テル、ヒカリ、ジュンは、レジアイスのボールを手にし、ハンサムの脅威から解放されたことに安堵していた。これでレジトリオは全て確保。残るはテンガンざんへの道だけだ。
「よし、これでひとまずは安心ですわ! 早くスズナさんに報告し、この街の危機が去ったことを伝えましょう!」ヒカリは、レジアイスのボールが入ったテルのリュックを叩いた。
「ああ。もうこの寒い場所はごめんだぜ! オレは急いでムクホークを呼ぶぞ!」ジュンが駆け足でしんでんの入り口へと向かった。
テルもホッと息をつき、レジトリオの入った三つのボールを改めて手に取った。しかし、その瞬間だった。
ゴオオオオオ……
テルが持っていた三つのボールが、まるで内部からエネルギーが噴き出すかのように、激しく振動し始めた。
「な、なんだ!?」テルが驚いてボールを落とすと、レジスチル、レジロック、レジアイスの三体が、意思を持ったかのように、勝手にボールから飛び出した!
三体の巨像は、テルたちに敵意を見せることなく、静かに、しかし威圧的な足取りで、しんでんの最深部へと向き直った。
「うそだろ!? なんでボールから出てきたんだ!?」ジュンが目を見開いた。
その時、しんでんの奥、レジアイスが眠っていた巨大な氷塊の陰から、甲高い高笑いが響いた。
「フッフッフッ! 見事だね、チャンピオン・テル君! 私の**『最終実験』**の準備が、ようやく整ったよ!」
現れたのは、再びギンガ団の元幹部、プルートだった。彼は、クロガネ炭鉱での逃走後、すぐにこのキッサキしんでんに潜伏していたのだ。
「プルート! 隠れていたのか!」テルは怒りに拳を握りしめた。
プルートは、手に持った特殊なリモコンを弄びながら、傲慢に笑った。
「私が君たちにレジトリオを捕獲させたのは、彼らのエネルギーを、ボールという閉鎖空間で最大限に凝縮させるためだよ。そして、そのエネルギーは、ここキッサキしんでんの最深部に眠る、**『超古代の力』**を呼び覚ますための、**完璧な『鍵』**となるのだ!」
プルートがリモコンのスイッチを押すと、テルたちが捕獲した三体のレジトリオの体が、凄まじい光を放ち始めた。レジスチルの鋼の輝き、レジロックの大地の力、そしてレジアイスの絶対零度の冷気が一つに収束し、しんでんの最奥にある、巨大な岩と氷の構造物に流れ込んでいく。
ゴオオオオオオオオオ!!
空間が震え、構造物全体が音を立てて動き始めた。岩と氷が剥がれ落ち、その中心から、巨大な体躯と七つの小さな目を持つ、原始的な姿のポケモンが現れた。
レジギガスだ。
プルートは歓喜に声を震わせた。「さあ、目覚めよ! レジギガス! 君の**『超古代の力』こそ、我々が『時空の特異点』**を永遠に抹消し、このシンオウを支配するための、最後の武器となるのだ!」
ジュンは、目の前のあまりに巨大で、神話的な光景に、恐怖すら感じていた。「レ、レジギガスだと!? こんなのロマンじゃねえ、悪夢だぜ!」
ヒカリはテルの腕を強く掴んだ。「テル! あのポケモンは強大すぎますわ! あのエネルギーは、貴方の**『抹消』**を現実にするためのものです! 貴方の存在が、あのポケモンに狙われています!」
テルは、レジギガスから放たれる圧倒的なプレッシャーを受けながらも、その目には強い決意を宿した。
「レジギガス……! 待ってろ、プルート! シロナが俺に託した**『創造の場所』**の秘密を、貴様の悪巧みにはさせない!」
テルは、ヒスイのポケモンたちを呼び出すため、ボールを握りしめた。シンオウの運命を賭けた最終決戦は、最北端の氷のしんでんで、突如として幕を開けたのだった。
レジギガスがその巨体を揺らし、キッサキしんでんの氷壁にヒビを入れ始めた。プルートは狂喜し、レジトリオのエネルギーがレジギガスに流れ込む様子をリモコン越しに監視している。
「フッフッフ! さあ、レジギガス! **『時空の特異点』を、『この世界』**から消し去りなさい!」プルートはテルを指差し、レジギガスに命令を下した。
レジギガスは、プルートの命令に反応し、その巨岩のような手を振り上げた。放たれるのは、空間を歪ませるほどの、圧倒的なエネルギー。
「来るぞ! ジュン、ヒカリ、避難しろ!」テルは叫びながら、ヒスイのポケモンたちを召喚した。
「バクフーン! ゾロアーク! レジギガスの攻撃を、全力で受け流せ!」
青い炎とゴーストの気配を纏うヒスイのポケモンたちは、レジギガスという神話級のポケモンを前にしても、勇敢に立ち向かう。しかし、その一撃は、大地を砕くほどの破壊力を持っていた。
「くそっ、強すぎるぜ! これじゃ、ロマンもへったくれもねえ!」ジュンはエンペルトを繰り出し、防御を固める。
ヒカリも必死にポッチャマを庇いながら、テルを援護しようとする。「テル! 捕獲は無理ですわ! 逃げましょう!」
テルは、レジギガスの目が、どこか不本意な様子を帯びていることに気づいた。レジギガスは、プルートに操られている。
「シロナが言っていた**『創造の場所』**の秘密を解かないと、こいつを止められない!」テルは、レジギガスに近づこうと一歩踏み出した。
その瞬間、プルートの笑い声が、さらに甲高くなった。
「無駄だよ、チャンピオン! レジトリオのエネルギーで起動したレジギガスの力は、もう誰にも止められない! さあ、消滅の刻だ!」
レジギガスが再び巨大な拳を振り上げた、まさにその時。
一筋の、まばゆい光が、しんでんの天井を突き破り、レジギガスの頭上に降り注いだ。
「待ちなさい、プルート!」
力強く、それでいて凛とした女性の声が、絶対零度のしんでんに響き渡った。
テルたちが声のする方を見上げると、レジギガスの頭上、光の柱の中から、長い金色の髪をなびかせた一人の女性が、優雅に舞い降りてきた。
彼女は、シロナだった。
テルは、信じられない思いでその姿を見つめた。「シロナ……!」
シロナは、全身に纏うトレンチコートと、手に持つ**プレート(石版)**のようなものを光らせながら、レジギガスの動きを一瞬で止めた。
「お、お前は! どこへ消えていたシロナ!?」プルートは驚愕し、動揺を隠せない。
シロナは、レジギガスとテルたちの間に立ち、プルートを鋭く睨みつけた。
「プルート。あなたの悪事は、私が調査を始めたときから全てお見通しよ。あなたがレジトリオを狙い、その力を集めて**『時空固定化装置』**の最終段階を起動しようとしていることもね」
シロナは、テルに微笑みかけた。
「テル。よく、ここまで辿り着いてくれたわ。私が**『別の地方』へ向かったのは、プルートたちから彼の目を逸らすためと、このレジギガスを解放するための『真の鍵』**を見つけるためよ」
そして、シロナは手に持ったプレートを、レジギガスに向かって掲げた。
「レジギガス。あなたは、このシンオウの歴史を守る**『創造の番人』**。その力を、ギンガ団の野望に使わせてはいけない!」
シロナがプレートを掲げると、レジギガスを操っていたレジトリオの光が弱まり、レジギガスはプルートの制御から解放されたかのように、動きを止めた。
プルートは顔色を変えた。「まさか、お前が**『真のプレート』**を!?」
テルは、シロナの行動、そしてその手に持つプレートこそが、自分が探していた**『答え』と『鍵』**であると悟った。
シロナは、再びテルに視線を戻した。
「さあ、テル。あなたの**『空白の旅』は、ここで終わりではない。最後の場所、テンガンざんへ向かうのよ。レジギガスがあなたに導く『真の道』**を使ってね!」
キッサキしんでんでの再会は、テルたちの旅の最終章、テンガンざんでの決戦への、明確な道筋をつけたのだった。