たまにはくっだらねえギャグ回()をぶち込むことによって中和を図ろうとするもんだ。
ほら見ろ、やった事すらないもんに挑戦するからこうなる(劇物)
#Alike you = I like you
昔からカァイイものが好きだったの。
私だって"普通"の女の子だもん。カァイイお洋服を着て、綺麗なものを綺麗と言って何が悪いんだろう。
「カァイイねえ」
中でも、血を流してボロボロになっているものは、どんなものよりもカァイイの。私のお家のお庭に、ある時落ちてきた宝物。
「やめなさい! 何をしてるの!」
「まるで異常者だ!」
けれど、この世界はね。
私が思っているよりもずっと生きにくい。
『生きやすい世界なんてのは、そうそう簡単にあるもんじゃないよ』
「だァれ?」
『君の願いを聞いてあげる存在』
その宝物を大切に手のひらに抱えていると、私の目の前に神さまが現れた。
お庭の縁側に腰掛けて、退屈そうに空を見上げている神さま。
決して顔は分からないけれど、私の好きな匂いがした。ボロボロに崩れた、血の匂い。
けど不思議だったのは、神さまはどこも怪我をしてないってところだった。
「神さま」
『それは私のことかい』
「ママとパパに、普通になれって言われたの」
好きだったものはみんな、私から離れていっちゃう。
「でもちうちうしたいの」
好きなら、全部同じになりたい。
そう思うのは当然だよね。
「わたし、変って
ねえ、神さま。
普通ってなあに。
話を聞いていた神さまは、ほかの子たちみたいに私を怖がるでもなく、不気味に思うでもなく、ただ事実を述べるように言った。
『君は、この世界の言う"普通"とはちょっと違うんだろうね』
「この世界の?」
『そ。ある一定数の人達が"こう思う人の方が多いから"って型に当てはめて作ったルールのことだよ。
人は誰しも自分を疑わずにいたいものさ、だからこそ少しでも普通と違う価値観を持っている者は社会から排斥される宿命なんだ
言わば、あぶれ者ってやつだね』
そして、私もその一人。
神さまは、ぼさぼさになった私の頭をゆるりと整えた後、そう言って自分を指さしたかと思えばまた空を見上げた。それがなんだか不思議で、私はその冷たい手を握って問いかける。
「神さまもカァイイのがすきなの?」
『私の場合は……"好き"になるものが無いんだ。何を見ても、上っ面だけ見て好きだなんて嘘をついてしまう。本当は空っぽなのにね、そっちの方がよっぽど残酷じゃないかな』
頭に? を浮かべる私に、神さまは何を見ても「カァイイ」と感じることがないのだと苦々しく呟いた。
私も、もしカァイイものをカァイイと思えなくなるのなら。
「それって、つらいね」
『……生きにくいのは確かだね』
神さまがそのまま私の手の中の宝物をそっと撫でると、さっきまで冷たかったその宝物は、みるみるうちに暖かくなって、ボロボロだった羽も元通りに変わる。そうしてただの鳥になった宝物は、空へと翼を広げて、バサバサと飛び立った。
「とんでっちゃった」
『私も君も、多くを求めすぎているんだ。だから、今はその贖いをしてる』
「あがない?」
『もらいすぎるだけじゃ駄目ってこと。自分が血を吸うだけ吸っておいて、逆に吸わせてあげないのは
それは、すとんと私の胸に収まった。
神さまはその日からたまに私の前に現れて、難しい話をいっぱいするようになった。分からないところはなんとか簡単な言葉に言い換えて。それもこれも全部、「贖い」ってのを果たす為に必要なことなのだとか。
"この世界は生きにくい"。
私は会う度に何度も神様にその言葉を吐き出した。
とはいえ、この世界の枠組みに囚われた大人たちに『普通』を押し付けられた私も、それをさせた人たちも大きくいえばみんな被害者で。神さまは生きにくさは誰のせいでもないと知っているみたいだった。
なのに神さまは、それを変える術を持っていない。それがこの世の不条理なところで、善と悪とを明確に区別する象徴だからだ。
『君も私もあぶれ者……そうは言ったけどね。不思議なこともあるものだよ。
どれだけ大多数が君のことを悪く言ったとしても、その中には君に血をすすんであげてしまうような
世界ってのは、そういうものだよ。
神さまだけは、最後まで私を抑圧すらしなかった。かといって、
優しく教えてくれた神さまの姿は、私が大きくなるのと同時に、まるで最初からいなかったみたく私の前から消えていった。
___そして、今。
「誰?」
目の前で虚ろな瞳をこちらに向ける女の子を前に、私はあの時の記憶が蘇る。
神さまと、同じ匂いをした女の子。
「トガです! トガヒミコ!! それ、雄英の制服ですよね! カァイイなあ」
私の一撃はアッサリと避けられ、相手の女の子は軽蔑した眼差しをこちらに向けてきた。人がもし鉄の心臓と青銅の心を持っていたら、こんな表情をするのだろうかとさえ錯覚するほどに生気を帯びてないソレ。
突然切りかかられてその表情は当然だよね。他人事のようにそう納得をつけながらも、私はそんなカオで睨め付けられるのを無性に恐ろしく感じてしまう。
やめて、そんなカオしないでよ。
「……何で急にナイフなんか」
「私の好きな血の匂いがするからです! どこも怪我してないように見えて、傷ついてボロボロになってます! だからさ、血ィ吸わせてよ」
中学校に入学したと同時期、神さまもいなくなってからというもの、世界の窮屈さがより鮮烈に感じられるようになった。
肥大化した思いが必死に取り繕ってきた仮面に亀裂を入れる。長い時間をかけて押しつぶされてきた本当の私がミシ、ミシと少しずつ仮面に力を込め続けたせいだ。遂にそれは重さに耐えかねて、中学校の卒業と同時、一瞬のうちにパキリと割れてしまった。クラスメイトの好きな男の子が血まみれでボロボロになりながらも喧嘩を止める姿がカッコよかった、好きだった。どうしようもなく好きで、私も同じになりたいと思った。
私は、きっと神さまの
幼い頃、私の隣にいた神さまからはずっと死臭がしていた。死体から香る腐敗臭や、嫌悪感を示すような負の匂いではなく、常に背後に重たい何かを背負っているようなそれは、まるで死そのものを抱えているようだったから。
だから、血を流している人を見ると神さまがその背後をチラつくのだ。
そうして、私の心は次第に血と抑えきれない欲に蝕まれていった。何人刺したかもう数えてすらいない。
神さまを求めて、人の血に濡れた絶望の顔を追いかけていた。けれど、所詮人は神が作った人形。腹を切り開いても、血を啜っても、満足は出来なかった。
ヒトが神になんて、なれるはずがないと知っていながら。
「別に今どこも怪我してないけど……分かった、はい」
なのに、キミは。
「もっといる?」
「え、あ、それでいい、よ…………」
私が持っていたはずのナイフは、いつの間にかその冷たい手の中に握られていて。上手く状況が呑み込めないでいる私に寄り添って一切の躊躇も見せずに綺麗で真っ赤な血を、その陶器のような肌から露出させた。あ、彫刻じゃなくて人だ、と当たり前のことなのにその時になってから初めて実感した。
「ンふふ、甘いです……今までの中で一番甘いよォ」
「へえ」
目の前に差し出されたその血を、一滴たりとも零してはならない。自然と、自分の頭にそう強く言い聞かせていた。人を射殺さんとするばかりの瞳孔を見ても、目線が交わることは無い。
その目は、私など見てすらいなかった。
ちう、と一つ一つを味わうように彼女にくっついて飲み込んだ。
喉を通りすぎる度に噎せ返るほどの甘さが全身を貫いた。これだ! 神様の言っていた世界はこういう事だったんだ。それに気づいた瞬間。幸せで満たされている筈なのに、何故か胸には空虚感だけが募っていく。
その苦しさを紛らわすように名を問えば、『斎蹴遼』との返事が返ってきた。遼ちゃんって言うんだね。私と普通に話してくれるのはキミで二人目だよ。そう言葉にしたいのに、代わりに空気を吸い込むばかりの僅かな嗚咽が漏れた。
「どーしよォ、好きになっちゃったあ……」
「え」
暗がりだった世界が一瞬にして色づく。それまで赤と灰色に覆われていた私の視界に、ぶわっと広がった彩色が輝きを放っていた。
顔が熱い、心が燃えるように熱い。
「好きな人とはね、全部一緒でいたいの。だから、その人自身になりたいって思っちゃうんです」
「いいね、それ」
今まで合わなかった目線が、ようやく交わった。私のことを見る遼ちゃんの瞳にボロボロと涙を零す私の顔が映って、カァいくないところを見られちゃったなと、無理やりに涙を拭った。
遼ちゃんはその時、初めて私に笑いかけてくれた。屈託のない笑顔はとってもカァいくて、それが私だけに向けられていると思うと、余計に分からなくなる。だらりと全身から力が抜けて、遼ちゃんにもたれかかった。
「神さまみたいないい子だねえ、遼ちゃん……」
やっと見つけた、私の神さま。それは背後から差す夕日のせいで、神さまというより天使に近い印象を受ける。
私の好きに、好きになった相手だから。
「……でも、君じゃ私にはなれないよ」
だから、その一言が私には痛いほどに分かった。
遼ちゃんも、カァイイをカァイイとは思えない人なの?
「私は、私じゃない誰かになりたかった」
お願いだから、私の遼ちゃんにそんなこと言わないで。
「君は、トガヒミコのままのがずっといいよ」
なんで、なんで。
私の
そういう遼ちゃんからは、鉄の匂いと死臭だけが漂っていた。もう、その瞳は再び私を捉えることは無い。
もしも神さまの言う『贖い』がこの為にあるのだとしたら。
その"方法"が遼ちゃんを救うためにあるのだとしたら。
「わッ、私の血い、あげるから! これで
「それを貰っても私はトガちゃんにはなれないでしょう」
「じ、じゃあ、遼ちゃんに何したらいいんですか!
私……一体何を返せば」
本当は、初めからわかってた。この生きにくい世界を、神さまは私と同じくらい憎んでいるのと同時に、愚かしいほどに愛してるってこと。
それすらもが神さまの『普通』で、私に対しての『カァイイ』で。
「それなら、いつか私を殺してね」
それだけは私には絶対に出来ない救済だってこと。
神さまは、全部知ってたんだね。
私はもう会えもしない神さまを思って空を見上げた。段々と遠くへ離れて行ってしまった遼ちゃんの背中を黙って見ているだけで、思うように身体が動いてくれない。
行ってしまったら、もう二度と会えない気がして。
けれど、私は『行かないで』が言えなかった。
「ひどい」
代わりに口から零れたのは、自分でも驚くくらいに子供じみた嘆きだった。一度そう発言したら最後、それは留まることを知らない。涙は今度こそ私の心に雨を降りかからせた。
「ひどいよ、遼ちゃん」
神さまに似たあなたを、こんなにも想ってるのにね。
神だと思ってたらタナトスだった件。