なのはクローンの醜い人生 作:クローンにもなれない何か
闇の書の守護騎士プログラムの1体であるシグナムに誘われて模擬戦に応じたわけだが正体がバレる危険を冒してまで応じた理由は色々とある。
先ず、現段階でのシグナムの実力を測るため。私が持っているデータは表面上のものだったり古いものばかりだ。だからもしプログラムと言えど成長しているのであればデータを頼りに実践するのは危険を伴う事になる。これが今回のような模擬戦であればいいが高町なのはを殺す段階で知る事になるのは致命的な隙を産む事になる。ただでさえこちらは一人、その齟齬は大きな代償を生み出しかねないので。
次にこちらの戦闘能力を誤認させる事。私はこの模擬戦では絶対に本気を出さない。使用する魔法も一般的な物のみを選び、切り札や本当の手の内は隠しておく。シグナム相手にそんなことをして大丈夫なのか? 先に上げた理由とかみ合わないのではないか? と感じるかもしれないがその点は心配ない。演技には自信がある。研究所の糞どもにも見破れなかった私最大の特技だ。でなければ今頃私は反逆を感づかれて死んでいる。そして私が確認したいのは基本的なスペックに関してだ。切り札の確認をしようとは思っていない。そもそも、たかが模擬戦程度で切り札を使用してくるなんて思っていないからな。
そんなわけでこちらは幼いながら技術があるそれなりの魔導師という体で戦う事になる。模擬戦の勝敗は関係ない。むしろ負けないと余計に目を付けられる事になるだろう。シグナム経由で八神はやて、八神はやてから高町なのはやフェイト・テスタロッサと広がっていくはずだ。そうなればこちらは動きづらくなる。
「それはよろしく頼むぞ」
「ええ、こちらこそ」
さて、そうこうしているうちに演習場まで来たわけだがシグナムはバリアジャケットを展開してやる気満々だ。ちなみに、私は未だデバイスを持っていない為にバリアジャケットは自分で展開している。デバイスの補助がないのが本当にキツいがそれはそれで出せる出力が大幅に減るためにシグナムに誤認させる事が容易になるだろう。
「では、行くぞ!」
「っ!?」
その言葉と共にシグナムが吶喊してくる。様子見故かその速度はデータにある速度よりも幾分も遅い。それに対して私は防御魔法を展開する事もなく飛翔魔法で後方に飛びのくように飛ぶ。ついでに驚きの感情と表情を作って。
「これは躱すか。ならば!」
「くっ!」
飛行自体は特に規制されていない。シグナムも空戦が可能な騎士だ。現に追撃として飛んで向かってきている。その動きは素早くそれなりに本気を出しているのが分かる。
それに対して私が行うのは迎撃だ。魔力弾を3つほど展開してそれぞれ違う方向から放つ。だが、データ通りであればこれを難なく迎撃するはずだ。
「甘いぞ!」
ほらね。正面の一番早い弾は切り伏せられ、右後方からの弾も切り裂き、最後に左後方からの弾は鞘で軽く防がれた。Aランク魔導師程度の能力だったがSランクのシグナム相手には意味がない攻撃だった。だが、それでも隙を作ることには成功した。
「ショット!」
「っ!?」
指先に込めた小さな魔力弾を発射する。速度としてはかなり早く、迎撃に失敗すればダメージとなる一撃だ。弾事態小さく速い為に視認することは難しい一撃だ。正直なところ、この状況ならシグナムでも防御は難しい一撃だが果たして……。
「くっ!」
「なっ!?」
だが、予想外にもシグナムはこれを躱して見せた。恐らく大量の実戦経験に元ずく勘という奴だろう。プログラムもそんなことが出来るのかと思わずお驚いてしまったが固まっている暇はない。再び魔力弾を生み出してシグナムに向けていくがそれらはシグナムの脅威にすらならなくなっていた。まぁ、当然といえば当然だな。シグナムは私に接近し剣を振り下ろしてくるがそれを私はシールドで防ぐ。触れた瞬間にひびが入り、それは少しずつ大きくなっている。以て数秒だろうがそれだけあれば十分だ。シールドの展開と同時に透明化をかけた魔力弾を一つ、展開しており、それをシグナムの後ろから放っている。その辺のチンピラ魔導師相手ならば必中の一撃であり、制限した中では切り札と言える攻撃だが……。
「無駄だ」
「そ、んな……!?」
なんとシグナムは当たる直前に剣を振り上げ、その勢いで後方から迫ってきていた魔力弾を切り裂き、そのまま剣を振り下ろしてきたのだ。当然ボロボロのシールドはそれに耐えきれずに砕け散り、剣が私の肩に振り下ろされた。
飛翔魔法では防ぎきれない衝撃で私の体は地面に叩きつけられる。痛みはないが口を開き、大きなダメージを受けたように演技をする。そして、それと同時に時間を知らせるブザーが鳴り、模擬戦は終了した。
「大丈夫か?」
「っ! え、ええ……」
降りてきたシグナムが手を差し出してくる。私はそれを痛みに耐える演技をしながら掴み、立ち上がった。そしてシグナムの表情を見れば満足したように笑みを浮かべていた。
「模擬戦感謝する。私としても有意義な一戦だった。特に最後のは私でもヒヤッとしたぞ」
「簡単に防いだように見えましたが?」
「お前には悪いがあのような戦術は何度も経験している。初見だったら危なかったかもしれないがな」
まぁ、ベルカ時代から闇の書は確認されているようだしこういったものは経験済みでしょうね。だけど私の目的は見事達成できたと考えていいだろう。シグナムの様子に疑いを持った様子は見られない。こちらの実力を完全に見誤ってくれているようだ。
こちらとしてもシグナムに成長的な変化は見られなかった。これなら他の面々もそうである可能性が高い。作戦中に見誤る可能性は低いな。
「所で、管理局に入る気はないのか? 好待遇を約束するが……」
「一人でいる方が好きなので。誰かと一緒にいるのは……」
まぁ、私の素顔を見られるわけにはいかないからな。
「そうか……。まぁ気が変わったらいつでも言ってくれ。私は何時でも歓迎しているからな」
「機会があれば、とだけ答えておきます」
そんな機会は一生訪れる事は無いと思うけどね。
シグナムは先ほどまで模擬戦をしていた少女を見てミッドチルダにはまだ彼女のような逸材が残っていたのかと目から鱗が落ちる気分だった。彼女の実力としてはAランク魔導師程度であり、少し前まで共に機動六課で勤務していた新人フォワード陣と比べれば劣る者のそれなりにあると判断していた。特に視野や魔力のコントロールの良さは光るものがあると管理局に入ってくれない事を少し悲しく思う程だった。
「しかし、結局懐かしさの正体は分からなかったな」
少女を見た時に感じた懐かしさの正体。もしかしたら模擬戦の中でわかるかもしれないと思っていたが結局分かる事は無く、ただの勘違いだったかと思うようにした。
「あ? シグナム、こんなところでなにしてんだ?」
「ヴィータか。何、管理局の新たな戦力になってくれるかもしれない逸材と手合わせをしていただけさ」
「そうか? 久しぶりにうれしそうな顔をしてんのみたけどそれだけ将来性のある奴なのか?」
「才能総合的にはフォワード陣よりも低いと思うがそれを補ってあまりある才能を有していそうではあったな」
「へぇ、次会う時はあたしにも紹介しろよ。どんな奴か見定めてやっからさ」
「ふっ、そうだな。その時は紹介するとしよう」
シグナムはヴィータの言葉にそう返す。しかし、シグナムが思い描くような未来が訪れる事は二度と起きないのであった。