未来のライバルと過去の相棒、テル争奪戦
テル、ヒカリ、ジュンは、コトブキムラ郊外の草むらに立っていた。周囲の景色は、彼らが知る現代のシンオウとは全く異なり、粗末な木造の柵、未開拓の荒野、そして遠くに見えるまだ未完成のギンガ団本部(後のポケモンセンターの場所)が、彼らが本当に遥か昔のヒスイ時代に来てしまったことを証明していた。
「あ、あれが……コトブキムラ……」ヒカリは、現代のコトブキシティとのあまりの違いに、茫然自失といった様子だった。
「ひでぇな! 店もねえ! なにもねえ! ロマンはあっても文明がねえぜ!」ジュンは、早くも文明崩壊の危機に陥っていた。
テルは、二人のパニックをよそに、ひとまず状況を把握するため、コトブキムラへ向かって走り出した。
「とにかく、村へ行くぞ! シマボシ隊長に、この状況を報告しないと!」
テルたちがコトブキムラの柵を潜り抜けると、見覚えのあるギンガ団本部(後のポケモンセンター)の建物が見えた。テルは急いでその中へ入った。
部屋の中央には、変わり果てた服で突然現れたテルに、驚きで目を丸くしているケイブ博士と、その隣で冷静に報告を聴いていたシマボシ隊長の姿があった。
テルは息を切らしながら報告を始めた。
「シマボシ隊長! 戻りました! 僕は、未来のシンオウに行っていました!」
シマボシ隊長は、テルを鋭く睨みつけ、いつもの調子で即座に状況を分析した。
「テル! どこで何をしていたか知らんが、その**『未来』というふざけた報告書は後回しだ。服装を直せ。そして、君の背後の『現代の異物』**どもは誰だ?」
シマボシ隊長が指差す先には、現代の派手な服を着て、まだ混乱しているヒカリとジュンの姿があった。
「ええと、その……」テルは言葉に詰まった。
ジュンは、隊長の威圧感に一瞬怯んだが、すぐにいつものせっかちさで口を開いた。
「隊長!? 罰金100万円だぜ、その威圧感! オレ様はジュンだ! このチャンピオン・テルの永遠のライバルで、時空を超えてまで借金を背負わされた男だ!」
「借金だと?」シマボシ隊長は、額に青筋を立てた。
ヒカリは、ジュンの言葉を遮るように、隊長の前に進み出て、優雅に深々と頭を下げた。
「シマボシ隊長、初めまして。わたくしはヒカリと申します。テルは、わたくしの最も重要な債務者であり、わたくしは、テルの『過払い請求』を回収する権利を確保するため、やむを得ず時空を超えて参りました。どうか、わたくしたちに資金を稼ぐための仕事を斡旋していただけませんでしょうか?」
シマボシ隊長は、ヒカリの丁寧な口調と、**「債務者」「過払い請求」「資金を稼ぐ」**という全く理解できない単語の羅列に、完全に思考が停止した。
「………な、なんだと? 『債務者』……? 『過払い請求』だと? テル、これは一体どういうことだ! 君は未来の金貸しを連れてきたのか!」
「違います! シマボシ隊長!」テルは慌てて弁明した。「彼女は未来の友人で、彼はライバルで……その、僕が時空移動した際に、手を繋いでいたために、巻き込まれてしまったんです!」
ケイブ博士が、驚きと興奮でゴーグルを光らせた。
「な、なんと! テル君! 君の**『時空の特異点』としての力が、『絆の力』によって、現代の人間までヒスイに連れてきてしまったのか! これは神話級の発見**だ!すぐに観察と記録を!」
シマボシ隊長は、怒り、困惑、そして理解不能な事態への対処という三つの感情が混ざり合い、最終的に深々と溜め息をついた。
「わかった……もう何も聞かん。テル! 君の**『未来の友人』と『債務者』は、私がこのコトブキムラで預かろう。ただし、彼らの『現代の異物』としての行動は、厳しく監視する。特に、その『過払い請求』**という言葉を二度と口にするな! 村の平和を乱す!」
ヒカリは満面の笑みで答えた。「ありがとうございます、隊長様! これでテルの債務回収も、逃げられませんわね!」
ジュンは目を輝かせた。「シマボシ隊長! ここでロマン溢れる仕事をさせてもらえれば、オレ様も借金を返せる! 遅れたら自分に罰金100万円だ!」
シマボシ隊長は、二人の異常な言動と、未来からやってきたという事実の重さに、頭を抱えた。
「ケイブ博士……私の胃薬を……。まさか、未来から、こんな二人の災厄が来るだなんて……」
こうして、テルの**「空白の旅」は、ヒカリの金銭的な執念と、ジュンの過剰なロマンという、二つの大きな『未来の歪み』**をヒスイに持ち込み、新たな騒動の幕を開けたのだった。
ヒカリとジュンがヒスイ時代に連れてこられた翌日。シマボシ隊長の胃痛は悪化の一途を辿っていたが、テルは変わらず調査隊の任務に復帰していた。ヒカリとジュンは、**「時空の異物」として監視を受けつつも、ヒカリの口利き(半ば脅迫)により、「未来の知識を持つ人材」**として、採集や畑仕事を手伝うことになった。
そんな中、テルの元に、もう一人の調査隊の仲間であるショウが駆け寄ってきた。ショウは、テルの無事な帰還に安堵し、満面の笑みを浮かべていた。
「テルさん! よかったあ、ご無事で! どこに行っていたんですか? シマボシ隊長、**『未来の調査』**とか言って、わけわかんないことしか教えてくれないし……」
ショウはテルの傍に立ち、心配そうにその顔を見上げた。
「それに、その……昨日、テルさんが持っていた、あの青い炎のバクフーン、すごくかっこよかったです! やっぱり、テルさんと一緒だと、どんなポケモンでも輝きますね!」
ショウがテルに親愛の情を示す、まさにその時。
「ちょっと待ちなさい、そこの貴方!」
ヒカリが、水色のコートをひるがえし、二人の間に割って入ってきた。ヒカリは、ショウの制服と、テルのヒスイの服装が**「お揃い」**であることに、強いライバル意識を抱いていた。
「貴方、一体誰ですの! テルの横に立つのは、債権者であるこの私、ヒカリの特権ですわ!」
ショウは目を丸くした。「ええっ? 債権者? テルの『未来の友人』って、テルさんのお金を貸してる人なんですか?」
ヒカリは胸を張った。「フフフ、お金の管理だけではありませんわ! 私はテルの精神的サポート、ファッションチェック、そして彼の食事管理(特に過剰な出費の監視)の全てを担う、テルの旅の必需品なのです! **『未来のヒカリ』として、テルの過去の相棒に、テルの『必需品』**の座は譲れませんわ!」
ショウは、ヒカリのあまりの気迫に一瞬たじろいだが、すぐにテルの昔からの相棒としてのプライドが顔を出した。
「そ、そんなこと言われたって! 私は、テルさんが初めてヒスイに来た時から、ずっと一緒にポケモンを捕まえたり、調査をしたりしてきた、大切な相棒です! テルさんが**『未来』**に行った時も、私が一番心配していたんですから!」
「過去の相棒は、過去の相棒ですわ! 貴方が見ていたテルは、まだ未熟な調査隊員の頃のテル! 私が見ているテルは、シンオウのチャンピオンとして**『空白』**を乗り越えた、完成されたテルですのよ!」
「な、なんですかいきなり! 完成されたテルさんって! テルさんは、ずっとテルさんです!」
二人の**「テルの旅の必需品」と「テルの過去の相棒」**という、極めて抽象的な肩書きでの争奪戦が始まった。
ジュンは、その様子を離れた場所から見て、興奮して叫んだ。
「うおお! 修羅場だぜ、修羅場! これが**『ロマンあふれる時空を超えた三角関係』**ってやつか! 罰金100万円どころじゃねえ、プライスレスな光景だぜ!」
テルは、両側から火花を散らす二人を見て、額から冷や汗が流れ落ちるのを感じた。
(まさか、ヒスイに戻ってきて、最初に直面する危機が、時空を超えた女子の争奪戦だなんて……! ディアルガやパルキアの脅威より、よっぽど恐ろしいぜ……)
テルは、二人の手を掴み、必死になだめようとした。
「ちょ、ちょっと待ってくれ、二人とも! 俺は、君たち両方にとって大事な仲間だ! 債務者とか相棒とか、そういうのは今はいいから……!」
しかし、ヒカリはテルの左手を離さず、ショウはテルの右手を掴み、互いに譲らない。
ヒカリ:「いいえ! テルは私の! 私の過払い請求の最終担保ですわ!」
ショウ:「違うわ! テルさんは私の大切な調査隊の相棒なんです!」
シマボシ隊長は、遠くからその騒動を見て、深くため息をついた。
「ケイブ博士。やはり、あの**『未来の女』は、コトブキムラの平和を乱す最大の異物**かもしれん……胃薬の備蓄を増やしておけ」
テルの**「空白の旅」**は、ヒスイの調査任務と、未来と過去のヒロインによる激しい争奪戦という、新たな局面に突入したのだった。