キヴォトスの巨人   作:ニシキ

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ユメ「第3話だよ~!」


カイザーと巨人

 

 

 

『速報です!カイザーローンが犯罪組織「ヘルメット団」に資金提供を行っていた事が判明しました!』

『ヘルメット団はアビドス高等学校に対し長期に渡り立ち退きを迫るよう襲撃を繰り返しており、カイザーローンがヘルメット団を使い悪質な地上げ行為を行っていた疑いが強まっています!』

『また、カイザーローンはアビドス高等学校に対し違法な金利額で利息を取り立てているという情報もあり、連邦生徒会は特捜部を立ち上げカイザーローンに対し強制捜査を行うという声明を発表しました!』

『なお、カイザーグループ本社は今回の件につきまして「我々はそのような事は認知していない。全てはカイザーローンの独断によるもの」とコメントしており……』

 

アビドス生徒会の生徒会室にて、ユメとホシノはクロノスのニュースを見ていた。

 

「何だが、すごい事になってるねぇホシノちゃん」

「ええ、まさかここまで大事になるとは思いませんでした」

 

事の発端は、イアによるヘルメット団の拠点壊滅まで遡る。

ホシノ達はヘルメット団拠点近くに横転していたカイザーローンの現金輸送車に乗っていた銀行員を救出するていで近付き、偶然を装いヘルメット団との取引を交わしていた事を示す関連資料を発見し、銀行員を問い詰めた。

銃を構えて今にも襲いかかりそうな雰囲気を漂わせるホシノ達と、自分達を見下ろすイアの存在に恐れた銀行員は、上からの指示でヘルメット団にアビドスを襲撃しホシノ達を追い出すように依頼し、しかもアビドスが支払った返済金の一部を任務補助金として譲渡していた事を自白した。

ホシノ達はこの事を連邦生徒会に報告し事態の解決を嘆願しようとしたのだが、学園の規模縮小により連邦生徒会での発言権は失われて久しいアビドスという事で、はじめはまともに相手にされなかった。

そこで、ホシノ達はたまたま近くにいたクロノス報道部にダメ元で情報をたれ込み、世論を味方につける事を考えた。

すると、クロノス報道部はこれを特ダネとして大々的に報道した結果、キヴォトス中でカイザーローンに対する非難が殺到した。

更に、アビドスから被害報告を受けたにもかかわらずまともに相手にしない連邦生徒会の対応に各学園や住民達からの苦情が相次ぎ、終いには各地で連邦生徒会に対するデモが起こる事態にまで発展した。

そして、事態を重く見た連邦生徒会はようやく重い腰を上げ捜査に踏み切るに至ったのであった。

 

「取り敢えず、今月の返済はなんとかなりそうで良かったね」

「ええ。依然として借金は残ったままですが、連邦生徒会の捜査が入って利息が大分減りましたからね……」

 

結果として、カイザーローン側に不正がある事が判明し大幅な利下げが決定した。

また、今回の一件でこれまで無視されていた救援要請がようやく通り支援物資を送られる事となったのだが、にもかかわらず当の2人は浮かない顔をしていた。

 

「それにしてもまさか、アビドスの土地がみんなカイザーグループのものになっていたなんて……」

 

ホシノ達が利下げが決定した事に喜んだのも束の間、現在のアビドス自治区の土地の殆どがカイザーグループのものとなっていた事が発覚した。

後で確認した所、過去のアビドス生徒会が土地を担保にしていた事が明らかとなり、2人は酷く落ち込んでいた。

 

「ですが、何故今まで連邦生徒会がまともに取り合わなかったのかようやく合点がいきました。恐らくは土地の殆どがカイザーの物となっていた事で、アビドスが学園としての機能を失っていると判断したのでしょう。現に、在校生も私達2人だけですし……」

 

そう語りながら、ホシノは考えていた。カイザーグループの目的は一体何なのかを。

 

「(カイザーは私達が学園を手放す事を望んでいた……つまり、連中は借金の返済なんて考えてなくて、アビドスの土地そのものを狙っていた。じゃあ、何の為に?)」

 

考えてみれば、カイザーのような大企業が何故アビドスの土地を欲しがるのだろうか?

砂嵐の影響で不毛の地となったアビドスにカイザーは何を見いだしたのか、ホシノには検討もつかなかった。

 

「(考えられるとすれば、自分達の自治区を手に入れる為……にしたって、アビドスのような砂だらけの土地をヘルメット団を使ってまで手に入れようとするのか?それとも……アビドスにカイザーが欲しがる何かがある?)」

 

ホシノは思考を繰り返すが、更に謎が増えるだけだった。カイザーが素直に目的を明かす訳がないし、調べるにしても何をどうすれば良いか分からなかった。

そんなホシノの様子が気になったのか、ユメが声をかけた。

 

「ホシノちゃん」

「……!何ですか、ユメ先輩」

「考えなくちゃいけない事はたくさんあるけどさ……まずは、私達で出来る事からやっていこう」

 

ユメは微笑みながら話を続ける。

 

「利息も減ったお陰で借金を返済出来るようになったし、今回のニュースを見てアビドスの事を気にかけて応援してくれる人達も増えてきた……少しずつだけど、良い方向に進んでいってる。だから焦らず、一緒に頑張ろうよ」

「……そうですね、ユメ先輩」

 

ホシノは小さく頷いた。根本的な解決には至っていないものの、利息が減った事で借金の返済に着手する事が出来るようになり、アビドスの置かれている現状を把握出来た事はこれまでの事を考えれば大きな1歩だ。

いずれにしても、借金の返済という目先の問題を解決していかない事には何も始まらない。そう自分に言い聞かせてホシノはユメと向き直った。

 

「さしあたって、今後どうやって借金を返済していくか、ですね。今までのようにバイトや賞金稼ぎは続けるにしても完済には時間がかかりますし、それ以外の方法で何か考えないと……」

「そうだよね……いっぱいお金が貰える仕事があれば良いんだけど」

「だからといって、また1人で変な所へ行くのはダメですからね?何かあったら先走らないで、まずは私に相談してからにして下さい」

「ひぃん……気を付けてますぅ」

 

何時ものやり取りだが、何処か安心感を覚えるホシノ。前回の砂漠遭難事件以来、ユメは多少は落ち着いて物事を考えるようにはなったが、まだ危なっかしい所もあって未だに目が離せない。

 

「そう言えば、イアちゃんは今どうしてるのかな?」

 

ふと、砂漠で遭難していた自分を助けてくれた巨大な少女の事を思い出すユメ。

 

「多分、あのオアシスにいると思いますよ。まあ、普段の彼女が何をしているのかは分からないですけど」

 

ホシノはこの場にいない彼女によってヘルメット団が壊滅した日の事を思い返す。

あの日以来、ヘルメット団の襲撃はなくなり時間に余裕が出来た。また、カイザーローンとヘルメット団の繋がりが明るみになった事で利息の大幅な利下げだけでなく、借金の支払い方法もヘルメット団のような犯罪組織に流れるのを防ぐ為に今までは現金のみだったのが電子マネーでも対応出来るようになった。

イア自身にどんな思惑があったかどうかは分からないが、結果的に彼女のお陰で事態が好転したとも言える。

 

「(思えば、私達はあの子の事を良く知らない……それに、あの子をあのままにして、本当に良かったのかな……)」

 

あの後、イアは別れの言葉を告げると砂漠の中へと姿を消した。

彼女には彼女の事情があるだろうし、引き留める理由もないのでそのまま別れてしまったが、今思えばそれで本当に良かったのかとホシノは自問自答していた。

 

「(あの子自身は決して悪い子じゃない。けれど、ヘルメット団の連中があの子を恐れたように、世間はきっとあの子を受け入れてはくれない……そんなあの子を1人にする事が、本当に正しい事なのかな……)」

 

このキヴォトスにおいて、学籍というのは極めて重要なものだ。それがなければ銃を購入する事も出来ず、公共機関を利用するにも様々な制限がかかる。

何らかの理由で学園を退学し、学籍を失った生徒が食べていく為に犯罪に手を染めるのはこのキヴォトスでは良くある話だし、以前までアビドスに何度も襲撃して来たヘルメット団などが良い例だ。

それに何より……イアの存在は、このキヴォトスにおいてあまりにも異質だ。

例え彼女自身に非がなくても、彼女の存在を恐れ、危険とみなして排除しようとする者も出てくるだろう。

だからこそ、人目につかない所で身を隠す事がもっと安全なのは分かっているが……あのまま彼女を1人にする事が本当に彼女にとって正しい事なのか、考えずにはいられなかった。

 

「……そう言えば、今のアビドスの土地ってこの校舎の周り以外は全部カイザーグループのものなんだよね?」

「ええ、そうですけど……それが何か?」

 

ユメが神妙な表情を浮かべている事に気付いたホシノはユメの言葉に耳を傾ける。

 

「ならさ……あのオアシスも、カイザーグループのもの、って事だよね?」

「それは……」

 

ユメの言葉にホシノは口を噤む。ホシノもアビドスの土地の殆どがカイザーのものだと知った時から気付いていた。

イアが見せてくれたあのオアシスも、カイザーのものだという事に。

そして、もしもカイザーがイアの存在に気付いたら彼女はどうなるのか……それが気がかりだった。

 

「それで前から考えていたんだけどさ、イアちゃんをアビドスに入学させるのはどうかな?」

「えっ……ほ、本気ですかユメ先輩……?」

 

ユメの言葉に耳を疑うホシノだったが、ユメは気にせず続けた。

 

「本気だよ、ホシノちゃん。前にイアちゃんが言ってたけど、1人はやっぱりさみしいからね……それに、来年になったら私は卒業してホシノちゃん1人になっちゃうでしょ?」

「それは、そうですけど……」

 

ホシノもイアをアビドスに入学させる事を考えなかった訳ではない。今のまま、学校に新入生が現れなければアビドスはなくなる事は分かっていたし、彼女がアビドスに入学し、学籍が手に入れば彼女の生活も変わるだろう。

 

「ですが、私達の問題にあの子を巻き沿いにするのは……」

 

借金は勿論だが、今後カイザーがアビドスを狙って何か仕掛けてくる可能性もゼロではないし、いくら学籍がないとは言え関係のない彼女を自分達の事情に巻き込むのは気が引けた。

仮にイアがアビドスに入学すれば、彼女の存在そのものが抑止力となって不良生徒やカイザーを寄せ付けなくなるかもしれないが、それは自分達の都合でイアを利用しているような気がして、ホシノは素直に頷く事は出来なかった。

そして何より……そういう打算的な事を考えてしまう自分自身が、今まで自分達を陥れて来た汚い大人達のように見えて、自己嫌悪に陥りそうだった。

 

「それは分かってるよ、ホシノちゃん。けど……イアちゃんには色々助けられてるのに、私達はイアちゃんに何もしてあげられてないでしょ?だから、そのお返しに何かしてあげたいと思って色々考えてみたんだけど、他に思い付かなくて……」

「………………」

 

尻すぼみになっていくユメにどう言葉をかけるか迷うホシノ。

実際、イアがいなければユメは今頃砂漠で遭難して命を落としていたかもしれないし、カイザーの悪事が明らかになる事もなかった。

彼女には返し切れない恩があるのに、自分達は彼女に何もしてあげられないのが歯痒かった。

 

「……入学の件は一旦置いて、一度会って話してみるのはどうでしょう?いずれにしても本人の意思の確認は必要ですし」

「そうだね!じゃあ、明日会いに行こう!」

 

一先ず話がまとまったホシノ達はその日の仕事を片付けると明日に備えて眠りに就くのであった。

翌日、イアのいるオアシスに向かったホシノとユメだったが、眼前の光景に呆然としていた。

 

「これは一体……」

「すごい、いっぱいある……」

 

ホシノ達の視線の先には、以前も見た広大なオアシス……その周囲には、無数の戦車やパワーローダーと思われる数々の兵器の残骸が散らばっていた。

恐る恐るその残骸に近づくホシノ達だったが、そこで見覚えのあるものを見付ける。

 

「このマークは、カイザーの……」

 

破壊された兵器の装甲には、見覚えのある王冠を被ったタコのマーク……アビドスが借金をしているカイザーのエンブレムが描かれていた。

そして状況から察するに、恐らくはここでイアとカイザーが戦闘を行ったのだろう。

だが、肝心のイアの姿が見当たらなかった。

 

「ホシノちゃん!ちょっとこっちへ来て!」

「……!どうしました、ユメ先輩」

 

自分を呼ぶユメの声に急いで駆けつけるホシノ。

 

「ほら、あれを見て!」

 

ユメが指をさす方角を見ると、カイザーの兵器と、同じエンブレムを持った機械人……恐らくはカイザーの兵士と思われるものの残骸が散らばり、ずっと遠くまで続いていた。

 

「……もしかしたら、この跡を辿っていけばイアがいるかもしれません。行きましょう、ユメ先輩!」

「うん、行こう!」

 

2人はイアを探すべく、駆け出して行った。

「こ、これは……」

「うわぁ……」

 

残骸の跡を辿っていったホシノ達だったが、眼前に映る光景にまた呆然としていた。

 

「………………♪」

「ああ……!ゴリアテが、俺達の基地が……!」

「逃げろー!基地はもうおしまいだー!」

「畜生!一体何なんだよあれは!?」

 

そこには、大砲を背負った人型兵器……ゴリアテを玩具にして遊ぶイアと、広大な湖の中へ沈んでいく何かの建造物と戦車やパワーローダーなどの兵器、そして逃げ惑うカイザーの兵士達の姿があった。

 

「ふざけるな……ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなぁぁぁっっ!!!」

 

声がした方を見ると、他の兵士達よりも大柄で黒いスーツを着た機械人がイアに向かって叫んでいた。

 

「理事、ここは危険です!すぐに退避を!」

「うるさい!貴様等には見えないのか!?カイザーPMCが、私の基地があんな化け物のせいで全て水の中へ沈んだんだぞ!?こんな、こんなふざけた事があってたまるものか!」

「……っ!おい!動ける者は理事を取り押さえろ!暴れるなら多少強引な手を使っても構わん!」

 

イアに向かって叫んでいた黒スーツの機械人は複数の兵士達に取り押さえられる。

 

「っがぁ!貴様等何をする!?」

「俺達だって死にたくないんだ!アンタも死にたくなかったら大人しくしろ!」

「うぐっ……!クソがぁ……!」

 

兵士達に取り押さえられた黒スーツの機械人は車に乗せられそのまま撤退し、他の兵士達も次々とその場を去っていった。

そして残ったのは、湖の傍らで遊ぶイアだけだった。

 

「「………………」」

 

その一連の光景を目の当たりにしていたホシノ達は、探していた人物がとんでもない事をやってしまった事に絶句していた。

 

「……イアちゃん、見付かって良かったね」

「……ええ、同時にとんでもない事をやってしまいましたけど」

 

流石のユメも状況を理解したのか顔をひきつらせ、ホシノは頭を抱えていた。

さっきの機械人の言葉から察するに、ここにはカイザーの兵士達の基地があって、それがどういう訳か湖の中へ沈んでしまい、それをやったのがイアなのだろう。

どうしてアビドス砂漠にカイザーの基地があるのか、連中は砂漠で何をやっていたのか、そもそも何故カイザーの基地が水の中に沈んでいるのか色々気になる事はあるが、取り敢えず言える事は……イアはカイザーを完全に敵にしてしまったという事だけだった。

 

「………………♪」

 

そして当の本人は今度は湖の中に入り水遊びをしていた。その顔は楽しそうに微笑んでおり、先ほどまでいたカイザーの事などまるで眼中にないようだった。

 

「……イアちゃん、楽しそうだね」

「……そうですね」

 

イアの無事を確認出来たホシノ達は、取り敢えず当初の目的を果たす為にイアの元へ向かうのであった。

2人の顔は、何処か疲れていた。




ユメ「水着持ってくれば良かったかな……」
ホシノ「……たまには、何も考えないで遊ぶのも良いかもしれませんね」
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