立神野中学校から来ました、斎蹴遼です。短い間ですが、よろしくお願いします」
変な女がやって来た。
「爆豪〜。なんか、暗くねアイツ」
「アァ? どうでもいーわあんなン」
斎蹴遼、とかそんな名前のモブ。制服に身を包むでもなくジャージで白髪を弄りながら目線を下へと下げていくのを見て、大して興味を持つわけもなかった。コイツもデクみたいだな、と思いながら、休み時間になってモブ達に囲まれているのに沈黙で返したただの女。
一方の俺はというと、幼稚園、小学校と難なく過ごしてきたもので、出来ないことなどないに等しかった。
「かっちゃんスゲー!」
誰もが俺を褒めた。
「ヒーロー向きの派手な個性ね! 勝己くん!」
誰もが俺を見て賞賛した。
個性が発現してからは、余計にそれが肥大化していった。
俺は、ただ皆と同じ事をやって、それが出来た側の人間なだけだ。何がすごい? 何で知らない? 何で出来ない?
その時気がついた。
___俺が出来るんじゃない、皆が出来ないんだ。
だから俺は凄いと褒められる訳で、皆は単に凄くないと言われる。
アイツらは揃いも揃って、人より少し出来る事が多い俺をすごいと一括りに褒めた。それに褒められて嫌な気になる人間の方が少ない。俺は俺以外に凄いやつを見たことがない。
俺こそが一番で__。
「テスト返すぞー」
「すっげー!! 斎蹴全部百点じゃん!!」
「五教科学年一位かよ!?」
_____一番"だった"。
あの女が来るまでは、俺の上に他のヤツの名前が載ったことは無かった。モブのくせに、モブだと思っていたアイツは俺のことなど眼中にないと言わんばかりに、周りのヤツに褒められても顔色一つ変えることなく黙っていた。寧ろ、褒められると逆に苦しそうな瞳で笑うのだ。
気に食わない。
初めて一番でなくなって、よそ者のアイツが変に持ち上げられるのが。
ゲームの主人公がチュートリアルの雑魚キャラにやられるような展開があるだろうか。
絶対に勝てるとプログラムされていれば、まず負けることは無い。この学校のヤツらなんて、皆そんなもんだ。所詮はヌルゲー。
「オイ、モブ」
「……」
ある時、男女でペアを作って共同作業で課題をやらなければならない時があった。
授業中だというのに、ひたすら内職をやっている女。デクのヤツの後ろの席まで向かって、初めて声をかけた。
「てめェに言ってンだよ白髪頭」
「私の名前モブじゃないよ」
「……俺と組めや」
「いいけど」
喋ってみて、やっぱり誉めそやされる理由が分からなかった。言動にリーダーシップがある訳でもない、かといって極度の馬鹿でもない。平凡でいて普遍、凡庸と、そんな言葉ばかりが似合うパッとしないヤツ。
そんなのは誰でもわかる。けれどアイツは根底に違うものを持っていた。俺が一度聞けば分かることを、周りの奴らは二、三度咀嚼して呑み込まないと分からない。けれどあの女はそれらを聞く前から分かったような態度をとる。
まるでそれを初めから知っていたかのように。
「カツキくんて、なんて漢字書くの?」
「あ?」
資料を粗方作り終えて、二人でレポートに書き起こしていた時。話す話題もないので黙々と作業を進めていたら、ソイツはふとそんなことを聞いてきた。
「__己に勝つ、と書いて勝己」
「へえ……かっこいいね、それ」
「お前は」
「私?」
「お前は、どうなんだよ」
「遼でしょ、寮は"かがり火"って意味があってね、それがしんにょうに組み合わさると遠くのものを導く灯って意味になるんだって。
どっちかって言うと、勝己くんのがそれっぽい個性してるけどさ」
そう言って笑う白髪頭は、やはり普通だった。
俺には、正反対の幼なじみがいる。無個性で、出来損ないの木偶の坊みたいなヤツ。
出久だから、デク。
何も出来ないアイツにピッタリの名前だった。
「そういや、緑谷も雄英志望だったな」
そう、アイツは何も出来ないヤツだ。
ならこれは何だ。
「話まだ済んでねーぞデク」
この行き場のない思いは。
「カツキ何それ〜」
「"将来のための……"マジか〜〜〜!! くうう〜緑谷〜!!」
「いっ、良いだろ……返してよ、!」
こんなちっぽけなプライドの為に俺は癇癪起こしてるってのか。
はは、笑わせんなよ。
「あ──!!!?」
「ハハハ!! やりやがったカツキ!!」
「緑谷少年の妄想ノートがまっ黒焦げだ──!!」
「一線級のトップヒーローは大抵、学生時から逸話を残してる」
ボンっ、と音を立てて黒焦げになったノートを外に放り投げる。
「俺はこの平凡な市立中学から初めて! 唯一の! 雄英進学者っつー箔をつけてーのさ。まあ、完璧主義なわけよ」
こんなので、何が満たされる。アイツらと一緒になってデクを馬鹿にしてる俺も、同じなんじゃないのか。
「つーわけで一応さ、雄英受けるなナードくん」
そう思った時には、もう遅かったよ。
「それはどうなの?」
「は?」
ソイツの一声で教室中が波を打ったように静まり返った。振り向いたら、教室のドアの前で目障りな白髪頭が突っ立っている。
「何だ何だ、転校生の斎蹴サンのお出ましか?」
「よせって。カツキに目ェ付けられたら、たとえ女でも手加減されねーって!」
「勝己くんに聞いてるんだけど」
眉を下げて青い顔をするデクがソイツの方に慌てて駆け寄った。
「ち、違うんだ斎蹴さん……! かっちゃんは別に」
「緑谷くんが行きたいって高校を何で勝己くんが制限するの? それもはや脅迫罪じゃないかな」
「おい白髪頭、個性も碌に見せたことがねえテメェごときが俺に説教垂れるつもりか? ふざけてんじゃねェぞ」
「あ、そう。じゃあ分かった、なら望み通り説教してあげるよ。このクラスの皆勝己くんに対して面と向かって言えないようだし」
「え」
デクが素でそんな声を上げたと同時。白髪頭はズイッと俺の方に詰め寄った。射抜くように鋭い瞳孔が俺に狙いを定めて寄る。
ついつい自制が効かない。マズイ、と思った時には俺の手から光が放出されていて。
ボフンッ、という爆風。何が起きたのか分かっていない野郎たち。周囲には煙が巻き起こって、女の歩いていた場所には焦げた床だけがあった。
「これ、正当防衛になるかな」
「しま、ッ__」
直後、顔に鉄のように重い何かがめり込むのが分かった。反応は出来た、しかしあまりにも速すぎる。
俺が攻撃を仕掛けたハズのソイツは、無傷で俺のことを見下ろしていた。顔から生ぬるい何かが滴って、アァ血が垂れたんだなと勝手に思った。
「見てんじゃねえよ」
「「ヒィッ!!」」
低く唸るソイツの覇気に押されて、一緒になって笑ってた二人は逃げ出してしまった。
「あっ、あり、ありがとう斎蹴さん……! でも、ここまでしなくても」
「緑谷くんのためじゃないよ、もう帰りな」
そうして残されたのは、俺とソイツだけ。
斎蹴遼という人間は、ただのモブではなかった。初めて見た、下からの景色。無性に腹が立って、むしゃくしゃして。
でもここまでされないと分からない俺がいた。
「ック、ソぉ……!! モブのくせに……!
もう一回だ……、てめェ泣かすまで終わんねーぞ……!!」
「私暴力は嫌いなんだけど。まァいいや、勝った方は"何でも言うこと一つ聞く"ね」
「来いや……!!」
結果。
酷い惨敗だった。俺の圧倒的な敗北、ソイツの個性が見られると高を括って爆破を繰り出したが、結局最後の一度まですました顔で個性を使うことなく、爆破の間をかいくぐって鳩尾に一発。こうなることを見越しての人払いだったのかと思うと、声も出なかった。
「結構強くやっちゃったけど……大丈夫?」
腹を抱えて蹲る俺に、手を差し伸べるソイツ。
自分も爆風の影響で多少の擦り傷を負っているくせに、構わず俺の事を心配そうに見つめてくる姿は、何かが重なっていた。
「大丈夫?たてる?」
お前もアイツも石ころのくせに。
俺を見下してんじゃねェ。
俺は気がついたらソイツの手を振り払っていた。俺は俺が弱いのが理解できない。……なんて、そんなわけねーよ、認めたくないだけだ。
すっかり日が暮れちまった教室。俺がどこもかしこも爆破しちまったせいで、酷い有様になってた。
ソイツは、自分の席に座り直して俺に説教をした。ババアみたく、頭ごなしにガミガミ怒鳴りつけるソレじゃねぇ。坊さんとかが人に説くと書く方のソレだ。
「……あのね、弱いことと誰かを心配することは等式じゃないよ。オールマイトは弱いかい?」
「弱かねェ……」
「だろ? 勝己くん本当はちゃんと強いんだから、自分が何やってきたか分かるでしょ。そんくらい」
コイツはダメだ、と思った。
優しすぎるンだよ。その言葉も、性格も。
ヒーロー科目指してる俺が、
「似ててウゼェ……」
「なんでえ」
"ウザイ"の言葉に過剰に反応する白髪頭。いつもはそんなに笑わないし、感情を表に出すようなヤツじゃねェと思ってたが、もしかしたらコッチが素なんじゃねェか……ってくらいに、自然な顔だった。
その言葉が、行動ひとつが、どこまでも先を見てる。
だから、アイツが笑顔で言ったそれが、痛みも感じさせることなく胸の中にストンと落ちた。
「勝己くんは、後悔しない選択をしなね」
荒れた教室を雑巾でピカピカに磨いて、焦げ跡を丁寧に消していった、ソイツ。
暫くは殴られた箇所がジンジンと痛むから、身を引きずるようにして家へと向かった。
「勝己!! アンタこんな遅くまでどこで……、どーしたのよその怪我は!」
「ッせえ、ほっとけ」
「ま、まあまあ母さん……勝己にも色々あったんだよ」
家に帰った時には随分遅い時間になってて、俺はメシも食わずに自室へと篭もり、ベッドに脱力した。
天井を見つめていると、思い出すのはさっきやり合った女の顔。結局、俺は手も足も出なかった。
アイツは俺のことを知ってるみたいだった。技も、行動パターンも。デクのヤローを不気味がって、自分のプライドを泥臭く守ってるだけの俺を。
でも、俺は何も知らない。アイツをモブと決めつけて、個性の有無に関わらず見下してた。意味がねェ、分かっててした事がこれかよ。
「なァ、……リョー……、……てめェは」
何でそんなに苦しそうなんだよ。
そんなこと、俺が聞いていいような立場にない。
・おまけ:緑谷のノートはどうなったのか問題
『あ、落ちてきた落ちてきた……よっと』
リブートが回収。からの能力で元の状態に戻しています。
「あれ……!?僕のノートが燃えてない……」
緑谷にとっては怪奇現象案件すぎるぞ……と思ったので本編には入れませんでした。以上。