流星のロックマン Crystal Crest 作:Dylandy
――戦いの果てには何が残る?悲しみか? 怒りか? 悔しさか?
少なくともあの少年には感情に任せて戦っているようには見えない。負の感情じゃない。何かを背負い、自分の成すべきと思ったことを貫き通す少年の決意は昔から今までずっと固い。
何故、少年は自分の体がぼろぼろになっているのに他人の為に戦えるのか。
何故、少年は敵であった人を許し接しあえるのか。
何故、少年はあんなにも強いのか。
答えは二つ。人と人とのつながり、信頼し合える証、目には見えない、第三者が手を尽くしても断ち切ることができないブラザーバンド。もう一つは自分の目の前で人を失いたくない。これまで自分の不甲斐無さに何人ものの人が被害に被られてきた。だからこそ少年は失いたくない。これ以上僕の目の前から人が消えてほしくないという一心で戦うことにしたのだ。
それが昔から今まで続いている。
「――うぅ………。痛た……一体どうなったんだ?」
ロックマンが辺りを見回す。ロックマンの周囲は砂煙が舞い上がり、ノイズ塗れだった。展望台の手すりは無残にも拉げられている。きっと先ほどの戦闘が原因だろう。しかし、流れ弾が手すりの方に飛んではいないとはいえ、殺気だけで手すりを拉げさせるなんて戦闘の激しさと彼女の戦闘力の高さを物語らせている。圧倒的な存在感と実力差があった覚醒したウィンド・シータとロックマンとのウェーブバトル。
本来なら、完膚なきまでにロックマンはやられていたのだろう。だが、彼女の身体に何かがあったのかが分からないが突然苦しみだし、最終的には一瞬だけ正気になり、気を失ったのだ。
ロックマンは疲労困憊と身体の激痛により気を失い、ウィンド・シータはウォーロックのビーストブレスの洗礼を正面から受けたため彼女も地に倒れていた。
20メートル先には無残にも倒れていたウィンド・シータ。気を失ってるだけで電波変換は解除されていなかった。
ロックマンはふと悟る。いくら手が出せなかったとはいえ、あの時ウォーロックが手を出さなければ確実に敗北していただろう。いや命を落としていたのかもしれない。ただでさえあの戦闘力だ。尋常じゃないというのはロックマンも承知の上だ。もしかしたらメテオサーバーにアクセスし、最終レベルファイナライズをしても互角に渡り合えるか合えないかだろう。ソロやシリウス以上の実力者かもしれない。
だが今のロックマンには『最終変身(ファイナライズ)』というのが使えない。あの技はメテオサーバーにアクセスし、『ブラックエース』、もしくは『レッドジョーカー』というノイズの力をメテオサーバーからダウンロードすることにより発動できる技。
『……ったく、この女はいったいどんな能力を秘めているんだ? 俺達でも全く歯がたたなかったぞ………。唯一、あの女が突然変なオーラが消滅してくれたのが唯一の救いだったがな……』
「――うん。これは特訓しなきゃだめだね………。新たな力も付けたいし……。最終変身(ファイナライズ)やトライブキングにもなれないしね……。それにしてもウィンド・シータ……。君はいったいどんな能力を持っているんだ……」
ロックマンが少し痛みが響く右肩を左手で抑えながらそう小さな声で呟く。直後、ロックマンは彼女の近くに寄り添い、彼女に触れようとしたとき手が止まった。
「………なんか気まずい……」
『ハァ!?』
ウォーロックは思いがけないロックマンの一言に呆れた声を上げてしまった。きっとロックマンは気を失っている女の子の体を触って起こすという行為をしたことに戸惑ったのだろう。
だが、実際ロックマンはかなりの控えめの人だ。自ら女性の体に触れたりすることがないため、どうやって彼女の気を戻せばいいか気が動転しそうになったロックマンだった。女性から自分の体に触られたり、殴られたり、叩かれたり、引っ張られたりするのだが彼は対して気にしていなかったのだ。
しかし逆のパターンになってみれば相当困る。下手をすればセクハラ行為になってしまうし、相手を害してしまうかもしれない。
それが怖かった。
『適当に肩でも叩いて起こしたらいいだろうが!! 男の癖に悩んでじゃねえ!!』
「う、うん………。分かったよ。肩たたいて起こせばいいんでしょ」
『早く行って来い!!』
とロックマンはウォーロックの尻に敷かれるがままに従った。失神して倒れているウィンド・シータの傷ついた顔を見て一瞬手が止まる。一拍置いたのちにロックマンはウィンド・シータの肩を揺すって起こそうとした。
それだけでロックマンの心臓がいつもの数倍早鐘を打っていた。
「大丈夫か? ウィンド・シータ………?」
「――うっ、ロックマン? あれ、私どうして………」
「ウォーロックが君のあの変な力から解放してくれたんだ。あの時、ウォーロックが迷ってた僕を無理矢理無視して君に攻撃し、大怪我を負わない程度にしてくれたらしいよ。さすが僕の相棒だよ」
「………ありがとう、ウォーロック………」
『……フン、ただスバルの身が危ないと思ってやっただけだ。別にお前の為にやった訳じゃない。そこんとこは理解しとけ。スバルが死んでしまったら俺は大吾や母さんになんて言って詫びいれればいいか分からないからな。俺はパートナーを守るだけにやった。それだけだ』
「………えぇ、分かってますよ」
とウォーロックはウィンド・シータの言葉にスバルを守るために自分は彼女に攻撃をして解放させたと言っているが、自分では口に言わないが、彼も内心は心配していたのだ。けど、その本性をウォーロックはあまり表に出さない男である。
もちろん、長い付き合いになっている相棒の星河スバルは彼が誤魔化しているという事については浅はかすぎて見え見えだった。内心は照れているかもしれない。これがあの『ツンデレ』的な例のアレなのかもしれない。
「………教えてくれウィンド・シータ。君のその異常な能力を……。君があれを使った時、君の雰囲気は急激に変革した。なんなんだあの能力は? 禍々しすぎて相対するだけで足が竦んでいたよ僕は………」
「あの能力は……実は私本人でさえよく分からないの……。我々、PM一族はそれぞれ個々が使える身体強化技、『紋章解放(クレストバースト)』という解放技があるの……。私にも紋章解放(クレストバースト)による解放技は備わってるけど、何故かもう一つ私には備わってるの……。それが」
「先ほどのあの奇妙な解放技だね?」
「ご名答。『紋章解放』は勿論、メリットだけじゃないわ。メリットがあれば必ずデメリットがある。これを発動した短時間はいいけど、その後は若干能力がおちるの。けど、あの技は違う。私自身の意識が不安定になるまで発動し続ける………。けどその時は私の自我はあれに取り込まれていて意識など不安定になることはゼロに等しい……。だから先ほどのように力ずくでせめて私は開放されたことになるの……」
どうやらウィンド・シータの言っている通り、PM星人には究極変身(ファイナライズ)みたいな感じの能力が個々的に備わっているのだろう。
だが、彼女は違う。紋章解放(クレストバースト)という技を持つ反面、意識が飲み込まれ自分の意識が消えるまで戦い続ける解放技がある。あの時の彼女はまるで表であったコインが跳ねて裏にひっくり返ったコインのようにすべてが変わった。
コインも裏になれば模様が変わる。彼女も裏が発動すれば全てが変わる。
ロックマンは思わず戦慄してしまう。彼女にはもはやあれは『災厄』みたいな技に見えてしまうからだ。相対したが、全く歯が立たない。あらゆるものを拒絶する負の壁、近づく物は排除し、狙撃してくるものは逃さず撃墜させる。全てに対して非の打ちどころがない。
「紋章解放かあ……。僕にも一時期似た能力があったなあ……」
とロックマンは途方に暮れる。過去のロックマンにも紋章解放のように似た能力があった。自分の潜在能力が上昇する代わりに属性変化が発生し、効果抜群の弱点が付くという付点があった。
そして彼女のもう一つの技に沿って似たように日の打ちどころがなくなるのもあった。
「凄い技だよ……しかも個々的に持ってるなんて……」
「あ、でもさすがに紋章解放(クレストバースト)には個体差がありますよ。使用時間とか、潜在能力の変化具合、身体治癒能力上昇や、精神安定、属性変化や特殊能力付加など……。千変万化します。一部の人は全て強化もいますけど……」
「へえ……、ファイナライズみたいだね………。アクセスレベルで変化する感じだね」
「――さて、私はここで帰りますね……」
ウィンド・シータが立ち上がって痛む体を抱えるように立ち上がる。
ロックマンはその様子を見て彼女の体を視る。彼女の体はあまり傷がついていなかった。恐らく、先ほどの彼女が言っていた通り、解放することで回復能力が一時的にあがったのだろう。
それでも彼女は少し疲労感と痛みを抱いて立ち上がっていた。
ロックマンは電波変換を解かないでウェーブロードを歩いていくウィンド・シータの後ろが見えなくなるまで見つめていた。