その声は突然後ろから聞こえてきた
「や、エクス、調子はどうだ」
「…ノックをしてくれ、心臓に悪いだろう、サンクトゥム」
そう言ってみればサンクトゥムは小さく笑って話を続ける
「まぁ随分と変わったものだ、もはや別人ではないか、と疑うほどに」
「またその話か、いや、まぁ私とて分からないのだ、自分という存在がどこへ向かっているのかが」
「私はお前の変化を疑ってはいないがな、カルマが、父と認めたのだからな」
彼女…いや、今は娘と呼べるカルマには悪いことをしたという感情しかない、だがそれで括るには余りにもしてしまったことが重すぎる。
「カルマは、なぜ父と呼んでくれたのだろうか」
「ふむ…」
私の静かな疑問に、サンクトゥムは考え込む。だがふと何か思い立ったように顔を上げる。
「なら」
「なら?」
少し止まった言葉の続きを引きだろうと聞き返す。
「直接聞けばよいだろう」
そこからのサンクトゥムは止まらなかった、というより止められなかった、思い立ったこいつを止められるのはアリアだけと聞いたのは本当なのかもしれない。
「もしもーし、今忙しいんですけどーなんか用?」
「お泊りデート中すまないな、めんどくさい父親がいるもんでな」
「…エク、いや、お父さん?」
ほら、話せと言わんばかりにサンクトゥムがこちらを見る。
「…カルマ」
「なぁに?あ、言っとくけど横にレノヴァがいるからね」
依然としてレノヴァと共にいる、というのはある意味安堵を感じる。思えば私のところから離れた時から随分と変わったのは彼のおかげだろう。
「問題ない、そうだな、一つ、聞きたいことがあってな」
「うん」
「私を父と呼んだのはなぜだ?」
「?お父さんだから、でしょ?」
聞きたいのはそういう話ではないのだがいったい何が彼女の心の私を変えたのだろうか。
「エクス、伝え方が下手だな、カルマ、こいつはなぜ父と認めてくれたのか、を問うている」
「あーなるほど、んー…そうだなぁ」
「娘の勘、的な?」
「そう、なのか?」
なおさら理解できない、自分を傷つけ、拒絶した人間をどうしてこうもすぐにそう呼べるのか
「理解できないって思ってるでしょ、まぁ、なんというかさ、声でわかったんだよ。長く一緒にいたからさ、いやでもわかるんだ、その声に含まれる感情が。一緒にいた時はずっと嫌な感じだった、でも久しぶりに話したお父さんは聞いたことない声で、感じたことのない感情で話してた、だから、もう一回信じてあげようかなって。あの時は私も尖ってたし、いったんおあいこってことで、ね?」
「そう、か」
「お互いゆっくり探していこ、私たちの在り方をさ」
自分の創った娘に諭されることになるとは創った当時の私からすれば鼻で笑って聞き流すようなものだろうが今の私は昔とは違う。
「まさか娘に説教されるとは思わなんだ」
「……一応そのつもりはなかったのだけども」
「もろもろ終わったらゆっくり話そう、昔の話も。未来の話も。楽しくは…ないかもしれないが、少なくとも昔みたいに話を聞かない私ではない」
電話越しにクスリと笑う声がした
「もう、昔の自分を引きずりすぎ、改めてよろしくね、お父さん!」
「ああ、よろしく、カルマ」
そのまま通話終了へ指を持っていく
「あ、連絡先のブロックは解いてるから、次から自分でかけてよね!」
「…そうしよう」
そして通話は終了した
「どうだ、疑念は晴れたか?」
「ああ、十分すぎるほどだ、私は過去の分も、未来の彼女を守る。」
「ならよかった、ならこの後の計画について、少し話そうお前の力が必要だ」
「なら奥の実験室で話そう、いろいろそろっているからな」
ここから、私の新しい一冊が始まる、前巻よりはいいものにしなければ、という思いと共に
「なんか、柄でもなく真面目な話をした気がする…」
エクスとの話が終わった後カルマはふにゃりと抱き着いてくる
「まぁまぁ、大事なことだし、必要なことだったと思うよ」
「言いたいことは全部言えたし、お父さんももう大丈夫そうだし、言ってよかったとは思ってるよ。うー、疲れた、お風呂入って寝ちゃう?」
「本当に寝させてくれますかね」
「さて、どうでしょ~?」
適当にはぐらかして彼女はお風呂場へ向かう
「ほら、いくよ。今日も髪の毛やってもらうんだから」
付き合ってからというもの、カルマの髪の手入れはほとんど私がやっている。初めは触りたいという私的な欲求でやらせてもらったことだが、ずっとやらせてもらえるのはうれしいことこの上ない、本当にさらっさらなんだよ、カルマの髪。
「ふー、どうかな、ここのお風呂、と言ってもあっちの家と違って普通のお風呂だけど」
そこにあるのはここに来る前まではよく見慣れた浴槽とシャワーのあるだけの二人で入れば少し狭くなってしまうようなお風呂。ホテルとかでよく見る、と言えば伝わりやすいだろうか。
「…距離近くない?」
「ま、まぁ、私は気にしてないよ。その、レノヴァならいいしさ」
…付き合って二か月は立つというのにいまだに初々しさというかが抜けない。そんなことを考えながらカルマの体を洗ってあげる。
「カルマっていつ触ってもすべすべだよね」
いつどこを触ろうがすべすべな肌を保っているのは見えないところで努力をしているからなのだろうか。
「えっへへ、お手入れはちゃんとするのができる彼女ってやつ?だよ!」
「どんなカルマでも好きなんだからたまにはサボっててもいいのに」
「それはわかってるけど、一番いい私を見てほしいじゃん?…レノヴァもやってみたら?」
「じゃあ後で教えてもらおうかな」
自分ではあまり肌に気を使ったことはないからこういう機会には触れておこうと思う。
にしてもカルマが近い、体勢で言えばさっきのソファにいた時とさほど変わらないがここはお風呂。うん、まぁ、ほら、布がない、わけで、いつもは二人別のところに座れるくらいは広いところだから明るい中でここまで密着するのは緊張する。
「…レノヴァさん」
なぜか少し気まずそうにカルマが話しかけてくる、いや、なぜなのかは大体わかる気がするが、彼女もこの状況が恥ずかしくなってきたのだろうか。
「な、に?」
「その、当たってるというか、うん、その」
その言葉に一気に顔が熱くなる、無意識にでも浄教寺が状況故そうなってしまうのは仕方ないといえば仕方ないが恥ずかしいものは恥ずかしい。
「相手してあげてもいいんですけど、ど、どう?」
初めての時はあんなにSっ気しかなかったのに今日はやたら大人しめだ、なんか考えてそうで怖かったりもするが据え膳なんちゃらというもの。
「じゃあ、そうしてもらおうかな」
それからどうしたかはまぁ想像にお任せするとして、その後カルマを抱えてお風呂を出た私たちは寝る準備へと移った。
「うぅ、もう無理、動けない…」
ベッドにおいてあげるとそのままぐったりするカルマ
「ごめん無理させすぎたかも」
「ほんとに、まぁ前のと合わせてこれでトントンってことでいいけど、ん、ほら、レノヴァもおいで?」
そう誘われては断る選択肢などなく同じくベッドに入り、カルマの後ろで横になってぎゅっとする。
「私やっぱりレノヴァにぎゅーってされながら寝るの好きなんだよねぇ」
こういう時に目を合わせようとして上を見てくるカルマがかわいくてたまらない、ずっと見ていたいほどだ。
「私も、カルマをぎゅってしながら寝るの好きだよ」
「ふふっ、じゃあwinwinってやつだ、もっと…しても…いいからね」
次第に眠そうな声になっていくカルマとそれに合わせるようにポカポカしてくる布団。こっちも自然と眠くなってくる。
「明日はまずオリヴィアに戻って次の話をしようね。じゃあ、おやすみカルマ」
「んぅ、おやすみぃ、レノヴァ」
とある神殿の一室での会話
「蛮神様の復活は何時になりそうだ、プロナリア」
「早ければ三月後、遅くとも半年以内には可能かと」
「そうか、そのまま城への潜入と共に続けてくれ」
「かしこまりました」
プロナリアがその場を離れ足音が遠ざかる
「蛮神デゲネラ様が封印より蘇ればその時こそこのくだらない世界を望みのままに新生させることができよう。嘆かわしいことに新生に抗おうとするものが数多存在する。ならばその前に必要なのは」
「すべてを無に帰す破滅だ」