キヴォトスの巨人   作:ニシキ

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イア「………………第2話」


ホルスと巨人

 

 

 

アビドス砂漠某所、巨大オアシスにて。謎の巨人の少女、大瀧イアと出会ったホシノとユメはそこで身体を休めていた。

 

「ひぃん……お腹が苦しいよぉ……」

「自業自得です。きちんと反省して下さい」

 

木陰で横になり苦しそうに顔を歪めるユメはイアの髪の毛の束を布団の代わりにしており、ホシノはそんなユメを呆れたように見下ろしていた。

 

「うぅ……イアちゃんありがとう……」

 

何故こうなってしまったかというと、オアシスに自生していた木の実をユメが調子に乗って食べ過ぎて見事に腹痛を起こしてしまい、やむを得ずそのまま身体を休める事になったのであった。

 

「取り敢えず、ユメ先輩はしばらく休んでいて下さい。その間、周囲の警戒は私がしておきますので」

「うぅ、ありがとうホシノちゃん……」

 

顔を青くして、弱々しい声を上げるユメを見てため息をつき、ホシノは自分達を見下ろしているイアに向き直る。

 

「すみません。ユメ先輩が見ての通りの有り様なので、しばらくここで休ませて貰っても良いですか?」

 

地面に座りながら腹痛に苦しむユメの様子を見ていたイアは、ホシノの声に小さく頷き口を開く。

 

「……いいよ……ホシノも、休む?」

「いえ、そういう訳には……」

「……ひとりは、さみしい……ユメも、ひとりは、さみしい……」

「………………」

 

ホシノは想像する。暑い砂漠の中を数日間、たった1人で彷徨い続けていたユメは、一体どんなに辛く苦しい思いをしていたのかを。

本人は気にしてないと言っていたが、そうなってしまった責任の一端は自分にもあると考えているホシノにとって、イアの言葉は無視出来るものではなかった。

 

「……何かあったら、いう……それで、いい?」

「……ありがとう」

 

イアの言葉に後押しされたホシノはユメの隣に座り、身体を休める事にした。

 

「………………」

 

ユメと共に木陰で休むホシノは、広大な青い湖をぼんやりと眺めていた。

 

「(涼しい……思えば、こうしてちゃんと休んだのは、何時以来だっけ?)」

 

一生かけても返済しきれない莫大な借金の返済に明け暮れる毎日、連日襲撃してくる不良集団と戦い、アビドスの復興の為に様々な事をユメと共にやって来たが尽く失敗し、大人達はそんな自分達を嘲笑い、見て見ぬふりをする始末。

何故、自分達がこんな思いをしなければならないのかと考えた事は一度や二度ではないし、変わらない現状に苛立っていたのも事実だ。

転校して新しい学園で新しい生活を送るという選択肢もあったが、たった1人の大事な先輩と共に過ごしたアビドスを捨てる事はホシノにはどうしても出来なかった。

 

「(かといって、何か打開策がある訳でもないし、どうしたら良いんだろう……)」

 

自分に出来る事は精々、校舎を奪おうと襲撃してくる不良集団達を倒す事くらい。バイトや賞金稼ぎにしたって限度があるし、砂漠にあると言われてるお宝も探してはいるものの影も形もない。

かといって、今さら大人を頼る気にはなれないし、そもそもこんな廃校寸前の学園を助けようという物好きはまずいないだろう。

となれば、残された手段は一つしかないが……

 

「(……あの男は、信用出来ない)」

 

突如自分の前に現れて取引を持ちかけて来た、キヴォトスの外から来たらしいあの男。

自分は勝手に"黒服"と呼んでるその男は、自分の身柄を差し出す事を条件に借金を半分以上肩代わりすると言っていたが、自分の身にそこまでの価値があるとは思えないし、どう考えても何か裏があるとしか思えない。

 

「(けど、他にどうしたら……)」

「…………ホシノ?」

 

思慮にふけていたホシノは、自分を呼ぶ声にはっとする。

気が付けば、イアがじっと自分の事を見つめていた。

 

「……どこか、苦しい?」

「あ、いえ……少し、考えた事をしてただけ。だから、大丈夫……」

 

ばつが悪そうな表情を浮かべるホシノ。身体は大きいとはいえ、見た目は自分より年下の少女に気を遣わせてしまった事を恥じていた。

しかし当の本人は特に気にした様子もなく、同じように湖を眺めていた。

 

「………………」

「(……この子は、何時から砂漠にいたんだろう?)」

 

少なくとも、この巨体で街の中で暮らしていたという事はないだろう。あれば今頃、ゴシップ好きのクロノスが黙っていないだろうし、辺境の地であるアビドスにも情報が届く筈だ。となると、何処かで身を隠しながらアビドスに辿り着いたという事だろうか?

確かに全盛期のアビドスなら兎も角、今のアビドスは過疎化が進み人もいない。そもそもこんな砂漠の僻地にやって来るのも余程の物好きか犯罪者くらいだし、身を隠すにはうってつけだろう。

 

「(けど、この子はユメ先輩を助けてくれた……)」

 

人目を避けてきた彼女にとって、自分の身を晒す事はリスクがある筈だ。初対面の自分が警戒してたように、彼女の存在は一般人にとってあまりにも驚異だ。場合によっては危険と見做されて排除されても可笑しくない。

自分の身の安全を考えれば初対面の先輩を助けるメリットなんてないし、このオアシスだって自分だけで独占する事だって出来た筈だ。

けれど、彼女はそれをしなかった。

 

「(きっとこの子は、先輩のように優しいんだろうな……)」

 

このキヴォトスにおいて、先輩や彼女のような人間は犯罪者や大人達に搾取されるのが関の山だ。それはこれまでの経験から痛いほど知ってるし、現に先輩が砂漠を彷徨っていたのも砂漠で高額アルバイトがあるという連絡をネフティスの社員から聞いた事が原因らしく、十中八九また騙されたという事は容易に想像出来た。

故に、自分の考えを改めるつもりはない。

 

「(けど……その優しさがあったからこそ、救われている自分がいる)」

 

こんな自分を許してくれた先輩を、先輩を助けてくれた彼女を否定する事は、ホシノには出来なかった。

だからこそ、自分はその献身に報いなければならないのだと、ホシノはその瞳に強い決意を宿し、愛用のショットガンを握り締めた。

それからしばらくして、ユメの腹痛が治まった事で一同はアビドスに戻る事となった。

 

「あっ!見て見てホシノちゃん!学校が見えて来たよ!」

「ええ、流石に早いですね……イアもありがとう」

「…………うん」

 

イアは手のひらにユメとホシノを乗せて、2人の母校であるアビドス高等学校へと向かっていた。オアシスから学校まで徒歩で移動するには流石に距離があるので、彼女自ら2人を学校まで運んでいくと提案したのだ。

ホシノはイアの存在が一般人に露見する事に不安を覚えて最初は断ろうとしたが、道中の砂嵐に巻き込まれるリスクを考えて渋々ながらイアの提案を受け入れたのであった。

やがてイアは学校の正門前に到着すると、その場にしゃがみ込み2人をゆっくりと地面に降ろす。

 

「イアちゃんありがとー!おかげで助かったよー!」

「今日は色々とありがとう。後は大丈夫だから、貴方も早めに戻った方が良いよ」

 

ホシノはイアを早めに帰らせるように促す。万が一、誰かに見付かったら面倒な事になるのは確実だ。そう考えていた矢先に、銃声と怒号が聞こえて来た。

 

「ヒャッハッハッハッハッ!」

「オラァ!撃って撃って撃ちまくれ!」

「覚悟しなアビドス!今日こそはてめぇらの学校は占拠させてもらうぜぇ!」

 

遠くから、黒ヘルメットを被った集団が現れて、手当たり次第に銃を乱射していた。

 

「ヘルメット団……!このタイミングで……!」

「どうしよう、まだイアちゃんがいるのに!」

 

ホシノとユメは焦った。相手がただの不良集団なら何時ものように返り討ちにすれば良いが、今はイアがいる。彼女の身体では、このままだと狙い撃ちされるだけだ。

やがてヘルメット団員達は、未だに校門前にしゃがみこんでいるイアの存在に気付き足を止めた。

 

「おい、何だあれ……?」

「見ろよ、でっかい裸の女がいるぞ!?」

「いや、いくらなんでもデカすぎるだろ!?化け物じゃねぇか!」

 

ヘルメット団員達はイアの巨体を目の当たりにして狼狽えていた。そこへ、リーダー格らしいヘルメット団員が声を荒げる。

 

「おい、てめぇら何ビビってんだ!どんなにデカくても相手は丸腰だ!まとめてかかれば怖くねぇ!やっちまえ!」

 

リーダーの号令に、慌てて武器を構えて攻め込んで来るヘルメット団員達。

 

「ユメ先輩!」

「うん!イアちゃん早く逃げて!」

 

対するホシノとユメも、イアが逃げ出す為の時間を稼ごうと銃を構えるが、その前にイアがゆっくりと立ち上がり2人を庇うように前に立つ。

 

「………………」

「イア!何してるの!?」

「イアちゃん!危ないから下がって!」

 

ホシノとユメは必死にイアに呼びかけるが、イアは後ろを振り返る事なくヘルメット団に向けて歩き出す。

 

「こ、こっちに来るぞ!?」

「何ボサッとしてるんだ!早く撃て!」

 

ヘルメット団員達の銃口が一斉に火を噴き、弾丸がイアに襲いかかる。

 

「………………」

 

だが、どんなに弾丸が命中してもイアの身体には傷一つなく、全く痛がるそぶりを見せなかった。

 

「くそっ、ダメだ!全然効いてねぇ!」

「頭を狙え!あの間抜け面をハチの巣にしろ!」

 

ヘルメット団員達は攻撃が効かない事に焦りひっきりなしに銃弾をばら蒔くが、そこへ盾を構えたユメが突貫し、ホシノがショットガンでヘルメット団員達を吹き飛ばす。

 

「これ以上好きにはさせないよ!」

「お前達の相手は私達だ!」

 

怒れるユメとホシノによって次々とヘルメット団員達は鎮圧されていく。

おおよそ30人ほどいたヘルメット団はあっという間に壊滅し、撤退していく。

 

「何とか終わったね……」

「全く、数ばかり多くて困ります」

 

戦闘が終わったユメとホシノはイアに向き直る。

 

「イアちゃん!大丈夫!?」

「無理はしないで!怪我でもしたらどうすの!?」

 

イアの身を案じる2人だったが、当の本人は何ともないようで、その場にしゃがみ込み口を開く。

 

「……大丈夫……ユメと、ホシノは?」

「私達も大丈夫だよ!」

「ええ、にしてもアイツら毎回毎回いい加減しつこ……」

 

そこでふと、ホシノは疑問を抱いた。毎回校舎を占拠しようと襲ってくる、ヘルメット団の行動の不可解さに。

 

「(そういえば、どうしてアイツらは私達がいない間に学校を占拠しなかったんだろう?考えてみれば、ユメ先輩を探していた時や夜中に一度も攻め込んでこなかったのもおかしい。いや、そもそも単に拠点が欲しいだけなら学校に拘らなくてもそこらにある廃墟でも事足りる筈だ。襲撃するにしても時間も物資も消費するし……腹立たしいけど、この学校にそこまでする価値があるとは思えない。だとしたら、何の為に?)」

 

次々と浮かぶ疑念に思慮にふけるホシノ。そんなホシノの様子に、ユメは心配そうに声をかける。

 

「ホシノちゃん、どうしたの?」

「あ、いえ……何でもないです」

 

言葉とは裏腹に、ホシノの中では何かを見落としているような、気持ち悪い感覚がこべりついていた。

 

「(ダメだ、判断材料が少なすぎる……次の利息の返済日までに金を集めないといけないし、この件は後で考えよう)」

 

思考を切り替えて当面の問題をどうするか考えていると、イアが立ち上がりゆっくりと歩き出す。

 

「………………」

「あれ、イアちゃんどこに行くの!?そっちは違う方向だよ!」

「……まさか!?」

 

その方向はオアシスがあった方ではなく、ヘルメット団が逃げていった方角だった。ホシノとユメも慌てて追いかけるが、イアの歩幅は大きく、その後ろ姿はあっという間に遠ざかっていった。

「くそいてぇ……あのチビボコボコ撃ちやがって、許せねぇ」

「こっちはあのデカ乳女に盾で殴られた所ががまだいてぇよ……」

「おーい、救急箱ってどこだー?」

 

アビドス高校から離れた廃墟にて、ヘルメット団員達が集まり傷の手当てをしたり弾薬の補給をしたりしていた。ここはヘルメット団のアジトで、部屋には大量の物資が置かれていた。

 

「にしても、あの素っ裸のデカ女は一体何だったんだ?あんなのがいるなんて聞いてねぇぞ?」

「そんなの私が知りてぇよ……いてて」

「なあ、次にアビドスを襲撃する時ってさ……またあの化け物とやり合うって事だよな?」

 

その言葉に、ヘルメット団員達は全員押し黙った。向こうから攻撃はしなかったが、もしあの巨体で本気で襲いかかってきたらどうなるか……流石の彼女達でも予想出来た。

おまけに、全員であれだけ攻撃したにもかかわらず全くの無傷だった。その場にいた全員は言葉には出さないものの、自分達の力ではあの化け物(大瀧イア)に敵わない事を悟っていた。

 

「…………今回の仕事、手を引いた方が良いんじゃねぇか?いくらなんでもあんなのとやり合うなんて割に合わなすぎるぜ」

「はぁ!?バカ言ってんじゃねぇよ!こんだけたんまり武器や報酬も貰える仕事が他にあると思ってんのか!?」

「だけどよぉ……元々アビドスの連中を追い出すってだけの話だったろ?あんな化け物がいるなんて聞いてねえし、そもそもウチら全員束になって勝てんのか、アレ?」

 

その問いかけに対して、誰も答えられなかった。自分達は世間から見ればはみ出しものだ。日々食べてくのに必死な自分達にとって、今回の仕事は手放すにはあまりにも惜しい事は分かっている。だが、いくら金が欲しいとはいえあの化け物と戦うのはハッキリ言って無謀だ。どうしたものかと悩んでいると、1人のヘルメット団がやって来た。

 

「おーい、お前ら。依頼料の支払いだってよ」

 

依頼料と聞いて目を輝かせるヘルメット団員達。先ほどまでの暗い雰囲気は吹き飛び、取り敢えず今日は奮発して焼き肉でも食おうぜと話をしていると、小さな揺れが起こった。

 

「ん?何だ、地震か?」

 

外にいる依頼主から依頼料を受け取ろうと外に出ようとしたヘルメット団員達だったが、突然の揺れに足を止める。

 

「っと……結構揺れるなぁ」

「……気のせいか?揺れが近付いてるような気がするんだが……何かこう……足音、みたいな」

「はぁ?んなバカな…………足音?」

 

更に揺れが激しくなり、天井から小さな破片が落ちる。

一同はヘルメットを被っているので顔は見えないが、何かを悟ったような表情を浮かべていた。

 

「…………なあ。何かスゲェ嫌な予感がするんだが」

「ああ、奇遇だな……私もだ。」

 

そして、何かが砕けるような異音が聞こえて来て、天井が"持ち上げられた"。

全員が上を見上げるとそこには……

 

「…………………………」

 

こちらを悠然と見下ろす、巨大な少女の青い瞳があった。

 

『ぎゃああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!?』

 

ヘルメット団は、一斉に逃げ出した。

「あっ!いたよ!」

「予想はしてましたが、酷い有り様ですね……」

 

ホシノとユメが駆け付けた頃には、ヘルメット団のアジトは崩壊していた。

 

「………………」

「わぁぁぁぁぁっ!助けてくれぇぇぇぇぇっ!!!」

「イヤだー!もう悪さしねぇから許してくれー!!!」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!」

 

団員達の殆どは気絶し、車で逃走しようとした者達はイアによって車ごと持ち上げられていた。

 

「……取り敢えず、あのままにしておくのも流石に可哀想なので止めさせましょう」

「そうだね……イアちゃん!ちょっと待ってー!」

 

イアを止めさせようと駆けるユメ。ホシノもその後に続くが、視界に入ったある物に気付き足を止める。

 

「あれは……カイザーローンの現金輸送車?」  

 

崩壊したヘルメット団のアジトの近くに横転していた一台の車。それは、毎月自分達が借金を返す時に見る現金輸送車だった。こんな砂だらけの辺鄙なところにあるのは明らかに不自然だった。

輸送中に襲われヘルメット団に連れてかれた可能性もあるが、状況から見てイアとヘルメット団の戦闘に巻き込まれたように見受けられる。それを踏まえて考えてみると、1つの可能性が浮かび上がってくる。

 

「ヘルメット団とカイザーローンが繋がっていた……?」

 

ホシノは小さく呟く。無論、断言するのは早いがその可能性は非常に高かった。詳しく調べるのは確定したものの、その前にやる事があった。

 

「…………あーん」

「ぎゃあああああっ!やめてくれー!私らなんか食べても美味くねぇぞー!」

「わーっ!待ってイアちゃん!食べちゃダメーっ!」

 

ヘルメット団をお菓子のように掴み口の中に運ぼうとするイアを止めさせようと、ホシノは急いでイアの元へ駆けるのであった。




ユメ「もうイアちゃん!やりすぎだよ!あんな汚いものを食べたらお腹壊しちゃうよ!?」
イア「…………うん」
ホシノ「先輩さらっと酷い事言ってますね」
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