レジロックの遺跡での「究極の金策」は、ヒカリの予想通り大当たりだった。レジロックの放出したエネルギーの余波で変質した鉱石は、クロガネシティで驚くほどの高値で換金された。ヒカリの資金は潤沢になり、彼女の機嫌は最高潮に達した。
「ふふふ、テル! これで私の過払い請求の利息分は、これでようやく清算ですわ! 残りの元本は、テンガンざんでの活躍次第で考えます!」
「ああ、ヒカリ、ありがとう」テルは安堵のため息をついた。これで心置きなく次の目的地、キッサキシティへと向かえる。キッサキシティの近くには、レジアイスが眠る遺跡があるはずだ。
「さあ、急ぎましょう! ムクホークで一気にキッサキシティへ!」
三人はムクホークの背に乗り、シンオウ地方を縦断して北を目指していた。空の旅は順調だったが、ヒカリの機嫌が良い一方で、ジュンはなぜか浮かない顔をしていた。
「ジュン、どうしたんだ? また罰金でも課したのか?」テルが尋ねる。
ジュンはバツが悪そうに言った。「いや、罰金じゃねえんだけどよ……」
その時、ジュンのポケッチから、電子音が鳴り響いた。
「あれ? メールだぜ!」ジュンは慌ててポケッチの画面を開いた。
メールの送り主は、ヒョウタ。
テルとヒカリが覗き込むと、画面にはこう書かれていた。
ジュン君へ。
炭鉱でのアルバイトありがとう!君の作業本当に助かったよ!
それでアルバイト代なんだが、君は作業中、興奮しすぎてつるはしを三本も折ってしまっただろう?
炭鉱の規定により、作業道具の損耗費は賃金から差し引くことになっているんだ。
結果、君の今回のアルバイト代は…… マイナス500円になりました。
また頑張って稼ぎに来てね!
追伸:テル君とヒカリちゃんの分は、作業効率が良かったので、きっちり振り込んでおいたよ。
テルとヒカリは、顔を見合わせた後、ジュンを見た。
「な、なんだと……」ジュンは文字通り凍り付いた。「ま、マイナス……!? オレ様が必死に掘ったのに、マイナスだと!?」
ジュンは顔を真っ青にして叫んだ。
「ちくしょう! ロマンを求めた結果が、借金だと!? マイナス500円にも罰金100万円だ!……って、もう意味わかんねえ!」
ヒカリは、先ほどまでの上機嫌が一転、腹を抱えて笑い始めた。
「プ、プププ! マイナス500円ですって!? やはり貴方は、金銭感覚が絶対零度ですわね! これで私への過払い請求の総額が、また増えましたわよ!」
「笑うなよ、ヒカリ! これじゃ、オレ様は永遠の債務者じゃねえか!」
テルも笑いをこらえながら言った。「ジュン、ドンマイ。次は成功するさ」
「次なんてあるか! もう炭鉱の『時給』なんか信用しねえ!」
ジュンの不幸なエピソードで、旅の雰囲気は一気にコメディタッチになった。ムクホークは、主人の騒々しい会話を乗せながら、雪が舞い始めたキッサキシティへと急いでいた。
「キッサキシティが近づいてきましたわよ!」ヒカリがムクホークの背から下を見下ろした。「氷点下の街ですわ。レジアイスの遺跡も、きっと厳しい場所にあるでしょう。テル、準備はよろしいですわね?」
「ああ、万全だ。ジュン、次はマイナスにならないように、頑張るぞ!」
「うぐっ……わーってるよ! 絶対、レジアイスの遺跡で挽回してやるぜ!」
三人の冒険は、笑いと債務を抱えながら、雪と氷に閉ざされたレジアイスの遺跡へと続いていくのだった。
ムクホークの背に乗り、テル、ヒカリ、ジュンは冷たい風を切りながら、レジアイスの遺跡があるキッサキシティへ向かっていた。ジュンの「マイナス500円」事件で明るくなった空気は、次第にシンオウの北の凍てつく寒さに引き締まっていった。
ジュンは、レジロックの入ったボールをリュックの中で確かめながら、ふと、真面目な口調に戻った。
「にしても、テル」
「どうした、ジュン」
「偶々とは言え、オレたちがレジスチルとレジロックを捕獲するまでに、そのままテンガンざんに行ってたら、どうなってたんだろうな?」
テルは、シロナのメッセージを思い出し、厳しい表情になった。
「最悪の事態になっていただろう。プルートは、レジトリオのエネルギーを、俺たち『異物』を抹消する装置の起動に使おうとしていた。もしレジトリオが揃ってギンガ団の手に落ちていたら……」
ヒカリが身震いをした。
「ぞっとしますわ。貴方がテンガンざんに着く前に、装置が起動し、貴方とヒスイのポケモンたちは、この歴史から跡形もなく消えていたかもしれません」
「そうか……やっぱり、ヒョウタの忠告を聞いて、レジトリオを確保しに来て正解だったぜ。レジトリオの力なんて、オレたちのバトルには必要ないって思ってたけど、こんな形でシンオウの平和に関わってくるとはな」ジュンは、レジトリオのボールの重みを改めて感じていた。
ヒカリは、腕に抱いたポッチャマを撫でながら、改めて目の前の二人の「危機管理能力」について呆れたように言った。
「本当に恐ろしいですわ。貴方たちときたら、ギンガ団の野望と、貴方たちの胃袋のどちらが恐ろしいか、もはや区別がつきませんもの」
「え?」テルとジュンは同時に顔を見合わせた。
「だってそうでしょう!」ヒカリは声を張り上げた。「貴方たちは、世界を滅ぼしかねない悪の組織の計画を阻止する能力は持ち合わせているのに、たった一回の食事で、全財産を失うという、極めて個人的かつ現実的な危機には、全く無防備なのですから!」
ジュンが反論した。「お、おい、それはスモモの食欲が異常だっただけだろ!」
「貴方もですわ、ジュン! つるはしを三本折って借金を背負うなんて、悪の組織の仕業よりも、よほど**『絶対零度』な不幸**ですわ! 私が資金管理をしていなければ、今頃はゴールドスプレーさえ買えず、砂漠で野垂れ死にですわよ!」
テルは苦笑いを浮かべた。ヒカリの言うことは全て正論だ。
「まあ、ヒカリのおかげで、ギンガ団の野望も、俺たちの**『貧乏』**という名の危機も、回避できているわけだ。感謝しているよ」
テルがそう言うと、ヒカリは少し頬を染めた。
「べ、べつに、貴方に感謝されたくてやっているわけではありませんわ! 私の過払い請求を確実に回収し、貴方をシンオウの歴史のゴミ箱から守るのが、私の債権者としての責務ですから!」
ジュンの「マイナス500円」とテルの「無一文」という二つの現実的な危機を乗り越えたことで、彼らの絆はさらに深まっていた。
「さあ、キッサキシティが見えてきましたわ。レジアイスを確保して、一刻も早くテンガンざんへ向かいますわよ!」
三人の英雄は、己の食欲と債務、そしてギンガ団の脅威という三つの難題を抱え、雪と氷に閉ざされた最終ステージへと向かうのだった。