今年度も皆さんどうかよろしくお願いいたします。
イア「…………おめでとう」
ユメ「みんな明けましておめでとうー!」
ホシノ「という訳で、第4話です」
アビドス砂漠某所、嘗てカイザーPMCの基地があったその場所は広大な湖となっていて、基地と数々の兵器は全て深い水の底へと沈んでいた。
「………………♪」
そのカイザーPMC基地を壊滅させた張本人であるイアは現在、その湖で水遊びを楽しんでいた。
その身体が全長50メートルの巨体かつ髪の毛で必要最低限の部分だけを隠した全裸で、場所が砂漠でカイザーPMC基地が沈んでいる湖でなければ微笑ましい光景なのだが、その事を指摘する者は誰もいなかった。
そんな彼女の下へ、彼女から見れば小さな2つの人影が近付いていた。
「おーい!イアちゃーん!」
ユメは声を上げて水遊びをしているイアに呼びかける。
「………………?」
するとイアはユメの声に気付いたのか、辺りをキョロキョロと見渡す。
「イア!こっちこっち!私達はここだよ!」
「…………!」
ホシノとユメを視界に捉えたイアは2人がいる所へゆっくりと近付いていく。
「ユメ……ホシノ……会えて、嬉しい」
「うん!私も嬉しいよイアちゃん!」
「ユメ先輩……その前に確認する事があるでしょう」
ピョンピョンと跳ねながらイアに声をかけるユメをジト目で見るホシノ。
ホシノは改めてイアと向かい合う。
「イア、カイザーの連中と何があったの?」
「………………?」
ホシノはイアに問いかけるが、イアは首をかしげるだけで何も答えなかった。
「ホシノちゃん、もしかしてイアちゃんカイザーが何なのか分かっていないんじゃないのかな?」
「……確かに、砂漠にずっといたならニュースを見る事もありませんからね」
そもそもこの巨体だとテレビでは小さすぎて見えないだろうし、それこそD.U.にあるような大型液晶モニターくらいのサイズでなければニュースの内容など分からないだろう。
ホシノは改めてイアに向かって問いかけた。
「イア、さっきここにいた奴等と何があったか教えてくれる?」
そう言うと、イアはようやく理解したのかゆっくりと口を開いた。
「……お昼寝してたら、いきなり起こされた。ここはきちのけんせつよてーちだからどけって」
「……その後は?」
「お昼寝し直そうとしたら、撃たれた。だから、やり返した」
「………………」
淡々と話す上に内容も端的過ぎるが、要するにあのオアシスはカイザーの基地の建設予定地で、そこにいたイアが邪魔になったカイザーが実力行使に出て返り討ちにあったのだろう。
「じゃあ、この湖は……?」
「みんな沈んじゃえって思ったら、出てきた」
「………………(意外と容赦ないなこの子)」
思ったら出た、というのが気になるがこれ以上追求しても恐らく得られるものはないだろうと判断して、ホシノは以前から気になっていた事を聞いてみる事にした。
「イア……君は、何処から来たの?」
「………………"私達"は______」
イアが答えようとした瞬間、突如地面が激しく振動し始める。揺れは断続的に続き、次第に大きくなっていった。
「わわっ!じ、地震だぁ!?」
「ユメ先輩!何かが近付いてきます!」
ホシノの視線の先には、巨大な何かが砂嵐を巻き起こしながらこちらに近付いていた。
「………………!」
すると、イアは湖から上がりホシノ達を守るように前に躍り出た。
やがて凄まじい揺れを伴って、砂嵐の中から巨大な影が現れた。
『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!』
それは、白い鋼の装甲に覆われた大蛇だった。
砂の中から現れている首の部分だけでもイアの身体よりも大きく、その頭部には巨大なヘイローを浮かべていた。
「白い、蛇……?」
「まさか、本当に……」
ホシノ達は、初めて見る目の前の存在が何なのか知っていた。
嘗てアビドスがキヴォトス最大の学園として繁栄していた時代。当時のアビドスの生徒達が一丸になって討伐に臨んだものの撃破する事は叶わず、今もなお砂漠を縦横無尽に暴れまわっているという機械の大蛇。
誰が何の為に造ったのか、何の為に砂漠の中を動いているのかは一切不明で、分かっているのは全盛期のアビドスですら倒せない程の戦闘力を有しているという事だけ。
尤も、2人は噂話として話し半分に聞いただけで本当にいたとは思っていなかった。
しかし、目の前のそれが放つ咆哮とその存在感が、紛れもない現実のものであると認識させていた。
『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!』
大蛇は頭部をイアの方へ向けると、その巨体からは想像出来ない凄まじい速度で接近してきた。
「…………っ!」
「イアちゃん!?」
大蛇が動き出すのと同時に走り出し、その頭部を両腕で取り押さえるイア。
歯を食い縛り大蛇を取り押さえるイアだが、相手の方が力は上なのか徐々に押されつつあった。
「ユメ先輩!」
「うん!」
イアを助ける為に駆け出すホシノとユメ。ユメが盾を斜めに構えて、ホシノが軽く跳ぶと盾の上に乗る。
「__________いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
盾を勢いよく突き上げ、同時にホシノは足のバネを使い盾を蹴り跳躍した。ユメの腕力も加わったその速度はまるでミサイルのように風を切り、大蛇目掛けて真っ直ぐに推進した。ホシノは大蛇の頭部を見据え、速度を維持したまま重心を移動し、右足を突き出して大蛇の側頭部に蹴りを叩き込んだ。
『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!?』
「………………!」
突如自分を襲った衝撃に大蛇はその体躯を揺らし、その隙にイアが右腕を振り上げて凹んだ装甲目掛けて拳を叩き込む。
『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!?!?!?』
イアの拳は装甲にヒビを入れ、大蛇は頭上のヘイローを点滅させながら砂の大地に叩きつけられた。
「ホシノ!」
慌てて空中に身を投げ出しているホシノへ手を伸ばすイア。ホシノは空中で体勢を整えてイアの手のひらに着地する。
「大丈夫?」
「私は大丈夫!それよりまだ来るよ!」
イアが振り向くと、いつの間にか起き上がった大蛇がその巨大な口を大きく開けて迫って来ていた。
「………………っ!」
「イア!」
イアは片腕で大蛇の大顎を受け止めた。大蛇はイアの腕を噛み砕かんと顎に力を入れ、イアは腕から伝わる痛みに顔を歪める。
「イアちゃんから離れて!」
地上から弾丸を放つユメ。しかし大蛇の装甲は硬く、弾丸は全て弾かれてしまう。
大蛇はユメの存在に気付きながらも脅威にはならないと判断し無視していたが、しつこく攻撃してくるユメに鬱陶しさを覚えたのか、尾をしならせてユメを排除しようとする。
「離れろこのデカブツ!」
大蛇の動きに気付いたホシノはイアの手のひらから飛び出し、ショットガンの銃口を大蛇の頭部……ヒビが入った箇所へ向けて弾丸を放つ。
『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!?』
次々と放たれる弾丸はヒビ割れた装甲を貫き、内部で炸裂する。大蛇は苦悶による叫び声のような音声を発しながら後退する。
「ホシノちゃん!大丈夫!?」
着地したホシノの元へ駆け付けるユメ。
「私は大丈夫です。それよりイアが……」
イアの腕は出血こそないものの、大蛇に噛まれた部分に僅かな痣が出来ていた。
「イアちゃん!大丈夫!?」
「…………平気」
イアは下にいる2人を安心させるように小さく微笑む。
『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!』
大蛇は頭部から火花を散らしながらも、怒りに震えるように咆哮を上げると、背中から無数のミサイルを放つ。
「……………!」
イアは地上にいる2人を守るように全身で全てのミサイルを受け止める。
「イアちゃん!」
「イア!」
2人はイアを助け出そうとするが、爆風の威力が凄まじく、近付けずにいた。
「………………」
ミサイルの直撃を受けたイアだが、身体は爆風で少し汚れているものの、目立った外傷はなかった。
『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!』
相手が全くの無傷である事を認識した大蛇は口を大きく開け、その中に光を収束させていく。光は徐々に大きくなり、周囲に放電を撒き散らす。
地上にいるホシノとユメは、それが今までの攻撃など比ではないもっと恐ろしいもの……ヘイローを持つ自分達ですらも確実に滅ぼすものであると本能で感じ取った。
「………………!」
イアの頭上に浮かぶヘイローが淡い光を放ち、大蛇を見据える両目の瞳が蒼く光る。
そしてイアは目一杯に息を吸い込むと、光を放とうとする大蛇に目掛けて、一気に吐き出した。
「□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□!!!」
それは最早、叫び声と呼ぶにはあまりにも強大で、周囲の空間を歪ませる程の衝撃を伴って大蛇へ殺到した。
同時に大蛇は収束した光をイアに向けて放ち、光と衝撃波は互いに衝突した。
2つの力は拮抗していたが、やがてイアの放った衝撃波が光を砕き、大蛇の巨躯に直撃した。
『__________________』
衝撃波が直撃した大蛇の装甲は瞬く間にヒビ割れ、その巨躯はバラバラに崩壊し、残骸は砂の海に沈んでいった。
「…………終わった、の?」
「…………そのようですね」
ホシノとユメは、目の前で起こった光景に呆然としていた。噂話の存在だと思っていた大蛇は兎も角、自分達を助けてくれたイアの圧倒的な力を目の当たりにして、気圧されていた。
「………………」
一方のイアは、残骸の山に近付くと、何かを探すように残骸を漁っていた。しばらくすると、残骸の中から"白いキューブ状の物体"を見付ける。
そしてイアは、それに歯を立てて齧り付いた。
「イアちゃん!?」
「ちょ、何をやってるの!?」
「………………♪」
慌てて止めようとする2人を他所に、イアはリンゴを齧るようにキューブを咀嚼し、呑み込んでいった。あっという間にキューブを全て食べ尽くしたイアは満足げに微笑み、ヘイローがまた淡い光を放った。
「イアちゃん大丈夫!?お腹痛くない!?」
「…………?」
イアの奇行に慌てるユメだったが、当の本人は何故そんなに慌てているのか分かっていないようで、不思議そうに首をかしげていた。
「(この子は、一体……)」
ホシノは目の前にいる彼女が何なのか分からなくなりつつあった。付き合いこそ短いが、彼女が自分達を守ろうとしていた事も、悪い人間でない事も理解している。
しかし、あの大蛇を一撃で倒したあの力を目の当たりにして……彼女がただの身体の大きな生徒ではないと改めて認識した。
「イア、君は一体……」
ホシノが思わず呟いた言葉が聞こえたのか、イアはホシノに視線を向けると、ゆっくりと口を開いた。
「________アリウス」
「アリウス?」
イアは小さく頷く。
「私達は、アリウス…………崇高になれなかった……失敗作」
そう語るイアの瞳は、まるで全てを呑み込むような深い闇を携えていた。
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「クックックッ……ビナーの物質構造を瞬時に解析し、固有振動数に合わせた超音波を放つとは……実に素晴らしい力です」
「ふむ……これこそまさに、太古より存在する根源的な力とでも言えるのだろうか……礼を言うぞ黒服よ。そなたのお陰で多くのインスピレーションを得る事が出来た」
「ええ、彼女の生み出したテクストは非常に興味深いものです」
「そういうこった!」
「クックックッ……皆さん興味を持っていただけたようで何よりです」
嘗てアビドス高等学校本館と呼ばれ、現在は廃墟となった建造物の最上階に、3人の人影がいた。
1人は、黒いスーツを来た、白いヒビ割れた模様の光を放つ黒い影のような男。
もう1人は、タキシードを着た2つの頭を持つ木製の人形。
そして最後の1人は、トレンチコートを着た、背を向けた男が描かれた額縁を持つ首のない男。
見た目は人間とはかけ離れた明らかな異形の存在だったが、その声からは確かな知性が感じられ、同時に得たいの知れない不気味さを醸し出していた。
その3人の視線の先には、先程までいた白い鋼の大蛇を倒した巨大な少女がいた。
「私が彼女を発見したのは偶然でした。暁のホルスを観察していた矢先に現れた強大な神秘……暁のホルスがキヴォトス最高の神秘ならば、彼女は言わばキヴォトス"最大"の神秘と言っても過言ではないでしょう」
「数多の生徒の神秘をひとつに結集させ、強大な神秘を生み出す、か……以前ベアトリーチェが研究していたものの、結果は失敗し実験体は破棄したと聞いたが……真実は違っていたという事か」
双頭の人形が身体を軋ませながら言うと、黒影の男は小さく頷いた。
「その通り。生き延びた実験体はやがてアビドスの地に迷い込み、その地に秘められた神秘を吸収し今に至るという訳です」
すると今度は首なし男……が、手に持つ額縁から声が発せられた。
「数多の生徒達の持つ記号、それらをひとつに統一する事で生み出されるテクスト……『混沌』とも言うべきそれは原始的な力の象徴であり全てを呑み込む『怪物』とも言えるでしょう。それはやがてアビドスという地に触れた事で文脈的な繋がりを持ち『
「そういうこった!」
額縁からの声に対して首なし男から同調するような声が発せられる。
2人(?)のやりとりに、黒影の男は楽しげに笑いながら答える。
「クックックッ……ええ、際限なく周囲の神秘を吸収し、己の力に変える彼女は文字通り、キヴォトスを呑み込む怪物そのものと言えるでしょう」
黒影の男の言葉に、双頭の人形は身体を軋ませる。
「しかし、それ程の神秘をみすみす手放すとはベアトリーチェらしからぬミスだな。結果を急ぐあまり見落としたのか?いや、待てよそうか……」
双頭の人形は、何かに気付いたように身体を軋ませた。
「さてはあやつ……飼い犬に噛まれたか。否、己では扱い切れぬと悟り敢えて失敗作の烙印を押したか。成る程、自分の命令に忠実に従う駒を欲しがるあやつにとっては、あの神秘は確かに失敗作ではあるな」
「であれば、以前行われた会合で彼女が負傷していたのも説明がつきますね」
「そういうこった!」
談笑する3人(?)に対して、黒影の男が声をかける。
「さて、マダムの研究は結果的に成功していたという訳ですが……この事をマダムに報告するべきか否か、皆さんはどの様にお考えですか?」
黒影の男の問いかけに対して、はじめに双頭の人形が答えた。
「必要なかろう。そもそもあやつ自ら失敗作と判断し処分したのだ。我々がその事に口を出す理由も、報告する義務もない」
続けて、首なし男の持つ額縁が答えた。
「何より彼女は自らの領地の運営や研究で忙しい身ですからね。余計な些事で気分を害するのも悪いでしょう」
「そういうこった!」
「クックックッ……皆さんの答えは私と概ね同じという訳ですね」
3人(?)の返答に対して、黒影の男は何処か楽しそうに笑いながら頷いた。
「時に黒服よ。そなたはこれからどうするのだ?そなたは確か、暁のホルスを使い実験を行うと言っていたが」
「ええ。カイザーを利用して暁のホルスを手に入れる計画を立てていましたが、彼女という異分子が現れた事で計画そのものを見直すか、場合によっては中止せざるを得ないでしょう」
黒影の男の視線の先には、2人の少女と巨人の少女がいた。
「ですが同時に、かの怪物が暁のホルスと接触する事で今後その神秘がどの様な変化をもたらすのか非常に興味があります。故に、しばらくの間は過度な干渉はせず静観しようと考えています。何より、あのサイズは私と言えど流石に手に余りますからね」
「ふむ、確かにな」
「私も同意見ですね。彼女自らの意思で生み出されるテクストがこのキヴォトスにおいてどのような意味を持つのか、その行く末に興味があります」
「そういうこった!」
話を終えた首なし男と双頭の人形は姿を消し、最後に残った黒影の男は巨人の少女をじっと見詰めていた。
「クックックッ……貴方の神秘がこれからどのように成長し、このキヴォトスにどのような変化をもたらすのか、楽しみにしていますよ……大瀧イアさん」
やがて黒影の男も姿を消し、そこには何も残っていなかった。
ユメ「………………」
ホシノ「ユメ先輩。まさかあの残骸を食べてみようだなんて思ってませんよね?」
ユメ「ふぇっ!?そそ、そんな事思ってないよ……」
イア「………………美味しかった」