NEVER ENDING!!   作:振槍

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第7話 戦闘訓練

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの時、私の口から吐かれた言葉に悄然とする緑谷くんを見た。

 

 

 あの時の情景を思い出しても、それは途切れ途切れに再生される故障したカセットテープさながらで、自分でさえ何を口走っているのか訳が分からなくなる。

 

 

 きっと変に思われたかもしれない。

 

 周りが見えなくなっていた私は強い口調でハッキリと彼を拒絶してしまったのだから。

 

 

 

 

 今更取り繕っても、埋まらない溝はさらに深まるばかりだった。

 

 

 

 

『なあ、遼』

 

 

 

 リブートが不意に息を震わせて名前を呼んだのにさえ、返事はない。

 

 

 

 西の空がじわりと赤く染まり、街の輪郭が少しずつ影に覆われていく。

 

 建物の隙間から差し込む夕陽はもう力を失いかけていて、光と呼ぶにはあまりにも儚く、心許ない。

 

 生ぬるい春風が私の頬を撫で、どこかへ向かって通り過ぎて行った。

 

 

 

 

 

 沈みゆく太陽を見つめながら細い道をそぞろに歩いた。

 

 呼吸をする度に肺の奥が重くなって、一歩一歩を踏みしめる度に後悔が波のように押し寄せてくる。

 

 

「……どうして、ッ!」

 

 呟いた声は風に攫われ、街をゆっくりと呑み込む余照に溶けて消えた。

 

 その次の瞬間。

 

 

 

 

『遼、避けろ』

 

 

 

 後ろから人の気配がしたのに合わせてリブートが呟いたとほぼ同時。ヒュン、と鉛色のナイフが間一髪で頬を掠めかけた。ぐるりと身を捩ってその場から飛び退くと、私の元いた場所には不気味な笑みを浮かべた少女が、ゆらりと体を揺らしてこちらを見ている。

 

 

 

「……誰?」

 

「初めまして、トガです! トガヒミコ! 

 それ、雄英の制服ですよね。カァイイなあ」

 

 

『えっ、なに急にィ……辻斬りとか今の時代流行ってないよね』

 

 

 私は目の前の少女を鋭く睨め付ける。今日は何から何まで、気分が悪くなる一方だ。短く息を吐く。

 

 その証拠として残念ながら、リブートの茶番劇に付き合う者は誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 少女と私の間を沈黙が流れる。少女は片手にナイフを持って、睨め付けるような視線を向けてくる。

 

 一体なんの目的があってこんな事をしているのか? 

 

 

 見かけこそは私と大差ないただの女子高生にしか見えない彼女に頭を捻らせていると、リブートが背中を突っついてコソコソと耳打ちをした。

 

『要件、聞いてみれば?』

 

 

 リブートはナイフを向けられている私にさえ大した動揺はせずに至って平然とした態度のままであった。

 

 

「……何で急にナイフなんか」

「私の好きな血の匂いがするからです! どこも怪我してないように見えて、傷ついてボロボロになってます! だからさ、血ィ吸わせてよ」

 

 ギラリ、獲物を捕えるようなつり上がった瞳孔が私を射抜いた。

 

 その台詞とある事に納得がいって眉間に皺が寄るのがわかる。__この頃連続殺人未遂事件が多発しているというのはこの少女の仕業だったのか、ということも。

 

「別に今どこも怪我してないけど……分かった、はい」

 

 

 

 

 

 色々と考えた末、私は少女に手を差し出した。

 

 

 

「? 何ですか」

 

「ナイフ貸して」

 

 

 

 面倒だった、さっさと終わらせて欲求を満たしてやれば気が済むだろう。そう思って言ったことなのに、何故だかトガと名乗った少女は自分から言い出しておいて面食らった表情を見せた。

 

 

『ヒュウ、情熱的〜』

 

 

 

「……え、え?」

「何?」

 

 

 

「……ほんとに、いいの?」

 

「だって血が吸いたいんだよね? 死なない程度なら、多分大丈夫」

 

 

 自分でああ言っておいてしどろもどろになっている少女を訝しげに見つめながら、埒が明かないと思った私は半ばナイフを強奪するようにして腕に切り傷をつけた。切り口が浅いのか、数滴しか流れない血液に苛つきを感じながら、更に表皮を抉った。

 

 

 

「もっといる?」

 

「え、あ、それでいい、よ…………」

「ン」

 

 

 傍から見れば異様な光景かもしれないそれ。

 

 

 腕から大量に血を流しているというのに顔色一つ変えず座り込む私の隣で少女が寄り添うようにしてチウ、とその腕から溢れる血を丁寧に啜っている。

 

 

 

「おいしいの、それ」

「ンふふ、甘いです……今までの中で一番甘いよォ」

「へえ」

 

 

 

 何気ない会話が交わされる。

 

 

 会話自体はチェーン店で販売されるシェイクを飲むような軽い口ぶりではあったが、彼女が恍惚とした表情で飲み干しているのは血である。

 

 金髪の少女は、母乳を求める乳飲み子のように頬を真っ赤に染め、八重歯を覗かせて笑った。

 

 

「初めてです、自分から血ィくれた子」

「私もあげたのは初めてだなあ」

 

 

「ねえね、何で? 怖いって思わなかった? 気持ち悪いって思わなかった?」

「思ってないよ」

 

 

 傷口から流れ落ちる鮮血を他人事のように眺めて、血が足りない頭でぼんやりとそう返した。

 

 

 

「そうだ、名前! 名前教えてよ! もっと知りたいです、君のこと!」

 

「斎蹴、遼」

 

 

 リブートの方をちらりと見るとそのまま黙って頷いたので、金髪の少女___トガちゃんに名前を教えてあげると『遼ちゃん、遼ちゃん』とうわ言のように何度もその名を咀嚼していた。

 

 

「そッかぁ、遼ちゃん……遼ちゃん、かアいい名前だねえ」

 

 

 よほど嬉しいのだろうか、と思っていた矢先。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どーしよォ、好きになっちゃったあ……」

 

 

 

 

 

 

 

「え」

『エ』

 

 トガちゃんは火照った顔を冷ますように両手を頬にくっつけて乙女さながらにこちらへ迫る。言っていることの処理に頭が追いつかない私とリブートの前に、影がたつ。

 

 

 

 

「私、遼ちゃんになりたいです……!」

 

 

 

 ヒーローは嫌いだけど、と口にするトガちゃんに私もだよ、と同調してやるような気力は無いに等しかった。だって、傷害事件を起こしてる時点で彼女はこの世界における犯罪者で、愉快犯で、人を傷つける事に一切の躊躇いがない悪人なのだ。

 

 

 けれど、そんな子が私を好きと言って好意を寄せているのは、何故だかとても哀れに思えた。暗くなっていく空の中に、彼女の輪郭がゆっくりと溶けていく。

 

 

 

 

 

 

「好きな人とはね、全部一緒でいたいの。だから、その人自身になりたいって思っちゃうんです」

 

 

 

 

「いいね、それ」

 

 

 

 

 うっそりと笑う彼女の瞳からは、ボロボロと涙が零れ落ちていた。

 

 

 眼に映し出されたトパーズの宝石は、今にも壊れてしまいそうなほどに脆い。

 

 脱力したトガちゃんが寄りかかってきたのに応じて、預けてきた頭をそっと撫でた。すると、私の腕に手を絡ませたトガちゃんが噛み締めるように呟いた。

 

 

 

 

「神さまみたいないい子だねえ、遼ちゃん……」

 

 

「……でも、君じゃ私にはなれないよ」

 

 

 

 

 

 

 私のその言葉に、トガちゃんは大きな目をシパシパと瞬かせる。黙ってそれを傍観していたリブートは、あららとオーバーな感嘆符を漏らして肩を竦めた。

 

 

 それもこれも、自分の言葉でなくてはならないと思った私は続ける。

 

 

 

「私は、私じゃない誰かになりたかった」

 

 

 

 トガちゃんが私に向ける気持ちも、私を着飾る耳障りの良い形容詞たちも、それに見合うほど私はいい人間なんかじゃない。

 

 自分の腕をもう一度見つめる。トガちゃんの噛み付いた跡もうっすらと残っていて、それが余計に私を惨めな気持ちにさせた。

 

 

 

「君は、トガヒミコのままのがずっといいよ」

 

 

 

「わッ、私の血い、あげるから! これで平等(フェア)でしょ?」

「それを貰っても私はトガちゃんにはなれないでしょう」

 

 

 

 子供が駄々をこねるみたいに、私の腕に縋り付いてくるトガちゃんを冷たい瞳が見下ろした。それは、私自身が発しているものだ。

 

 

「じ、じゃあ、遼ちゃんに何したらいいんですか! 私……一体何を返せば」

 

 

 

 

 トガちゃんのその言葉が、私の胸をゆっくりと締めつける。

 

 どう答えればよかったのか、わからなかった。

 適切な言葉を探せば探すほど、喉の奥で音が砕けていく。

 

 

 

 

 どこかで風が吹いた。

 

 

 

 春の気配はまだそこにあるのに、春愁だけが届かない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それなら、いつか私を殺してね」

 

 

 

 私自身が一番望んでいること。それだけで、彼女を絶望させるには十分すぎた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 

 

 

 昨日の鬱屈とした気持ちを引きずったまま教室にやってきた私は、入って早々後悔した。

 

 

 

「なあ、お前だろ? 推薦入試で無双してたッつーのは」

 

「……なんの事だか」

「話には聞いてたけどこれが首席かぁ……く、くおーくどーむずでい、……? 何か分からんけど、難しい本読んでるんやね」

 

 

 席について黙々と読書に没頭していたところに、クラスメイト達がぞろぞろと集まってくる。何だか小学校の頃の質問攻めを彷彿とさせるそれに、私は気まずくなって本で顔を隠した。初対面でも一切の恥じらいを見せない赤髪くんを筆頭に、茶髪の女の子が本の題名を読み上げるの見て、バッと表紙を伏せた。

 

 

「あっ、ごめん勝手に読んで! えっと、斎蹴遼……ちゃんだよね! 私は麗日お茶子です! よろしくね!」

 

「……よ、ろしく」

 

 

 

 

 そこからはクラスメイト達による怒涛の自己紹介が始まった。皆は私のことを一方的に知っているようだったが、何も知らない私はただそれを黙って聞いているだけ。聞き流していたら、半分くらいとは顔を合わせていた。

 

 大体の生徒の顔と名前は把握しているつもりなのか、リブートの方に目線を送ってもそれをのらりくらりと躱される一方で学校内の探検に行ってくると言ったきり姿を消した。

 

 

 

 そうこうしているうちに午前中の授業は始まり、昼食の時間になった。

 

 雄英の大食堂では昼になるとどの学年、学科からも大量に人が押し寄せる……というリブートからの話を聞いて、私は家から持参してきた弁当を片手に屋外へと足を向けた。

 

 

 

『ランチラッシュの焼き魚定食おいしーのに』

 

「一人が楽なの」

『私には自分から遠ざけてるようにしか見えないね』

 

 

 

「……どうとでも」

 

 

 

 どの口が、と思った。

 

 

 例え仲良くなったとしても、全てはリブートの掌の上で仕組まれていることで、私たちがやっていることはどれも卓上の空論のようなものだ。いついかなる時も切り捨てる覚悟を持っていなければならない。

 

 それで互いに傷つく結果があるのなら、私は最初から仲良くしない方が幸せだったんじゃないかとさえ思う時がある。

 だからこそ、高校生活では積極性を捨てて極端に関わりを減らす必要がある。

 

 

 

 

 人がまばらに通る中庭の更に先、誰も寄り付かなそうな物置の裏に隠れるようにして味のしないおにぎりを口に入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わーたーしーがー!! 普通にドアから来た!!!」

 

 

 

 

『すげー、やべー、オールマイトだあー』

 

 

 午後の授業はヒーロー基礎学。雄英高等学校におけるヒーロー科が他の三科と大きく違うのは、この実技訓練の有無が大きく関係している。

 

 いくらヒーローに疎い私でも知っている平和の象徴ことオールマイトは、私以外の生徒たちから尊敬の眼差しを受けながら今日の授業について説明をしてくれた。

 

 

 

 

 

「ヒーロー基礎学! ヒーローの素地を作るため、様々な訓練を行う科目だ!! 早速だが今日はコレ!! 【戦闘訓練】!!!」

 

 

 

 ご丁寧に、各々が個性届と同封して送った「要望」に沿って作られた戦闘服(コスチューム)まで誂えてあるという徹底ぶり。しかしおかしい、私は自身のコスチュームの要望を出した覚えがないからだ。

 

 

 そこでリブートの方を見る。

 ニコちゃんマークのメッキが端の方から剥がれかけつつあるヘルメットが1ミリもそうは思ってないだろうという様子でゴメン、との謝罪を文頭に付け加えてから言った。

 

 

『遼のコスチューム……、私が要望添付しちゃったンだよね』

 

 

 

 

 

 それを聞いた時、何故だか無性に嫌な予感がした。

 

 

 そして、その予感は的中する。

 

 

 

 

「始めようか有精卵共! 戦闘訓練のお時間だ!!」

 

 

 

「……」

 

『お、イダテンまんま先代インゲニウムじゃない?』

 

 

 全身メカメカしい人を見て感心しているリブートに、思わず私は拳を握りしめた。基本皆ちゃんとしたヒーロースーツなのに……、何で私だけ。

 

 

「りっ、遼ちゃん……!? そ、それ……」

「何も言わないで」

 

 

 

 

 せっかく話しかけてくれた麗日さんにもとても申し訳ないと思った。火照る顔の熱を冷まそうと顔を背ける。唯一顔が相手から見られないのが幸いだ。

 

 

 

「見かけによらずGANRIKI NEKOを知ってるなんてさ。アンタ、それ好きなの?」

 

「……」

「おお、めっちゃ否定すんじゃん……」

 

 

 そう言って近づいてきた彼女は確か耳郎さん___自己紹介の時にそう言っていた__だ。私は全力で首を振った。変な印象だけは持たれたくない。これは名誉にも関わることだ。

 

 

 何を隠そう、今の私はピンクの猫の着ぐるみをきたコスチュームになっているのだ。リブートのセンスが壊滅的にひどいのか、あるいは既存のものの引用なのか。

 

 一応ちゃんとしたヒーロースーツも着ぐるみの中に着てはいるのだが、相手を油断させる為という生存策略とこれを作ったサポート会社の意向で試験的にこの格好で訓練を行うことになってしまった。

 

 

 

『でもあの有名デザイナー、眼力満充子先生の許諾付きだぜ? 女児受けヨシのキュートデザインでしょ、あっち見なよ』

 

 リブートが言い訳がましく他の生徒を指さす。体の半分が凍ってるワイシャツのコスチューム……まだあっちの方がマシな気もするものだ。と思っていたら今度はピンク色の髪をした女の子が目をキラキラさせながら飛んでくる。確か、芦戸さんだったはず。

 

 

「か、可愛い〜ッ! もしかして遼ちゃんなの……!?」

 

 

『な、女児どころかJKホイホイ』

 

 何故皆一方的に私の名を知っているのだろうか、という疑問も程々にして、熱気を帯びた着ぐるみの頭部を外して顔を覗かせる。とにかく二枚重ねは蒸れて暑い。

 

 

 

「おァ……ネコから出てきた女子のツラがいい……」

「文章だけ見ると何言ってんのか全くわかんねーよ」

 

 

『少なくとも需要はあるみたいだしね、ウンウン』

 

 葡萄みたいな頭をした子が急に地面に崩れ落ちたのを、近くにいたしょうゆ顔の子が冷静にツッコんだ。

 

 

 今回の演習は、屋内を使っての対人戦闘訓練である。ヒーロー組とヴィラン組の二手に分かれてのチーム編成でどこか一組だけ三人になるようだ。

 

 

「状況設定は(ヴィラン)がアジトに核兵器を隠していてヒーローはそれを処理しようとしている! 

 

 ヒーローは制限時間内に敵を捕まえるか、核兵器を回収すること。

 

 敵は制限時間まで核兵器を守るか、ヒーローを捕まえること……」

 

 

 

 別にどのチームでも大差はないな、そう思った私は説明をある程度聞きながら、目の前に出されたくじを引いた。

 

 

『今はとにかく出久くんと勝己くんは嫌かなあ。あと初期ろきくんね、協調性ないから』

 

「……?」

 

 

 リブートのよく分からない単語に引っかかりを覚えながらも、引いたクジに書かれていた文字を見る。【H】のグループということで、紹介に受けていた常闇くんと蛙吹さんと組むことになった。

 

 そのまま対戦に移るのかと思いきや、意外にも対戦順もくじで決まるらしく。私達のチームは三番目なので、初戦の緑谷くん&麗日さんペア対勝己くん&飯田くんペアの観戦をモニタリングすることになっ。

 

 

 

「こうしてちゃんとお話するのは始めてかしら」

「そうだね」

 

 

 蛙吹さんが私に尋ねてきた。自己紹介の時には個性と名前くらいしか聞いていないから、高校に入学してちゃんと話すことはこれが初めてになるかもしれない。

 

 

 

「……」

「…………」

 

 

 

 沈黙が私たちを襲う。

 

 お互いに黙っていても気まずくないのか、はたまたポーカーフェイスが上手いだけのせいか、特にそれ以上の会話は求めていないようにも思えた。

 

 

「私、不思議とあなたのことが気になっていたの」

「……私は別に」

 

「あら、そうなのね」

 

 

 冷たく言い放った言葉をなんて事ないようにすかされて、私は面食らったのを隠すように猫の頭を被り直した。見るたび思うが、趣味の悪い着ぐるみだ。

 

 

 

 

 

 

「蛙吹さん、言っておくけど」

「梅雨ちゃんと呼んで」

 

「…………蛙吹さん、私は別に馴れ合うためにここにいる訳じゃ」

「ケロ、梅雨ちゃんと呼んでちょうだい」

「蛙吹さん」

「随分頑なね遼ちゃん」

 

『頑なねえー遼チャン』

 

 

 

 蛙吹さんの背後で彼女の台詞に便乗して面白おかしく揶揄うリブートの声がした。

 

 

 この戦闘訓練を良い成績で終えることが目的な筈なのに、こんな時でもリブートは呑気に私に絡んでくる。私は不快な気分になりながらも、蛙吹さんの目を盗んでそちらをチラリと一瞥すると、今は初戦で完全に敵役になりきっている飯田くんの様を画面にかじりついて眺めては抱腹絶倒していた。

 

 

 

 

 

 

 

「……………………梅雨ちゃん」

 

 

 

「なあに、遼ちゃん」

 

「私は馴れ合いにここに来たんじゃないの。今はまず、映像から分かる建物の立地や土地勘の分析をして作戦立てに応用……今後のために情報共有をしておいて主な役割分担を決めておくのは、円滑に勝利を収める為に最も優先されるべきことだと思う」

 

 

 だからこの会話よりも対戦映像を見たい、そう文を結んだ私に蛙吹さんは納得はいっているもののあまり肯定的ではない様子で人差し指を口許にあてて首を傾げた。

 

 

 

「当然それも大切だと思うけれど、情報共有をする為にはまずお互いを知るところからじゃないかしら」

 

「名前と個性は初めの頃に教えてくれたでしょう。それだけ分かっていれば十分」

 

 

「しかし斎蹴。俺も蛙吹の意見には同感だ。今後も苦難を共にしていく戦友たるもの、打ち解けることがなければ確実な勝利は得られないぞ」

 

「常闇ちゃんも、梅雨ちゃんと呼んでちょうだい。……でもその通りよ遼ちゃん。私たち、まだあなたの個性についてすら聞いてないんだもの」

 

 

 

 それまで暫く、私と蛙吹さんの方を黙って見ているだけだった常闇くんが突如として話に介入してきた。私の横柄な態度が気に障りでもしたのだろうか。ますます二人のことが分からなくなった私は、今まで何度も繰り返してきた自己紹介に準えて言葉を紡いだ。

 

 

 

 

「……わかった、話すよ。

 

 私の【個性】だけど……『念力』っていってね、物体そのものを念で持ち上げたりすることが出来る。けど、実際は全然便利じゃない、持ち上げられるのは人並みで、大きいものは無理」

「ほう……畢竟、超能力の業を背負いし者ということか」

 

「ケロ、いい個性ね」

「蛙吹さんや常闇くんの個性の方が応用が利いて良いと思うけどな」

 

 

 

『アッ、勝己くん負けた』

 

 それっぽい御託を並べてあることないことを話していれば、意外にも口は回った。当初は感じていた『嘘をつく』という行為に段々と抵抗が無くなってきたのがわかる。

 

 しかし、私が自身の個性を説明している間に予想よりも遥かに早い段階で試合は終わりを迎えたようで、モニターを見つめていたリブートの特徴的な機械音がいつの間にかその場に響いていた。

 

 

 

 

 その後は皆で集まって講評を行い、次の試合に移ることになった。尾白くん&葉隠さんペアVS障子くんとあともう一人__赤と白の髪の少年がいるのだが、生憎名前が分からない。

 

 リブートが初っ端コスチュームをネタにしていたのも彼だ。

 

 

 

 そんなチームの結末はというと。

 

 

 

「向こうは防衛戦のつもりだろうが……俺には関係ない」

 

 モニターから聞こえた少年の淡々とした声と彼の陣営であるヒーローサイドの勝利を告げるオールマイトの声。

 

 

 ビル一面は彼の個性の影響なのか、何から何まで凍っていた。

 

 中継でその様子を映し出された時。クラスの人達は皆して息を呑んだ。聞くところによると、彼もこのクラスの中では推薦入学で入った生徒の一人なのだという。彼自身もあまり人を寄せ付けない雰囲気を出している上、大した関わりも無いため私の知ったことでもないが。

 

 

 

『これじゃ初期ろきってよりか……排他ろきくんってカンジ。父親(笑)の教育の賜物ですねえ』

 

 

 

「……」

「遼ちゃん、次は私たちの番よ。行きましょ」

 

 

 果てには、リブートからとんでもない失言がとんでくる始末。次は私たちの番だとなると、近くにいた蛙吹さんが寄ってきて移動するように言った。

 

それに黙って頷くと、蛙吹さんは相変わらず感情の読めない顔でケロ、と鳴いたのだった。

 

 

 






恐ろしくサブタイトルつける才能ないんですがそれは。
でもたまにめっちゃいい案降りてきたりするんで、その度に変えてもいいよね、(確認)いいよね。(断言)
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