なのはクローンの醜い人生 作:クローンにもなれない何か
ミッドチルダにやってきたが最初にしたことは拠点の作成だった。何しろ今の私は根無し草。実力はあれどそれも心身を万全にしないとそれを遺憾なく発揮することは不可能だ。
ならば拠点を作るまでは研究所に居ればいいと考えるかもしれないがそうもいかない。大規模な転移魔法は魔力を大幅に使用するのだ。そんなのを繰り返していれば管理局に目を付けられる事は必然だ。普通の人間なら優秀な人間がいるなぁで終わるかもしれないが私の姿は幼い高町なのはそのものだ。絶対に面倒な事になる。最悪の場合、保護だのなんだのと言ってくる可能性がある。
幸い、ミッドチルダには廃墟と化した区域がいくつもある。その中のいくつかに仮拠点と本拠点を作る事が出来そうだ。それでも拠点と言えるような物資が揃うまではホームレスと変わらないだろう。
次に私はフリーの傭兵のような物を始める事にした。ミッドチルダは最近発生した事件の影響でかなり混乱しているようでフリーの魔導師たちの活躍の場は大量に用意されている。最低でも賞金がかせられた者達を見つけて売り渡す事でも金は稼げそうだ。
最初はこの容姿を生かしてその辺の男どもを誘い、行為に応じる直前に殺して金を奪い取る事も考えたがそんなことが出来るのは最初の一回か二回程度だ。繰り返していれば怪しまれ、捜査の手が伸びるだろう。
管理局などなんぼのもんじゃいという気概はあれど実際にそうなれば面倒な事この上ないだろう。私の今の目標は高町なのはを殺す事。それを阻む障害が少しでも減らしておきたい。現状においても高町なのはの回りには実力者が数多く侍っているのだ。
特に面倒なのがフェイト・テスタロッサと八神はやてだ。二人とも10年来の親友という事に加え、Sランクを超える魔導師だ。1対1ならだれにも負けない自信はあるがこの二人も相手しながら高町なのはを殺す事など不可能だ。私がもう一人いないと不可能だと言い切れる。
更に最近では事件で交流を深めた4人の後輩もいる。軽く調べた限り将来有望な実力者だ。それに加えて八神はやて固有の戦力である守護騎士プログラムもある。あの4体は中々の曲者だ。
こうしてみると高町なのはを殺すことは不可能にも思えるがそこは知恵を働かせるしかないだろう。どんな完璧な人間にも一つ二つのほころびはあるものだ。そこを突けば簡単に突き崩せる、と思いたい。
なんにせよ今はまだその時ではない。高町なのはを殺す事にしろその準備にしろ時期早々だ。そういった事を入念にできるようになる土台作りが今の私が最も取り組まなければならない問題なのだ。それまでは高町なのはの事は忘れる事にしよう。
幸い、高町なのはは公の身分を持つ有名人だ。何かあれば周囲が騒ぎ出す。それに加えて彼女は教導隊で働いている。ミッドチルダを離れる事はかなり少ないのだ。気付かないうちに行方不明なり死亡するなりして目標を果たせなくなる可能性は低い。だからこそ私は安心して準備に取り掛かれるのだ。
八神はやてに仕える騎士シグナムがその者の噂を聞いたのは偶然だった。ジェイル・スカリエッティが引き起こした事件も解決して1年も過ぎた頃、ミッドチルダの治安は過去最低にまで落ちていた。何しろ陸の頂点にいたレジアス中将が死んだうえに彼がジェイル・スカリエッティと手を組んでいたことが判明したせいで地上本部の名声は地に落ちていたからだ。
そんな中でここ最近ではミッドチルダに潜伏していた犯罪者たちを次々と捕縛してくる凄腕の魔導師がおり、治安の回復に少しでも貢献しているというのだ。地上本部に勤務するシグナムが興味をひかれるのも無理はないだろう。
更に言うのであれば捕縛してきた犯罪者の中にはかなりの実力者もいた。そんな彼らを危なげなく捕まえるその魔導師の実力を見てみたいという気持ちもあった。
「騎士として手合わせを願いたいものだ」
そう思いシグナムは何度か探してみたのだがタイミングが合わないのか中々会う事は出来なかった。避けられているのか、とも考えたが態々避ける理由が見当たらないし担当する者に聞けば基本的に時間がバラバラで不規則に現れるという事を聞き、最後の手段として次に現れた際には連絡をして欲しいと頼み込んで漸く会う事が出来たのだ。
「貴殿が噂の魔導師だな?」
「そうですが、貴方は?」
「地上本部航空隊のシグナムだ。犯罪者を次々と捕まえている魔導師がいると聞いて見てみたくてな」
「……」
シグナムから見た最初の印象は幼いというものだった。辛うじて服装から少女という事が分かるがどう見てもかつて機動六課で下についていたエリオやキャロと同じくらいの年齢に見える彼女に驚きを隠せなかったがそれよりも驚いたのが彼女が顔につけている仮面だろう。顔の上半分を覆う黒い仮面をつけており、顔を確認することは出来なかったものの、何処か懐かしさを覚える雰囲気をしていた。フードを被っているせいもあってよくわからない物の、白髪をしている事が辛うじて分かったが知り合いに白髪の女性はいなかったとシグナムは気のせいだと思う事にしていた。
「……ならばいいですか? 私の用事は終わったので」
「いや、出来れば手合わせをしてみたくてな。もしそちらが良いのであればだが……」
「……」
シグナムがそう言えば目の前の少女は明らかに面倒だという雰囲気を全面に押し出しつつも何かを思案しているのか返事を直ぐに返すことはなかった。一体どれだけの時間が経過したか、分からないものの少女は顔を上げた。
「良いですよ。ただし、10分間だけでお願いします」
「構わない。それじゃ早速移動しよう」
頼み込んだのは自分である以上相手の要望は全面的に通すつもりでいたシグナムは少女の快諾の言葉に笑みをこぼしながら航空隊で使用しているフィールドに案内するのだった。
なのはのクローンですからね。懐かしさを感じてもおかしくはないですが流石に正体に気づくには至りませんでした。
因みに話の前半と後半で凡そ3か月程度は経過していると考えてください。