遠き郷から来たシンオウチャンピオン   作:gp真白

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キッサキシティの再会と、スズナの洞察

 

ムクホークの背から降りたテル、ヒカリ、ジュンは、一気に吹き付ける冷気に身震いした。キッサキシティは、街全体が雪と氷に覆われた、シンオウ最北端の都市だ。

 

 

「さむい……! やっぱ北は空気が違うぜ!」ジュンは両腕を擦った。

 

ヒカリはマフラーを顔に巻き付けながら、テルに注意を促した。「レジアイスの遺跡は、この街の近くの**『キッサキしんでん』**か、あるいはその周辺の氷の洞窟にあるはずですわ。気を引き締めていきましょう」

 

テルが「ああ」と頷いた、その時。

 

ポケモンセンターの大きな建物の前に、一人の人物が立っているのが目に入った。真っ白なコートに身を包み、長い水色の髪が雪解けの氷のように輝いている。

 

彼女は、キッサキシティのジムリーダー、スズナだった。

 

スズナは、テルたちが到着するのを待っていたかのように、じっとこちらを見つめていた。

 

「あれ? スズナさんだ!」テルが声を上げた。

 

スズナはテルたちに気づくと、冷たい雪の上を、氷の上を滑るように優雅に近づいてきた。

 

「ようこそ、テル。そして、ヒカリにジュン。キッサキシティへ、よく来てくれたわ」

 

「スズナさん、どうしてここに? 僕たちが来るのを待っていたんですか?」テルが尋ねた。

 

スズナは静かに微笑んだ。

 

「ええ。あなたたちを待っていたわ。私にはわかるの。この街の空気、氷の囁きが、あなたたちが**『何か』を追ってここに来ることを教えてくれた。特に、この数日間、シンオウの南で起きた『奇妙なエネルギーの歪み』**は、無視できないものだったから」

 

「奇妙なエネルギーの歪み……」テルは、レジスチルとレジロックの暴走を思い出した。

 

ジュンは興奮気味に言った。「やっぱりか! スズナ、お前もギンガ団の悪事を察知してたんだな! オレたちは今、奴らが狙っているレジアイスを捕まえに来たんだ!」

 

スズナは目を細めた。

 

「レジアイス……そうね。この街の守り神よ。そして、あなたたちの周りから感じる、『時間から切り離されたような、凍てつく空気』。それは、ただの悪の組織の仕業ではないわね」

 

彼女はテルに近づき、その瞳をじっと見つめた。その鋭い視線は、テルのヒスイでの経験を全て見透かしているかのようだった。

 

「テル。あなたの周りにいる、あの青い炎のバクフーンや、銀色のゾロアーク。そして、あなた自身から感じる**『異物』としての空気**。それは、私たちが知るシンオウの歴史とは、別の時代から来たものね」

 

テルは、スズナの驚くほどの洞察力に、言葉を失った。

 

「あなたと、あなたの大切なポケモンたちが、この歴史から抹消される危機に瀕している。私の氷のポケモンたちが、そう囁いているわ」

 

ヒカリは驚愕し、テルの腕を掴んだ。「スズナ様、貴方……どこまでご存知なのですか!」

 

スズナは静かに首を振った。

 

「全てではないわ。ただ、このキッサキシティのジムリーダーとして、**『世界の調和を乱す力』には敏感なの。私が知っているのは、レジアイスが、あなたたちの存在を脅かす『悪意ある熱』**を鎮めるための、最後の砦になるということだけ」

 

スズナはテルに、レジアイスの遺跡への道を示した。

 

「レジアイスは、この街の北にある**『キッサキしんでん』の最深部で、あなたたちを待っているわ。そこへ行きなさい。そして、レジアイスの『絶対零度』の力を借りて、あなたたちを狙う『歪んだ時の力』**を凍結させるのよ」

 

「スズナさん、ありがとう!」テルは感謝を述べた。

 

ジュンは、スズナの持つ神秘的な力に圧倒されながらも、興奮していた。「よし、わかったぜ! スズナの言う通り、レジアイスを確保して、ギンガ団の悪だくみを完全に打ち砕いてやる! 一刻も早く、キッサキしんでんだ!」

 

ヒカリは、テルとスズナの間に割って入るように、テルの腕を強く掴んだ。

 

「テル、行きましょう! この街で、これ以上、怪しい女性に捕まっていてはいけませんわ! 私の過払い請求を増やさないためにも、今はレジアイスに集中ですわ!」

 

スズナは、そんなヒカリの露骨な独占欲に、小さく笑みを浮かべた。テルは、二人の女性の間の奇妙な緊張を感じながらも、レジアイスが待つキッサキしんでんへと足を進めるのだった。

 

「そのマスクの男……もしかして、国際警察のハンサムじゃないか!?」ジュンの鋭い指摘に、テルとヒカリは驚きを隠せなかった。

 

男は、ジュンの言葉に動じることなく、冷気を纏ったような声で言った。「私の身元を問う必要はない。私は、**『世界の調和』を乱す事態が発生した際に、それを秘密裏に処理するために動く存在だ。国際警察の一員として、今回の『時空の特異点』**を調査に来た」

 

ハンサムは、レジアイスの眠る部屋へと続く通路を指差した。

 

「クロガネ炭鉱でのレジスチル捕獲、そして228番道路でのレジロック捕獲。一見、あなた方はシンオウの平和を守っているように見える。しかし、私の任務は、**『原因』を取り除くこと。そして、原因は、『時空の歪みから定着した異物』**である、あなた、チャンピオン・テルだ」

 

ハンサムは、テルを抹消することが、プルートの野望を完全に断つ唯一の方法だと信じているようだった。

 

「ギンガ団の残党は、あなたという『異物』を抹ガネするための装置を完成させようとしている。だが、彼らが失敗しても、あなたという『特異点』が存在し続ける限り、更なる時空の混乱が、このシンオウを襲うだろう」

 

テルは、ハンサムの理屈に、怒りよりも冷たい戦慄を感じた。ハンサムは、悪意ではなく、**『大義』**のためにテルを消そうとしている。

 

「待ってください、ハンサムさん! テルは、シロナ様のメッセージに従って、シンオウを守ろうとしているのです! なぜ、一方的に排除しようとするのですか!」ヒカリがテルの腕を掴みながら訴えた。

 

「国際警察の判断に、感情は介在しない」ハンサムは冷酷に言い放ち、ボールを構えた。「さあ、レジアイスが暴走する前に、あなたをこの場で凍結させなければならない。それが、私の使命だ」

 

テルは、ヒカリにポッチャマを預け、覚悟を決めた。

 

「俺は、俺の仲間と、このシンオウの未来を、国際警察だろうとギンガ団だろうと、誰にも壊させない!」

 

テルがボールを構えた、その瞬間。

 

しんでんの最深部から、静かで、しかし魂を凍りつかせるような冷気が、一気に押し寄せてきた。レジアイスが眠る部屋の扉の隙間から、青白い氷のオーラが漏れ出している。

 

「くっ……レジアイスが動き始めたぞ!」ジュンが叫んだ。

 

「まずいですわ、テル! ギンガ団の装置の残骸が、レジアイスの力を刺激したのかもしれません!」ヒカリが悲鳴に近い声を上げた。

 

ハンサムは一瞬、レジアイスの方向を警戒したが、すぐにテルに視線を戻した。

 

「時間がないようだな。一気に仕留める」

 

ハンサムが繰り出したのは、氷の冷気に慣れたアブソルとルカリオ。二体とも、訓練された国際警察のパートナーらしい、隙のない構えだ。

 

テルは、ヒスイの仲間たちを召喚した。

 

「バクフーン! ゾロアーク! 相手は国際警察だ、油断するな!」

 

青い炎と、銀色の毛皮が、キッサキしんでんの冷気を打ち破るかのように現れた。

 

「シャドーダイブ!」

 

「インファイト!」

 

テルとハンサムのポケモンたちが激突した瞬間、レジアイスの部屋から、氷の結晶が弾け飛ぶような激しい音が響き、扉が吹き飛んだ。

 

そこには、巨大な氷の塊のような姿で、静かに、しかし全身から絶対零度の怒りを放出しているレジアイスが立っていた。レジアイスの目には、レジスチルやレジロックの時とは違う、悲しみのような感情が宿っているように見えた。

レジアイスは、テルとハンサム、双方に攻撃を仕掛けるのではなく、ハンサムの足元にある、ごく小さな装置の残骸に向かって、ゆっくりと、しかし確実に歩み始めた。

 

「な、なんだと? レジアイスは、ハンサムの仕掛けた何かを狙っているのか?」ジュンが驚いた。

 

ハンサムも警戒心を強めた。「まさか、私が持っている**『監視装置』**を狙うとは……」

 

テルは、この隙を逃さなかった。

 

「ジュン、ヒカリ! ハンサムとレジアイスの様子がおかしい! 今はレジアイスの捕獲が最優先だ! ギンガ団の装置の残骸の近くに、レジアイスを誘導するぞ!」

 

テルは、レジアイスの悲しげな瞳から、このポケモンが、ハンサムが持つ**『抹消の力』に耐えかねていることを悟った。レジアイスの『絶対零度の力』**こそが、シロナが言った、**テルを歪んだ力から守る『鍵』**なのだ。

 

国際警察の妨害を受けながら、テルはシンオウの平和、そして自身の存在を守るため、レジアイスとの最終決戦に挑んだのだった。

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