一ノ瀬と俺。   作:パラベラム弾

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一ノ瀬と俺と再会

中々にインパクトの強いエンカウントを経た翌日の朝。

 

眠い目を擦りつつ登校した俺は、案の定クラスメイトから質問責めにあっていた。話題はもちろん一ノ瀬のことについてだ。

 

「で、実際どうだった? やっぱ噂通りやべぇ奴だったのか?」

 

「いや、そんな言う程危ない奴じゃなさそうだったぞ。普通に話せたし」

 

やけに暴力的な噂ばかり出回っているから、余程喧嘩っ早い性格なのかと思っていたけど。百聞は一見にしかず、とはよく言ったものだ。いやまあ、もしかしたら中学時代は本当にヤンチャしていたのかもしれないが。

 

高校に上がったのを機に大人しくなったというのなら、あまり昔の話を蒸し返すのは良くないだろう。誰しも触れられたくない過去の一つや二つあるもんだ。

 

「へぇ。やっぱ噂ってアテにならないのな」

 

「一ノ瀬さん、意外と大人しいのか。声掛けたらワンチャンお近付きになれたりしないか?」

 

「勇者だなお前……あんなオーラ纏ってたら話し掛けれねーぞ普通」

 

噂ほどの怖い人間では無さそうだと分かった途端、やいのやいのと盛り上がるクラスメイト達。下世話な話に事欠かないのは思春期男子特有ということで目を瞑って貰いたいものだが、実際に一ノ瀬が誰かとそういう関係になる未来があまりにも想像出来なさすぎる。

 

「……多分、一ノ瀬と付き合うとか無理なんじゃねぇかなぁ……」

 

「あぁん?何だよ河村、所詮俺らは路傍の石ってかぁ!?」

 

「あ、いや、そうじゃなくて。仮にもし付き合うとしたら絶対男の方が苦労するぞ。昨日ちょっと話しただけだけど、とんでもない我の強さを感じたね。例えば冷蔵庫に自分で食べようと思って買ってきたケーキを入れておいたとしよう。それを一ノ瀬が勝手に食べちまって、ほぼ100%あっちが悪かったとしてもそれを指摘したら『じゃあ名前書いとけよ』つって逆ギレしてくるタイプだと思う」

 

「例えが具体的すぎねぇ?」

 

あくまで個人の感想だから。

 

そうこうしているうちに、あと5分で朝のホームルームが始まろうかという時間になった。のだが、件の一ノ瀬が未だに登校してくる気配がない。プリントの提出期限は今日までと確かに伝えた筈だし、進路希望調査ともなれば重要な書類だから流石に無視するのも考えにくいが……

 

隣の空席をぼんやり眺めながらそんな事を考えていると、教室の後方から入ってくる人影。小さく欠伸をしながらのそのそと此方に向かって来るのは、制服姿の一ノ瀬だった。

 

朝に弱いですと言わんばかりに瞼は半分閉じてるし、足取りもフラフラ危なっかしい。そのまま突っ込んでくるなよ頼むから。

 

ちなみに、席順は窓際の最後尾かつ廊下側から見て俺、一ノ瀬、窓となっているため、一ノ瀬が自分の席に向かおうとすれば俺の姿が視界に入ることになる。くしくしと目を擦って眠気を飛ばし、何度か瞬きを繰り返して焦点を合わせ、その紫水晶の瞳が俺を捉えて───

 

「……チッ」

 

「オイ待てコラ」

 

今こいつ舌打ちしたか??

 

「人の顔見て舌打ちとか随分なご挨拶だな一ノ瀬さんよぉ」

 

「……なに? 用事もないのに絡んでくるのやめてくれる?」

 

「こちとらたった今絡む理由が出来たところなんだわ」

 

「はぁ……朝からうるさいなぁ……」

 

「うるさくさせた原因がその反応できんのは素直に驚くわ。唯我独尊が服着て歩いてんのか?」

 

朝から血圧上がりそうっつーかキレそう。一ノ瀬の口振りからして煽ろうとしてる訳じゃないのはなんとなく分かるんだが……マイペース極まれりというか、自由人というか。さっき話した例の解像度が4Kくらいまで鮮明になったわ。

 

ああいや、でも待てよ。昨日も実感したように一ノ瀬=幼女だ。相対的に大人である俺がちんまい女の子相手に一々目くじらを立てるか? いや、立てるはずがない(反語)。

 

反抗期か思春期か知らんが、そういう相手は言い返せば言い返しただけ意固地になるものだ。暖簾に腕押し、柳に風。俺がのらりくらりと受け流していれば自然と一ノ瀬も大人しくなるだろ。

 

心の中で理論武装を済ませ、鼻で笑う意味も込めて隣に座る一ノ瀬に視線を送る。わあすげー嫌そうな顔してら。

 

「……なに? 」

 

「や、朝飯食わなかったからイラつい───ぐふぉ!?」

 

無言で脇腹にグーパンされた。

 

死ぬほど痛かった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「手が出るまで速すぎんだろあいつ……」

 

放課後。

 

未だにじんじんと痛む脇腹を擦りながらボヤく。最後のグーパンに関しては半分くらい俺が悪いので何とも言えないが、あの細っこい腕のどこにそんなパワーが宿っているのか不思議でならない。ボクシングやったら世界獲れそう。

 

そんな事を考えながら、やってきたのはスーパーマーケット。最寄り駅と俺の家のちょうど中間辺りに位置しており、学校帰りに立ち寄れるので大変重宝している。

 

冷蔵庫に残っている食材を思い出しつつ、今日の特売コーナーを行ったり来たり。家は両親が共働きかつ帰りが遅いので、飯の準備は俺が担当している。翌日の弁当に詰めることを考えて献立を組むのでちょっと手間だが、一年も続けていれば流石に慣れた。

 

んー、今日は肉の気分。玉ねぎ残ってたし、まとめて生姜焼きにしよう。ほうれん草でおひたし作って……あと冷奴あれば十分か。生姜買わなきゃ。

 

買い物カゴ片手にレジへ移動する途中、カップ麺やレトルト食品のコーナーで見覚えのある後ろ姿を発見した。なんかこの2日だけで妙にエンカウント率高いな。住んでる所はそう遠くないはずなんだけど、気づかなかっただけで今までもすれ違ってたりはしてたのか……?

 

「うん……うん。適当でいい? 分かった、ついでに買っとく」

 

当然といえば当然だが向こうも買い物中らしい。スマホで誰かと通話しながらカップ麺をカゴに放り込んでいた。昨日もカップ麺食ってたよな確か。

 

栄養偏りそうだが、家みたいに親御さんが忙しいのかもしれない。学生で自炊してるのは少数派だと思うし、人様の家庭環境に首を突っ込むのは流石に失礼だろう。

 

俺はそのままレジに向かうと会計を済ませ、スーパーを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

夜。

 

晩飯と風呂を済ませた俺は、Ap〇xを起動して練習場に籠っていた。明日は土曜日だし部活に入っていない俺からすれば、金曜日の夜が最も気分が良いと言っても過言では無い。

 

夜更かしし放題だし、次の朝も二度寝三度寝ができる。これを至福と呼ばずしてなんと言うのか。

 

指とエイムがあったまってきたのでキューを入れる。現在のランクはプラチナI。所詮ソロ勢なので調子がいい時と悪い時、野良二人のレベルによって勝ったり負けたりまちまちだ。クラスの奴らとやる時は基本カジュアルしかやらない。理由? ランクやってギスるの嫌だろ。

 

個人的に、ランク制度があるチームゲーはゲームに対して同じ程度の熱量が無ければ一緒にプレイしない方が良いと思ってる。取り組む姿勢は人それぞれだからね。

 

おっ、マッチ成立。野良は……『hina』と『uruha』。

 

…………。

 

……………いや、まさかね?

 

見覚えしかない文字列に一抹の不安を覚えつつ、ジャンプマスターを引いたので航路とマップを確認。ホットスポットから遠すぎず、そこそこ物資も湧きやすい場所にピンを刺して降下開始。

 

「うわ被った、マジかよ」

 

隣を見れば、同じ狙いだったのか俺たちが降りようとしていた場所目掛けて別部隊が降下していた。ピンの位置を少しズラし、ランドマークの端に刺し直す。接敵するまでに少しでも漁る時間を稼ぐ為の苦肉の策だ。

 

着地後、サプライボックスを開けて手早く物資を漁り始める。が、運悪く出てくるのはモザン〇ークだけ、しかも弾薬はライトやヘビーばかり。こんなんでどう戦えってんだよ。

 

そうこうしているうちに、敵部隊は漁りを終えたのか初動ファイトを仕掛けに来る。俺一人では到底太刀打ちできないので、少しでもカバーを貰おうとして野良の方に寄るが、そこへスネア───食らった敵の移動を阻害するアビリティが炸裂。操作するキャラの足が鈍り、遮蔽物のない場所で棒立ちになった俺は一瞬で蜂の巣にされてダウンした。

 

「クソすぎる……!」

 

初動落ちというバトロワゲーで一番萎えるダウンをした俺は、相手の位置にピンを刺してなんとか遮蔽まで移動する。こうなったら後は野良二人の活躍に任せるしかない。

 

ワンチャン蘇生来てくれないかなーと思いつつ様子を見ていると、トドメを刺すためこちらへ走ってきていた先頭の敵がスナイパーに頭をぶち抜かれてダウンした。キルログには『uruha』の文字。

 

人数がイーブンになった事で敵の足が止まるや、俺のいる遮蔽周りに毒ガスが散布された。敵にダメージは入るが味方には影響がないため、悠々とこちらへ走ってきて蘇生を開始する『uruha』。

 

回復アイテムで体勢を立て直している間、もう一人の野良『hina』が高火力のサブマシンガンとショットガンで敵二人を薙ぎ倒していた。つ、強ぇ……この二人、めちゃめちゃ上手いぞ!?

 

その後も何度か戦闘になったが、正直俺の出番はほとんど無かった。このゲームは相手を倒さなくても生き残って順位が上がればそれに応じたポイントが入るため、死なないだけでも十分と言えるが……

 

試合終盤、残り一人となった相手を『hina』と『uruha』がシバいて難なくちゃんぽんとなった。

 

そして俺は大量のポイントを稼げたことで一気にランクが上がり、晴れてプラチナからダイヤモンドへと昇格を果たした。

 

……嬉しいには嬉しいけど、なーんかなぁ……。

 

強い味方に引っ張ってもらうことを、おんぶにだっこの意で『キャリーしてもらう』と表現するが、ここまでのハードキャリーでは素直に喜べない。やっぱりゲームするなら自分が強くならないと面白くないよね。巷では姫プレイなどとも言われているが、数字だけ稼いでも仕方ないし。

 

というか、さっきの『uruha』って本当に一ノ瀬だったりするんだろうか。最近は女子でもゲームやること多いって聞くし、やっててもちょっと意外だなぁっていうくらいの感想なんだけども。あ、そうするとカップ麺とか買ってたのも料理する時間が惜しいから、とかじゃないよな……?

 

なんかそう思うと全ての出来事が繋がってくるような気がする。いや考えすぎか、流石にねーわ。

 

「まぁ今のは運が良かっただけだから。ここからは俺も本気を出すぜ……!」

 

気を取り直し、その後三時間程ランクマッチに篭もり続けてプラチナIIまで落ちた。

 

クソがよ。

 

 

 

 




ちなみに作者はシーズン4くらいまでしか触ってません。
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